目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
38 / 103

21 ーダンスー

 クラウディオはひどく焦ってみせた。大声を出してしまったことにうろたえたのか、珍しくわたわたと両手をあげたり下げたり落ち着きない動作をすると、コホン、と咳払いをする。

「それに、王の主催のパーティで、そのように早く会場を出るわけにはいきません」
「それも、そうですね……」

 普通のパーティではないのだ。王からの招待を受けながら早めに帰っては、王への不敬になるかもしれない。
 領主のパーティではいつもさっさと帰っていたので、ついその感覚で帰宅する気でいたが、相手は王だ。蔑ろにできない。

「では、ご挨拶をされていてください。私はどこかで休んでいますので」
「ダンスを踊っていれば、すぐに時間も経ちます!」

 どこか力説するように言うが、クラウディオは余程ダンスが踊りたいらしい。前回の罪悪感を払拭したいのかもしれない。

(ずっと悪いと思ってたのかしら……。そこまで気にしなくていいと思うけど)

「お疲れ、ですか……? ダンスもできぬほど……」
「そうではないですが」

 クラウディオは肩を下ろすようにしょんぼりとしてみせた。次にダンスができる機会がいつになるか分からないからだろうか。それにしても、ひどく落ち込むような顔をしてくる。
 また足を踏んだら可哀想だから。そんなことを言おうと思ったが、周囲の人々が喧嘩でもしているのかと側耳をたてている。

「おみ足を踏んでばかりですから、これ以上怪我をさせたくないので」

 フィオナは大声で言うことはないと、小声でクラウディオの耳元に囁いた。
 瞬間、バッとクラウディオが仰け反って耳元を塞ぐ。

(あ、これもまずかったわね……)

 クラウディオとの距離感は近くないのだから、小声で話すにとどめておけばよかった。そこまで逃げられるとショックを受けるというより、申し訳なさが込み上げてくる。

「そういうわけですから、またの機会にしましょう」
「い、いえ。すみません。今のは、その、……」

 気にしないでいいと言いたい。クラウディオが頬を染めた。怒っているようではないが、誰かに見られて恥ずかしがっているのかもしれない。つい周囲を横目で見遣ったが、それらしき女性は見受けられなかった。

(デュパール公爵夫人がどこかにいたのかしら)

「み、耳が弱いんです」
「え、あ。そうなんですか。ごめんなさい」

 クラウディオが顔を真っ赤にした。耳まで赤いので、耳元で囁かれたのを嫌がったのは、くすぐったくて嫌だったようだ。
 気を付けよう。そもそも距離感を間違えていた。フィオナは反復して反省する。

「あの、では、ダンスが嫌と言うわけではないんですね?」
「? そうですね」
「では、お手を!」

 クラウディオがスッと手を差し出してくる。
 フィオナは一瞬ためらった。しかし、クラウディオは前回のことを払拭したいのだし、長く気にするタイプのようなので、素直にダンスをした方が良さそうだった。

 フィオナはそっとその手を取り、ダンスの申し出を受けた。
 途端、周囲がざわりとする。

(う、注目が……)

 クラウディオとセレスティーヌがダンスをする!?

 そんな声が聞こえそうなほどの視線を感じて、フィオナは冷や汗が流れそうになる。ほとんどの人がこちらを見ているような気さえした。

「足を踏んでも大丈夫です。リラックスしてください」

 フィオナの緊張が伝わったか、クラウディオは柔らかな笑顔でフィオナを促す。
 見たことのない笑顔に、フィオナはどきりとした。
 まるで、愛しい者でも見るような笑顔だ。

 むしろもっと緊張するではないか。クラウディオはダンスをすることによって、借りを返したいだけなのだから、その笑顔はダンスができて安堵している笑顔だ。

 間違っても、セレスティーヌを許しているわけではない。
 ……はずだ。

 なのに、その笑顔は緩やかで、なんとも朗らかな雰囲気を持っていた。辺りにいる者たちでもうっとりするような麗しさに、フィオナが視線を背けたくなる。

(まぶしい! まぶしすぎる!!)

 美形には興味ないが、興味がなくともその威力に溶けそうになる。

(あっ!)

 集中が途切れて、クラウディオの足を踏み付けた。一瞬だったが絶対に痛い。

「顔を上げてください」

 下を向いてステップを踏み間違える前に、クラウディオが注意する。しかし、痛みに悶えたいだろうに、クラウディオは甘い雰囲気を漂わせるかごとく温かい笑みを浮かべた。

 腰に添えられた手にグッと力が入る。
 練習の時以上に、クラウディオが踊りやすいようにフィオナをリードする。

「うまいですよ。練習したかいがありますね」
「あ、ありがとうございます」

 しかもお世辞が出てきた。こんな風に優しくされたら、セレスティーヌでなくともころりと転がってしまいそうになる。

(しっかりして、フィオナ。惑わされちゃダメよ)

 ステップを踏むのに逆に間違えそうになるではないか。
 これは義務である。さっさと終わらせたいクラウディオのためにも、フィオナはしっかり踊らなければならない。

 顔に熱がこもりそうになりながら、フィオナは無心でダンスを踊り切ったのだ。
感想 78

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う

佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。 それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。 セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。 すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。 一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。 「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」 執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。 誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!