目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

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24① ー目覚めー

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 妙な夢を見たせいですっかり忘れていたが、馬車の中で眠った後起きた記憶がなかった。
 ならばどうして朝目覚めたらベッドの上だったかというと……。

「旦那様がベッドまで運んでくれました」

 リディの遠慮した物言いに、フィオナは床に崩れ落ちそうになった。

「なんで起こしてくれなかったんですか!?」
「旦那様が、とても疲れたようだから、起こさないようにと」

(いいのよ。起こしてくれて!!)

 起こしてくれればいいものを、なぜかクラウディオがフィオナを運び、ベッドに寝かせてくれていた。フィオナはぐっと唇を噛みたくなる。

(運ばれて起きない私が悪いんだけれども、叩いてでも起こしてほしかったわ!!)

 そのせいなのか。周囲の視線がいつもとどうにも違うような気がするのは。
 おそらく勘違いではないだろう。
 フィオナは他のメイドたちのフィオナを見る目が変わっていることに気付いていた。

 リディと違い、他のメイドたちはセレスティーヌへ距離を保って接していた。しかし、最近クラウディオと一緒にいることが増えたせいか、今まで素っ気ない態度を取っていたのに、興味津々だと好奇の視線を向けてくることが多くなったのだ。

「眠っていた奥様を旦那様が運んでいたのよ。最近よく一緒にいらっしゃるわよね」
「あれだけ無視していたのに、旦那様が奥様運ぶの二度目じゃない??」
 
 噂話が耳に届いて、フィオナは手を休めて話に夢中なメイドたちをじっとりと睨め付ける。こちらに気付いたらすぐに逃げる姿が恨めしい。
 セレスティーヌならば喜ぶ噂話かもしれないが、クラウディオに会いにくいのでおかしな噂をするのはやめてほしい。

 クラウディオがその話を耳にした時のことを想像したくない。
 いたたまれない。寝こけて運んでもらうなど。

 そして今、クラウディオに呼ばれ、フィオナは書庫に向かっていた。

(お礼を、お礼を言わなきゃっ!)

 あのパーティの後のそれでは、クラウディオがセレスティーヌをさらに嫌がってもおかしくない。
 書庫に行けばクラウディオはあの隠れた小部屋で待っていた。

「セレスティーヌ」

 どこか晴れやかな顔をして、クラウディオはフィオナを迎えた。
 機嫌が良さそうに見える。フィオナはすぐにかしこまって頭を下げた。

「昨日は申し訳ありません。あのまま眠り続けてしまいました」
「いえ、疲れたのでしょう。人も多かったですし、王との謁見もありましたから。それより、少し顔色が悪いように見えます……」
「ちょっと、夢見が悪かったもので」

 思い出してまた頭が痛くなってくる。本物のセレスティーヌのことを、フィオナはいつかクラウディオに話さなければならなくなるかもしれない。あの夢が本当に現実の話ならば、セレスティーヌは魂のまま、どこかでさまよっているのだ。

 そして、そのあいた体を、フィオナが奪ったのだと————。

「それは、お呼び立てして申し訳ありません……」
「とんでもありません! 見せたい歴史書があったとか。お知らせくださりありがとうございます」

 クラウディオがやけにしょんぼりと肩を下ろすので、フィオナは急いで首を振った。
 目覚めが悪かっただけなのに、そんな申し訳なさそうな顔をされてフィオナは驚いてしまう。

(ダンスを一緒に踊らなかった罪悪感が、ダンスを踊らせて疲れさせた罪悪感に変わったとか??)

 そんなことで自分を責めずとも良いのに、クラウディオはフィオナの否定を見て、ホッと安堵したような表情を見せた。

 人が良すぎではなかろうか。罪悪感を持つのはこちらなのに。
 そう思うと、胸がずきりと痛むような気がした。クラウディオに関わることが増えて、クラウディオを混乱させる回数は増えている。

 そういえば、セレスティーヌの両親についても謝っていない。気分を害しただろうに、両親に言い返したことに満足してクラウディオへの配慮を忘れていた。
 自分の両親ではないとはいえ、今はセレスティーヌなのだから。フィオナはもう一度かしこまる。

「パーティでの両親の件、申し訳ありませんでした。両親が失礼を申し……」
「……、気に、なさらないでください。セレスティーヌが謝る必要などありません!」
「ですが」
「私は気にしていませんので」

 そうだろうか。フィオナはクラウディオを見つめたが、またもパッと視線を逸らされてしまった。長く話すのも嫌なのかもしれない。用件を早く終えていただいて、退散した方が良さそうだ。
 フィオナは渋々ながらも、それならば、と言いながら、もう一度だけ頭を下げて、呼ばれた話について問うことにした。
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