43 / 103
24① ー目覚めー
しおりを挟む
妙な夢を見たせいですっかり忘れていたが、馬車の中で眠った後起きた記憶がなかった。
ならばどうして朝目覚めたらベッドの上だったかというと……。
「旦那様がベッドまで運んでくれました」
リディの遠慮した物言いに、フィオナは床に崩れ落ちそうになった。
「なんで起こしてくれなかったんですか!?」
「旦那様が、とても疲れたようだから、起こさないようにと」
(いいのよ。起こしてくれて!!)
起こしてくれればいいものを、なぜかクラウディオがフィオナを運び、ベッドに寝かせてくれていた。フィオナはぐっと唇を噛みたくなる。
(運ばれて起きない私が悪いんだけれども、叩いてでも起こしてほしかったわ!!)
そのせいなのか。周囲の視線がいつもとどうにも違うような気がするのは。
おそらく勘違いではないだろう。
フィオナは他のメイドたちのフィオナを見る目が変わっていることに気付いていた。
リディと違い、他のメイドたちはセレスティーヌへ距離を保って接していた。しかし、最近クラウディオと一緒にいることが増えたせいか、今まで素っ気ない態度を取っていたのに、興味津々だと好奇の視線を向けてくることが多くなったのだ。
「眠っていた奥様を旦那様が運んでいたのよ。最近よく一緒にいらっしゃるわよね」
「あれだけ無視していたのに、旦那様が奥様運ぶの二度目じゃない??」
噂話が耳に届いて、フィオナは手を休めて話に夢中なメイドたちをじっとりと睨め付ける。こちらに気付いたらすぐに逃げる姿が恨めしい。
セレスティーヌならば喜ぶ噂話かもしれないが、クラウディオに会いにくいのでおかしな噂をするのはやめてほしい。
クラウディオがその話を耳にした時のことを想像したくない。
いたたまれない。寝こけて運んでもらうなど。
そして今、クラウディオに呼ばれ、フィオナは書庫に向かっていた。
(お礼を、お礼を言わなきゃっ!)
あのパーティの後のそれでは、クラウディオがセレスティーヌをさらに嫌がってもおかしくない。
書庫に行けばクラウディオはあの隠れた小部屋で待っていた。
「セレスティーヌ」
どこか晴れやかな顔をして、クラウディオはフィオナを迎えた。
機嫌が良さそうに見える。フィオナはすぐにかしこまって頭を下げた。
「昨日は申し訳ありません。あのまま眠り続けてしまいました」
「いえ、疲れたのでしょう。人も多かったですし、王との謁見もありましたから。それより、少し顔色が悪いように見えます……」
「ちょっと、夢見が悪かったもので」
思い出してまた頭が痛くなってくる。本物のセレスティーヌのことを、フィオナはいつかクラウディオに話さなければならなくなるかもしれない。あの夢が本当に現実の話ならば、セレスティーヌは魂のまま、どこかでさまよっているのだ。
そして、そのあいた体を、フィオナが奪ったのだと————。
「それは、お呼び立てして申し訳ありません……」
「とんでもありません! 見せたい歴史書があったとか。お知らせくださりありがとうございます」
クラウディオがやけにしょんぼりと肩を下ろすので、フィオナは急いで首を振った。
目覚めが悪かっただけなのに、そんな申し訳なさそうな顔をされてフィオナは驚いてしまう。
(ダンスを一緒に踊らなかった罪悪感が、ダンスを踊らせて疲れさせた罪悪感に変わったとか??)
そんなことで自分を責めずとも良いのに、クラウディオはフィオナの否定を見て、ホッと安堵したような表情を見せた。
人が良すぎではなかろうか。罪悪感を持つのはこちらなのに。
そう思うと、胸がずきりと痛むような気がした。クラウディオに関わることが増えて、クラウディオを混乱させる回数は増えている。
そういえば、セレスティーヌの両親についても謝っていない。気分を害しただろうに、両親に言い返したことに満足してクラウディオへの配慮を忘れていた。
自分の両親ではないとはいえ、今はセレスティーヌなのだから。フィオナはもう一度かしこまる。
「パーティでの両親の件、申し訳ありませんでした。両親が失礼を申し……」
「……、気に、なさらないでください。セレスティーヌが謝る必要などありません!」
「ですが」
「私は気にしていませんので」
そうだろうか。フィオナはクラウディオを見つめたが、またもパッと視線を逸らされてしまった。長く話すのも嫌なのかもしれない。用件を早く終えていただいて、退散した方が良さそうだ。
フィオナは渋々ながらも、それならば、と言いながら、もう一度だけ頭を下げて、呼ばれた話について問うことにした。
ならばどうして朝目覚めたらベッドの上だったかというと……。
「旦那様がベッドまで運んでくれました」
リディの遠慮した物言いに、フィオナは床に崩れ落ちそうになった。
「なんで起こしてくれなかったんですか!?」
「旦那様が、とても疲れたようだから、起こさないようにと」
(いいのよ。起こしてくれて!!)
起こしてくれればいいものを、なぜかクラウディオがフィオナを運び、ベッドに寝かせてくれていた。フィオナはぐっと唇を噛みたくなる。
(運ばれて起きない私が悪いんだけれども、叩いてでも起こしてほしかったわ!!)
そのせいなのか。周囲の視線がいつもとどうにも違うような気がするのは。
おそらく勘違いではないだろう。
フィオナは他のメイドたちのフィオナを見る目が変わっていることに気付いていた。
リディと違い、他のメイドたちはセレスティーヌへ距離を保って接していた。しかし、最近クラウディオと一緒にいることが増えたせいか、今まで素っ気ない態度を取っていたのに、興味津々だと好奇の視線を向けてくることが多くなったのだ。
「眠っていた奥様を旦那様が運んでいたのよ。最近よく一緒にいらっしゃるわよね」
「あれだけ無視していたのに、旦那様が奥様運ぶの二度目じゃない??」
噂話が耳に届いて、フィオナは手を休めて話に夢中なメイドたちをじっとりと睨め付ける。こちらに気付いたらすぐに逃げる姿が恨めしい。
セレスティーヌならば喜ぶ噂話かもしれないが、クラウディオに会いにくいのでおかしな噂をするのはやめてほしい。
クラウディオがその話を耳にした時のことを想像したくない。
いたたまれない。寝こけて運んでもらうなど。
そして今、クラウディオに呼ばれ、フィオナは書庫に向かっていた。
(お礼を、お礼を言わなきゃっ!)
あのパーティの後のそれでは、クラウディオがセレスティーヌをさらに嫌がってもおかしくない。
書庫に行けばクラウディオはあの隠れた小部屋で待っていた。
「セレスティーヌ」
どこか晴れやかな顔をして、クラウディオはフィオナを迎えた。
機嫌が良さそうに見える。フィオナはすぐにかしこまって頭を下げた。
「昨日は申し訳ありません。あのまま眠り続けてしまいました」
「いえ、疲れたのでしょう。人も多かったですし、王との謁見もありましたから。それより、少し顔色が悪いように見えます……」
「ちょっと、夢見が悪かったもので」
思い出してまた頭が痛くなってくる。本物のセレスティーヌのことを、フィオナはいつかクラウディオに話さなければならなくなるかもしれない。あの夢が本当に現実の話ならば、セレスティーヌは魂のまま、どこかでさまよっているのだ。
そして、そのあいた体を、フィオナが奪ったのだと————。
「それは、お呼び立てして申し訳ありません……」
「とんでもありません! 見せたい歴史書があったとか。お知らせくださりありがとうございます」
クラウディオがやけにしょんぼりと肩を下ろすので、フィオナは急いで首を振った。
目覚めが悪かっただけなのに、そんな申し訳なさそうな顔をされてフィオナは驚いてしまう。
(ダンスを一緒に踊らなかった罪悪感が、ダンスを踊らせて疲れさせた罪悪感に変わったとか??)
そんなことで自分を責めずとも良いのに、クラウディオはフィオナの否定を見て、ホッと安堵したような表情を見せた。
人が良すぎではなかろうか。罪悪感を持つのはこちらなのに。
そう思うと、胸がずきりと痛むような気がした。クラウディオに関わることが増えて、クラウディオを混乱させる回数は増えている。
そういえば、セレスティーヌの両親についても謝っていない。気分を害しただろうに、両親に言い返したことに満足してクラウディオへの配慮を忘れていた。
自分の両親ではないとはいえ、今はセレスティーヌなのだから。フィオナはもう一度かしこまる。
「パーティでの両親の件、申し訳ありませんでした。両親が失礼を申し……」
「……、気に、なさらないでください。セレスティーヌが謝る必要などありません!」
「ですが」
「私は気にしていませんので」
そうだろうか。フィオナはクラウディオを見つめたが、またもパッと視線を逸らされてしまった。長く話すのも嫌なのかもしれない。用件を早く終えていただいて、退散した方が良さそうだ。
フィオナは渋々ながらも、それならば、と言いながら、もう一度だけ頭を下げて、呼ばれた話について問うことにした。
349
あなたにおすすめの小説
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる