目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
45 / 103

24③ ー目覚めー

しおりを挟む
「興味があるようで良かったです。今、広げますね」

 機嫌が良いというべきか。クラウディオの穏やかな雰囲気にフィオナも気持ちが緩やかになるような気がした。
 なぜこんなに無防備な顔をしてくるのだろう。

(————まさか、眠っている間に寝言でも言った??)

 セレスティーヌにあるまじき、妙な寝言でも口走っただろうか。

(私が言いそうな寝言? ご飯おいしいとか。お菓子おいしいとか。アロイスかわいいとか)

 セレスティーヌになって嬉しいこと三つを並べてみて、あり得てもっと恥ずかしくなってくる。
 フィオナが一人恥ずかしがっていると、クラウディオはいそいそと地図を広げた。かなり大きな地図でフィオナも一緒に手伝うと、クラウディオがふっと笑った。

 ————一体、何が起きているのだろう。
 やはり、なにか笑われるようなことをしたとしか思えない。
 クラウディオが、優しい笑顔を向けてくる。

「ここが大国の都ですね」

 フィオナは頭の中でかぶりを振った。集中しなければ、せっかく見せてくれたのだから、自分の国を見付けたい。

 クラウディオは分かりやすいように現在の地図と合わせて見せてくれた。現在の地図には遠いのかフィオナの国は載っていない。しかし、大国の地図の方は広く描かれていた。これは期待できるかもしれない。

「首都から離れたこの都が、現在の我が国の都になります。我が領はここですね」

 指さされてフィオナは首を傾げそうになった。公爵領は大国の地図に載っていない。この時代は開拓されていなかったようだ。
 疑問に思ったのに気付いたか、クラウディオは書物を開くと、公爵領について話し始めた。

「見ての通り、この土地は人が多く住む場所ではありませんでした。公爵領ができたのは我が国シューラヌ国ができてから、何年も経った後です。王からこの土地を賜り、開拓に多くの時間を要したそうです」

 ほとんど人が住めるような状態ではないこの土地を与えられ、整地を行い、多くの人が住めるように開拓したそうだ。

「それでもこの場所には魔獣などの人を害する獣は出なかったので、それをいうならば安全だったのでしょう」
「魔獣って見たことないです。この時代は多かったと聞いていますが」
「町にいれば見ることはないですよ。人気のない山の方に行けば住んでいます。今でも食料がないと村を襲うことがありますから」
「そうなんですか……」

 そういえば、王もそんなようなことを言っていた。魔獣は悩みの種だとか。

 フィオナの住んでいたテルンの町には魔獣がいなかった。古い時代にブルイエ家の土地で封印されたからだ。
 それは伝説のようで、それでも実際に魔獣が現れることはなかった。不気味だと言われても、あの森に魔獣が出るわけではない。

 だが、別の地域は魔獣が出ると聞いたことがあった。それも耳にしただけで、本当なのかも分からない、ただの噂だと思っていた。フィオナの世界はとても狭いからだ。

(熊や狼とは違うのよね……)

「大人しい種を飼う者は時折います。デュパール邸に行けばおりますよ」
「魔獣を飼うんですか!?」
「攻撃性のない大人しい種ですから飼うには問題ないですけれど、慣れない者がいると危険ではありますね」

「旦那様も見たことがあるんですか?」
「今ではありませんが、父が存命の頃は討伐に参加しました。……婚約前でしたから、ご存知ないでしょうが」
「そ、そうなんですね!?」

 フィオナは焦って裏返った声を出してしまった。
 これはセレスティーヌならば知っていることだったかもしれない。

(クラウディオは魔法が得意なんだから、そんなところに参加していてもおかしくないの??)

 討伐自体がフィオナにとって知らない話なので、どんなルールで討伐に行っているのか分からない。クラウディオは攻撃魔法を学ぶ許可を得ていて、優秀で魔法が得意なのだから、当然なのだろうか。

(攻撃魔法を学ぶ許可を得ている者なんて少ないみたいな感じだったし、特権があるならば、討伐も当たり前ってことかしら……?)

 これは余計なことを言わない方が良さそうだ。
 フィオナはすごいですねえ。なんてうそぶいて見せて、地図へ視線を戻す。

「大国の時代、魔獣はとても多かったんです。文献には魔獣の種類なども書かれていました。当時の魔獣分布図もありますよ。都から離れた地方は特に多く、強力な魔法使いが討伐に出掛けたとことも記されています」

 分布図にはどこにどんな魔獣が出るのか、名前が記されていた。都から離れた場所は魔獣の種類も多かったようだ。都や現在の公爵領の辺りはかなり少ない。

「魔獣は大国の時代に相当数が殺されたといわれています。強力な魔法使いを討伐に向かわせ、国をまとめていたともいわれていますから、討伐も盛んだったのでしょう」
「魔法使いを遣わせて権威を示していたんですね」
「地方へ行けば行くほど統治がまばらだったでしょうから、遠征に王弟が同行したという記述もあります。場所によっては数年掛けて討伐したとか」

 クラウディオはぱらぱらと書物を開いて見せてくれる。そこには、王弟の大遠征と記されていた。クラウディオのように身分の高い者が遠征に赴いていたわけだ。
 この時代は魔法使いが多く、魔法は当たり前に使われていた。大国が滅びたのはその魔法使いたちが争いに加担したからだといわれているほどだ。

 だからこそ、現在では攻撃魔法などの危険な魔法は使われなくなったのだが。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

処理中です...