高飛車フィルリーネ王女、職人を目指す。

MIRICO

文字の大きさ
244 / 316

エレディナ4

しおりを挟む
 ヘライーヌは精霊の書から四つの選定場所があるのではないかと推測していた。フィルリーネは解読を専門家に任せて読むのを後回しにしていたが、読んでいたらフィルリーネも気付いただろう。

 古い精霊語で書いてあるから、別に隠してるわけじゃないでしょ。読めないだけよ。私だって読めない古い言葉なんだから。
 だから、大した内容じゃない。その時には当たり前で、今では当たり前でなくなっただけだ。

 マリオンネがなかった頃、大地には精霊が溢れていた。住まう人間の比率が多くなり人間を地上へ下ろすことにした。その時に遺跡を作ったとしたら、どんな意味があるというのだろう。
 選定と言うのならば、何を選定する気なのか。

 地上に降りた人間に対して選定させるというのならば、その選定者は選ばれて何になるのか。
 今あるマリオンネの女王のように、世界の中心にでもなると言うのか。

 ではそれは、誰が選ぶのか。



『選定の遺跡だったらどうすんのよ』
『行けるとこまでしか行けてないって言ってるし、祭壇まで行けてないのかも。だって結構砂で埋まってるし』

 フィリィは魔法陣を描き近寄ってくる魔獣を退けながら、周囲を注意深く見回す。古い遺跡だとしても壊れた感じはない。ただ、あちこちに砂がこびりついたり、砂に埋まっている部分があった。
 建物が傾いているため片方に砂が寄っている。扉のない出入り口があったが、中は砂に埋もれていた。窓でもあって中に吹き込んだのだろうか。

 まだここは地階ではなさそうだ。下に降りる階段がありフィリィは歩きにくそうにそこを歩んだ。砂にまみれて所々段差が隠れてしまっているからだ。
 そこに魔獣が現れるので、もし剣しか使えない者だと戦うのは難しかっただろう。

 フィリィは涼しい顔をして魔獣を退ける。

「相変わらず、何と言うか、ほれぼれする魔法陣だね。フィリィが来てくれて助かるよ」
「いえー。私も呼んでいただけると嬉しいです。いい息抜き…、運動…、身体動かせるっていいですよね!」

 間違いなくストレス発散で戦っているが、それに付き合わされているアシュタルが苦笑いをした。王女のストレス発散で魔獣退治をしながらの護衛なのだから、それは苦笑したくなる。

 もしここに祭壇があるとしたら、魔導院が入る必要があるだろう。そしてそれらを知っている者たちには口止めが必要だ。
 そう考えているアシュタルが、リンカーネに質問した。

「この建物にはどれくらいの人が入ったんでしょう? 前に倒された魔獣は見受けられますが」

 もう死骸になって乾き切った魔獣が転がっていることがある。それは前々に倒したものだろうが、やはり数は多い。部屋が広いのでそこまで気にならないが、この数を倒したのなら大人数で来ていそうだ。

 それらを全て口止めは難しいだろう。アシュタルは何気ない質問をしているように見せているが、内心別のことを考えているに違いない。

「途中で戻った奴らもいたからねえ。それらを含めれば、そこそこいるだろうけど。まあ、でも三十人もいないだろうね」

 リンカーネは剣にこびりついた血を砂につけて落とす。乾いた砂は簡単に血を吸いこんで色を変えた。
 ラザデナはそんなに大きな町ではないが、三十人近くが全員誰かに話していたら、口止めは意味がないだろう。
 フィリィも想定はしていたか、子供のように頬を膨らませた。

「一番奥までは誰が行ったんですか? リンカーネさんと、ミゾルバさんと?」
「私たちと仲間六人だよ。一人が大怪我してね。だから途中で戻ったんだ」

 行けるところまでと言っていたのだから、本当に行けるところまでだったようだ。
 ならば祭壇までは辿り着いていないかもしれない。

『途中まで一緒に行って、やめて戻った方がいいんじゃない? 後でもう少し助っ人連れてきて行ったら?』
『助っ人なんてガルネーゼかイムレス様しか思い付かないよ。他の人たちだと私が外に出てるの知らないし。あとハブテル? ハブテル私の演技についてきてくれるかな?』

 演技じゃないじゃない。と突っ込みは置いておいて、ルヴィアーレを連れることは頭に入れていないらしい。
 それを外せばおっさん二人組が残った。あの二人はいくら何でも助っ人として連れてくるのは無理だろう。間違ってリンカーネにでも見つかったらどうにもならない。

 あの二人はどう見ても一般人とは言えない容貌だ。

「ほら、私らが来たのはここまでさ。ここから先はまだ何があるか分からない。もう少し行ってみるかい? それともここで魔獣を待つ方がいいかね」

 リンカーネはまだ戦う余裕があるか皆を見回した。
 どう見ても元気そうなイアーナ。のんびり余裕のあるフィリィ。アシュタルも全く疲れを見せていない。聞くだけ無駄だ。

 言うならばこの三人は王都でもトップレベルの力を持つ者たちと言っていい。

 リンカーネは肩を竦めた。言うだけ無駄だったと口にして。

「もうちょっと行ってみましょ。進んできて結構倒しましたし、余裕あるし。それにしても、どこから入り込んでるんですかねえ。ここに住んでるだけなのかな」
「住んでいるだけだと思います。真っ暗で所々狭い部屋もある。魔獣の住処として丁度いいんでしょう」

 ミゾルバが言いながら壁に印を付けた。左右に道が分かれているからだ。進む方向を記して逆側は後で確認すると道を折れる。

 建物は階高の低い神殿のようだった。小さい部屋はあるが廊下は一本道。たまに左右に分かれるが、それは廊下が四角に繋がっているからだ。それが三棟ほどあって繋がっているようだった。

「んー。たくさんの人が入る部屋があるけど、作りが下の階に降りても同じですね。やっぱり神殿かな。待合室たくさんみたいな」
「確かにそうだね。家具などは残っていないけれど、石のベンチやテーブルみたいなのは残っている。寝泊まりするような部屋ではなさそうだけれど」

 神殿であれば信者でもいたのだろうか。いや、ここがもし選定の祭壇のある遺跡ならば、それこそ待合室だろう。選定をする者が待つ部屋なのではないだろうか。

 フィリィは部屋を眺めながら、先へ進む。
 ルヴィアーレを連れてくればいいのに。そんなことを思っても無駄か。フィリィは祭壇まで行くだろう。ニーガラッツのせいで確認する必要が出てきたからだ。

 ニーガラッツがこの遺跡にも気付いていたら先を越されているかもしれない。フィリィは確認しなけれなならなかった。

 前王の手助けをしていたニーガラッツ。それがマリオンネと繋がることはないだろうが、繋がることがあれば、選定に関わった者にアンリカーダは何をするだろう。

 選定について、何を知っているのか、ヨシュアに一度確認したことがある。
 翼竜であれば種族の繋がりがあるため、それらでしか共有していない情報があるかもしれないからだ。

 ヨシュアは芽吹きの歌を知っていた。
 あれは、私も知っているけれど。

 芽吹きの歌は精霊に伝わる口伝のような子守唄で、意味はよく分かっていない。ヨシュアもその程度の認識で知っていた。
 だが、私が知っているよりも、もっと先の歌まで知っていたのだ。

「あれ、行き止まりですね」
 地下に降りきったか、一つの部屋に辿り着いた。長い階段の下にある階高のある部屋。
 妙な模様が地面や壁一面に描かれている。

「何だろうね。何もないけれど」
 リンカーネは部屋を見回して、中心にある台へ視線を向けた。

 フィリィは動かない。リンカーネに確認させる気だ。
 イアーナがちらりとフィリィを見るのを、アシュタルが睨みつけた。リンカーネとミゾルバは気付いていない。

 しかし、天井に魔導の塊は蠢いていなかった。だとしたら、転移の台の可能性がある。
 王都の遺跡のように出入り口のある場所ではなかったが、その可能性があった。

 リンカーネはぽすん、と台に手を乗せた。
「随分象徴的に置かれた台だね。ここで講壇でもするみたいだ」
「魔獣もここにはいませんね。ここが最下層みたいですけど、戻りましょうか」

 フィリィはリンカーネに何も起きないことを確認し、その場を後にすることを提案する。
 何も起きないならば、王都の遺跡と同じく、特定の者を移動させる魔法陣が隠されている可能性がある。

 フィリィは後で戻ってくるつもりだ。それを感じてアシュタルも階段を上るような仕草をした。今日の目的は魔獣退治である。ここに魔獣がいなければ問題ない。

「そうだね。戻るまでにまた魔獣を倒せるだろう。一旦戻ろうか。建物の構造も大体分かったしね」
 リンカーネの言葉に頷き、一度来た道を戻る。ここには巨大な魔獣が巣食ってはいないようだが、それでも魔獣の数は多かった。

「建物に穴でもあって、他の地下と繋がってると困るから、魔獣が減ったら穴探しをしなきゃって感じですか?」
「そうだね。まあ、地道にやるしかないよ。今はとにかく数を減らさなきゃならない。町にも近付いてきたりすることが増えているから」

 どこも同じ。魔獣が増えて、少しずつ町に近付く。
 小さな町では町を守る兵士や狩人が戦うしかない。そこに綻びがあれば町に魔獣が入り込んでしまう。
 そうなれば被害は甚大だ。

 来た道を戻りながら、まだ集まってくる魔獣を倒したが、さすがに魔獣たちも警戒したか行きほど襲ってくる気配はなかった。遠巻きにして逃げていくのを追わず、その後ろ姿を見送る。

 こちらも少々疲れが見えてきたので、リンカーネは無理をしないようにと追い掛けるのを止めた。引き際をしっかり制御することにアシュタルが珍しそうに眺める。

 王都でもないのに良い兵士がいると思っているのだろう。
 なぜかフィリィが鼻を高くした。あんたを褒めてんじゃないのよ。

「これで少しは減っただろう。助かったよ。建物もそれなりに確認できたし、付き合わせて悪かったね。それで、お礼と言っちゃ何なんだけどさ」
 リンカーネは町に戻る飛空艇の中で、あの魔導銃を渡してきた。

「フィリィなら簡単に使えると思うんだ。実は三挺あるからさ」
「いいんですか!?」
「いつも手伝ってもらってばっかで礼もしてないから」
「お礼はいらないですけど、これはちょっと気になるので遠慮なくいただきます」

 フィリィは本当に遠慮なく魔導銃を手にする。これでガルネーゼへの土産ができた。改造方法や流出先を調査する仕事が増えたので、きっとものすごく感謝するだろう。目に浮かぶ。
 
 リンカーネは前にここに来たシェラたちについて、結局何者か分からなかったと簡単な報告をしてきた。フィリィは苦笑いをしそうなのを我慢していたが、あれが隣国の王だと誰が思うだろう。
 イアーナが何の話をしているのかとぼんやり聞いていたが、お前のとこの王様の話だよ。と言いたくなる。

「リンカーネさん、また何かあったら教えてくださいね。できるだけ早くこっち来るんで」
「ありがとう。助かるよ。あんたたちも助かったよ。二人ともまた来てもらいたいね」
「出張退治、私と一緒に来ますから。安心して呼んでください」

 そう言って、フィリィはリンカーネとミゾルバに別れを告げた。
 それからの、切り替えの早さよ。町を出て岩場に隠れた途端、すぐに私を呼ぶ。

「エレディナ。直接あの場所ね」
「はいはい、分かってるわよ」
「え、戻る気ですか!?」
 もう帰る気満々だったイアーナが問う間に、さっさと転移をした。

「フィルリーネ様があのまま帰るわけないだろう」
 先程の建物の最下層に一瞬で辿り着くと、アシュタルは呆れたように言いながらあの台を見つめる。

「移動式でしょうか」
「どうだろう。でも、アシュタルも行けないかもだから、イアーナとここで待っててね。体力大丈夫?」
「問題ありませんが、もし移動式でも確認するだけにしてください。余計な真似をしないでくださいよ!?」

 アシュタルは口を酸っぱくして言う。前回王都の遺跡にルヴィアーレを連れる前、フィルリーネは行ったきりしばらく帰ってこなかったからだ。
 戻った時のアシュタルは憂えていたろうが、戻った途端ひどく怒り出した。
 それを思い出したか、フィルリーネはえへへ、と意味なく笑う。

「分かってる。分かってる。でも移動しないかもだし。エレディナ、一応、ちゃんとついてきてね」
「分かってるわよ」

 フィルリーネはそれに頷いて台に手を乗せた。その瞬間、台の下から魔法陣が浮かび上がる。
 ああ、やはり転移の魔法陣かと思った瞬間、フィルリーネから弾き飛ばされた。
 否、転移したフィルリーネから切り離された。

「エレディナ!? フィルリーネ様!!」
「何で…!? フィルリーネ!!」

 魔法陣は既に消えて、台に手を乗せていたフィルリーネの姿はもうどこにもない。

「エレディナ、どうなっている!!」
「分からないわよ! 魔法陣に弾かれた! 前の遺跡じゃ私も入れたのに、何で!?」
「くそっ!!」

 アシュタルが急いで台に手を乗せる。しかし、台は何の反応もない。イアーナもそれに合わせて乗せてみたが、何の反応もなかった。

「フィルリーネ様。フィルリーネ様っ!!」

 アシュタルの声は、広間にただ響いただけで、フィルリーネには届くことがなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...