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エレディナ3
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「風が強いですね…」
「この辺りは強風が吹きやすいんだよ。だから砂の動きが早い。建物が埋もれるのも早かっただろうね」
航空艇が揺れるたびにイアーナがびくりと身体を揺らす。風の音に混じって軋む音もするので、それにびくついているようだ。
墜落すると思ってんのかしら。
イアーナとは違い、フィリィは思案顔で窓から外を眺めた。大きな窓がないため操縦席の方へ身を乗り出している。どれだけ揺れようがフイリィは気にしないだろうが、膝を立てて椅子に座るのはどうかと思う。
と言う顔を、アシュタルがしていた。
あんた、普段からその子はそんなよ。
突然ガクンと航空艇が揺れた。イアーナがぎゃっと悲鳴を上げる。
「落ちないから、安心してくれよ」
「す、すみませんっ」
「イアーナはお坊ちゃんなんでー」
「はは。そうなのかい」
フィリィの適当な言葉に、イアーナが顔を真っ赤にさせる。隣でアシュタルが吹き出しそうな顔を我慢しているが、一番高位である王女が揺れをものともせず、周囲を鋭く眺めているのだから、立つ瀬がないだろう。
「私、こっちの方初めて来ました」
「まあ、来るようなところじゃないからね。魔獣も多い」
リンカーネは地面に見える焦げ茶色の点々へ視線を促した。砂の上を走っているのは魔獣だ。砂漠に多い種類で、足は短く低い姿勢で走る。砂漠で数少ない獲物を得るために群れで動く習性があるので団体で行動しているが、それにしても多いように思う。
「ビーゼの御一行様ですか。あれに追われると面倒でしょうね。結構いるなあ」
「結構な数だろう。航空艇に気付いて追ってきてるんだ。餌が足りないんだろうね」
「航空艇に獲物がいると思われるのもやですね…」
餌認定されているため、魔獣ビーゼは群れでずっと追ってきていた。航空艇の方がもちろん速さがあるので簡単に追いつけるものではないのだが、それでも追うほど餌がないのだろう。
「餌なくても魔獣は長く生きられますけど、ビーゼはしつこいですもんね」
「得られるならってついてくるんだろうけど、残念ながら目的地はすぐそこだ。戦う用意はしてくれよ」
リンカーネはがちゃりと魔導銃を取り出す。
あれは確か、魔導院が兵士に配ったもののはずだが。
「リンカーネさん、それ何ですか!?」
フィリィがわざとらしく問うた。王の兵が持っていた魔導銃は一般に販売していない。それをリンカーネが持っていれば気になるのは当然だ。
「前に王女の反乱があっただろう。その時にこっちでも小競り合いがあってね。その時王の兵士から奪ったんだよ」
「ああ~。へー。なるほどー」
王の兵士に恨みのあるこの地域で、どうやら諍いがあったようだ。フィリィがとぼけた声で反応した。
『あんた、知らなかったの?』
『王派の兵士が襲われたって話は報告書で見たけど、その時に兵士の武器が奪われたなんて知らないよ』
戦い負けた王派の兵士の武器が流出しているのだ。王女としては看過できない話である。頭の中で、地方は全ての情報入ってこないしなー。とぼやいていた。
アヴィーエ領主と取り締まりを行わなければならない。逃げた王派が武器を持ち逃げしていることだってあり得るからだ。
「使い勝手がいいんだよ。中にある弾に魔導を詰めておくだけで後は撃つだけだ。自分の魔導じゃなくても使えるから、もしも戦いに疲れ切ってしまった時にでも使える」
フィリィはリンカーネの言葉にうんうん頷く。アシュタルは無我の境地だ。反応しないように聞かないふりである。イアーナだけが真面目に聞いていた。ラータニアにはない武器なのだろう。
『アヴィーエ領主に早めに調査要請した方がいいんじゃない? どれだけ流出したのか、調べないとじゃないの!?』
『魔獣を育てるのに砦使ってたんだから、兵士はいただろうけど、どっかで武器保管してたってことかなあ。砦にあったかあー』
『そうじゃない? あそこ全部を調べたわけじゃないものね。武器も保管されてたのかも』
戻ったらすぐにガルネーゼ行きの案件だ。あのおっさんが嫌そうな顔をするのが目に浮かぶ。アヴィーエ領が協力してくれるか分からないからだ。
『ガルネーゼが動けば少しは協力的になってくれると思うけどさ。私じゃまだちょっとねえ』
城での会議にアヴィーエ領主は来ていただろうが、信頼は薄いままだ。フィリィは頭の中でもため息混じりである。
「さあ、到着するよ!!」
リンカーネの声に皆が緊張した。ビーゼが近付いてくる。
航空艇が降り切る前に、リンカーネは魔導銃でビーゼの群れに撃ち込んだ。ドオンと言う爆発音に聞こえたが、そこから水が大量に流れたのだ。
ビーゼが急流にのまれるように渦を巻いて砂の上を流れた。突然の水に溺れてしまっている。
「ほら、行くよ。降りな!!」
航空艇が地面に降りると、リンカーネがぱっと飛び出していく。それにイアーナが続いた。戦えるのが嬉しいのだろう。思い切り戦えると剣を振り回す。
アシュタルはちらりとフィリィを確認した。護衛対象を忘れるイアーナは馬鹿だ。
フィリィも剣を持って戦おうとしていたが、溺れて転がるビーゼを先に見遣る。
『ねえさあ、魔導銃って、ただ魔導撃つだけで、衝撃波が飛んで当たるだけなんじゃなかったの?』
『そうなんだけどね…。誰が改造したんだろう。それとも、もう改造されてたのかな』
『改造されてたら、民間に流出ってやばくない?』
「やばいどころじゃないよ。すぐにガルネーゼ案件」
フィリィは呟くように言うと、ビーゼへと飛び出した。あれはヤケである。
魔獣がいなければ、私がガルネーゼにこのことを伝えに行くが、さすがに今行くことはできない。フィリィが安全な場所に移動してからだ。それが分かっているため、フィリィは私に命令をしない。
まあ、行ってきていいよ。ってこの子は言うけどね。私が行かないだけで。
フィリィは自分の力に自信を持っている分、自ら危険に飛び込むことを厭わない。そう成長させたのはイムレスとガルネーゼだが、ハルディオラとしては静かに穏やかに過ごすことを願っていた。
大人しく城にいる子じゃないけどね。
フィリィこそ戦うのが久しぶりだと、どこか笑顔で魔法陣を描く。破壊魔よろしく、ビーゼを氷漬けにした。その後ろでフィリィを守るのはアシュタルだ。フィリィが魔法陣を描く時間は短いが、ビーゼが近寄ってこないように細心の注意を払う。
イアーナは馬鹿だから、先頭切って戦っていた。ルヴィアーレの護衛をやっている時も、あれがイアーナの役目なのだろう。迷いなく群れに突っ込み、恐れなく敵を粉砕した。粉砕である。ビーゼは皮の厚い魔獣なのに、剣で押しつぶしてしまっている。どれだけ馬鹿力なのか。
「あの子供、やるじゃないか。航空艇で悲鳴上げるから、腕が心配だったんだけれど」
「子犬きゃんきゃんなんで。いつでもきゃんきゃん」
「はは。よく分かるよ。犬が戯れてるように見えるほど簡単に倒せるのもすごいけどね」
子供呼ばわりされたイアーナは、次々襲ってくるビーゼを容易く倒した。
そう言いながらリンカーネも短剣で目や腹部を狙い、どんどん倒していく。
『多いわね…』
これだけ強者たちが戦っていても、沸いてくるようにビーゼは現れた。ビーゼは群れで戦うだけあって、航空艇も狙ってくる。飛ばせなくなれば獲物が逃げないと考えているのだ。
それをミゾルバが叩き落とす。長い尻尾で航空艇を壊そうとするところを、尻尾を持って振り回し、周りのビーゼを飛ばした。
やっと倒し終えた頃には、周囲にビーゼの死体が砂場を埋め尽くすほどだった。
「ひどいですね」
「ひどいだろう。だから、この辺りに来る時はそれなりに人数がいないときつい。しかし、今日はいつもより多かったね。…前に、仲間がやられたんだよ。味を占めたのかもしれない」
リンカーネは言いながら、遠目に見える砂に埋まった航空艇を顎で指した。機体が斜めになって、もう半分くらい砂に埋まっている。
フィリィは目を眇めるとフードを被り直した。魔獣にやられる者は少なくない。だがそれを全て止められるほど、王族の力は強くなかった。静かに悼みフィリィは顔を上げる。
地上でも風が強い。立っているだけで金色の砂に埋もれてしまいそうだ。イアーナはここでもこっそり魔鉱石を埋めた。
少しでも魔獣が避けてくれればいいのだが。フィリィはそんなことを考えているだろう。
「みなさん、こちらです」
ミゾルバは航空艇を一度空に上げてビーゼの攻撃が当たらないように空中で待機させると、魔導銃を手にして皆を促した。
周囲は砂にまみれた岩場で、足で跨げるものから背丈以上に大きなものがごろごろしている。平坦な場所がなく、航空艇では入られないのだろう。
風で視界が悪いが、少し歩いて進んでいくと四角錐のような岩が見えた。小高い山のように見えるが、人工物である。角がしっかりと尖っていた。
「この中なんだよ。魔獣もいる」
「また、随分、不思議な建物見つけましたね…」
随分砂に埋まってしまっているのだろう。入口は広いのだが、砂が中に入り込んで坂になっていた。踏み込んでも沈まないので、随分長い間埋まっているようだ。
ミゾルバが灯りを持ち、その入口から滑るように入り込む。随分長い坂のように見えるが、戻れるように綱は張ってあった。アシュタルはそれを引いて確認してから先に自分が降りていく。
綱なんてなくても帰れるけど、そこはちゃんと確認するあたりアシュタルよね。フィリィなんて気にせず楽しそうに降りていった。ひゃっほう。なんて言っちゃうあたり、遊び気分だ。
「わー、ひろーい。結構な広さですね。広間って感じ」
「講堂みたいだろう。けれど、砦にある広い部屋よりもずっと広いよ」
高さはないが、広さはある。それも縦に長い長方形のようで、まだここは廊下のような感じだった。建物は傾いているか少しだけ坂になっている。
その広間には何も置いていないが、何もいないわけではない。
むくりと起き上がる魔獣が目を光らせた。
「イアーナ。建物壊さないように倒して」
フィリィは魔獣を倒すより部屋の中をしっかり見たいと、退治をイアーナに任せる。そのために連れてきたので、イアーナも張り切って戦った。それを放置して、フィリィは自分でも灯りをつけると、そっと壁の模様を眺める。
ああ、嫌な予感がするわ。
フィリィもそう思っているだろう。隅から隅まで見るようにして、次の部屋に行く扉を見つめる。
「リンカーネさん、ここっていつ見つけたんです?」
「手紙を出す三週間くらい前かな。こちらに来ることなんてないだろう? けれど魔獣が増えたからどうして増えてきたのか、どこが増えてきたのか調べていたんだよ。それで、岩に隠れたここを見つけたんだ」
「何人かで何度か訪れているから、魔獣も少しは減っているんだけれど、それでも中にはたくさんいるみたいなんだ」
リンカーネとミゾルバは交互に言う。
「どこまで入りました? 行けるとこまで?」
「行けるところまでだよ。そんなに広くない。途中砂で埋もれているんだ」
「じゃあ、そこまで行きましょうか」
フィリイの言葉にアシュタルが小さく頷く。アシュタルも気付いているだろう。
この建物は、今まで見てきた遺跡に良く似ていると言うことを。
「この辺りは強風が吹きやすいんだよ。だから砂の動きが早い。建物が埋もれるのも早かっただろうね」
航空艇が揺れるたびにイアーナがびくりと身体を揺らす。風の音に混じって軋む音もするので、それにびくついているようだ。
墜落すると思ってんのかしら。
イアーナとは違い、フィリィは思案顔で窓から外を眺めた。大きな窓がないため操縦席の方へ身を乗り出している。どれだけ揺れようがフイリィは気にしないだろうが、膝を立てて椅子に座るのはどうかと思う。
と言う顔を、アシュタルがしていた。
あんた、普段からその子はそんなよ。
突然ガクンと航空艇が揺れた。イアーナがぎゃっと悲鳴を上げる。
「落ちないから、安心してくれよ」
「す、すみませんっ」
「イアーナはお坊ちゃんなんでー」
「はは。そうなのかい」
フィリィの適当な言葉に、イアーナが顔を真っ赤にさせる。隣でアシュタルが吹き出しそうな顔を我慢しているが、一番高位である王女が揺れをものともせず、周囲を鋭く眺めているのだから、立つ瀬がないだろう。
「私、こっちの方初めて来ました」
「まあ、来るようなところじゃないからね。魔獣も多い」
リンカーネは地面に見える焦げ茶色の点々へ視線を促した。砂の上を走っているのは魔獣だ。砂漠に多い種類で、足は短く低い姿勢で走る。砂漠で数少ない獲物を得るために群れで動く習性があるので団体で行動しているが、それにしても多いように思う。
「ビーゼの御一行様ですか。あれに追われると面倒でしょうね。結構いるなあ」
「結構な数だろう。航空艇に気付いて追ってきてるんだ。餌が足りないんだろうね」
「航空艇に獲物がいると思われるのもやですね…」
餌認定されているため、魔獣ビーゼは群れでずっと追ってきていた。航空艇の方がもちろん速さがあるので簡単に追いつけるものではないのだが、それでも追うほど餌がないのだろう。
「餌なくても魔獣は長く生きられますけど、ビーゼはしつこいですもんね」
「得られるならってついてくるんだろうけど、残念ながら目的地はすぐそこだ。戦う用意はしてくれよ」
リンカーネはがちゃりと魔導銃を取り出す。
あれは確か、魔導院が兵士に配ったもののはずだが。
「リンカーネさん、それ何ですか!?」
フィリィがわざとらしく問うた。王の兵が持っていた魔導銃は一般に販売していない。それをリンカーネが持っていれば気になるのは当然だ。
「前に王女の反乱があっただろう。その時にこっちでも小競り合いがあってね。その時王の兵士から奪ったんだよ」
「ああ~。へー。なるほどー」
王の兵士に恨みのあるこの地域で、どうやら諍いがあったようだ。フィリィがとぼけた声で反応した。
『あんた、知らなかったの?』
『王派の兵士が襲われたって話は報告書で見たけど、その時に兵士の武器が奪われたなんて知らないよ』
戦い負けた王派の兵士の武器が流出しているのだ。王女としては看過できない話である。頭の中で、地方は全ての情報入ってこないしなー。とぼやいていた。
アヴィーエ領主と取り締まりを行わなければならない。逃げた王派が武器を持ち逃げしていることだってあり得るからだ。
「使い勝手がいいんだよ。中にある弾に魔導を詰めておくだけで後は撃つだけだ。自分の魔導じゃなくても使えるから、もしも戦いに疲れ切ってしまった時にでも使える」
フィリィはリンカーネの言葉にうんうん頷く。アシュタルは無我の境地だ。反応しないように聞かないふりである。イアーナだけが真面目に聞いていた。ラータニアにはない武器なのだろう。
『アヴィーエ領主に早めに調査要請した方がいいんじゃない? どれだけ流出したのか、調べないとじゃないの!?』
『魔獣を育てるのに砦使ってたんだから、兵士はいただろうけど、どっかで武器保管してたってことかなあ。砦にあったかあー』
『そうじゃない? あそこ全部を調べたわけじゃないものね。武器も保管されてたのかも』
戻ったらすぐにガルネーゼ行きの案件だ。あのおっさんが嫌そうな顔をするのが目に浮かぶ。アヴィーエ領が協力してくれるか分からないからだ。
『ガルネーゼが動けば少しは協力的になってくれると思うけどさ。私じゃまだちょっとねえ』
城での会議にアヴィーエ領主は来ていただろうが、信頼は薄いままだ。フィリィは頭の中でもため息混じりである。
「さあ、到着するよ!!」
リンカーネの声に皆が緊張した。ビーゼが近付いてくる。
航空艇が降り切る前に、リンカーネは魔導銃でビーゼの群れに撃ち込んだ。ドオンと言う爆発音に聞こえたが、そこから水が大量に流れたのだ。
ビーゼが急流にのまれるように渦を巻いて砂の上を流れた。突然の水に溺れてしまっている。
「ほら、行くよ。降りな!!」
航空艇が地面に降りると、リンカーネがぱっと飛び出していく。それにイアーナが続いた。戦えるのが嬉しいのだろう。思い切り戦えると剣を振り回す。
アシュタルはちらりとフィリィを確認した。護衛対象を忘れるイアーナは馬鹿だ。
フィリィも剣を持って戦おうとしていたが、溺れて転がるビーゼを先に見遣る。
『ねえさあ、魔導銃って、ただ魔導撃つだけで、衝撃波が飛んで当たるだけなんじゃなかったの?』
『そうなんだけどね…。誰が改造したんだろう。それとも、もう改造されてたのかな』
『改造されてたら、民間に流出ってやばくない?』
「やばいどころじゃないよ。すぐにガルネーゼ案件」
フィリィは呟くように言うと、ビーゼへと飛び出した。あれはヤケである。
魔獣がいなければ、私がガルネーゼにこのことを伝えに行くが、さすがに今行くことはできない。フィリィが安全な場所に移動してからだ。それが分かっているため、フィリィは私に命令をしない。
まあ、行ってきていいよ。ってこの子は言うけどね。私が行かないだけで。
フィリィは自分の力に自信を持っている分、自ら危険に飛び込むことを厭わない。そう成長させたのはイムレスとガルネーゼだが、ハルディオラとしては静かに穏やかに過ごすことを願っていた。
大人しく城にいる子じゃないけどね。
フィリィこそ戦うのが久しぶりだと、どこか笑顔で魔法陣を描く。破壊魔よろしく、ビーゼを氷漬けにした。その後ろでフィリィを守るのはアシュタルだ。フィリィが魔法陣を描く時間は短いが、ビーゼが近寄ってこないように細心の注意を払う。
イアーナは馬鹿だから、先頭切って戦っていた。ルヴィアーレの護衛をやっている時も、あれがイアーナの役目なのだろう。迷いなく群れに突っ込み、恐れなく敵を粉砕した。粉砕である。ビーゼは皮の厚い魔獣なのに、剣で押しつぶしてしまっている。どれだけ馬鹿力なのか。
「あの子供、やるじゃないか。航空艇で悲鳴上げるから、腕が心配だったんだけれど」
「子犬きゃんきゃんなんで。いつでもきゃんきゃん」
「はは。よく分かるよ。犬が戯れてるように見えるほど簡単に倒せるのもすごいけどね」
子供呼ばわりされたイアーナは、次々襲ってくるビーゼを容易く倒した。
そう言いながらリンカーネも短剣で目や腹部を狙い、どんどん倒していく。
『多いわね…』
これだけ強者たちが戦っていても、沸いてくるようにビーゼは現れた。ビーゼは群れで戦うだけあって、航空艇も狙ってくる。飛ばせなくなれば獲物が逃げないと考えているのだ。
それをミゾルバが叩き落とす。長い尻尾で航空艇を壊そうとするところを、尻尾を持って振り回し、周りのビーゼを飛ばした。
やっと倒し終えた頃には、周囲にビーゼの死体が砂場を埋め尽くすほどだった。
「ひどいですね」
「ひどいだろう。だから、この辺りに来る時はそれなりに人数がいないときつい。しかし、今日はいつもより多かったね。…前に、仲間がやられたんだよ。味を占めたのかもしれない」
リンカーネは言いながら、遠目に見える砂に埋まった航空艇を顎で指した。機体が斜めになって、もう半分くらい砂に埋まっている。
フィリィは目を眇めるとフードを被り直した。魔獣にやられる者は少なくない。だがそれを全て止められるほど、王族の力は強くなかった。静かに悼みフィリィは顔を上げる。
地上でも風が強い。立っているだけで金色の砂に埋もれてしまいそうだ。イアーナはここでもこっそり魔鉱石を埋めた。
少しでも魔獣が避けてくれればいいのだが。フィリィはそんなことを考えているだろう。
「みなさん、こちらです」
ミゾルバは航空艇を一度空に上げてビーゼの攻撃が当たらないように空中で待機させると、魔導銃を手にして皆を促した。
周囲は砂にまみれた岩場で、足で跨げるものから背丈以上に大きなものがごろごろしている。平坦な場所がなく、航空艇では入られないのだろう。
風で視界が悪いが、少し歩いて進んでいくと四角錐のような岩が見えた。小高い山のように見えるが、人工物である。角がしっかりと尖っていた。
「この中なんだよ。魔獣もいる」
「また、随分、不思議な建物見つけましたね…」
随分砂に埋まってしまっているのだろう。入口は広いのだが、砂が中に入り込んで坂になっていた。踏み込んでも沈まないので、随分長い間埋まっているようだ。
ミゾルバが灯りを持ち、その入口から滑るように入り込む。随分長い坂のように見えるが、戻れるように綱は張ってあった。アシュタルはそれを引いて確認してから先に自分が降りていく。
綱なんてなくても帰れるけど、そこはちゃんと確認するあたりアシュタルよね。フィリィなんて気にせず楽しそうに降りていった。ひゃっほう。なんて言っちゃうあたり、遊び気分だ。
「わー、ひろーい。結構な広さですね。広間って感じ」
「講堂みたいだろう。けれど、砦にある広い部屋よりもずっと広いよ」
高さはないが、広さはある。それも縦に長い長方形のようで、まだここは廊下のような感じだった。建物は傾いているか少しだけ坂になっている。
その広間には何も置いていないが、何もいないわけではない。
むくりと起き上がる魔獣が目を光らせた。
「イアーナ。建物壊さないように倒して」
フィリィは魔獣を倒すより部屋の中をしっかり見たいと、退治をイアーナに任せる。そのために連れてきたので、イアーナも張り切って戦った。それを放置して、フィリィは自分でも灯りをつけると、そっと壁の模様を眺める。
ああ、嫌な予感がするわ。
フィリィもそう思っているだろう。隅から隅まで見るようにして、次の部屋に行く扉を見つめる。
「リンカーネさん、ここっていつ見つけたんです?」
「手紙を出す三週間くらい前かな。こちらに来ることなんてないだろう? けれど魔獣が増えたからどうして増えてきたのか、どこが増えてきたのか調べていたんだよ。それで、岩に隠れたここを見つけたんだ」
「何人かで何度か訪れているから、魔獣も少しは減っているんだけれど、それでも中にはたくさんいるみたいなんだ」
リンカーネとミゾルバは交互に言う。
「どこまで入りました? 行けるとこまで?」
「行けるところまでだよ。そんなに広くない。途中砂で埋もれているんだ」
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