~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭

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異世界転生

目を覚ましたら

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 ……目が覚めたら全く知らない部屋のベットで寝ていた。最初は病院らしき場所にいるのかと思ったが、上体を起こし辺りを見回した限り、それは違うと判明した。
 まず1つ目に俺がいる部屋が広いのにも関わらず、他の怪我人が見当たらない。いくら異世界だからと言って1人の患者にこのだだっ広い部屋を使う訳がない。次にベットの作りや生活感のありすぎる部屋。
 
 病院にクローゼットや化粧台があるだろうか? 否。あるわけがない。そして最後。病院特有の臭いがしない事。薬や血の臭いが一切しない。まあ、そこはもしかしたら俺の鼻が詰まってるだけかもしれないけ……特にそんな感覚はない。
 
 「フェンリルから逃げ切って……声援に応えてたら気を失った」 
 
 自分に言い聞かせるように言う。
 
 「……声援……声援……声の応援。略して声援。……なら戦いの終わったあとのあれは果たして声援と言えるのだろうか?」 
 
 不意にそんな疑問が頭に浮かんだ。
 
 「戦ってる途中なら声援であってる。なんせ声の応援なのだから。そう考えるとやっぱりあれは声援ではない。戦いが終わった後に応援する馬鹿がどこにいるんだぁぁん? 治療されてる?」
 
 ふと自分の上半身に包帯が巻かれてある事に気づいた。
 
 「包帯が綺麗なのを考えると、気を失ってから時間がそう経っていないか、それとも治療してくれた人が親切に頻繁に包帯を変えに来てくれたか?」
 
 俺はそんな事を言いながら布団を捲り、どこに怪我をしているか確認する。
 
 「両足とも包帯グルグル巻きか」
 
 俺はその片方を見て包帯に少なからず血が付いてる事に気づいた。
 
 「あれだけの事をやって出血量がこれだけっていうのはおかしい……」
 
 あの最後のフェンリルの攻撃を止めてる時、両足がエグいことになっていたのは俺が1番知ってる。
 
 「って事は後者の頻繁に包帯を変えてくれたって所かな。さて、俺を助けてくれたのが誰なのかが問題だ。まあ普通に考えればあのイベントの主催者だろうけど、いくらなんでも扱いがいち戦士としてアレ過ぎるし……そうすると他に思い当たるのは一緒にリングにいた奴等だけど、そんなお人好しがいるとは思えねぇなぁ。…………お客さんの中に貴族がいて、その人が俺の戦いに惚れて引き取ってくれたとかか――」
 
 その俺の激しい願望が入った妄想を壊す一言が扉の先からした。
 
 「残念、お姉さんだよ~」
 
 「―――」
 
 美人……と思わず口に出そうになった。いろんな世界を渡り歩いて来た俺は、顔面偏差値に大分厳しくなっている。一般で言う美人でも俺にとっては普通になる。クラスの後藤さんが良い例だ。あの人はクラスの人からアイドルと言われてるけど、俺からすれば普通で、それい以上でも以下でもない。それに対して目の前の美少女。俺より少し身長が高いように見える。そしてそのせいで、年も1つ2つ上に見える。宝石の様に綺麗な青色の大きな目をしていて、それから元気や希望、そういった正の感情を感じる。そしてそれに習う様に綺麗な青色の髪の毛。ロングヘアーで髪の毛が綺麗にウエーブを描いている。俺はこれ程の美人を久々に見た。カッコいい系の美人。
 
 「傷の調子はどうだ~い」
 
 陽気な声で言いながら彼女はベットまで足を運ぶ。
 
 「ま、まあまあです」
 
 ヤッベェ……めっちゃ目の保養になるわ。
 
 「そうかい、そうかい、それは良かった。お姉さんのフェンリルが少しやり過ぎたから心配したよ」
 
 アハハ……そうですか――ってなんて!? お姉さんのフェンリル!?
 
 俺はその言葉に耳を疑った。
 
 「あれってあなたの……えっと」
 
 俺の状況を見てお姉さんは素早く察する。
 
 「ああ、タナトスだ。少年」
 
 手を出すタナトスさん。
 
 「ソラです……」
 
 俺はタナトスさんの手を握る。その手は俺より小さく柔らかいのに力強さを感じさせる不思議な手だった。
 
 「おお、よろしくな少年」
 
 名前教えたのにそれは固定なんですね……ていうか少年ってどんだけ上から目線なんですか?
 
 と言っても彼女の方が上なのは事実だ。 
 
 「そ、それでタナトスさんの――」
 
 俺の言葉は途中で遮られる。
 
 「タナトスで良いよ。それと敬語も禁止。私は堅苦しいのが苦手なんだよ」
 
 あ、はい。
 
 「そ、それでタナトス、あのフェンリルって……」
 
 言葉を濁して言うとタナトスはさらりと答える。
 
 「私の使い魔だ。ほら」
 
 タナトスが手の平を出す。すると術式の様な物が手に現れ光だす。あろうことかそこからフェンリルが出てくる。……手の平サイズの。
 
 「なんかさっきよりも大分ちっちゃくないか?」
 
 俺が闘技場で見たのは2メートル級のフェンリル。しかし今目の前にいるのはチワワ並みの大きさしかないフェンリル。
 
 「こいつは自分の意思で大きさを変えられるんだよ。ほら」
 
 タナトスがそう言うと、チワワフェンリルはタナトスから距離を取り大きくなる。その姿は紛れもなく闘技場で見たフェンリルと同じ姿だった。俺はその光景に思わず声を失った。
 
 あいつらが言ってたのはこいつの事だったんだな。闘技場にいたあの戦士どもが言っていたフェンリルはあの手のりサイズのチワワフェンリル。それで今日、大人って言ってたのがこのドデカフェンリル。
 
 ドデカフェンリルは俺に大きさを見せつけるとチワワに戻ってタナトスの手の平に変える。
 
 「……便利な生き物だな」
 
 ふと心に思った事が流れる様に口から漏れたのであった。
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