【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う

凪瀬夜霧

文字の大きさ
10 / 38
1章

3話 パーティー潜入(3)

しおりを挟む
◇◆◇

 ウィルフリードに招かれて会場の奥にある個室へと向かったルークは、そこで疑惑の部屋の隣に入った。ウィルフリードは安全の為に会場で最も堅牢な一室に居てもらう。最悪、彼の命令が必要な場面も考えて帰るのは待ってもらった。

 部屋の明かりは落とし、窓には重厚なカーテンが掛かっている。
 ひっそりと空けた盗聴用の穴の近くに声を拾う魔道具を設置し、耳元に受信機を置く。録音もしているが、こちらはあまり機能が良くなくてノイズが多いのが痛い。
 だがリアルタイムで聞くルークの耳にはよく聞こえていた。

「ハーマンとの連絡はまだ取れないのか」

 五十代くらいの男の声が厳しさを滲ませている。苛立ちもあるか。
 それに返したのは、まだ若そうな男だ。

「申し訳ありません! どうも騎士団内部の厳重な療養施設にいるらしく、接触もままならないと」
「何の為に騎士団内部に子息を入れている! 第一騎士団ならば」
「それが、場を仕切っているのは第二騎士団らしく。その第二も王太子の命令で動いて居ると」
「王太子か」

 憎らしさを滲ませる声音だ。だが、ここまでは狙い通りに動いているようだ。

「金の払いが滞れば、あの方がどのように思うか」

 あの方?

 何か不穏な様子に聞こえて身構える。此奴らが何かを画策していると踏んでいたのだが、どうやらその裏にまだいるようだ。
 貴族派の中心になっている者達は知っている。その中でも派閥があり、話し合いでどうにか貴族の地位を以前に戻そうとしている穏健派と、妥当国王を掲げる過激派。今集まっているのは過激派だ。

「失礼ですが、あの者達が言っていた事は本当なのですか?」

 別の男の声が不安そうに問いかけている。これに、頷く気配がある。
 リーダーらしい五十代の男が、これに声を荒らげた。

「あの方のお力は本物だ。神を凌牙するお力をお持ちなのだ」
「そんな、滅多な事を口になさいませんように。教会まで睨んできたら身動きが」
「なに、教会など直ぐに瓦解する。奴等に人など救えはしないのさ」

 随分な自信と不穏さだ。何かとんでもないことをしようとしているのか?
 それに、“あの方”だ。これが妙に気になる。勘でしかないが、ヤバい臭いがする。

「そのお力の一端は直ぐに見られる。今夜、間もなくだ」
「!」

 その言葉に、ルークは嫌な汗をかいた。今夜……まさかここでか!
 だが、入口では持ち物の検査もされている。王太子がくる夜会に武器など持ち込めない。だからルークもクリスも今日は剣を持っていないんだ。

 勝ち誇ったような男の声がする。それがゾロゾロと扉の方へ。

 パッと立ち上がったルークがドアを開けるのと、五人の貴族が部屋を出るのはほぼ同時。ギョッとした彼らは「不敬だぞ!」と声を上げたが知ったことか。
 瞬時に距離を詰めたルークは手前の一人の腕を掴み、引き込むと同時に関節を曲げて肩を外して転がす。
 これに驚き逃げた五十代の男を追いかけるが、その前に腰を抜かした若い男を蹴り飛ばして気絶させておいた。

「誰か、そいつら縛り上げろ!」

 今日は王太子の影部隊もいるはず。無造作に声をかけると人が動く気配がある。それで十分だ。
 逃げる残り三人を追いかけているが、二人は散り散りに逃げて追うのを断念した。ならば主軸の男を!
 そう思った時、会場の方から悲鳴が上がった。会場が揺れるような悲鳴にハッと気を取られるが、目の前の獲物を逃がせば後々が厄介になる。
 それに、会場にはクリスがいる。本人はまだまだだと言うが、あれで十分実力はある。状況も判断できる。負けん気の強さも、諦めない根性も認めている。
 今少しだけ耐えられる。直ぐでも駆けつけたい思いはあるが……信じている。

 こんな時、剣がないのが悔やまれる。それでも追いつき、手を伸ばすそこに黒い影が入り込んで指先が痺れた。

「なに!」
「ほぉ、直撃を避けましたか」

 黒衣に黒い仮面の男が二人。一人はルークと対峙し、もう一人は主軸の男を逃がしている。
 ジリッと間合いを計って対峙している間に、ターゲットは逃げてしまった。

「まさかこのような場所で、黒衣の死神に出会うとは」
「何者だ」
「あの方の使い、とだけ」
「っ!」

 また“あの方”か。大層なものだ。

「では、我々も退場を」
「逃がすか!」

 剣がないなら魔法だが、ルークの魔法は炎が主体。室内戦はとことん向いていない。それでも火球を手元に作り込むと、目の前の男はニッと笑みを浮かべて手を大きく天へ掲げた。

『ファイアーボール!』
『ライトニング!』

 火球が真っ直ぐに黒ローブへと飛び、その間を縫うように雷撃がルークへと向かってくる。
 直撃は避けた。だが雷魔法は余波がある。それに当たるだけでも痺れが走る。黒ローブの放った雷撃魔法は規模も魔力も多かったのか、余波の幅も威力も大きかった。

「くっ!」

 ビリビリと痺れた左手と左足。力が入らない左側を庇って右の足を突っ張り、更に右の手で追撃の火球を放つ。その一つが、黒いローブの裾を僅かに焼いた。

「ほぉ、流石です。ですが、貴方もこれ以上は動けない。本日はこれまでといたしましょう。再戦は、またいずれ」
「っ! 待て!」

 声を荒らげるが、これで待つ相手でもない。闇に溶けるように姿が消えて、後には動けないルークと少し遠くに聞こえる悲鳴だけだ。

「くそがっ」

 どうにか立ち上がり、ままならない左側を引き摺っていく。まずは何が起こっているのか、知らなければ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。 蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。 だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。 しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。 「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」 ――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈ __________ 追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ 一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる (主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです) ※R成分薄めです __________ 小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です o,+:。☆.*・+。 お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/ ありがとうございます!! BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m

花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。 王命を知られる訳にもいかず… 王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる? ※[小説家になろう]様にも掲載しています。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。 両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ! ……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ! **ムーンライトノベルにも掲載しております**

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ
BL
「呪いは解くので、結婚しませんか?」 竜を愛する竜騎士・リウは、横暴な第二王子を庇って代わりに竜の呪いを受けてしまった。 痛みに身を裂かれる日々の中、偶然出会った天才魔法使い・ラーゴが痛みを魔法で解消してくれた上、解呪を手伝ってくれるという。 だがその条件は「ラーゴと結婚すること」――。 初対面から好意を抱かれる理由は分からないものの、竜騎士の死は竜の死だ。魔法使い・ラーゴの提案に飛びつき、偽りの婚約者となるリウだったが――。

何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について

桜塚あお華
BL
何もかも諦めた。愛も、希望も、命すらも。 ――それでも、心はまだ、生きたがっていた。 ハイデン・ヴァルメルシュタインは、前世の記憶を持つ【転生者】だ。 自分が生まれた世界が、乙女ゲーム『月下の誓い』の舞台であることを知り、やがて「破滅する悪役令息」という運命を受け入れていた。 貴族社会からは距離を置き、屋敷の一室で引きこもるように生きる日々。そんな彼の前にある日、ひとりの傭兵が現れる。 「ここで死んでも、誰にも見つからねぇかと思ってな」 そう言って離れに住みついたその男――名も知らぬ傭兵は、毎日、無言で食事を置いていく。 ハイデンはその素朴な味に、いつしか心と身体が反応していることに気づく。 互いに死に場所を探していたふたり。 その静かな日常の中で、少しずつ言葉が、温もりが、感情が芽生えていく。 しかし、運命は安穏を許さない。 過去のゲームシナリオ通り、王都ではハイデンにとっては【破滅】としての物語が動き始める。 異母兄アゼルは政略のためにハイデンを再び駒にしようと動き、本来の【ヒロイン】であるリリアは、理想の正義をかざして彼を排除しようとする。 だがハイデンはもう、ただの【登場人物】ではいられない。 傍にいてくれた名も知らぬ男と共に、自らの意思でこの世界を歩むと決めたのだから。 ――これは、「終わり」が定められた者が、 「生きたい」と願ったときに始まる、運命の書き換えの物語。

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

処理中です...