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序章:新たなる日々
3話:同室者
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案内された部屋は二人部屋で、表には既にプレートがあった。木枠の中に同じく木で作った札が差し込まれている。自分の名前の隣には、『ラウル・ハーゲンバーグ』という札があった。
「ここだ。後は1人でも大丈夫か?」
「はい。有難うございました」
しっかりと礼をしたランバートは、改めて扉と向かい合う。そして、硬いノックをしてから扉を引き開けた。
中は簡素だが、実に機能的なものだった。ベッドが左右に1つずつ、机とクローゼットはベッドの横にそれぞれある。書棚は一つだが中身は多くない。
そしてその少年は、ベッドに腰を下ろしてランバートを待っていた。
まだ幼い印象を受ける少年だ。短い茶色の髪は明るい色合いで、あどけない少年の顔立ちや表情によく似合う。縦に大きなライトブラウンの瞳も若い輝きに溢れている。身長もそう高くはないがさすが騎士団の人間だ。腕や足はそれなりに綺麗な筋肉がついている。
少年はぴょこんとベッドから降りると早足でランバートの傍にきて、弾ける笑みを惜しみなく向けて手を差し出した。
「はじめまして。同室のラウルです。えっと」
「ランバートです。こちらこそよろしくお願いします、ラウル先輩」
「先輩」という響きに、ラウルの頬がほんのりと赤くなる。照れているのだろうとランバートは察し、笑みを浮かべる。可愛いと言ったら流石に怒るだろうか。
「えっと、先輩はやめてください。僕そんなキャラじゃないし、なんか恥ずかしいし。普通にラウルでいいです」
「それでは俺の事もランバートと。ついでに、敬語も必要ない。同室なんだからもっとラフにしよう。俺もそうするから」
笑顔だけで人を奴隷にできると言われた甘いマスクで笑い、ランバートは彼の様子をつぶさに観察する。小柄なラウルは恥ずかしいのか、もじもじしながら小さく頷いた。
「じゃあ、この部屋のこと教えるね。ベッドはそっち側が空いているから自由に使ってね。クローゼットはその隣、中に制服とかも入ってるよ。テーブルセットと本棚は共同なんだ。本棚の中にティーセットもあるから、自由に使ってね」
「分かった。まずは着替えるよ。この服は気に入っているけれど、流石に肩が凝る」
「あっ、分かる。でも、ランバートは似合ってるね。僕は全然だった。身長も足りなくて手直しが大変だったんだ」
なんて言って笑うラウルに微笑みかけ、ランバートはクローゼットを開ける。中には普段の業務できる制服が三セット下がっている。
同じ黒い生地だが、正装とは違って装飾は少なく、肩回りも余裕がある。細身のトラウザーズ、白いシャツはしっかりとノリがかけられて、その襟元には所属部署のシンボルを示すピンがある。上に羽織るジャケットは丈が膝上まであり、金糸で縁取りがされている。どれをとっても品がいい。
着ていたものを脱ぎ、普段用の制服を着るその背中に視線を感じる。どうも見られているというのは嫌いではないものの意識はしてしまう。その視線が熱いものであればあるほどだ。
「男の着替えなんて見ていてもたいして珍しくないだろ?」
「あっ、ごめん! なんか、自分とは違うなって思って。綺麗な背中してるんだね」
どうやらラウルは自分の体にコンプレックスを持っているようだ。そして、理想としてはランバートのような身長が欲しいようだ。大きな意味には捉えず、そのくらいの認識をする。
「ラウルは成長期だろ、そのうち体もできてくる。それに、ラウルにはラウルのよさがある。さっき俺に向けた笑顔は随分魅力的だったよ」
からかうように口の端を上げて笑うと、ラウルは恥ずかしそうに俯いて顔を赤くする。感情が素直に表に出る、可愛らしい少年だ。
「ランバート、もてるでしょ」
「どうして?」
「かっこいいし、気の利いた会話とかもできそうだし」
この子は誘っているのか?
不意に思ったが、流石にこんな可愛い子をどうにかするつもりはない。自分には似合わないし、妙な罪悪感がありそうだ。穢れない白いものを汚すのは満足感もあるが、それに伴う責任感もある。ランバートとしてはそんな所に手を出すくらいなら、遊び慣れた相手と大人な関係を結ぶ方がいい。
「そんなのは上辺だけさ。それに俺は、追いかけられる恋愛は苦手なんだ。追わないと燃えない」
正直なところ、それがネックとなって今まで特定の恋人を作っていなかった。男女共に色々な出会いがあり、やることはやっている。だがどれも自分を夢中にさせるものがなかった。追いかけられるのは徐々に重荷になり、飽きてしまう。
だが追うのなら、してみたいかもしれない。そう思える相手に出会えればの話だが。
「僕も、もっと勉強しなきゃ。もっと大人になって魅力的になって、捨てられないようにしなきゃ」
「ん?」
呟きを小耳に挟み、ランバートはシャツに腕を通しながらそちらに顔を向ける。その視線の先で、ラウルが更に顔を赤くした。
「好きな人に追いつきたいなって。僕みたいなのじゃとても釣り合わないんだ。だから、ランバートみたいになりたいって思うの。いつか、もういらないって言われたら僕、どうしようって」
これも一つの向上心か。もじもじしながら言うラウルは可愛らしい。ランバートは笑いかけ、茶色の髪を軽く撫でた。
「心配しなくても、今のままでラウルは十分に魅力的だ。これ以上魅力的になったら、その恋人は大変だろうな」
「え?」
「お前を誰にも見せなくなくて、嫉妬に狂うんじゃないのか?」
「そっ、そんなことないよ! もう、そんな心の狭い人じゃないんだから」
頬を膨らませて言うその様子すらも愛らしい。ランバートは笑い、さっさと着替えを済ませた。
「ここだ。後は1人でも大丈夫か?」
「はい。有難うございました」
しっかりと礼をしたランバートは、改めて扉と向かい合う。そして、硬いノックをしてから扉を引き開けた。
中は簡素だが、実に機能的なものだった。ベッドが左右に1つずつ、机とクローゼットはベッドの横にそれぞれある。書棚は一つだが中身は多くない。
そしてその少年は、ベッドに腰を下ろしてランバートを待っていた。
まだ幼い印象を受ける少年だ。短い茶色の髪は明るい色合いで、あどけない少年の顔立ちや表情によく似合う。縦に大きなライトブラウンの瞳も若い輝きに溢れている。身長もそう高くはないがさすが騎士団の人間だ。腕や足はそれなりに綺麗な筋肉がついている。
少年はぴょこんとベッドから降りると早足でランバートの傍にきて、弾ける笑みを惜しみなく向けて手を差し出した。
「はじめまして。同室のラウルです。えっと」
「ランバートです。こちらこそよろしくお願いします、ラウル先輩」
「先輩」という響きに、ラウルの頬がほんのりと赤くなる。照れているのだろうとランバートは察し、笑みを浮かべる。可愛いと言ったら流石に怒るだろうか。
「えっと、先輩はやめてください。僕そんなキャラじゃないし、なんか恥ずかしいし。普通にラウルでいいです」
「それでは俺の事もランバートと。ついでに、敬語も必要ない。同室なんだからもっとラフにしよう。俺もそうするから」
笑顔だけで人を奴隷にできると言われた甘いマスクで笑い、ランバートは彼の様子をつぶさに観察する。小柄なラウルは恥ずかしいのか、もじもじしながら小さく頷いた。
「じゃあ、この部屋のこと教えるね。ベッドはそっち側が空いているから自由に使ってね。クローゼットはその隣、中に制服とかも入ってるよ。テーブルセットと本棚は共同なんだ。本棚の中にティーセットもあるから、自由に使ってね」
「分かった。まずは着替えるよ。この服は気に入っているけれど、流石に肩が凝る」
「あっ、分かる。でも、ランバートは似合ってるね。僕は全然だった。身長も足りなくて手直しが大変だったんだ」
なんて言って笑うラウルに微笑みかけ、ランバートはクローゼットを開ける。中には普段の業務できる制服が三セット下がっている。
同じ黒い生地だが、正装とは違って装飾は少なく、肩回りも余裕がある。細身のトラウザーズ、白いシャツはしっかりとノリがかけられて、その襟元には所属部署のシンボルを示すピンがある。上に羽織るジャケットは丈が膝上まであり、金糸で縁取りがされている。どれをとっても品がいい。
着ていたものを脱ぎ、普段用の制服を着るその背中に視線を感じる。どうも見られているというのは嫌いではないものの意識はしてしまう。その視線が熱いものであればあるほどだ。
「男の着替えなんて見ていてもたいして珍しくないだろ?」
「あっ、ごめん! なんか、自分とは違うなって思って。綺麗な背中してるんだね」
どうやらラウルは自分の体にコンプレックスを持っているようだ。そして、理想としてはランバートのような身長が欲しいようだ。大きな意味には捉えず、そのくらいの認識をする。
「ラウルは成長期だろ、そのうち体もできてくる。それに、ラウルにはラウルのよさがある。さっき俺に向けた笑顔は随分魅力的だったよ」
からかうように口の端を上げて笑うと、ラウルは恥ずかしそうに俯いて顔を赤くする。感情が素直に表に出る、可愛らしい少年だ。
「ランバート、もてるでしょ」
「どうして?」
「かっこいいし、気の利いた会話とかもできそうだし」
この子は誘っているのか?
不意に思ったが、流石にこんな可愛い子をどうにかするつもりはない。自分には似合わないし、妙な罪悪感がありそうだ。穢れない白いものを汚すのは満足感もあるが、それに伴う責任感もある。ランバートとしてはそんな所に手を出すくらいなら、遊び慣れた相手と大人な関係を結ぶ方がいい。
「そんなのは上辺だけさ。それに俺は、追いかけられる恋愛は苦手なんだ。追わないと燃えない」
正直なところ、それがネックとなって今まで特定の恋人を作っていなかった。男女共に色々な出会いがあり、やることはやっている。だがどれも自分を夢中にさせるものがなかった。追いかけられるのは徐々に重荷になり、飽きてしまう。
だが追うのなら、してみたいかもしれない。そう思える相手に出会えればの話だが。
「僕も、もっと勉強しなきゃ。もっと大人になって魅力的になって、捨てられないようにしなきゃ」
「ん?」
呟きを小耳に挟み、ランバートはシャツに腕を通しながらそちらに顔を向ける。その視線の先で、ラウルが更に顔を赤くした。
「好きな人に追いつきたいなって。僕みたいなのじゃとても釣り合わないんだ。だから、ランバートみたいになりたいって思うの。いつか、もういらないって言われたら僕、どうしようって」
これも一つの向上心か。もじもじしながら言うラウルは可愛らしい。ランバートは笑いかけ、茶色の髪を軽く撫でた。
「心配しなくても、今のままでラウルは十分に魅力的だ。これ以上魅力的になったら、その恋人は大変だろうな」
「え?」
「お前を誰にも見せなくなくて、嫉妬に狂うんじゃないのか?」
「そっ、そんなことないよ! もう、そんな心の狭い人じゃないんだから」
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