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1章:騎兵府襲撃事件
11話:活路
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一方その頃、ファウストとランバートの誘拐に気づいたシウス達は苛立ちと殺気に目をぎらつかせていた。
「まだ行方はつかめぬのか!」
様々な事態を予測してはいたが一番あり得ない事態になったことに苛立つシウスは、執務室の机を叩く。
城にいた騎兵府師団長も、焦りと苛立ちが募るばかりだ。
「よりにもよってファウスト様の誘拐とは、何を考えているんだ」
「何よりそれに成功した事が凄いじゃないか。素手とはいえ、あの人を制する事なんてちょっと難しいよ」
「おいおい、お前ら何を悠長な事を言ってるんだよ」
「そうですよ。こうしている間にも、二人は」
命令なしに動くことは愚として、今のところ騎兵府は隊の立て直しに徹している。馬車の準備や、動ける人員の確保はそれなりに時間がかかる。
その時ふと、廊下を早足に向かってくる音がする。それに続いて現れたのは、まだ幼さの残る少年の不安そうな顔だった。
「ラウルか。して、掴めたかえ?」
「迎賓館から走り去った馬車は、郊外の診療所跡へと向かったという話がでました」
「郊外の診療所かえ? あそこは確か精神病患者の隔離施設だったはず。声は聞こえぬし、入口も一つ。監禁するにはもってこいかもしれぬな」
「動きます!」
「待て、まだ確信がない。今は余計な場所に人を割けぬ。ラウル、その話はどこから出た」
ラウルはちょっと困った顔で下を向いたが、次にはしっかりと前を向いて確かな口調で答えた。
「下町の娼婦の方達です。迎賓館で大きなパーティーがあると、その周辺で客引きをしているそうです。その数人が、猛スピードで東に走り去る馬車を見ています。同じ頃、西関所で爆発事件が起こっていて人がそちらに集中しました。東関所の兵は何者かに襲われて、未だ意識がありません」
「人の目を派手に集め、手薄になった所を襲い逃れたか。忌々しい事じゃ。して、その娼婦たちは施設の名前まで言うたのかえ?」
「はい。見知らぬ男達が数人下町の商館に出入りしていたそうで、その人達が施設の名を口にしていたと。それに加えて数人の娼婦がその施設まで出張した事があるそうです。奴らは確かに、そこに住んでいる様子だったと」
シウスは顎に手を当てて考えた。情報が完璧すぎて胡散臭い。普通、急ぎの調べでここまでの情報は出てこない。こんなことがあるとすれば、誰かが裏で糸を引いている。踏んで安全な糸であればいいが、罠ならば全員が蜘蛛の巣にかかって餌食になる。
思案していると乱暴に扉が開き、苛立たしげなクラウルが顔を出す。いつも冷静な奴が瞳に殺気など浮かべているものだから、シウスも驚いた。
「迷っている時間はない。ランバートならいざ知らず、ファウストはこうしている間にも殺されているかもしれないんだぞ」
「クラウル様、滅多な事を言わないでください!」
上官の怒声に青い顔をした騎兵府師団長たちが口をそろえて非難を口にする。だがそれも、クラウルの冷たい一瞥で消えた。
「奴らの狙いが最初からファウストであったのは明白だ。あいつは今武器を持っていない。すぐに動かなければ拷問の果てに殺される。生きていたとしても、腕の一本でも斬られた後では遅いんだぞ。悠長にしているな!」
「わかっておる。だが今回の事、テロリストだけで成せる事ではない。貴族の中に協力者がおる。そいつを」
「そんなのはお前のほうでしょっ引け! 俺の部下を貸してやる、好きに使え。その代り、騎兵府の面々は借りていく。お前ら、俺と一緒に来い!」
その言葉に、待機しか命じられていなかった師団長たちが歓喜の声を上げて従った。
やがて騒がしさが嘘のように静かになった宰相府執務室は、ラウルとシウスの二人だけになった。
「まったく、クラウルの奴もいざとなると体の方が先に動きよる。大捕物となれば協力者は尻尾を隠してしまうというに」
そういうシウスも、仕方がないという顔はしてもそれ以上は言わない。シウスだってファウストの事は心配だ。
それを見ているラウルは、優しい笑みを浮かべた。
「協力者の方は、先輩たちが追跡していつでも捉えられるように裏を取っています。それに、今回の情報は信じていいと思います」
「お前は。そう簡単に物事を信じるのは危険じゃ。まぁ、私はその素直さも好ましく思っておるが、時に心配になる」
柔らかな茶色の髪を手の平で撫でながら、シウスは柔らかく表情を緩める。ラウルもそれにつられるように、柔らかな表情をした。
「簡単に信じたわけではありません。今回の情報に関しては、多少疑うべき部分がある事は認めます。ですが、悪意は感じません。だから信じます。それに僕は、ファウスト様もランバートも無事だって信じています。あの二人は、そう簡単にやられたりしません」
率直な言葉に、シウスもやんわりと頷く。
「私も信じているさ。奴らはそう簡単に死んだりはせぬ。殺したって死ぬかどうか知れぬ奴らぞ。……そうさの、大丈夫か。確かにそれは信じよう」
そう言うと、滑らかなラウルの額の髪を軽くかきあげ、そこに一つキスをする。少しくすぐったそうなラウルを見つめながら、シウスは満足そうな顔をした。
そしてその後は、仕事の顔に戻った。
「宰相府の面々を集め、暗府と連帯を取る。ラウル、動ける人員を集めろ。騎兵府も少し集めてくれ。動ける者だけでよい。捕物となると暗府や宰相府では事が足りぬ」
「分かりました」
丁寧に一礼をして駆けていくラウルの後ろ姿を見て、シウスも改めて気合を入れなおしたのだった。
「まだ行方はつかめぬのか!」
様々な事態を予測してはいたが一番あり得ない事態になったことに苛立つシウスは、執務室の机を叩く。
城にいた騎兵府師団長も、焦りと苛立ちが募るばかりだ。
「よりにもよってファウスト様の誘拐とは、何を考えているんだ」
「何よりそれに成功した事が凄いじゃないか。素手とはいえ、あの人を制する事なんてちょっと難しいよ」
「おいおい、お前ら何を悠長な事を言ってるんだよ」
「そうですよ。こうしている間にも、二人は」
命令なしに動くことは愚として、今のところ騎兵府は隊の立て直しに徹している。馬車の準備や、動ける人員の確保はそれなりに時間がかかる。
その時ふと、廊下を早足に向かってくる音がする。それに続いて現れたのは、まだ幼さの残る少年の不安そうな顔だった。
「ラウルか。して、掴めたかえ?」
「迎賓館から走り去った馬車は、郊外の診療所跡へと向かったという話がでました」
「郊外の診療所かえ? あそこは確か精神病患者の隔離施設だったはず。声は聞こえぬし、入口も一つ。監禁するにはもってこいかもしれぬな」
「動きます!」
「待て、まだ確信がない。今は余計な場所に人を割けぬ。ラウル、その話はどこから出た」
ラウルはちょっと困った顔で下を向いたが、次にはしっかりと前を向いて確かな口調で答えた。
「下町の娼婦の方達です。迎賓館で大きなパーティーがあると、その周辺で客引きをしているそうです。その数人が、猛スピードで東に走り去る馬車を見ています。同じ頃、西関所で爆発事件が起こっていて人がそちらに集中しました。東関所の兵は何者かに襲われて、未だ意識がありません」
「人の目を派手に集め、手薄になった所を襲い逃れたか。忌々しい事じゃ。して、その娼婦たちは施設の名前まで言うたのかえ?」
「はい。見知らぬ男達が数人下町の商館に出入りしていたそうで、その人達が施設の名を口にしていたと。それに加えて数人の娼婦がその施設まで出張した事があるそうです。奴らは確かに、そこに住んでいる様子だったと」
シウスは顎に手を当てて考えた。情報が完璧すぎて胡散臭い。普通、急ぎの調べでここまでの情報は出てこない。こんなことがあるとすれば、誰かが裏で糸を引いている。踏んで安全な糸であればいいが、罠ならば全員が蜘蛛の巣にかかって餌食になる。
思案していると乱暴に扉が開き、苛立たしげなクラウルが顔を出す。いつも冷静な奴が瞳に殺気など浮かべているものだから、シウスも驚いた。
「迷っている時間はない。ランバートならいざ知らず、ファウストはこうしている間にも殺されているかもしれないんだぞ」
「クラウル様、滅多な事を言わないでください!」
上官の怒声に青い顔をした騎兵府師団長たちが口をそろえて非難を口にする。だがそれも、クラウルの冷たい一瞥で消えた。
「奴らの狙いが最初からファウストであったのは明白だ。あいつは今武器を持っていない。すぐに動かなければ拷問の果てに殺される。生きていたとしても、腕の一本でも斬られた後では遅いんだぞ。悠長にしているな!」
「わかっておる。だが今回の事、テロリストだけで成せる事ではない。貴族の中に協力者がおる。そいつを」
「そんなのはお前のほうでしょっ引け! 俺の部下を貸してやる、好きに使え。その代り、騎兵府の面々は借りていく。お前ら、俺と一緒に来い!」
その言葉に、待機しか命じられていなかった師団長たちが歓喜の声を上げて従った。
やがて騒がしさが嘘のように静かになった宰相府執務室は、ラウルとシウスの二人だけになった。
「まったく、クラウルの奴もいざとなると体の方が先に動きよる。大捕物となれば協力者は尻尾を隠してしまうというに」
そういうシウスも、仕方がないという顔はしてもそれ以上は言わない。シウスだってファウストの事は心配だ。
それを見ているラウルは、優しい笑みを浮かべた。
「協力者の方は、先輩たちが追跡していつでも捉えられるように裏を取っています。それに、今回の情報は信じていいと思います」
「お前は。そう簡単に物事を信じるのは危険じゃ。まぁ、私はその素直さも好ましく思っておるが、時に心配になる」
柔らかな茶色の髪を手の平で撫でながら、シウスは柔らかく表情を緩める。ラウルもそれにつられるように、柔らかな表情をした。
「簡単に信じたわけではありません。今回の情報に関しては、多少疑うべき部分がある事は認めます。ですが、悪意は感じません。だから信じます。それに僕は、ファウスト様もランバートも無事だって信じています。あの二人は、そう簡単にやられたりしません」
率直な言葉に、シウスもやんわりと頷く。
「私も信じているさ。奴らはそう簡単に死んだりはせぬ。殺したって死ぬかどうか知れぬ奴らぞ。……そうさの、大丈夫か。確かにそれは信じよう」
そう言うと、滑らかなラウルの額の髪を軽くかきあげ、そこに一つキスをする。少しくすぐったそうなラウルを見つめながら、シウスは満足そうな顔をした。
そしてその後は、仕事の顔に戻った。
「宰相府の面々を集め、暗府と連帯を取る。ラウル、動ける人員を集めろ。騎兵府も少し集めてくれ。動ける者だけでよい。捕物となると暗府や宰相府では事が足りぬ」
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