恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧

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2章:ロッカーナ演習事件

3話:巻き込まれたランバート

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 砦の案内が終わり、割り当てられた部屋に一時的に戻る事になった。
 ランバートは溜息をつきつつ部屋に入る。そして、待ち構えるようにしていた上官をジトリとした目で見た。

「やっぱり何か困りごとがあるのですね、ウェイン様」

 その言葉に、待っていたウェインは苦笑しながら頷いた。

「何か感じてた?」
「ウェイン様がいつも以上に落ち着かなくて暗い顔をしていました。加えてファウスト様の眉間に皺が出来る事が多くなりました。そのタイミングで演習なんて言われたら、何かあるだろうと勘ぐるのが普通です」
「見てるね、ランバート。そっ、困りごと。助けてくれないかな?」
「命令ではなくて?」
「任務でもないよ。正直、上官っていう立場が今回は邪魔で動きが取れないんだ。こんなに面倒な場所じゃなければ君を巻き込まなくてよかったんだけど」

 困った顔で笑うウェインに、ランバートも一つ頷く。そして、すすめられる席に腰を下ろした。
 一通り、ここで起こった事件を聞いたランバートは難しい顔をした。そして思案するように顎を手でさする。考え事をする時の癖だ。

「正直、この場所がどのような場所なのか掴めていません。一つ言えるとすれば、かなり閉鎖的な場所だということです」
「そんなに?」

 確認するウェインに、ランバートはしっかりと頷いた。

「案内されている時に感じたのですが、皆が俺たちの事を遠巻きに見ています。近づいてくる様子もなく、無理に近づけば警戒されて逃げられるかと」
「難しいね」
「これから夕食ですので、雰囲気を見て紛れ込んでみようと思います。誰か一人でも気のいい奴がいれば、足掛かりにできるのですが」

 どこの組織にも、そういう奴は一人くらいいる。ムードメーカーのような、一際明るく好奇心旺盛で、誰にも嫌われていないような奴が。
 そしてそういう奴はそれと知らずに情報を持っていたりする。近づいて、上手く話をすれば馴染めるだろう。そうやって今までも輪を繋いできたのだから。

「今夜、ファウスト様の部屋に。場所は……」

 砦の見取り図を出して説明するウェインに頷いて、ランバートはいくつかのルートを頭に叩き込む。そして、「先に行きます」とことわって夕食へと向かった。


 食堂の風景はどこもあまり変わりない。人の活気で溢れている。
 王都部隊の誰よりも先に来たランバートは辺りを見回した。数人のグループができていて、近寄りがたい雰囲気を作っている。この中のどこでもいい、様子を見て近づいて行ければ難関を抜ける。
 だが、ランバートの姿を見た者は逃げるように傍を離れていってしまう。明らかに余所者と分かるランバートを受け入れる雰囲気はどこにもないように思えた。

 弱った。

 そう思っていると、不意に後ろから服を引っ張る人物がいる。驚いてそちらを見ると、ひとりの青年が目を輝かせてランバートを見ていた。

「そんなとこに突っ立ってても、飯が逃げるだけだよ」
「あぁ、うん。えっと……」

 突然すぎる出会いに戸惑っていると、青年はランバートに手を差し伸べる。握手を求められ、ランバートはすぐに笑みを取り戻した。

「俺、一年目のピアースって言うんだ。あんた、王都の人だろ?」
「あぁ、ランバートだ。俺も一年目だよ」
「そうなのか! なんか、すっごく落ち着いてるから先輩かと思ってドキドキしたぜ。なぁ、一緒に飯食わないか? 俺、いつか王都に行きたいんだ」

 ピアースの屈託のない明るい瞳がキラキラ輝く。おそらく、とても素直で気のいい奴だ。好奇心も旺盛で、夢や希望に輝いている。
 ここを足掛かりにすれば情報を引き出せる。

「俺で良いなら喜んで。正直どうしようかと思ってたんだ」
「だろ? ここって消極的な奴らが多くてさ、辛気臭くて。ほら、行こうぜ」

 先を行くピアースに続いて、ランバートも食事を取る。食事を乗せたトレーを持ったまま、ピアースは一つのグループに近づいて行った。

「おーい、お客さん連れてきたぞ」
「お客さんって」

 見上げた数人が、ランバートを見て驚いた顔をしている。まぁ、初対面だとありがちな反応だ。

「なんだよ、お前らだって王都の奴と話してみたいって言ってたじゃないか」
「まぁ、そうだけど」

 中の一人が言ってランバートを見る。それに、ランバートはニッと笑った。
 自分の容姿が多少キラキラしいという自覚はある。他人からすると近寄りがたい印象があるようだ。だから悪戯っぽい顔でまずは警戒心を解くことにしている。そうすると、相手も意表を突かれるらしい。
 とにかく席について自己紹介をする。そうしながら食べる食事は、とても質素で美味しかった。

「もう少し取ってくればよかった」

 見た事のない料理が多く、味の見当がつかなかったので少しずつ取ってきたのだが。どれも素朴で美味しい。ここでの食事も楽しみだ。

「なかなかだろ? 田舎料理もいいもんだって」
「俺もこういう料理は好きだ」
「ランバートって、ちょっと驚いたけど普通なんだな」
「俺は普通だよ」

 そんな事を言っていると、ドッと笑いが起こる。それでようやく、緊張が解けたようだった。
 聞くと、彼らは商家出身の隊員グループらしい。メンバーも殆どが一年目。その為、貴族出身者よりも閉塞感がないという。

「貴族グループは、やっぱ王都の奴に警戒してるみたいだぜ。格が違うとか言ってた」
「ふーん、バカみたいな理由だな。王都ってだけでコソコソされると気分悪い」
「まぁ、貴族社会がそのまま持ち込まれてるような場所だから、仕方ないんだ。俺たち商家出身者はその辺ゆるいんだよな」

 と、中の一人が言う。やはりそういう場所のようだ。感じていた、覗かれているような嫌な感じは気のせいではなかった。

「嫌がらせとかって、ないのか?」

 聞くとピアースが軽くベーと舌を出す。そして、軽く鼻で笑った。

「この町で今金を持ってるのは商家なんだよ。貴族は金なくてピーピー言ってる。だから、俺等に表立って嫌がらせするような奴なんていないのさ」
「どこも同じだな」

 これは王都も同じだ。豪商と言われる家は半端な貴族よりも力を持っている。彼らは商売人で、人脈も物流も持っている。それらを上手く使い、駆け引きをしてのし上がっている人物も多い。地方でも同じ流れがあるのだろう。

「虐めで言うなら、俺等よりも小貴族の方が大変だ。三か月前にも」
「おい!」

 それとなく出た話を、誰かが強い言葉で遮った。それは禁忌のような、そんな扱いに思えた。

「……何か、あったのか?」

 声を潜めて聞く。皆が一様に顔を俯けたが、やがてピアースがこっそり呟くように口を開いた。

「そのうち知ると思うけどさ。自殺した奴がいるんだよ、俺等と同じ一年目」
「それって、ただごとじゃないだろ」
「あぁ。そうとう陰湿なやり方だったみたいでさ。他に訴えないのをいいことに、加速してたって話だ」

 そこで一度言葉を切ったピアースが、更にランバートを自分の方に引っ張る。そして本当に、二人の間だけで聞こえるような小さな声でこう続けた。

「でも、俺は自殺だとは思ってない。あいつは……ロディは奴らに吊るされたんだと思う」
「どういう意味だよ」
「そういう虐めもあったって、聞いたことがある」

 その言葉に、ランバートの背に冷たいものが走った。
 つまりは、奴らは遊びの延長線上のような感覚で一人の人間を殺したかもしれないのか。そしてそれを自殺にして、自分たちは何でもない顔で生活を続けているのか。
 もしそれが本当だとしたら、これほど恐ろしい事はない。
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