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7章:ネクロフィリアの葬送
おまけ1:目覚めを待つ
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意識がないままのランバートを宿舎に連れ戻し、医務室で処置がされた。とは言っても、その頃には大分体温が戻ってきて、しっかりと息をしていることが分かった。血清を早い段階で打てた事が幸いしたのだと、エリオットは言った。
それでもずっと、ファウストはランバートの側にいる。病室の中にはランバートとファウスト、二人だけだ。
ずっと肌に触れている。そうすることで恐怖が薄れたからだ。冷たい体に触れた瞬間の恐怖はまだ拭えない。瞳を閉じればあの時の光景がありありと浮かぶようだった。
やはり、この目が開かなければ眠れる気がしない。夢の中でまでこいつの死んだような姿を見る気がしている。
頬に触れ、髪に触れた。色を取り戻した肌をくすぐると煩わしそうに身じろぐ。そうした僅かな反応が、今は何よりも安心した。
「まったく、世話をかける」
言いながら、ほんの少し笑みが浮かぶのを自覚している。同時に、嫌ではないことも。
「もう少し俺を頼ってくれ」
頼りなく思わせてしまったかもしれないが、これは少し悔しかった。そして、自身が憎かった。結局は何もしてやれなかったのだから。
「早く、目を開けてくれ」
これは切望だ。目を開けて、少し話せればそうしたい。いや、声が聞けなくてもほんの少し、反応が返ってくればいい。それで安心出来る。
僅かに伏せている睫毛が動き、ゆるく青い瞳が開く。呆けたようなその視点はまだ定まっていない。子供のようにあどけない笑みが浮かび、夢うつつのような視線が見つめてくる。
その姿があまりに無防備で、ファウストは視線が離せなかった。幼子のような表情を向けられる事が、どこかでザワザワと音を立てている気がした。そしてこれは、気づいてはいけない感覚だと思った。
「目が覚めたか?」
頭を撫で、誤魔化すように笑みを浮かべる。こいつといると、不意に気持ちを持って行かれる。それは本当に一瞬、ふとした時だ。油断している、そんな時に見せる表情や言葉が妙に心を揺さぶるのだ。
「ファウスト様……」
「まだ休め、顔色が悪い」
頬に触れ、それでも温かくなった体温を感じる。肌も色を取り戻している。そして、話ができた。
「すみません」
「謝るくらいなら勝手をするな、馬鹿者」
いつもの調子で言ったはずの言葉は、予想以上に本心が出た。安心したんだ、会話ができて。こいつらしい言葉がきけて。そして、日常が戻ってくると確信できて。
不意に、ランバートが楽しそうに笑う。小さな声でくすくすと、とても楽しげに。
「なんだ?」
「夢の中の貴方がそのまま、目の前にいるようです」
その言葉に、心臓が強く鳴った。思わずランバートを凝視してしまう。彼の心中を知りたいのかもしれない。あの場面で見る夢に、自分が出てきたその意味を。
「ずっと、夢を見ていた気がします。変ですよね、夢の中でも貴方は困ったように笑うんです。俺はそれを見ながら、悲しくなって泣きそうだった」
「ランバート」
「よかった。貴方の顔が、声が聞けて。俺、貴方の側が好きみたいです」
とても無防備な心を聞いた気がした。普段のランバートからは考えられないほどに素直な言葉が出てくる。そしてそれを聞く自らの心臓もまた、妙な速度で鳴っている気がした。
何を思って、夢を見たのか。何を思って、悲しくなったのか。それを問う勇気は今のファウストにはない。聞けばきっと後悔する。今の関係が壊れる気がする。心地よい距離を掴んでしまったのだ、離れるのも近づくのも壊れてしまう。そんな思いが様々に蠢く気持ちを全てねじ伏せた。
「すいません、気持ちが弱るとダメですね。俺の言った事、全部忘れてください」
「お前がそう望むなら、そうしてやる」
ランバートも、同じなのではないかと思う。近く、遠く。そんな距離感を保っている。側にいることを望むくせに、近づきすぎはしない。不意に近くなったと感じると、そそくさと離れて行く。
それを、時々寂しいと感じるようになっている気がする。
「元気になったら、説教だ」
「はい」
「降格だぞ」
「白に戻りましょうか?」
「言ってろ、アホ」
やっといつもの調子で話をしたランバートが、愉快そうに笑う。ファウストもこれで調子を取り戻した。
クシャリと頭を撫でる。まだ小さくしか声を出せないランバートは、とてもいつもの状態ではない。弱っている。けれど、そこにもう死の影はない。ファウストもようやく、眠れる気がした。
「早く元気になれ」
願いを口にすると、握った手に力がこもった。まだとても弱い力だ。でもこれが今のこいつの精一杯なんだと知ると、妙に苦しく、愛おしく感じた。
握る手を、ファウストは握り返す。安堵したような表情を浮かべ、またゆるゆるとランバートの瞳が閉じる。さっきよりもずっと確かな寝息が聞こえ、温かな体温が伝わってくる。
ファウストは深くランバートが眠るまでずっと、この手を離せないでいた。
それでもずっと、ファウストはランバートの側にいる。病室の中にはランバートとファウスト、二人だけだ。
ずっと肌に触れている。そうすることで恐怖が薄れたからだ。冷たい体に触れた瞬間の恐怖はまだ拭えない。瞳を閉じればあの時の光景がありありと浮かぶようだった。
やはり、この目が開かなければ眠れる気がしない。夢の中でまでこいつの死んだような姿を見る気がしている。
頬に触れ、髪に触れた。色を取り戻した肌をくすぐると煩わしそうに身じろぐ。そうした僅かな反応が、今は何よりも安心した。
「まったく、世話をかける」
言いながら、ほんの少し笑みが浮かぶのを自覚している。同時に、嫌ではないことも。
「もう少し俺を頼ってくれ」
頼りなく思わせてしまったかもしれないが、これは少し悔しかった。そして、自身が憎かった。結局は何もしてやれなかったのだから。
「早く、目を開けてくれ」
これは切望だ。目を開けて、少し話せればそうしたい。いや、声が聞けなくてもほんの少し、反応が返ってくればいい。それで安心出来る。
僅かに伏せている睫毛が動き、ゆるく青い瞳が開く。呆けたようなその視点はまだ定まっていない。子供のようにあどけない笑みが浮かび、夢うつつのような視線が見つめてくる。
その姿があまりに無防備で、ファウストは視線が離せなかった。幼子のような表情を向けられる事が、どこかでザワザワと音を立てている気がした。そしてこれは、気づいてはいけない感覚だと思った。
「目が覚めたか?」
頭を撫で、誤魔化すように笑みを浮かべる。こいつといると、不意に気持ちを持って行かれる。それは本当に一瞬、ふとした時だ。油断している、そんな時に見せる表情や言葉が妙に心を揺さぶるのだ。
「ファウスト様……」
「まだ休め、顔色が悪い」
頬に触れ、それでも温かくなった体温を感じる。肌も色を取り戻している。そして、話ができた。
「すみません」
「謝るくらいなら勝手をするな、馬鹿者」
いつもの調子で言ったはずの言葉は、予想以上に本心が出た。安心したんだ、会話ができて。こいつらしい言葉がきけて。そして、日常が戻ってくると確信できて。
不意に、ランバートが楽しそうに笑う。小さな声でくすくすと、とても楽しげに。
「なんだ?」
「夢の中の貴方がそのまま、目の前にいるようです」
その言葉に、心臓が強く鳴った。思わずランバートを凝視してしまう。彼の心中を知りたいのかもしれない。あの場面で見る夢に、自分が出てきたその意味を。
「ずっと、夢を見ていた気がします。変ですよね、夢の中でも貴方は困ったように笑うんです。俺はそれを見ながら、悲しくなって泣きそうだった」
「ランバート」
「よかった。貴方の顔が、声が聞けて。俺、貴方の側が好きみたいです」
とても無防備な心を聞いた気がした。普段のランバートからは考えられないほどに素直な言葉が出てくる。そしてそれを聞く自らの心臓もまた、妙な速度で鳴っている気がした。
何を思って、夢を見たのか。何を思って、悲しくなったのか。それを問う勇気は今のファウストにはない。聞けばきっと後悔する。今の関係が壊れる気がする。心地よい距離を掴んでしまったのだ、離れるのも近づくのも壊れてしまう。そんな思いが様々に蠢く気持ちを全てねじ伏せた。
「すいません、気持ちが弱るとダメですね。俺の言った事、全部忘れてください」
「お前がそう望むなら、そうしてやる」
ランバートも、同じなのではないかと思う。近く、遠く。そんな距離感を保っている。側にいることを望むくせに、近づきすぎはしない。不意に近くなったと感じると、そそくさと離れて行く。
それを、時々寂しいと感じるようになっている気がする。
「元気になったら、説教だ」
「はい」
「降格だぞ」
「白に戻りましょうか?」
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クシャリと頭を撫でる。まだ小さくしか声を出せないランバートは、とてもいつもの状態ではない。弱っている。けれど、そこにもう死の影はない。ファウストもようやく、眠れる気がした。
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握る手を、ファウストは握り返す。安堵したような表情を浮かべ、またゆるゆるとランバートの瞳が閉じる。さっきよりもずっと確かな寝息が聞こえ、温かな体温が伝わってくる。
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