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11章:お忍び散歩
4話:幼馴染み
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翌日、ランバートはクラウルに呼び出された。執務室を訪ねると、クラウルはとても弱い笑みを浮かべて迎えてくれた。
「座ってくれ」
促され、従う。対面に座ったクラウルはとても静かな様子で息を吐き、次には頭を下げた。
「クラウル様!」
「ランバート、頼む。ルシオ・フェルナンデスに関する情報はなんでもいい。あったら、俺だけに教えてくれ」
「クラウル様だけに?」
ランバートは気になっていた。昨日のクラウルとカーライルの様子の違いは、異常とも言えた。何を意味しているのか分からない。だが、深く聞くことははばかられるように思えて聞かなかった。そこに関係しているのだろうか。
「ファウスト様や、シウス様には秘密ですか?」
「あぁ」
「……お知り合い、ですか?」
問うと、ほんの僅か眉が動く。ただそれだけだが、普段のポーカーフェイスを考えると十分な反応に見えた。
「幼馴染みだ」
「え?」
「ルシオ・フェルナンデスは、俺とカールの幼馴染みだ」
切実な表情と沈む声音。それだけで、胸の苦しさが分かる。ランバートには理解が追いつかなかった。幼少期からの幼馴染みならば、なぜ今敵対してしまったのか。
「分からないという顔だな」
「はい」
「お前には話してもいいだろう。秘密を漏らす奴じゃないからな」
そう言うと、クラウルは一つ息を吐き出して話し始めた。
「俺の父と、ルシオの父、そして先王陛下は仲が良かった。先王陛下の近衛を務めていたのが父で、側近をしていたのがルシオの父だ。その縁で、俺とルシオは城の中に友人のないカールの友人として知り合ったんだ」
語るクラウルの表情は柔らかなものだ。これほどに穏やかな表情をするこの人はあまり見た事がない。いつも引き締まった、厳しい顔をしているから。
「カールはあのままの奴で、俺は少し生真面目で、ルシオは悪戯が好きで。バラバラなのに心地よい関係で、親友だと言えた。それはその後、カールが即位する少し前までずっと変わらないままでいられた。俺が騎士団に入団し、ルシオが父親の仕事を少しずつ手伝い始めてからもだ」
「とても長い、強い絆ですね」
遠慮がちに問う。そんなにも長く共にあれる関係は強固なものに思える。手を取り合い、立場が変わっても心は変わる事なくいられる。なんて素敵で、美しいものなのだろう。
だが、同時に今を思えないランバートでもない。それほどに強かった人達が、今は対立しているその意味を。
「カールが即位するにあたり、兄王子のセシル親王の事が議論となった。親王は幼少期から体が弱く、政治には無関心な方だった。だから先王と当人達を交えた話し合いで、親王は環境のよい保養地で趣味の絵画を楽しまれる事となったんだが、それに反対する者も多かった」
「カール陛下の考えに反発する旧臣が多かったのですね?」
クラウルは静かに頷き、肯定した。その表情の苦々しく暗い様子は、心配になるほどだった。
「カールは国民寄りの理念を持っていた。これに同調したのは四大貴族家とその周囲の貴族だったが、これまでの路線を行きたい者は反発し、セシル親王を王に添えようとした。その中心にいたのが、ルシオの父だった」
決定的にすれ違った、その瞬間なのだろう。カーライルの気持ちも、クラウルの気持ちも、そしておそらくルシオの気持ちも無視して事が進んだのだと推測できる。
「そして戴冠式の日、ルシオの父はカールの暗殺を計画した。これに、当時の騎士団上層部も加担していた」
「騎士団まで!」
「あぁ。当時の騎士団上層部は騎士とは名ばかりの腐った者達の温床だった。戦うのはいつも下の者ばかり。戦で犠牲になるのもそうした者達だ。だからこそ、実力主義のカールが即位したら自分たちの立場が危うくなる事を知っていた。そんな奴らが加担したんだ」
ファウストもそんな辛い下積みをしていたのかと思うと、気の毒だ。もしかしたら団長として頑固なまでに己を律するのは、こうした時代があったからなのかもしれない。
「事件はとある情報から漏れて防がれ、首謀者も実行犯も拘束され、処刑された。この中で一番重い処罰を与えられたのが、首謀者であったルシオの父だった。首謀、共謀、実行犯の全ては処刑されたが、その家族にまでカールは罪を負わせなかった。だが、ルシオだけは違った。爵位は剥奪され、家は潰された」
「どうして、そんな事を……」
「ルシオ自身の関与まで疑われたからだ」
父親の仕事を手伝っていた立場上、知らないでは許されなかったのかもしれない。それでも、カーライルの苦悩はどれほどだったのか。随分辛い思いだったのではないだろうか。
「これでも、ギリギリだったんだ。あいつを処刑しろとまで言われていたんだ。命を奪わない方法はこれしかなくて、カールも随分辛そうだった」
「でもこれでは、二度と会うこともかなわなくなったのでは」
「あぁ、そうだ。ほぼ無一文で放り出され、ルシオの母親は死んだ。ルシオは姿を消し、一年ほどしてテロリストとなって前に立った。優しい奴が苦しんで、俺達を恨んだんだろう」
フッと、クラウルは息を吐く。その次には、怖いくらいの強い瞳をランバートに向けた。
「ルシオを死なせない。これが、カールの願いだ」
「テロリストを見逃すということですか?」
「……俺が可能なら、やる」
「罪だとしても?」
「友を捨てられない」
真剣なんだろう。ランバートも、悩んだ。
友を思う気持ちは分かる。その友を殺されて怒り狂い、殺人鬼となったランバートには痛いくらいに分かるのだ。どんな形でもいい、生きていてくれと切に願う心は。
「俺は情報をクラウル様に報告するだけです。そこから先は関知しません。それで、いいですか?」
「すまない」
項垂れるクラウルに首を横に振り、ランバートは立ち上がる。何か声をかけるべきかもしれない。だが、今更中途半端な事を言うのも考えてしまう。クラウル自身、わかりきっている事なのだろうから。
暗府執務室を出て、自室へと戻る。そして願う。どうかカーライルもクラウルも罪に問われるような事がないように。彼らの願いが叶うようにと。
「座ってくれ」
促され、従う。対面に座ったクラウルはとても静かな様子で息を吐き、次には頭を下げた。
「クラウル様!」
「ランバート、頼む。ルシオ・フェルナンデスに関する情報はなんでもいい。あったら、俺だけに教えてくれ」
「クラウル様だけに?」
ランバートは気になっていた。昨日のクラウルとカーライルの様子の違いは、異常とも言えた。何を意味しているのか分からない。だが、深く聞くことははばかられるように思えて聞かなかった。そこに関係しているのだろうか。
「ファウスト様や、シウス様には秘密ですか?」
「あぁ」
「……お知り合い、ですか?」
問うと、ほんの僅か眉が動く。ただそれだけだが、普段のポーカーフェイスを考えると十分な反応に見えた。
「幼馴染みだ」
「え?」
「ルシオ・フェルナンデスは、俺とカールの幼馴染みだ」
切実な表情と沈む声音。それだけで、胸の苦しさが分かる。ランバートには理解が追いつかなかった。幼少期からの幼馴染みならば、なぜ今敵対してしまったのか。
「分からないという顔だな」
「はい」
「お前には話してもいいだろう。秘密を漏らす奴じゃないからな」
そう言うと、クラウルは一つ息を吐き出して話し始めた。
「俺の父と、ルシオの父、そして先王陛下は仲が良かった。先王陛下の近衛を務めていたのが父で、側近をしていたのがルシオの父だ。その縁で、俺とルシオは城の中に友人のないカールの友人として知り合ったんだ」
語るクラウルの表情は柔らかなものだ。これほどに穏やかな表情をするこの人はあまり見た事がない。いつも引き締まった、厳しい顔をしているから。
「カールはあのままの奴で、俺は少し生真面目で、ルシオは悪戯が好きで。バラバラなのに心地よい関係で、親友だと言えた。それはその後、カールが即位する少し前までずっと変わらないままでいられた。俺が騎士団に入団し、ルシオが父親の仕事を少しずつ手伝い始めてからもだ」
「とても長い、強い絆ですね」
遠慮がちに問う。そんなにも長く共にあれる関係は強固なものに思える。手を取り合い、立場が変わっても心は変わる事なくいられる。なんて素敵で、美しいものなのだろう。
だが、同時に今を思えないランバートでもない。それほどに強かった人達が、今は対立しているその意味を。
「カールが即位するにあたり、兄王子のセシル親王の事が議論となった。親王は幼少期から体が弱く、政治には無関心な方だった。だから先王と当人達を交えた話し合いで、親王は環境のよい保養地で趣味の絵画を楽しまれる事となったんだが、それに反対する者も多かった」
「カール陛下の考えに反発する旧臣が多かったのですね?」
クラウルは静かに頷き、肯定した。その表情の苦々しく暗い様子は、心配になるほどだった。
「カールは国民寄りの理念を持っていた。これに同調したのは四大貴族家とその周囲の貴族だったが、これまでの路線を行きたい者は反発し、セシル親王を王に添えようとした。その中心にいたのが、ルシオの父だった」
決定的にすれ違った、その瞬間なのだろう。カーライルの気持ちも、クラウルの気持ちも、そしておそらくルシオの気持ちも無視して事が進んだのだと推測できる。
「そして戴冠式の日、ルシオの父はカールの暗殺を計画した。これに、当時の騎士団上層部も加担していた」
「騎士団まで!」
「あぁ。当時の騎士団上層部は騎士とは名ばかりの腐った者達の温床だった。戦うのはいつも下の者ばかり。戦で犠牲になるのもそうした者達だ。だからこそ、実力主義のカールが即位したら自分たちの立場が危うくなる事を知っていた。そんな奴らが加担したんだ」
ファウストもそんな辛い下積みをしていたのかと思うと、気の毒だ。もしかしたら団長として頑固なまでに己を律するのは、こうした時代があったからなのかもしれない。
「事件はとある情報から漏れて防がれ、首謀者も実行犯も拘束され、処刑された。この中で一番重い処罰を与えられたのが、首謀者であったルシオの父だった。首謀、共謀、実行犯の全ては処刑されたが、その家族にまでカールは罪を負わせなかった。だが、ルシオだけは違った。爵位は剥奪され、家は潰された」
「どうして、そんな事を……」
「ルシオ自身の関与まで疑われたからだ」
父親の仕事を手伝っていた立場上、知らないでは許されなかったのかもしれない。それでも、カーライルの苦悩はどれほどだったのか。随分辛い思いだったのではないだろうか。
「これでも、ギリギリだったんだ。あいつを処刑しろとまで言われていたんだ。命を奪わない方法はこれしかなくて、カールも随分辛そうだった」
「でもこれでは、二度と会うこともかなわなくなったのでは」
「あぁ、そうだ。ほぼ無一文で放り出され、ルシオの母親は死んだ。ルシオは姿を消し、一年ほどしてテロリストとなって前に立った。優しい奴が苦しんで、俺達を恨んだんだろう」
フッと、クラウルは息を吐く。その次には、怖いくらいの強い瞳をランバートに向けた。
「ルシオを死なせない。これが、カールの願いだ」
「テロリストを見逃すということですか?」
「……俺が可能なら、やる」
「罪だとしても?」
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真剣なんだろう。ランバートも、悩んだ。
友を思う気持ちは分かる。その友を殺されて怒り狂い、殺人鬼となったランバートには痛いくらいに分かるのだ。どんな形でもいい、生きていてくれと切に願う心は。
「俺は情報をクラウル様に報告するだけです。そこから先は関知しません。それで、いいですか?」
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