特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第02章 -大滝の都ポルタフォール編-

†第2章† -07話-[大滝の都ポルタフォールの水難事情:3日目中編]

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 ー15:42

『お父さま、空間を見つけました』


 * * * * *
 夕陽が傾き始めて山向こうに消える前にその一報が入った。
 ノイが俺を実験台にして重力制御の調整を始めてから4時間近くが経ち、
 まだまだ魔法とは言い難いが、体重を3分の1に出来るようになっていた。
 アルシェも放水距離を少しずつ伸ばしていき、
 3M程度まで飛ぶようになっている。

 そんな時間の終わりを告げるように、クーからの念話が届いた。

「みんな集合!上空調査班のクーから報告が入った!
 今から俺がそのまま言葉を伝えるから各自よく聞いておいてくれ!」

 みんなに聞こえるように大きい声で呼びかけると全員がすぐに集まる。
 メリーもいつの間にか戻ってきていた。

「(クー、報告を頼む)」
『(はい、場所はポルタフォールの上空、約1万メートル。
 空間の大きさは不明。亀裂は・・・)』

「・・・亀裂はないですが面は下向き。自然発生ではなくて、
 誰かが作った空間である為クーでは調査ができません。
 カティナ様の協力が必要です。ってさ」
「中に何があるかは現状確認は出来ないんですね」
「面が下向きという事は中に何かがあった場合、
 街に落ちてくるという事ですか?」
「そういう事だろうな。1万メートルは確か雲がある辺りだ」
『私達じゃ手が出せないじゃない!』
「中身次第かな・・・。
 わかっているのは中身には、
 ポルタフォールの水は入っていない事くらいだな」
『対策が取れないです』
『すぃーねがみずをまきあげて、
 あるがこおらせてみちをつくれば?』
『私だけじゃ魔力も制御力も足りないわよ。
 雲を目指してそんな制御なんて絶対無理ね』
「私もそんな大量の水を凍らせるのは・・・、
 どちらかといえばお兄さんの[氷竜一閃(ひょうりゅういっせん)]向きでは・・・」

 いや、俺の氷竜さんも全部を凍らせられるわけじゃないんだぞ?
 アルシェたちと協力すれば出来ると・・・思うけど。

「ともかく、一旦ギルドからカティナを呼んで調査、
 今回はノイの重力制御で直接行けるだろう」
『ですね』
「私達はどうしましょうか」
「ポルタフォールの水源問題は目処が立っているから、
 ひとまず後回しにするしかない。すまんなスィーネ」
『仕方ないわよ。で?どうすればいい?』

 ちょっと待ってくれよぉ。
 ゲームなら全体を見渡しながら指示出しして効率よく動かせるけど、
 現時点で動かせる仲間も少ないし、出来ることも分かれているんだ・・・。
 できるだけ調査して情報を集めてここまで来たけど、ここ数日働かせ過ぎて、
 流石に頭のキャパがオーバーしてきたぞぉ・・・。
 指を一本ずつ立てながら整理していく。

「えっと、街に避難の呼び掛け。これはイセト氏にまかせる。
 上空の中身はまだ不明だが、何が入っていようが位置がまずい。
 避難先は街の外へ呼びかけて、冒険者に協力を求めて避難誘導、
 そのまま護衛に付いてもらおう。
 発見した亜空間の再調査が必要だから、セリア先生はギルドへ。
 町長邸には先行伝令にメリー。
 セリア先生の代わりに後からアインスさんをアルシェに送ってもらう」
「わかりました!
 メリーはイセト達に住民へ避難の呼びかけをお願いしてください。
 すぐにアインスさんを連れて行きます」
「かしこまりました、アルシェ様」
「他のメンバーは何があっても動けるように街で待機しておこう」
『あーい』

「では、街に戻りましょう!お兄さん!」


 * * * * *
 ー15:50

「メリー!先に行ってください!」
「はい!」
「(クー。セリア先生にギルドへ急ぐように伝えてくれ)」
『(わかりました、クーはどうしますか?)』
「(一緒にギルドへ来てくれ)」
『(はい、お父さま)』

 ギルドの帰還門から出た直後に動き出す。
 メリーはアルシェの指示に従い、
 避難が必要な旨を伝えるべく先行する。

「失礼しますよ!」
「おぉ!どうしたんだそんな血相を変えて。
 何かあったのかぁ?」

 ギルドの戸を開くと数組の冒険者パーティが屯(たむろ)っていた。
 説明ももどかしいので、アルシェに目配せをして配慮に回ってもらう。
 アインスさんを目視で探したが見つからないので、
 俺は新顔のギルド職員に声を掛ける。

「アインスさんか、ミミカさんは居ますか?」
「ミミカはまだ戻っておりませんがアインスであれば、
 現在席を外しております」
「魔法ギルドと連絡が取りたいので、
 至急アインスさんに連絡をお願いします!」
「申し訳ございませんが・・・え?何ですか?
 えぇ!?そんな話聞いてn・・・申し訳ございませんでした!
 すぐに呼んで参ります!」

 何やら職員内で伝達ミスがあったようだ。
 おそらくこの受付嬢は数日振りに出勤した口だろう。
 あの粉の仕分け作業をしていないわけで、
 この数日の街の現状もよくわかっておらず、
 解決に向かっているって程度しか知らなかったんじゃないか?

「お待たせしましたわ!」
『お父さま!』

 アルシェの説明を聞いて、
 仲間の下へ走り出した冒険者たちと入れ替わりで、
 鈴の音を響かせてクーとセリア先生が戻ってきた。

『すみません、あまりお役に立てませんでした』
「いや、やれる事はしたんだから十分だよ。お疲れ様」
「カティナはまだですのね」
「今呼んでもらっています。セリア先生は魔力を回復していてください。
 カティナが到着したらすぐにまた飛んでもらいますので」

 インベントリからマナポーションを差し出しながら、
 次の行動に備えるようにセリア先生には休憩してもらう。

「お言葉に甘えますわ。
 ところで、ノイは重力を使えるようになりましたの?」

 今日までノイと一緒に行動をしていたからこそ、
 重力が使えなかった事は知っているし、
 ノイが重力を扱えないとカティナを空へ運べないという事も理解している。

「大丈夫ですよ」
『自信を持って大丈夫とは言えないですけど、
 役には立てますですよ』
「お待たせしました!どうされましたか!?」

 マナポーションを飲みながらソファへ座るセリア先生と、
 ノイを交えて話をしていると、
 奥から新顔職員を連れてアインスさんが走って現れた。

「魔法ギルドへ緊急連絡をして、カティナを呼び戻して欲しいんです。
 街の上空に管理者不明の亜空間を発見。
 みなさんも一旦街の外へ避難をお願いします」
「う、ぅわかりました、すぐに連絡してきます!
 総員避難準備!皆さんはどうされますか?」
「俺はインスタントルームを使わせてもらいます。
 他のメンバーはひとまず待機で」
「了解です、倉庫部屋は右手の扉を真っ直ぐです!」

 アインスさんがカティナを呼びに奥へ戻っていくのを確認して、
 俺もインスタントルームへ移動を始める。

「クーとノイの核を念のために交換しに行ってくる。
 アルシェとアクアはセリア先生とここで待機しててくれ」
「わかりました」
『わかった~』

 歩きながら通り過がりにアルシェ達に声をかけて、
 そのまま右の扉へ向かう。

「2人とも。だるさとかはあるか?」
『交換直後に比べれば核の消耗はあると思いますが、
 そこまでだるさは感じません』
『ボクもです。クーデルカに比べると魔法も使ってませんですから、
 ほとんど消耗してないんじゃないです?』
「多分いまを越えればこの街はもう大丈夫だと思う。
 周囲は解決する範囲だし、あと直接問題になるのは上か下だったけど、
 浮遊精霊に聞き込みをした時点で下に何か仕掛けていた場合何もないわけがない。
 街に直接攻撃できるのはあとは上だけ。これが最後の山だと思う」
『何か起きた時に全力が出せるようにって事ですね』
『ボクも必要です?』
「クーは亜空間の亀裂拡大、ノイは重力魔法の開発と制御。
 2人とも慣れない事をしたんだから、
 普段の魔法使用とは違う消耗をしている可能性があるから念のためだよ」


 * * * * *
 ー16:13

 話を聞いたカティナはすぐに駆け付けてくれて、
 今はセリア先生、ノイと共に空へと浮かび上がっていく。

『行ってくるデスカラァ!』
「頼むぞー!!
 ノイは魔力が切れそうになったら遠慮なくカティナ吸え!」
『わかってるです』
『わかってるデスカ!?』
「ジタバタしないでくださいな!」

 若干不安な飛び立ちをしたが、
 まぁしっかり者のセリア先生も付いているし、
 カティナなりに事態は理解しているようだから信じて待とう。

「アルシェ、アインスさんを町長邸へ送ってあげて。
 終わったらこっちに戻ってくれ」
「わかりました」
「え!?何の話ですか!?」

 すっかり説明を忘れていたので、
 改めて声を届ける魔法の使用を依頼する。

「私の魔法だとセリア様のように上手く広範囲に伝達出来ませんよ」
「冒険者もすでに動いているから端まで届かなくてもいいんです。
 イセト氏が避難を呼びかけたという事が大事なんです」
「うーん、まぁそれで大丈夫なら・・・わかりました。
 乗りかかった船ですからね、私も頑張らせていただきます」
「では、失礼しますね」

 了解の意を示したアインスさんを後ろから腰を支えるように掴むアルシェに、
 アインスさんが微妙に恐怖を感じている。

「クーのバインドで引っ張る方がいいかな?」
「いえ、このまま行きます」
「なんでアルカンシェ様が答えるんですかぁ!?」
「アルシェ!避難の呼びかけが終わったらイセト氏を連れてきてくれ!」
「わかりました!行ってきます!」
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!!」

 そのまま、仲間の職員に同情の眼差しを向けられたまま、
 アルシェに押され、アインスさんは道の向こうへ消えていった。

『あくあもなにかしたいなぁ~』
「だよなぁ・・・。そうだ、少し実験したいことがあるんだけど、
 スィーネとアクアで協力して制御力を上げることって出来るかな?」
『協力?』
『どういうこと~?』
「魔法の制御とかで浮遊精霊に手伝ってもらうことがあるだろ?
 あれを精霊同士で出来ないかと思ってさ」
『どうかしらね・・・。
 試したことはないけれど、出来るんじゃないかしら?
 基本的にそこまでの制御力が必要な場面に遭遇しないから・・・』
「ちょっと試してもらえないか?アクアもいいか?」
『まぁ試すのはいいけど、アクア次第かしらね』
『あくあはますたーがいうならやるよ!』
「おそらく感じとしてはシンクロと同じだと思うから、
 アクアにはどちらが制御がしやすいか確認して欲しい」
『わかった~』

 アスペラルダは水の豊富な国だけあって、
 常に水に囲まれている状態だ。
 今回にしても制御力ひとつで事態を左右するかもしれない。
 人手が少ない、レベルも低い現状では手数が多いに越したことはないんだ、
 何か大きいことが起こった場合にポルタフォールの水を使えれば、
 打つ手も何か増えるはずだ。

「『シンクロ!』」

 俺とアクアの体中からアクアの核と同じ瑠璃色の粒子が漏れ出し、
 頭の中にアクアの意思を感じる。
 数日振りのシンクロではあるが、訓練したおかげで成功する。
 戦闘中であれば目的意識の一致で持続時間も長いのだが、
 こういうお試しなどの軽い理由だと時間も短い。
 初めてのときなどは薄い水色だった粒子も、使う度にだんだんと今の色に変化していった。

「ウォーター」『ぼーる!』

 構えた掌の先に水が発生して急速に大きくなっていく。
 ある程度まで増えた水を2つの玉に分けては戻し、
 戻しては分ける作業を数回行い、制御の精度を確認する。

「こんなもんだな。シンクロするとわかるが、制御力が上がってるな」
『がんばったからねぇ~』
『これが精霊使いと契約精霊かぁ・・・』
「よし、次はアクアとスィーネでやってみてくれ」
『私はシンクロだっけ?あれ出来ないわよ?』
「精霊同士だからどうなんだろうな・・・とりあえずそれっぽい格好でやろう」

 2人に向かい合わせになって両手を重ねるように指示する。
 スィーネは膝立ち、アクアは浮かび上がり両手を重ねあう。

「やることはさっき俺とアクアがやった通りだ。それを意識して」

 集中しているから返事はないけれど、黙って成り行きを見守る。

「うぉーたーぼーる」

 シンクロした時の特徴として瑠璃色のオーラを纏うことと、
 掛け声が重なったり、分担することがあるけれど、
 いまはアクアのみが詠唱した。
 2人の頭上に先ほどと同じように水が集まり始めるが、
 程なくして、ふっと制御を失ったように2人を頭から水浸しにした。

「やっぱり無理だったか?」
『いえ、始まりは悪くなかったと思う』
『すぃーねぇにあくあがあわせられなかったの』
『いまの問題点は、アクアは詠唱する必要があるけれど、
 私は制御力だけで水を集められるってところね』
「なるほど・・・制御力に差があって合わせられなかったか。
 じゃあ次にどちらかがサポートに回って制御の分担をしてみてくれ」
『そういう事なら私がサポートに回るわ。
 その方が制御の感覚もわかり易くなるでしょ?』
『あい~』


 * * * * *
 ー16:40

 遠くから声が聞こえる気がする。
 実際にイセト氏の避難指示が響いているのだろうが、
 アインスさんが言った通りに端まで伝達は出来ないようだ。
 その分を冒険者たちが走り回って住民に知らせては避難指示をする。
 幸い水嵩もそれなりに回復して、
 冒険者の介助があれば非戦闘員でも向こう岸に辿り着ける。

「これで何もなかったら謝らなきゃだな」
『管理者不明の亜空間があんな場所にある時点で、
 何も無いとは思えませんよ、お父さま』

『(到着したです。いまからカティナ様が触診されると)』
「(了解。魔力は大丈夫か?)」
『(帰りまでは持たないかと思うです。
 そうなったらカティナ様からいただきますです)』
「(周囲警戒はしておけよ)」
『(セリア先生が魔法を使って索敵していますです)』
「(わかった。気を付けろよ)」

 ノイ達は問題なく上空に辿り着いたらしい。
 高度10Kって直上に上がっていくだけで30分掛かるほど遠いんだな。
 そんなことを考えていると思い出したようにスィーネが詰問してきた。

『そういえば、お兄ちゃん。
 私に名乗ったのは偽名だったそうね。ひどいじゃない!』
「え?何の話だ?」
『あ~、あくあもきいたよ~。
 すぃーねぇもあんなあやしいなまえでよくけいやくしたねぇ~』
「お前ら仲良くなったな。
 で?何て名前だっけ?」
『イタフォス=イクダニムって言ってたわよ。
 本当は水無月(みなづき)宗八(そうはち)らしいじゃない?
 よくもまぁここまで無関係の名乗りを咄嗟にしたわね』
「あぁ、俺の世界には国毎に言葉があってな。
 その文字を逆から読んだらそうなるんだよ」
『へぇ、面倒くさい世界ね・・・??
 お兄ちゃんって異世界人なの?』
「・・・・あ。そんなわけないだろ。察しろよ」
『・・・口を滑らす程度には信用してもらっているって事で満足しておくわ。
 秘密にしたいならもっと気をつけたほうがいいわよ』

 優しいポルタの守護者に救われました。


 * * * * *
 ー17:03

 空はまだ夕陽が隠れきっておらず眩しさを残していた。
 上空を見つめていると、段々と大きくなる点があり、
 あれはセリア先生達なのだと思うけど、
 ちょっと速度が早すぎないだろうか?

『・・・ァーーー、ィャーーーーァァァアアアアアア!!!!
 も、もう地上デスカラァ、浮き上がるデスゥ!』
「あと少しですわ。軽くすればいくらでも間に合いますわよ」
『セリアはわかっててもあちしは慣れないんデスケドォ!!』
「わかりましたわよ。ノイ、浮きますわ」
『はいです』

 ギャーギャーと騒ぎながらカティナとセリア先生、
 ノイの3人が降りてきた。
 あのテンションならすぐにどうこうなる訳じゃないのかもしれない。

「おかえり、3人共。あれの結果は?」
『もう少し労って欲しいところデスケドォ、
 状況的にすぐお答えしますカラァ』

『あちしが出来たのは透視して中身を確認するだけ。
 亀裂を開けたりは出来ないデスケドネ。
 中身は水だったデスカラァ!』
「水?」

 カティナの報告を聞いてセリア先生へ視線を向ける。

「もちろんわかっておられると思いますが、
 水源にある亜空間にポルタフォールの水は全て収められてますわ」
『じゃあ、どこの水よぉ』
「どこだと思いますかしら、水無月(みなづき)君?」

 今度は俺に視線が集まる。
 俺が知っている情報からなんてあとは一つしか答えがないじゃないか。

「・・・アスペラルダですか?」
「おそらくですけれどね。
 私はあくまで教師ですし、政(まつりごと)の話を聞かないけれど、
 アスペラルダの水嵩の話は嫌でも入りましたわ。
 ただ、確定ではなくてよ?他の街からかもしれない」
『いえ、距離的にもアスペラルダ確定デスカラァ。
 持続転送には制限があるんデスケドォ、
 まず距離はポルタフォールとアスペラルダが丁度限界距離デス、
 この限界距離だと送れる量も最小になりマスカラァ、
 何年も掛かってるんじゃないデスカァ?』
『辻褄はあっているんじゃない?
 カティナ様の制限なんたらが正しいのなら』
『合ってますカラァ!』
「それはいますぐ何か起こるのか?」
『いいやぁー、勝手に何かが起こるものじゃないデスケドォ、
 今の状況なら壊しに来ても・・』



「おかしくないよねぇ!」



「「『『『『っ!?』』』』」」

 カティナの言葉に被さるように知らない声が響いた。
 その場には俺たち以外にも、
 ギルド職員や冒険者、住民がそれぞれ少数いたが、
 誰もが声を聞くまで敵の接近に気づいていなかった。
 声がした方へ目を向けると夕陽を背にして、
 俺達を見下ろす人の姿を発見した。
 足は地面に着いておらず、空に浮かぶ人の姿を。


 * * * * *
 ー17:22

「やぁやぁ、そろそろ良い塩梅だと聞いたから見に来たってのに・・・、
 どうしてかな・・・。せっかく減らした水嵩が戻って来ているじゃないか。
 これ、俺が怒られるじゃないか」

 まだ若い男の声でその影はしゃべり始めた。
 本当に・・・本当に気軽に・・・
 街に細工をしていたことを口にした。

「お前は何者だっ!」

 冒険者が尋ねる。

「俺?あぁ、そうか・・・まだ名乗ってないんだっけ?
 じゃあ俺が初名乗りかもなぁ、へへへ。
 俺は魔神族の[ナユタ]。今日は上司の指示で来たんだけど、
 まさか底辺冒険者に水源を浄化する力があるとは思わなかったがなっ!!」

 魔神族のナユタは突如大声を発しながら、何かを絞めるように手をかざし、
 俺達の知らない魔法を唱える。

「≪アポーツ!≫」

 瞬間、
 尋ねた冒険者が消えた。

 不覚だった。
 目線を一瞬でもそちらへ向けなければ良かった。

「ぐあああああああああああああああああああああ!!!!」

 閃光のような眩しさと男の悲鳴が聞こえ、目を戻した時には遅かった。
 ナユタに首を掴まれた、冒険者がいた。
 体中から白い煙を上げながら、所々は黒ずんでいて、
 風が届ける臭いは生理的に受け付けない、肉を焼いた臭いであった。

「「「「ゲイリィィィィィィィィィィィ!!!!!」」」」
「そいつらを止めろ!」
『≪影縛り(シャドーバインド)!≫』『≪あいしくるばいんど≫』

 彼のパーティメンバーが空の魔神族に攻撃を加えようとした所を、
 俺の指示でクーとアクアが止めてくれる。
 いまの様子から見て、勝てる要素が見当たらなかった。
 これ以上の犠牲を出さない為に逆撫でするような行為はしたくない。

「そうそう、やめてくれよ。
 ちょっとイラついて1人焼いただけじゃないか。
 俺だってやっていいなら皆殺しにするところなんだけどね、
 指示通りに動かないと俺が殺されちゃうから。
 だから今からすることをジャマしないでね、
 そしたらすぐに帰るからね」

 手から冒険者の男を放すとその手から黒塗りのナイフが出現した。
 落ちた男はセリア先生の風で受け止められ、ギルドへすぐに運ばれる。
 ナユタはそのまま腕を上空の亜空間へ向けて、やはりあの言葉を口にする。

「≪アスポート≫」

 瞬間、
 カアアアァァァァァァァァン!!
 と、何かが無理やり刺さるような音が空から落ちてくる。

「よし、お仕事終了。
 ではでは、冒険者の方々・・・・死に物狂いで頑張ってね。
 ≪アポーツ≫」
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