特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第06章 -大樹の街ハルカナム編-

†第6章† -07話-[巣の駆除-バイトルアント編Ⅰ-]

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「俺達の後ろに立っていろよぉ~」
「わかってます。メリーもマリエルも私より後ろですからご安心を」
「ならいい。
 メリー!マリエル!合図の準備をしろ!」
「「はい!《ヴァーンレイド!》」」

 俺の指示を受けて、
 2人は空に向けて手を翳し詠唱を行う。
 手の平に火の玉が発生し、
 徐々にその大きさを広げていく。

『《蒼天・ほわいとふりーず!》せっと:りゅうぎょく!
 じゅんびはいるよ~!かうんと10!』
「・・はぁ~~~~~~~~~~~、
 すぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・」

 地面が少し盛り上がり縁が何かで固められて強化されているバイトルアントの入り口。
 斜め堀から始まっているこの入り口に向けて俺たちは今、
 寝そべるような体勢で構えている。
 とはいえ、身体は竜の能力により浮遊しているので、
 接地しているのは身体を固定する為の両手のみであるが。

 肺の中だけでなく、身体を引き絞ってさらに隙間に残る息も吐ききり、
 一瞬息を止めてから再びゆっくりと肺に空気を貯め始める。

『6!』
「すぅぅぅ・・・っ!(クー!)」
『ってえぇぇぇぇぇ!!!』
「「っ!」」

 ヒュ~~~~~~~・・・・ドッパァァァン!ドッパァァァン!
 二つの大きな火の玉は天高く登っていき、
 この地域に住む全ての者が見える高さまで上がると盛大な炸裂音と爆音を広範囲に響かせる。

『2!』

 口を閉じる。
 もう次に開けば一瞬も持たずに漏れてしまう程溜め込んだ空気を携えて、
 目の前の竜玉をロックオンする。

『(1!)』
「『《凍河の息吹コキュートスブレス!!》』」

 空気を多く溜め込む為に軽く反らしていた身体ごと思い切り竜玉に息を吹き込む。
 ただし、我武者羅《がむしゃら》に吹き込んでも勢いが乗らずに奥まで届かず、
 入り口付近をぐるぐると回って意味を成さなくなってしまう。
 なので、口の開きは小さくし、
 細く鋭く遠くを意識して蟻の巣の中へ吹き込んでいく。

 全てを凍り漬けにする冷気の流れは意図した通りに巣の通路を無駄なく流れていき、
 それこそ河の水が流れ込んだかのようにその勢いは凄まじかった。

 それでも吹き込んだ先から逆巻く風が生まれてしまい、
 巣の入り口周辺は徐々に冷気に当てられて氷の大地に代わりつつあった。


 * * * * *
 一方その頃・・・
 ヒュ~~~~~~~・・・・ドッパァァァン!ドッパァァァン!

「あれが合図の魔法かっ!」
「話に聞いていたとおり進むようだな」
「昨日到着したばかりなのに、ゆっくり出来ないのも考え物ねぇ」
「まぁまぁ、間に合ったんだから良かったじゃない」

 宗八達とは別の入り口を担当する冒険者のうち、
 ひとつのパーティがマリエルとメリーが放ったヴァーンレイドを確認しながら雑談をしている。
 弓使いの女性冒険者が言うとおりに彼らは昨日このハルカナムへ到着し、
 そこでこの街で起こっている事態をギルドで聞いた彼らは、
 ある仮定を立てて今回のクエストに臨んでいた。

「で?本当にあいつらが噛んでんのか?」
「さてな、決定的な話は時間もなく聞けなかった。
 だが今回の事態は数日前から進展しているのは確かだ。
 その事態を放置して移動するとは・・・思えないな」
「同感ですわ」

 片手剣の男性冒険者の問いに、
 寡黙ながら思慮深い雰囲気を持つ軽装の男性冒険者が答え、
 弓使いも同様に肯定を示す。

「移動もすぐ追ったのに全然追いつけなかったものねぇ。
 次の街には流石に着いていけないかしら・・・」
「しゃーねー。
 今回だけの助っ人として協力してやろうじゃねぇか!」
「ちょっとライナー!張り切って入り口に近づいてますわよ!
 合図後は事が終わるまで近づくなと指示されていたでしょう!」
「その”事”ってのが何なんっ、おわぁ!!」
「始まったぞ」

 それは突然のことであった。
 この入り口に張っている冒険者全員が口の開く方向とは真逆、
 つまりは入り口の裏側に配置していた。
 その入り口から薄らと空気が出てきているのを察知した軽装の男、
 ゼノウがライナーを引っ張って入り口前を退かせた瞬間、
 中から外へ向けて強烈な冷気の塊・・・いや、河が流れ出てきたのだった。

「うっわぁ・・・地面が凍り付いていくぞ・・・」
「えげつない魔法があるんだなぁ・・これが上級魔法のアクエリアスか?」
(「そんなわけないでしょうに・・・」)
(「やっぱり確定かしらね」)

 同じように周囲に張っている冒険達は、
 口々に冷気の河を目の当たりにして感想を述べている。
 上級汎用魔法アクエリアスは確かに水氷系魔法に存在しているが、
 その効果はしっかりと書物に記載されているものなのだ。
 そのことを知っている弓使いのトワインと魔法使いのフランザは、
 内心頭に浮かんでいる人物達がこの件を主導していると確信した。

 やがて地面も草木も関係無しに凍り付かせる河の流れは治まっていき、
 ここに“事”の終わりを告げる。

「よっしゃ、一番乗りだっ!行くぞっ!」
「おい、ライナー!」
「ゼノウも何してんだ!さっさと入っちまおうぜえええええええああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 仲間の制止も聞かずに足を進めて入り口に立った片手剣士ライナー。
 しかし、仲間を誘いながら後ろを向いて足を1歩前に出した瞬間には、
 凹凸のない氷が綺麗に張り巡らされた洞窟内を、
 悲鳴を上げながら滑っていき、
 暗闇の中へと姿を消した。

「あの馬鹿・・・。
 中は暗いから松明が必要って事と、
 足下には気をつけろって忠告忘れてたわね」
「敵は先の冷気で一掃されている可能性が高いが、
 俺たちも注意してライナーの後を追おう」
「了解よ」

 仲間の猪突猛進振りに呆れつつも、
 すぐに後を追って滑り降りていく冒険者達であった。


 * * * * *
「あ~、しんど・・・」
『ちかれたぁ~』
『マリエルさん、片目だけに秘薬を掛けますよ』
『こっちもソニック掛けますわー!』
「クーちゃんニルちゃん、おねがいしまーす。
 これ塗ったら先に行っちゃって大丈夫ですか?」
「あぁ、入っていい。
 中は凍り漬けになっているから好き勝手に動くならライドを使って行けよ。
 あと、凍り漬けの敵は脆くなっているけど、
 半分凍り付いて身動きが出来ない個体を見つけたら1度戻ってこい。
 他にも違和感や危機感を感じたら戻れ」

 凍河の息吹コキュートスブレス後に一旦水精霊纏エレメンタライズを解除して、
 現在はマナポーションがぶ飲みタイム中だ。
 俺たちの成長に随《したが》ってマナポーションだけでは、
 何本も飲まなければならなくなった為、
 買い出し班である女性陣は気を利かせて、
 上位互換のフルマナポーションをいくつか購入しておいてくれた。
 いくら回復に必要だからと言っても、
 これはゲームじゃないのだから飲める量にも限界がある為、
 妹たちの気の効き方には感謝だな。

 アクアも俺の頭に乗っかって俺の魔力の吸収していて、
 アルシェもメリーもマナタンクとして魔力を使ったので、
 この場ですぐさま元気に動けるのはクーとニル、そしてマリエルのみだ。
 そのマリエルの先発の準備を整えるクーとニル。

「わっかりました!じゃあ行って来ます!」
「あ、待て待て。ニルもマリエルについて行ってくれるか?」
『ニルですのー?何か出来るとも思えないですわー?』
「ニルと俺の間にパスが繋がっているから、
 魔力の特定は出来るだろう?」
『それは・・・うん、出来ますわー』
「なら、適度に俺に向けてレイボルトを撃ってくれ。
 それがお前らへの道しるべになるから」

「なるほど、それならば入り組んだ構造の巣内部でもわかりやすくなりますね。
 お兄さん賢いです!」
「さすごしゅ・・」
「メリーはそれっぽい事口にしなくていいから・・。
 頼まれてくれるか?」
『・・・かしこまりですわー。
 もう瓶詰めは嫌ですし、全力にてお仕事いたしますわー!』
「よし、行ってこい2人共!」

「はい、今度こそ行ってきます!」
『ですわー!』

 先行部隊として2人が巣の中へと滑って行くのを確認して、
 残りのフルマナポーションも飲み干す。
 アルシェもフルマナポーションで回復し、
 メリーは元からのMPの少なさから普通のマナポーションで回復した。
 そして俺の回復と同時にアクアがMPを吸い上げていくので、
 俺は2本目のフルマナポーションを開封するのであった。


 * * * * *
「あははははははは!!!何コレ楽しいぃ~!!」
『あははははははーですわー!』

 巣内部に先行して侵入を果たしたマリエル達は・・・この事態を満喫していた。
 巣は《凍河の息吹コキュートスブレス》によって上下左右の岩肌が氷に覆われて凸凹がなくなり、
 宗八の指示に従いアイシクルライドを使ったが、
 通路が綺麗に円形の洞窟になったので、
 勢いのあるライド使用時であれば壁や天井関係無しに動き回れるのだ。

「あはははははははは!!!あ、あれアントかなぁ?」

 第一村人ならぬ物言わぬ氷像と化したバイトルアントを、
 天井から逆さまになった状態で見つけたマリエルは、
 さっそく一撃を加える為にフープをしながら近づいていき・・。

氷の波撃フローディングインパクト!

 手にするネコぱんちの付け根から武器に込められた魔力が勢いよく噴き出し、
 マリエルの攻撃力を底上げしてくれる。
 宗八が苦肉の策として考え出した魔法拳用の魔力運用方法で、
 魔法剣であれば剣閃として魔力を敵に放つ攻撃型の使用だが、
 魔法拳の場合は一槌として放ったとしても一閃ほどの飛距離はない。

 わかりやすく例えるなら高町なのは(19)のディバインバスターと、
 スバル=ナカジマのディバインバスターみたいな違いかな?

 その為、一槌後の硬直状態が隙として生まれる事を嫌い、
 なんとか他に出来ないかと考えた結果生まれたのが、
 この[インパクト]という技。

 初動の拳速がインパクトにより加速され、
 破壊力がマシマシになったマリエルの攻撃は簡単にバイトルアントの大きな身体を粉砕する。

「うひゃ~、隊長の言う通り脆くなってますね~。
 これならどんどん進めちゃいます!」
『では、道しるべを撃ちますわー、《レイボルト!》』

 マリエルに掴まるニルは後方に向けて、
 レイボルトを撃ち放つ。
 狙うは自分の中にも存在を感じるその魔力にスポットを当て、
 その魔力の持ち主を導けるようにと願いを込めて雷を走らせる。

「行~くぜ行くぜ行くぜ行くぜぇ~!」
『ニルから見てもマリエルのテンションは殺伐としてますわー・・』


 * * * * *
「お兄さんの作戦通りですね。
 レイボルトの通った跡が残っています」
「ここまで上手く行くとは思ってなかったけどな。
 多分マリエルが通った所の氷が削れてその粒に帯電したんだろうな」

 先行したマリエルとニルの後を追って、
 俺とアルシェは共にライドで巣を下方へと進んでいた。
 おそらく、他の冒険者も入り口に近い各部屋を虱潰ししてくれているはずだ。
 さすがに巣の形とかは予想がついても、
 どの層の部屋に卵があるとかどんな役割があるのかはわからんからな・・。

「メリーも今のところは問題なさそうだな」
「はい、クーデルカ様のおかげですが」

 ライドが使えないメリーが、
 氷で覆われたこの通路を進むのは難しいかと懸念していたのだが、
 クーとシンクロする事で支配範囲にある影を上手く操り、
 滑らないように併走することが出来ていた。
 曰く、若干影にめり込ませているらしい。

「それにしても結構奥まで行ってやがるなあいつら・・・」
「私たちもかなり下ってきましたけど、
 まだ追いつきませんしね・・」
「ちょっと聞いてみるか・・。
 一旦そこの分かれ道で止まって確認しよう」
「わかりました」

 その分かれ道は俺たちが来た道とは別に3つの道に分かれた四つ又の交差点であった。

「クー、この一帯をサーチしてあいつらの居場所を探してみてくれ」
『かしこまりました、お父さま』

 俺とアクアの《凍河の息吹コキュートスブレス》とはいえ、
 絶対必殺の万能魔法ではない。
 現時点でも十分な効果を発揮しているのは確認できたが、
 これ以上下に行く前に念の為もう1度使用しておきたかった。
 つい癖で揺蕩う唄ウィルフラタでもないのにイヤリングに手を添えてしまう。

「(おい、ニル。お前らどこまで進んでるんだ?)」
『(あぁああああああぁぁぁ!!そうはちっ!
 いいところに連絡ですのーっ!!!
 ピンチですわー!ピンチですの-!
 とある階層まで降りた途端待ち構えていたかのように襲われてしまったんですのー!!)』

 何をやってるんだこいつらは・・・、
 あれほど注意しろと言っておいたのに・・・。

「クー、あいつらの居場所はわかったか?」
『特定出来ました!こちらへ向かっています。
 その後方からすごい数のモンスターも確認!』
「メリー、揺蕩う唄ウィルフラタでマリエルに連絡。
 この通路まで誘導してやってくれ!」
「かしこまりました」
「俺たちはメリーを抜いてもう一度《凍河の息吹コキュートスブレス》を使う。
 アクアもアルシェも準備しろ。マリエルが後ろに抜けたらもう1度だ」
『あい!』
「わかりました」

 時間にして2分ほど、
 メリーの指示を出す声だけが響く。
 俺たちはと言えば水精霊纏エレメンタライズを済ませて2人の到着を待つ。

「はいそうです、そのまま道なりに進んで次を左に」
『お父さまそろそろです!』
「あいよー!アクア!最大じゃなくてもいいからクーに合わせるぞ!」
『あい~!《蒼天・ほわいとふりーず!》せっと:りゅうぎょく!
 かうんと!』
『8!』
「・・はぁ~~~~~~~~~~~、
 すぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・」

 入り口で放った時よりも2秒短い8からスタートしたカウント。
 クーの放った8の数字から、
 続く以降の数字をアクアと声を揃えて口にする。
 正直すげぇ可愛いけど、今は反応していられない。
 タイミングがズレれば、
 ただでさえ塊になって迫っているバイトルアントを、
 眼前で捉えながらブレスをする事になり、
 それらが目と鼻の先で氷のオブジェクトになってしまう。
 すると、奥へとブレスが流れていかず、
 この場で逆巻いてしまい俺たちまでブレスで凍り漬けになってしまう可能性がある。

『『4!』』
『『3!』』
「すぅぅ~~~~・・っ!」

 肺と口内いっぱいに息を吸い込んだ俺は、
 息を一旦止めてしっかりと前方の状態を覗くと、
 マリエルとそのマリエルに掴まりながら全力で滑り向かってくる2人の姿と、
 その背後から大量のバイトルアントが迫ってきているのがわかる。

「(少し近いな・・・)」
「では、余る制御力で私が足止めしますね・・」
『アルシェ様、クーもお供します!』

 共にシンクロ状態であるアルシェに俺の意思が漏れ伝わっていたらしい。
 2秒分余った制御力を使って足止めをすると志願してくれ、
 その言葉に追従するようにクーも同じく足止め役を進む出る。

「《アイシクルランス!》」
『《シャドーバインド!》』

 こちらの返答を聞かずに詠唱は完了し、
 アルシェは立てた人差し指と中指を指揮者がタクトを操るように振ると、
 絡まりになっていたアントの群れは、
 通路の壁から突如生えてきた氷の槍に進路を阻害され、
 影から伸びる手に身体を捕まれて動きを制限され、
 数匹ずつその勢いを殺された。
 その為、ひと塊だったアントの列は長く伸びる結果となり、
 その身体の隙間も大きくなってブレスが奥へと流れやすくなった。

『『(1!)』』
『「うわああああああああああああ!!!!!!」ですのー!!!』
「『《凍河の息吹コキュートスブレス!!》』」

 俺たちの放射姿勢の真上をマリエル達がライドで駆け抜けた瞬間に、
 俺たちは本日2度目の息吹を吐き出した。


 * * * * *
「おぉ~い、マリエル。
 俺がなんて言ってたか覚えているかぁ~?あぁん?」
「痛たたたたたたたたたたたっ!ごめんなさいすみませんわすれてましたっ!!」
『はわわわわぁ~~~ですわーっ!』

 俺の手でアイアンクローに処されて膝立ちにされているマリエルは、
 悲鳴を上げながらも謝罪の言葉を繰り返し、
 その様子を端から見守るニルは手を口に当てて怯えていた。

「お兄さん、時間もないですしその辺で今は勘弁してあげて下さい」

 そのお仕置きを止めはするものの、
 今はと言っている時点でアルシェも今回の暴走には思うところがあるらしい。
 メリーは主の粛正に異を発する事も無く納得顔で側に仕える。

 アルシェの言葉も一理ある・・処か確かに今は時間が惜しい。
 そう判断して手を離してやると、「あふぅ~・・」と気の抜ける言葉を吐きながら凍った地面にドサリと倒れ込んだ。
 そのマリエルに向けて片膝を折って語りかける。

「・・・今回は魔神族が直接関わっていない事だからいい。
 だが、お前の行動ひとつでアルシェや・・俺たちの誰かが死ぬかも知れない。
 そうなったら、お前も辛いだろう?
 まだ魔神族の危険性が理解できていないお前に言っても現実味がないかも知れないが、
 自分の行動をよく考えて動けるようになってほしい・・・」
「お兄さん・・・」
「ご主人様・・・」

 地面に横たわるマリエルは静かに俺の言葉に耳を傾け、
 意識的なのか荒かった息も止めてきちんと聞いているようだ。

「今日だっていつ魔神族が直接介入してくるかも知れないと、
 危機意識を全面に張り巡らせてお前とニル以外の俺たちは事に中っている。
 作戦中に雑談をしてもいいし、
 少しハメを外すくらいも許す。
 だが、自分から仲間を危険に晒すような真似は自制してくれ。
 ニル、お前もだぞ。俺たちは万能じゃないんだ。
 いま不自由なく冒険を出来ていても、
 災害のようなどうにも出来ない事なんていくらでもあるんだ」
「隊長や姫様に出来ない事・・・」

 マリエルは起き上がり、
 囁くような声で呟いた。
 その声音にはいつもの元気な印象はなく、
 しっかりと心に届いていると思える声であった。

「そうだ。いくらでもある。
 お前が加入するまでは前衛は俺だけだったし、
 いつもパーティ以外の人に助けられながらなんとか事件を解決していたに過ぎない。
 グランハイリアのアタランテの駆除だって、
 お前がいたから俺はバイトルアントの件に介入できたんだ。
 俺たちだって足りない部分を補い合ってなんとかなっている、わかるな?」

「はい、わかります・・・」
『わかりますわー・・・』

「お前達の意思を無視するつもりはないし、
 出来る限りは俺たちとの旅を楽しんで欲しいと思っている。
 それでもやらなきゃならん事には協力して欲しい。
 まぁ・・・とりあえず、俺が伝えたいのは以上だ。説教は終わり」
「すみませんでした・・」
『ごめんなさいでしたわー・・』

 パンっ!
「じゃあお兄さんの説教も終わったところで、
 先に進みましょうか!」
「そうですね、この場でずいぶんと時間を使ってしまっていますし」

 暗い空気を一新する為にアルシェが手を叩き、
 明るい声で事の進行を提案する。
 それに乗っかる形でメリーも先に進む事に肯定を示した。

「よしっ!お前らも今は事に集中しろ。
 足手まといと判断したら以降は影の中で留守番にする!
 いいかっ!」
「・・っ!はいっ!」
『わかりましたわーっ!』


 * * * * *
「今の話聞いたか?」
「魔神族って言ってましたわね」
「・・・これが彼らが動く動機ってわけだな」
「ペルクの事も多分、魔族じゃなくて魔神族が関わっている事なのよね?」

 先のとある冒険者の声は氷窟と化したバイトルアントの巣に響き、
 各入り口から進んできた先頭パーティの耳に微かに届いていた。

「おそらくな・・・、
 だから調べたり事件に介入する度に痕跡を残さないように口止めや、
 正体を明かさないようにしていたんだろう・・・」
「この話が聞こえているのは私たちだけじゃないわよね?
 これって大丈夫かしら?」
「声は反響してなんとか聞こえた程度だし、
 流石に他国の姫が訪れていると思う冒険者はいないわ」
「だな。名前が出たのは仲間だけで精霊の存在や水無月の名前は出ていないからな・・。
 それにグランハイリアの冒険者はこの場には1人も居ねぇ」

 微かに聞こえてきた声の単語や、
 それぞれが聞こえた言葉を頼りに内容を理解したこのパーティは、
 響いてきた声の主達がどういう事をして来たのか改めて理解した。


 * * * * *
「ようやっと最深部かな?」
「ずいぶんと大きな空間ですね。
 地表からどのくらい離れているんでしょうか?」
「さてな。
 とりあえず、ここまでは通路も凍てついているし、
 この下に降りたら何かしらのアクションは起こすだろうさ」

 巣の内部は基本的に暗い為、
 俺たち全員はクーの[猫の秘薬]を掛けてもらっている。
 とはいえ、いきなり光を目にしては使い物にならなくなってしまうので、
 片目だけに留めている。

 ギルドで入手したバイトルアントの話を思い出すに、
 この奥にマザーが居る事はまず間違いないと思われる。
 しかし、今まで遭遇したアントの多くは、
 おそらく一番数の多い[バイトル]の役職ばかりで、
 戦闘要員の[ウォリアー]や[ナイト]はマザーを守る為に集まっている可能性が高い。

「ご主人様、どう致しますか?」
「俺たちが倒した数を考えても400は残っていると思った方がいい。
 この地点まで来て奥から追加が出てこないと言う事は、
 下っ端は全員出てしまい、
 片が付いたという報告を待っているんじゃないかな?」
「でもそいつら全員、隊長とアクアちゃんの魔法で凍っちゃいましたよね?」
「全員とまでは行かないかもしれないけれど、
 後ろから襲って来ないし他の冒険者の方が動きが鈍いから、
 そっちに行っているんじゃないかな・・」
『どうする~?』

 下の空間に繋がるこの通路は、その天井近くにあった。
 蟻共は壁を登れるからいいかもしれんが、
 俺たちは1度降りるとなかなか登ることが難しい。

 今回は奴らが動き出す前に通路という通路を凍り漬けにし、
 話に聞いた1000匹近いバイトルアントの6割を占める[バイトル]を対処した。
 後は4割の戦闘蟻。
 これには流石に俺たちだけで対処するのは難しいかと思考する。

 冒険者がクエストを受けて魔物を討伐するのは良くある話だ。
 それは数が増えすぎていたり、
 必要な素材があった時なのだが、
 バイトルアントの素材と言えば表に出てくる[バイトルの皮]ばかりで、
 奥に引きこもる[マザー]や[ウォリアー]や[ナイト]の皮とは違うらしい。
 カティナにも確認を取ったが、
 素材が魔法ギルドに届く事は何度かあったらしく、
 研究をしたにはしたけれど、
 属性的な相性の実験までは着手できるほど素材はなかった、との事。

『つまり、同族ではあるけれど同種ではない、と?』
「そういう認識でいたほうがいいだろう。
 一応は吹いてみるけど、
 上の奴らと違うアクションを取る可能性は頭に入れておけ」
「それでも2回で巣の通路をほぼ凍り漬けにされたのです。
 その力がこの空間に放たれればランク3程度の魔物は耐えられないのでは?」
「私もメリーの言う事に同意見です。
 そもそもあの息吹を[魔法]というカテゴリに並べるならば、
 もう上級すら超えていると考えられますから、
 ランク3程度の魔物が耐えられるとは思えません」

 そりゃあ3人と1人の魔力をほぼ使い込んで使用した魔法だぞ・・。
 しかも所要時間は1分!
 1分で4人分の魔力をほぼつぎ込む魔法が汎用の上級魔法程度と同じでたまるものかっ!

 しかし、先ほどマリエルに危機意識を張り巡らせろや、
 万能じゃないと言ってしまった手前、
 調子に乗るような言葉を安易に口には出せない。

『ますたー、ひとりじゃないよ~』
「え?」
「私たちも一緒に戦っているんです。
 お兄さんだけであの魔法を使えるわけじゃないって事ですよ」

 俺の苦悩を見抜いているのか、
 一番の繋がりの長いアクアと付き合いの長いアルシェが分かった風な顔で、
 諭すような事を言ってくる。

 これも俺が口にした事で、
 足りない部分を補っているという言葉の事を言っているのだろう。
 油断はしない方がいいけれど、
 注意のしすぎは無駄に心労を増やすだけ。
 わかってはいるんだけどなぁ・・・、
 まさかこんな所で教育の難しさを実感するとは思わなかったな・・・。

「・・ふぅ。
 先に下の空間の実態を知らないとな。
 おそらくこの空間は巣の下層ではあるんだろうがな、
 棲み分けの境界線なんだ」
「境界線?」
「そう、だからこの下には広くはなくとも巣がさらに広がっている。
 上とは違って通路が全て繋がっている可能性は低い」
『1回の魔法では全域に届かないということですのねー・・』

 実際、空間の下部には8つの通路が見えている。
 これらが繋がっているとは考えづらい。
 バイトルアント界の上流階級がこの空間以降に住んでいるなら、
 それぞれの役割にあった部屋を用意している・・・かもしれない。

「隊長が言うその情報を起点に考えると、
 400体の敵を一気に相手しないように隠密で処理しなきゃいけないんですかね?」
「それは・・・流石に私たちだけではどうしようもありませんね・・・。
 囲まれた場合、ほぼ適正レベルの我々では何度も攻撃を耐えられませんし」
「マリエルとメリーの疑問通りだ。
 だから・・・クー」
『なんでしょうか』
「1人で調査に行ってくれるか?」
『わかりました』
「クーちゃんだけは危ないのではないですか?
 せめてメリーも一緒に・・・」

 高威力のある攻撃は巣の崩落に繋がる恐れがある為使用は出来ないし、
 回復もアクアだけでは回らない・・・。
 何より狭い通路での戦闘は攻撃に仲間を巻き込みかねず、
 この空間だと全方位からの攻撃を捌くのは至難の業だ。
 すでに作戦が始まってから2時間近く経っているし、
 他の冒険者たちも続々と巣の攻略を進めてくれているはずだ。

 俺たちだけでは難しい、
 なら上層から冒険者がこの地点に到達するのを待つ間、
 せめて索敵と巣の作りくらいは把握して作戦の再構築をするべきだ。

隠遁ハイドでは細かな足音は隠せないし、
 人くらいの大きさの生き物が気配を消そうとしても野生の生物にはお見通しだ。
 でも、猫状態のクーなら・・・、
 足音も鳴らないし気配を隠す事は出来る。
 気取られても姿を消した状態なら逃げ切る事も出来る。
 そう判断した結果だ」
「でも・・」
『アルシェ様、ご心配はありがたいですが、
 お父さまの言葉は正しいかと思います。
 クー1人ならば体重も軽いですし、
 足音や発生する振動も軽微ですから』
「では、ご主人様。その間我々はどうするのですか?」
「俺たちはここと同じ上部にある入り口に1人ずつ移動して、
 後続の冒険者にタイミングを合わせるように伝える。
 まともな戦闘はしていないから体力は有り余っているだろうしな」
「わかりました。クーちゃんお気をつけて」
『がんばってね、くー』
「はい、行ってきます」
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