特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第06章 -大樹の街ハルカナム編-

†第6章† -08話-[巣の駆除-バイトルアント編Ⅱ-]

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〔お兄さん、こちらも冒険者の方が到着しました。
 説明を始めます〕
「あいよー」

 さらにあれから2時間。
 各下層上部入り口での待機とクーの調査を平行して進め、
 俺とクーは何かあった時に対処できるようにシンクロ状態になっている。
 アルシェとメリーが説明会の内容を相談検討し、
 決まった話を到着した冒険者へ伝え、
 全員の突入準備が出来るまで待機してもらうようにした。

 現在、俺の所以外のメリー、マリエル、先のアルシェと冒険者が続々と到着し、
 クーの調査報告を元に下層の作りを、
 念話で受け取れる俺とメリーがそれぞれ作成し、
 影倉庫シャドーインベントリを通して順次更新の度に全員に回して位置の確認を行っている。

 と、その時背後からどことなく聞き覚えのある声が響いてきた。
 他の到着冒険者は声のボリュームを抑えるように伝えているので、
 俺の所まで届くと言う事は新規到達者なのだろう。

「お、やっと追いついたぜぇ・・」
「初めて入ったけど、バイトルアントの巣ってここまで広大なのねぇ」
「流石に疲れたわぁ・・・」
「お疲れ様、そして久しぶりだな。水無月殿」
「あんたら・・・もしかして追ってきたのかっ・・・」
「王都には戻ってねえんだから、お前らとの約束は破ってねぇだろ?あ?」

 あ?じゃないんですけどね・・・。
 俺たちと接触した人は俺たちの本来の目的に一番感づきやすいと思ってんだから、
 出来ればというかマジで追ってこないで欲しいんですけどね・・・。

「いつこちらへ?」
「昨日よ」
「き、昨日っ!?よく今回のクエストに滑り込めましたね・・」
「アルカンシェ様の名は流石に出せなかったが、
 水無月殿の知り合いだとギルドで伝えて、
 適正レベルと言う事もありなんとか合格した」
「・・・俺たちが関わっているとどこから?」
「鎌を掛けたら引っ掛かった感じですね」

 開いた口が塞がらないとはこの事か・・・。
 俺はこのクエストが始まってから色んな初めてを経験してんなw
 俺もギルド宛に俺の名前を出す冒険者がいるとは思ってなかったから、
 俺の落ち度なんだろうが、納得いかねぇ!!

「で?なんで追ってきたんですか?」
「ペルクの事、その後の事も水無月さんにも姫殿下にも感謝しているんです。
 本当に・・・。
 でも、貴方方は関わらないようにと言ってきた。
 それでも私たちを動かしたのは、
 やはりペルクの名誉を守って下さった貴方方の力になりたいという思いなんです」
「これでも姫様達が出発してから悩みましたわ。
 足手まといになる事も気がかりでしたし、
 なにより貴方たちがアスペラルダ公認の冒険者という事で、
 仕事の邪魔になる事も懸念しましたわ」
「考えに考えて結論を皆で出したんです。
 とりあえず、追ってみて追いついた先で協力できることがあればしようって・・」

 ペルク氏と両思いだった魔法使いフランザさん、
 そして弓使いトワインさん。
 2人が口にする想いは理解した。
 動かずには居られないほどの感謝、
 追いついた先で出来る協力をしたい。
 今回はこのクエストがそれに中ったらしいが、
 それにしても馬車では追いつけない速度で移動している俺たちに3日遅れで到着できたのはどういうワケだろうか?

「それはゼノウが事前に馬を買っていましたの。
 馬車ではなく自分たちで少し危険な冒険をしてお尻を痛めつつ追いついたのよ」
「慣れない事をしたのにすぐこのクエストって大丈夫だったんですか?」
「俺は足を良く滑らせた」
「あ、ライナー氏は予想できます」
「なんでだよ、おい!」
「確かに集中力という点では落ちていたのは否めない。
 しかし、そのほとんどは凍り付いていて壊すだけだったからな」
「ここまで進むのは足下を気をつけるだけで良かったわね」
「・・・さいですか。
 上層は簡単だったかも知れませんが、
 本番はここから下の下層なんですよ・・・こちらがその情報になります。
 他の冒険者の方々にも協力して頂きますので、
 こちらの準備が済むまでは休憩しておいて下さい」
「感謝する」

 ここまで来てしまったんなら、
 もう利用するしか手はないだろう。
 現時点の下層情報を手渡して、その後の後続も待つ事にしよう。
 まぁ戦力が分かるパーティがひと組いると考えれば、
 作戦の草案も組み立てやすくなるか・・・。
 とはいえ、俺ってリーダーの資質はなくてどっちかと言えば参謀役だと思っている。
 いまのパーティは年下の女の子ばかりだからなんとかなっているけど、
 これがクランとして動き出した時にちゃんと全員を活かせる指示が出来るか今から不安だ。


 * * * * *
 それからさらに時間は進み、
 各入り口から進んできた冒険者は、
 全員俺たちがいる下層入り口まで到達していた。
 待つ間に冒険者パーティには[エクソダス]を使い、
 交代で昼食を取りに行かせ、
 そのついでにギルドで待つ町長等に報告と情報の更新をしてもらった。
 クーも既に帰ってきており、
 下層の全貌は概ね確認が取れて、どう動くのがいいか検討に入っていた。

『お父さま、全冒険者戻りました』
「もう全員食いに上がったのか?」
『はい、今回のクエストに参加された冒険者は全員食事を済ませて戻っています』
「わかった。こっちも出来上がってるから、
 そろそろ動くかな・・・。《コール》パーティー」

[パーティメンバーと強制接続しました]

「アクア、この火を持って待っててくれ。
 俺の指示に従って通路の入り口まで行ってくれ」
『あい!』

 下層の入り口は全部で8つ。
 自分たちのいる位置からどの入り口の事を言っているのか、
 理解してもらう為にアクアに視覚による説明役を担ってもらう。

「いまから俺の言う作戦を全員に伝えてくれ。
 俺たちがここから下の空間に降りた衝撃で、
 残る4割のバイトルアントには気取られる。
 全面戦闘は避けられない為、敵の100体ほどが待機していて、
 尚且つ行き止まりになっている通路は俺たちが上層と同じく処理する。
 つまり、冒険者の皆様には残りの3割を各通路の入り口脇で待ち構えて頂く事になります」

 一旦俺の言葉を聞いてから冒険者へ伝える仲間達の説明を待つ。

「アクア」
『あい!いきま~す』

「いま火が寄っていった入り口が我々の対応する入り口です。
 残りの7つの入り口を皆様に対処していただく事になりますが、
 よろしいでしょうか?」

 目線を俺の位置に辿り着いた冒険者へと流すと、
 ゼノウ氏を始め、他の冒険者3パーティも声を発さずに親指を立てて肯定を示してくれた。

〔アルシェ班、全員から理解を得られました〕
〔メリー班、こちらも同様に問題ありません〕
〔マリエル班、概ね納得をいただきましたが、マザーはどうするのかと声があります〕

 バイトルアントの殲滅が今回のクエスト内容と聞いている。
 当然一番の大捕物はマザーと呼ばれる個体なのだから、
 本案件の詳しい話もなく利益目的に受けた冒険者の多くは、
 やはりそこを気にするらしい。

「・・・俺たちはマザーの討伐権利を放棄してもいい。
 条件としては死体をギルドへ提出してほしい。
 バイトルアントは[バイトル]の情報しかほとんど手に入っていないらしいから、
 [ウォーリア]と[ナイト]の死体と共に提供しておきたい。
 他の冒険者パーティの意見も確認してくれ」

 俺の返答から少し待てば、
 うちの連中が確認を取ってそれぞれ回答を口にする。

〔アルシェ班はお兄さんと同じでいいと言われています。
 今回の件の貢献度を考えれば私たちが倒した方がいいという意見もありました〕
〔メリー班、クエスト報酬も相まって問題ないと回答もらいました〕
〔マリエル班は・・えー、さっきの発言者がその後ボコボコにされて反省中です。
 こちらでも私たちのパーティがマザーを討伐するのが良い落ち処だと言われました〕

 えーーー・・・。
 俺としては立候補した冒険者パーティが行けばいいとすら思っていたのに、
 みんな物わかり良すぎないかぁ?
 クエスト受付の際に町長が余計な気の回し方をしたんじゃないだろうな・・・。
 とはいえ、こんな下らん事で時間を取られても仕方ないと割り切って、
 俺たちがマザーを請け負うしかないだろう。

「・・・では、
 皆さんの意見を受けてマザーは俺たちアルカンシェパーティが担当する。
 マザーは最奥に居るらしいので、
 動き出さない限りは最後に取ろうと思います。
 皆さんよろしくお願いします」

 グッ!(bbbb)
(bbbbb)(bbbbb)(bbbbb)

 バイトルアントを刺激しないように小さい声で喋るように言い含めてはいたが、
 ペルクパーティ改め、
 ゼノウパーティを筆頭に無言で了承の意を親指を上げて知らせてくれる。
 そこまで徹底しなくて良いんだけどな。

「ふっ・・」

 なんだこいつら、めっちゃ良い奴らだな。

「じゃあ、最後の作戦を開始するぞっ!」


 * * * * *
 その後は予定通りに一気呵成に下層へ降りると、
 俺たちは目的の通路を凍り漬けにする為に。
 そして、冒険者達は暗く広い空間を明るくする為、
 松明を方々へいくつも放り投げる。
 始めは壁か地面に挿せればと思っていたが、
 やはりどこもかしこも岩で出来ていたので無理だったのだ。

 そして、通路に向けて吐き出す《凍河の息吹コキュートスブレス》は過去2回の放射と比べ、
 全くと言っていいほどに力も勢いもなかった。
 それには理由があり、
 全通路を凍り漬けにするべく吐き出したブレスと違い、
 抜けていくワケではなく、
 行き着く先は行き止まりなので、
 ほどほどの《凍河の息吹コキュートスブレス》を放ったのだ。

 上層と同じ様相になった通路へは念の為マリエルを単身で向かわせ、
 氷像と化したアントを完全に粉砕するように指示を出し、
 俺たちは事前調査によりマザーへと繋がる通路のひとつへと近づいていく。

「お疲れ様です。あとはこちらで対処します」
「わかった、よろしく頼む!」

 通路入り口に立つパーティの後衛に声を掛けると、
 通路内に入り込んで侵攻している仲間に撤退の声かけをする。
 すると、丁度アントの後続に隙が出来たのか、
 前衛の数人が駆け足で通路から走り出てきた。

「おう、後は任せたぞ!」
「はい、ありがとうございました」

 俺の肩をポンと叩いて予定のポイントへ駆けていく冒険者へ、
 感謝を伝えてから足を通路に踏み入れる。
 その直後に奥から今まで氷像で見たことのあるアントとは大きさも、
 見た目も違う蟻が姿を現した。

「あれが・・・ウォーリア種ですか・・・」
「凶悪な面してんな・・・」

 蟲なので実際の所はわからないが、
 目つきが鋭いような気がするし、
 口元の大きな2本の牙がまるでクワガタのように大きく迫り出し、
 形も凶悪としか言い表しようのない面構えをして通路奥から顔を覗かせた。

 通路はそれなりに広いが、
 1つのパーティが辛うじて戦闘を行える程度の幅しかない。

「《武装加階ウェポンエヴォルト!》」

 以前アスペラルダで大将戦をした際に使用していた魔法に、
 アクアやアルシェの知恵を借りて完成した新魔法。
 この魔法は魔法剣を精霊と同じ概念と想定して調整した結果、
 アスペラルダでは水の剣を芯に据えて、
 氷の刃を追加武装としてくっつけただけだった。

 アクアを例に挙げると、
 魔力が集まって誕生した魔法生命体の精霊。
 魔力の塊である彼女は人を姿を取り、
 さらには魔法を自分に上乗せして自身を強化することも出来るようになった。
 そして今や受肉してほぼ人と変わりなくなった。
 ならば、アイスピックや雷光剣は実体を持ち、
 魔力を剣身に溜め込む事が出来る点を見れば精霊と同じではないだろうか?

 今俺の手に収まっている武器の名はアイスピック。
 しかし、その姿は水の剣でも氷の剣でもない、
 洗練された氷の宝剣と見紛う美しさを秘めていた。
 見た目だけで言えば某F○10のフラタニティがさらに深い色合いになった姿と言えばいいだろうか?

「グラキエルブランドを実践で使うのは初めてですね」
「だな。一応防御力が高い事を懸念して使用しただけだけどな」

 水氷系武器が進化した姿。タイプ[グラキエルブランド]。
 長さも剣幅も進化前より成長し、
 事実上1.3倍くらいの剣になっていた。
 当然、雷光剣にも同じ魔法で進化を促す事は出来るはずなんだけど、
 これが上手くいっていない。
 俺の風制御がまだまだなのか、
 それとも剣にも信頼とか絆値があるのかはわからないけど・・・。

 後ろに続くお仲間は居らず、
 1体で先行してきたウォリアーは本当に蟻のように頭をブンブンと振りながらこちらへと駆けてくる。
 身体の大きさから言っても1歩が大きく、
 一瞬で距離を詰めてきた。

「ふっ!」

 頭から突っ込んできたアントの顎に挟まれないように上手く調整し、
 グラキエルブランドで固定する。
 片手では流石に止まらないかと思っていたが、
 日頃鍛えている成果が出ているのか、
 1mほど後ろに押されはしたが突進を止める事に成功した。

「動きを止めろ!」
「『はい!《影縫!》』」

 巨体の影に2本の黒いナイフが刺さり、
 ギチギチと動かしていた顎も触覚も動きを止めた。

「アルシェ!」
「はい!《アイシクルランス!》」

 狙うは細くなっている関節部分。
 俺が頭部の動きを抑え、メリー達が身体を抑えて動けないアントへ、
 急所の一撃が加えられる。
 浮遊精霊の加護もない彼ら魔物は、
 急所への攻撃に最も弱いことは把握済みだ。
 これで加護持ちだったらこうして頭だけを千切ることも出来なかっただろう。

「ステータス!邪魔だからさっさとゴミ箱にぶち込むぞ。
 みんなも手伝ってくれ!」

 半永続的に発行される牙や皮などの部位をクエストで集める場合は、
 ギルド職員に渡せば事足りるのだが、
 今回は魔物の生態調査の為に完全な状態の個体を魔法ギルドが所望している。
 なのでステータスを開き、
 ゴミ箱のアイコンを掴んで引っ張ると大きくなる口に、
 今回討伐したアントのウォリアーを納めてしまえば、
 ミッションのひとつがコンプリートされる。
 ちなみにゴミ箱の行き着く先は魔法ギルドが管理する倉庫に繋がっているので、
 あちらに直接死骸が届けられるというわけだ。

 なんとか先のウォリアーを納めたところで、
 後続部隊が続々とこちらに向かっている振動が感じ取れた。

「メリーとクーは、
 先の空間で冒険者が戦闘のリズムを崩しそうになったら助けてやってくれ」
「かしこまりました」
『皆さま、お気をつけて』

 狭いこの通路では機動力を活かすメリー達はやる事がない。
 役目でもある索敵もクソもないし、
 ここまで来たら出てくるだけの魔物を駆逐していくだけの作業だ。
 そして、俺の後ろにはアルシェとアクアという魔法に優れた後衛も居るのだ。
 俺は淡々と前衛としてアントの突撃を止めていれば彼女達がどんどんと倒してくれる。

「《撃鉄インパクト》」

 次に俺に突っ込んできたウォリアーの顎を側面から斬り飛ばす。
 斬り裂く瞬間だけ魔力の噴出で剣速を上げたのだ。
 勢いよく頭から通路の壁に突っ込んで足を縺れさせる個体の片顎は、
 綺麗になくなっており、
 頭を打ち付ける音の後に甲高い音を響かせて俺の背後に何かが落ちる。
 すぐに復帰できないウォリアーの後ろから顎の短い個体が顔を出してきた。
 顔を覆う表皮も角張り厚そうで、
 足も身体もまるで鎧を着込んでいるかのようにガッシリとしているのがわかる。

『あれがナイトですのー?』
「おそらくな。
 ウォリアーが細身で素早く動き、敵を凶暴な顎で攻撃。
 ナイトはそれほど積極的に動かないって所かな。
 ただし、短くともあの顎には掴まらないようにな」
「はい!」
『あい!』

 ウォリアーの身体を縫うように前進してきたナイトの元へ駆けていき、
 再び[撃鉄インパクト]を使って顎に向けて斬り込むが・・・。

「斬り飛ばすまではいかないか」

 ギチギチと怒りを示すかのように顎を頻繁に動かすナイトは、
 俺の攻撃により正面を向いていた頭の向きがずらされる程度しか影響を受けていなかった。

「『シンクロ!』」

 アントと鍔迫り合いをしている内に、
 後方にいたアルシェとアクアがシンクロ状態に突入。
 魔力の高まりを感じ、さっさと剣を引いてアルシェ達の背後に着地すると、
 すぐさま2人の魔法攻撃が始まる。

『《蒼天・ほわいとふりーず!》』

 アクアは己の竜玉に魔法を込めて、
 慣れた手つきで2分割にする。
 そのうちのひとつはアルシェの手元に収まり、
 2人は並んで前方で絡まっているバイトルアントへ向けて手の平を向け、
 2分割にされた竜玉も手の平に沿って合わせて動く。

「《デュエット・クリスタルダスト!》」
『ふぉいやー!』

 途端に中級魔法のホワイトフリーズよりも強力で、
 遠距離まで届く冷気が通路の奥を目指して竜玉から放出された。

 《凍河の息吹コキュートスブレス》の下位互換的な位置付けの魔法の落ち着いたな。
 威力の調整がまだまだ出来ていない現状であれば、
 この魔法は戦局によっては十分に使い処はあると思う。

 どこまで届いたかは全く見えないのでわからないが、
 目の前で絡まり合っていたウォリアーとナイトは凍り漬けになり、
 活動を停止しているように見える。

「ニル、俺の武器の接敵に合わせて振動を制御してくれ。
 振動を用いて対象を破壊する!」
『やっとお仕事ですの!かしこまりですわー!』

 何が原因かはわからないが、
 グラキエルブランドになっても日本刀のような片刃の剣には出来ず、
 西洋の両刃剣になったアイスピック。
 今の俺の出来る打撃は・・・これしかない!

 片手持ちを両手持ちに切り替え、駆け出す。
 剣を担ぐように柄を前に突きだし、
 虎砲こほうを出す時と同じく独特の呼吸法と、
 足運びを接触前に組み込みタイミングを図って氷像を突く。

 キィィィィィィィィイイイイィィィィィィン・・・・。
 という中間が大きく響く澄んだ音が収まると、
 氷像の2体はガラガラと音を立ててその身体を崩していった。

「いまのはどういう原理ですか?」
「振動破砕・・・とは多分違うのかなぁ・・?」

 あれの原理はよく知らないけれど、
 固い物同士がぶつかり合う事によって、
 互いが砕けるという方法だった様な気もする。
 そう考えると今のは違うかな。

「俺のイメージは振動を物体に通して結合を崩していくって感じだけど、
 実際の振動破砕がどういう物なのか俺は知らないんだ」
「いえ、つまり凍り漬けになると脆くなる。
 それは結合が緩んでいるからで、
 その緩みを決定的なものにする・・・そんな認識で納得しました」

 おそらくは間違っていないんだろうけど、
 アルシェは俺のあんな曖昧な説明でよくもそこまで構築出来た物だな。
 やっぱりアルシェは賢いな。

 その後も俺がタンクを務め、
 アルシェとアクアがトドメを刺す。
 時には俺がそのまま倒してしまった方がいい場面もあり、
 ニルも目眩まし程度の威力しか出ないが注意を引く為にレイボルトを撃ち込んだりと活躍してくれた。

 マザーへの道は2つの入り口から繋がっており、
 俺たちはその片道から進んでいった。
 道が合流した段階でメリーに連絡を入れ、
 もう片方の入り口で出待ちしていた冒険者は任を解かれて他の冒険者の手伝いへと回ってもらう。
 ついでに、マリエルもひと仕事を終えてメリー達に合流していたので、
 この先の広い通路での戦闘を安全に行う為に3人にはこちらへ合流するように伝えた。

「ここからは枝につく葉っぱのように部屋が左右にいくつもある。
 予想だとさっきの奴らの待機部屋と卵のある部屋だと思う」
「合流後の通路が異様に広いのは卵の行き来が盛んだからでしょうか?」
「う~んどうなのかな・・・。
 卵はいっぱい産むとは思うけど、
 そんな頻繁に産むのかも疑問だな。
 今回は別の巣から穴を掘って引っ越してきただけだし、
 もし卵が大量にあるとしたら、
 孵化までの期間がとても長いのかも知れないな」

 そもそもの蟻の生態を知らないが、
 蟻の卵って成体の蟻とほとんど同じ大きさだったような記憶がある。
 子供の頃に水攻めで遊んで・・いや、
 蟻と縄張り争いをしていた時に巣の中から浮いてきた卵がそんなだった気がする。
 あれ?でも小さい蟻も見た事あるな・・・。
 もしかしてあの卵に数十匹の蟻が!ってパターンか?

「卵を見つけたらしっかり潰しておいた方がいいかもな・・・」
「出来ればオベリスク除去後に元の巣へ移してあげたいですけどね」

「移したところでマザーが産まれるかもわからないからな、
 この街の地下に移り住んだ時点でこいつらは詰んでる」
『かなしいけど、これせんそうなのよね~』
「お前はまた余計な記憶を発掘しやがって・・・」
「お待たせいたしました」
『お父さま、お疲れ様です』
「姫様ぁ~、マリエルが来ましたよぉ~!」

 卵の事を考えている間に援軍の3人が到着したらしい。
 ひとまず誰も怪我を負ってはいない事に安堵しつつも、
 最後の気合いを入れる。

「とっとと終わらせて明日には出発したいんだ」

 暗く広い通路へ向けて俺が足を踏み出すのを確認してから、
 アルシェ達も続けて動き始める。
 通路の奥行きから各部屋の広さも、
 クーの探査によっておおまかには理解している。

 残る敵の数もこの通路は24匹。いや、マザーを入れれば25匹か・・。
 後ろから敵の援軍は来る事は無い為、
 俺たちの仕事はここが終着地点になる。

「さぁ、最後の仕事だ。気合い入れていこう!」

 それは仲間への激励であり、
 静かに息を潜める蟻たちへの宣戦布告でもあった。

 まず、ひとつ目の脇道の前。
 影に隠れた狡猾なウォリアーは、
 俺の無造作に進めた足に向けて噛みつこうとしてきた。

「甘いっ!そもそもデカいんだから隠れきれてないだろうが!」

 顎はギザギザになっている為パリィは出来ないが、
 攻撃を受け止めた俺に続いてマリエルが側面に回って攻撃を行おうと動く。

「《勇者の剣くさかべ!》」
『《あいしくるらんす!》』

 そのマリエルに向けてさらに後ろに控えていたナイトが噛みつこうと動き出した所をアルシェの魔法で注意を逸らされ、
 続けてアクアの魔法で頭部をカチ上げられる。

『《氷の撃鉄フローディングインパクト!》』

 横槍など目端に入っていないかのように全く動揺せずに、
 拳を加速させる魔法でマリエルはウォリアーの側頭部を殴りつける。
 トドメとはいかずとも固い外皮が砕けている様子から、
 しっかりとダメージになってるのがわかる。

『《闇付与術エンハンスダーク!》シフト:オブシディアン!』
「メリー=ソルヴァ、推して参ります!」

 元より黒い剣身を持つアサシンダガーを構えたメリーの武器は、
 クーの魔法によりほんの一回り大きくなり、
 荒削りな黒い輝きを纏う。
 体勢を低く保ち、頭のカチ上がったナイトの下へと素早く潜っていくと、
 守りの薄い足の関節と根元を斬り裂いて移動も攻撃も出来なくする。
 足を失ったナイトの下敷きにならないよう、
 さっさと足下抜けだし、
 続けて壁に蹲るウォリアーの背面からバックスタブを狙う。
 相手が人間や獣であれば心臓部分にひと突きすれば会心の一撃が与えられるが、
 流石に蟲の内部構造までは主人である宗八も知らない様子だった為、
 物は試しと一撃加えてすぐさま下がる。

「クリティカルではないですね」
『アネゴ経由で構造を調べてもらいましょう』

 入れ替わりに宗八が首元の接合部へと近寄り、
 無慈悲の一撃で切り離し絶命させる。

「そっちはどうだ?」
「討伐完了です」

 見れば手足のもがれたナイトの方も、
 上から身体部分をアルシェとアクアが魔法で凍結させ、
 マリエルがそこを砕く事で絶命させていた。

「ひとまず、こいつらは後回しでマザーを討伐してからゴミ箱に入れる事にしよう」

 ウォリアーとナイトの死体をその場に放置をして、
 俺たちは慎重に通路に蔓延る残党を処理していった。
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