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第07章 -平和な工芸都市フーリエタマナ編-
†第7章† -05話-[勇者と聖女-邂逅編-]
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「じゃあ、行ってくる。
何もないと思うけど、何かあれば連絡してくれ」
「ゼノウさんたちも一緒だし気軽に頼ってもいいからね」
「はい、姫様!私も勇者みてみたいけど我慢して待ってます!」
「では、ゼノウ。あとは頼みます」
「あぁ。こっちは任せろ」
「姫様、ご主人様」
『そろそろ出発致しましょう。あまり時間がありません』
『いくぞ~!』
『おー!ですわー!』
『噂の勇者・・・ワタクシァ興味あり、ます!』
おまえら精霊どもはお留守番でもいいんだけどな・・・。
実際のところ勇者が来たのか確認に行くだけだし、
来ていたとしてもギルドに顔を出してなかったら情報は手に入らないだろうしな。
俺としては散歩の延長で何か情報があればって程度の期待値しか持っていない。
「おっし、行くぞ」
「はい」
* * * * *
「プルメリオ=ブラトコビッチさんは来ましたか?」
「プルメリオ様の訪問履歴は第三者への開示は許可されていません」
「私宛に何か言付けがあるかもしれませんので、
カードの情報確認をお願いします」
「かしこまりました、お預かりいたします。
少々お時間が掛かりますのでソファにてお待ちください」
「わかりました」
ギルドに到着してからの俺の頭は混迷の極みにあった。
まず、プルメリオ=ブラトコビッチって誰だよっ!?
これに関しては俺たちが目的としてギルドに来た現状から、
勇者の本名なのだと自問自答で答えを導き出した。
では、第二問目。
え?勇者って日本人じゃないのっ!?ってとこだ。
いや待て、早合点してはいかんぞ宗八!
ハーフとかクォーターとか、
どこかしかで日本の血が入ってたり、
外国産まれの日本育ちとかって可能性もあるよな・・。
お次、第三問。
でもやっぱり日本人じゃない勇者ってこう・・・わかるだろ?
納得がいかないというかさ、
海外に異世界転移系の物語があるかはわからないけど、
そういうの読んだことないからさ・・・。
外国はどっちかといえば、
がっつりファンタジー設定でもっと移転要素の入る隙間ない感じだろ?勝手なイメージだけど。
そもそもなんたらビッチってなんだよ。
確かなんだこれミステリーだかで、
どこぞの国のサッカー選手のキーパー以外がビッチだった気がする。
どういう意味だっけか?
~の息子?マイサン!みたいな意味だった気がする。
じゃあ、勇者はブラトコさん家の息子さんってことかな?
いやいや、どうでもいいし!
『お父様、ソファへ移動しましょう』
「ん、そうだな」
「お兄さん、また気になることでもありましたか?」
「いや、個人的な事だからアルシェは気にしなくていい。
確認が終わるまで待つとしよう」
顔の前まで浮かび上がって移動を促すクーと、
下からのぞき込んでくるアルシェの頭を撫でつつ、
ソファへと移動する。
向かうソファにはアクアとニルとアニマがなにやら話しており、
そこに俺から離れたクーが合流する。
ソファに沈み込む俺の隣にアルシェが座り、
メリーは俺たちの背後へと位置取りをする。
「それで、何か勇者様の事で聞きたいことはありますか?」
「あー、そうだなぁ・・・。
今まで詳しくは聞かなかった俺も悪いんだけどさ、
勇者って何歳くらいで肌の色とかどんな感じ?」
「勇者様の年齢は19歳と聞いています。
肌の色は・・・お兄さんよりも黒いっぽい感じです」
浅黒い肌に19歳、それとビッチ。
「性格は陽気な方でしたが、
何をするかわからない所がありました」
「例えば?」
「城のなかでの行動を制限していなかったんですけど、
鍵の掛かっていない部屋はすべてノックもせずに入ってきたと・・・」
そう口にしてメリーへと視線を移すアルシェ。
つまり被害者であるメイドたちを束ねる、
侍女長のメリーであれば詳しい話も聞けるということか?
俺もメリーに視線を移し、話を促す。
「・・勇者様は姫様が仰ったとおりに各部屋を隈無く回り、
配置してある宝箱を開けようとしたり壺や樽を持ち上げようとしておりました」
「持ち上げようとしていた?」
「はい。
ただ、中身が詰まった樽は持ち上げることが叶わず諦めておりましたが、
簡単に持ち上がる壺は何か恨みがあるのか片っ端から壊しておりました」
何というかいやな予感がしてきた。
同じ世界の住人かもわからないけれど、
同じ異世界から来た人間として頭が痛くなってきた。
「他にはクローゼットを開けたりしてたか?」
「あ、はい。それもありました。
メリーからすぐに報告が上がってきたので、
早い対応として各部屋には鍵を掛けましたから私も被害には遭っていませんが・・・」
「まぁ、手前勝手な理由から召喚したこちら側からは、
勇者の行動にクレームは言えないもんな。
閉まっている扉を開けてほしいと言われたりは?」
「ございましたが、姫様の部屋には立ち入らせませんでした」
こりゃあ、勘違いしてそうだな。
異世界転移あるあるなのかもしれないけど、
その思考に支配される前にNPCも生活を営む人間という認識にならないもんかね。
はっきり言わせてもらうと、
俺には勇者くんが脳に異常のある人種なんじゃないかと思える。
俺がこの世界に来てからすでに半年以上経っているし、
そのひと月前に勇者はこの世界に呼ばれた。
精神が正常な人間ならゲームの中ではないと理解できているはず・・・、
出来ていなければ逆に世界の驚異・・・、
いや、世界の敵にすらなりかねないぞ・・・。
「テンプレではあるんだろうが、勇者に選ばれるやつはある意味純粋だな」
「純粋?」
「おそらく勇者像というものを自分の中に持っているんだ。
思い込んだら一方通行の思考で仲間を疑わず、
何のつもりか名乗りも上げない。
樽・壺・タンスの確認、その方法すべてが元の世界の知識なんだろう」
「でも、一般常識と示し合わせればおかしい行為だと理解できるのでは?」
「だからこそ、純粋なんだよ。
その行為を勇者という立場上の当然の権利として疑う事を知らない。
歳はアルシェよりも上かもしれないが、
精神的な年齢はまだまだ子供なんじゃないか?
話を聞いてみてお前らが口にし辛そうだった意味がわかったよ・・・、
勇者の行為に否を口には出来ないわな」
今更な話ではあるが、勇者の心象は正直最悪だ。
王都の状況次第で最前線の戦いを任せたかったけど、
強いには強いのだと思うけれど、
ゲームで言えば勝手な行動をして和を乱すゲストキャラみたいなもんだ。
おぉ~い、勝手に進むんじゃねぇよ!敵討ち漏らしてるじゃねぇか!
倒しきれねぇなら俺たちが合流するまで待ってろよ!!
お前が通った後から敵が沸いてんだよっ!動くなぁ!!
って感じ。
「他に情報はあるか?」
「いえ、その後はひと月で城下町を出られましたので、
どこの町に立ち寄ったか程度の噂話と伝言でなんとか位置を確認していた程度ですね。
エクスカリバーは手にしたそうなので、
ステータスもある程度の予想になります」
「そういえば聖剣エクスカリバーの要求ステータスはいくつなんだ?」
「メリー、いますぐわかる?」
「確か・・。STR/70 MEN/70 DEX/70ですね」
「たっか・・・、俺たちの倍かよ。
あ、でも必要なGEMは210ってことは、
レベルで言えば今の俺たちと同じ程度で装備できるのか」
「その代わりに他のステータスは一切上げられませんが」
メリーの言うとおり他の武器や防具を装備するためにVITを上げる必要もあるだろう。
それらを上げつつ駆け足で神聖教国までエクスカリバーの回収に行ってその後はずっと引きこもり?
ようやっと出てきたと思ったら魔神族に敵対されてるし、
勇者サイドの状況はどうなってんだか。
「お待たせ致しました、アルカンシェ様。
こちらが伝言になります」
「はい、拝見します」
勇者の話を聞き取っているうちにギルド側の準備が整ったらしく、
先に受付をした職員ではなく、
ギルドマスターの証したる上着を着用した女性がアルシェに接触をしてきた。
伝言の伝え方は口答ではなく紙媒体での対応。
メールもなければ念話もないならこれが確実であり、
今時間であれば冒険者も少ないから有りっちゃ有りか。
「・・・・確かに伝言を受け取りました」
渡された紙の中身を読んだアルシェは、
手紙をギルドマスターが差し出す皿の上に置くと、
無言のまま置かれた手紙に火をつけるギルドマスター。
小さい紙切れだった手紙はすぐに灰へと代わり、
その場にいる全員がその行程を黙って見守った。
「それでは失礼致します」
「お疲れ様でした」
ギルドの奥へと戻っていくギルマスを見送ってから、
伝言を受け取ったアルシェへと視線を戻す。
「それで?」
「明日、ギルドの一室で会談をしたいと」
「有意義な会談になればいいんだけどな・・・。
無駄足だったら出発を遅らせた責任を誰に追求すりゃいいのかわからんし」
「勇者様の成長か、常識人のお仲間次第で・・・しょうか。
アルシェ様、ご主人様、本日はこれで宿へ戻られますか?」
「どうする?」
「お兄さんこそどうしますか?」
「せっかく外に出てきたんだし、
明日の出発もなくなったから散歩して帰ろうかと思う」
『『『『散歩!』』、です!』のー!』
いや、お前らは宿に帰って寝てていいんだぞ?
そもそもギルドに着いてからもずっとソファで雑談してただけのお前らは何をしに着いてきたんだよ。
「なら、私も一緒したいです」
「まぁいいけどな。メリーはどうする?」
「私は宿に戻っております。
ゼノウ様たちに明日の出発が延期になったと伝える必要もございますし」
「了解、よろしくな。一時間以内に戻るから」
「かしこまりました」
* * * * *
翌日、勇者サイドと会う特別な日ではあるのだが、
別にやることはそれ以外に変更は無いため、
朝練、朝食といつもと変わりない日常を終えた。
「アルシェ、準備はいいか?」
「はーい。お待たせしました、お兄さん」
「ご主人様、遅くなりまして申し訳ございません」
現在いるのはギルドの一室。
約束があることはギルド事態も理解しており、
その対談者も勇者とアスペラルダ姫ということで、
特別に控え室をお貸しいただいた。
「いや、時間に余裕はまだあるから問題ない。
立場的にどっちが上とか考えると面倒だから、
先に乗り込んじまいたいだけだ」
「それもそうですね。
マリエルもゼノウさんもセーバーさんも準備はいいですか?」
「大丈夫でーす!」
「問題ありません」
「こっちも準備は出来ています」
対談には俺たちだけでは無く、
アドバイザーとして風の国出身の冒険者であるゼノウと、
先日ハルカナムに到着したセーバーにも、とある手段でお越しいただいた。
「すみません、セーバー。それにリュースィも。
昨夜ハルカナムに到着したばかりだったのに・・・」
「全くだ・・・なんてなっ!
移動自体に苦労はなかったし問題は無い。
事情次第では先に手を出しておきたいしな。
元々のクエストの奴は周りに被害は出ないんだろ?」
「生物がいなければ魔力の霧散は出来ないし、
オベリスクの効果も成長しない、それは絶対です。
あそこには魔物も精霊も近寄りませんから、
時間的な余裕はあります。
ただし、自然魔力は漂ってしまいますからいつまでも、
という訳にはいきませんけどね」
セーバーの契約風精霊のリュースィは、
俺の契約精霊ども&ゼノウの契約精霊のウーノと、
顔合わせと久しぶりの再会を兼ねた雑談をしている。
ゼノウパーティの他3名にはスライムの核による契約方法を、
セーバーパーティの他4名に指導するように伝えている。
ライナーは心配だが、
セーバーの所の男と仲良かったし頭の良いトワインとフランザが一緒だし、
説明面は問題ないはずだ。
ついでにアインスさん伝いで、
アスペラルダにいるポルトーに無精精霊との契約を勧めてもらうことにした。
これによって戦力面は確実に向上するし、
まずはポルトーと数名の将軍で試してから本格的な運用に移行するらしい。
「それでは行きましょうか」
「あいよ」
冒険者の目もギルド員の目もないこの場限りでアスペラルダ印のマントを解禁する。
フーリエタマナでアルシェの正体が姫と知っているのは、
一部のギルド員とギルドマスター、
そして勇者一行と俺の身内だけとなる。
王都手前で足跡を消したところで効果はないかもしれないけれど、
何もしないよりはマシと判断して隠しているけど、
これもあちらさんの罠がなかったらそんな状況にもなりはしなかった。
「それあんまり着けないのか?」
「必要以上に知らせる必要はありませんから。
立場ある方やお兄さんの判断で着けるようにしています」
「なるほどね。俺はお兄さんのお眼鏡に適ったって事か?」
「1つ強者であること、2つパーシバルさんの推薦、3つ生きている可能性。
この3つが決め手です」
「俺の要素すっくないなぁ・・・」
雑談をしているうちに会談部屋へと近づいていくにつれて、
精霊たちもそれぞれの主の元へと戻っていく。
ゼノウ1、セーバー1、俺4・・・多くね?
「精霊使いとしてご主人様は他の追随を許しておりません」
「お兄さんは精霊だけでなく動物にも好かれますから」
「確かにセーバーさんの乗っていた馬車を引いてた馬。
隊長にすっごい熱視線を送っていましたね」
「何それ初耳」
『ますたーすき~♪』
『お父さま、お慕いしております』
『匂いが好みですわー!』
『居心地は良い、です!』
「やめろ、恥ずかしい」
「皆様、到着しました。
ここからは私語厳禁でお願いします」
おっと、約束の部屋に到着したらしい。
予定よりも早い到着のはずだが人の気配が8人?
さてどんな人物か・・・。
コンコンッ。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
???
なんだ今の言語?
確か異世界に来るにあたって言語の壁はご都合魔法によって超えているはずだ。
本来アルシェはフレミグルド語と呼ばれる言葉で、
俺も日本語とそれぞれが口から発する言語は別なものなのだが、
耳に入る言葉がそれぞれ理解出来る言葉に変換されている。
なのに、今の言葉は何だ?
形容しがたい・・・そう、俺にとっての英語の様な・・・。
俺はドアノブを回しゆっくりと開いていくが、
視界に映り込む姿は・・・予想の勇者とは違って幼女だった。
さらに視界を広げると、
部屋の中には気配が他に7人あるのに移るのは先の幼女1人。
「あら?先ほどの返事は勇者様だったはずですけど、
貴女様はどちらさまですか?」
俺の背後から入室してきたアルシェと4人も、
姿の見えない他の7人に警戒をして、
アルシェとメリーを中心にした陣を作る。
その隙間からアルシェが件の幼女へ声を掛けた。
「お初にお目に掛かります、アルカンシェ姫殿下。
噂はかねがね伺っております。
そして水無月宗八《みなづきそうはち》様、伝言を聞いていたはずなのに何故我が国が後回しなのか伺っても?」
清楚な感じのシスターみたいな服を着込んだ幼女は、
まずアルシェに素敵な笑顔で挨拶をした後に、
何故か俺の名前を震え声で口に出し、
そして何故かこめかみに怒りマークを作って引きつった笑顔を向けてくる。
「俺を知る謎の幼女現る?」
「お前結構有名人なんじゃないか?」
「いえ、宗八の情報は一般的な情報網では引っかかりませんでしたよ?」
「・・・もしかして、貴女様は聖女様ですか?」
「正解です姫殿下」パチンッ!
困惑の最中、アルシェが正解を当てたらしい。
目の前にいる幼女は例の予言を各国に伝えた聖女様だそうだ。
その聖女様が指を鳴らすと、
その背後に瞬間移動してきたかのような一瞬で、
2人のシスターが姿を現した。
「私はユレイアルド神聖教国で聖女と呼ばれています。
名をクレシーダ=ソレイユ=ハルメトリと申します」
「お見知りおきとは思いますが、返礼いたします。
アスペラルダ王国が王女、アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと申します」
聖女は俺たちの世界でいうお辞儀をし、
アルシェも名乗りを返していつもの丁寧なカーテシーを返す。
その間俺は部屋の中を見回しながら、
クーに念話を送っていた。
(「昨日と同じような気配を感じる。クーはどうだ?」)
(『お父さまと同じく、昨夜感じた気配です』)
(「って事は、光魔法で姿を消してるのか・・・」)
(『どう致しますか、お父さま?』)
光魔法という単語やイメージから光の屈折を再現し、
姿を見えなくしているんだと思われる。
蜃気楼とかと同じ現象だな。
とはいえ、クーの空間魔法とは違って次元が違うわけじゃ無いから、
攻撃をすればちゃんと当てることが出来る。
チラリと視線を聖女に向けると、
にやりと笑っている事や名前、先のシスター登場の様子からコイツが術者だと思われる。
「無理矢理剥がすしか方法は無いだろうな」
『わかりました』
「『シンクロ!』」
突然黒いオーラが俺とクーを包み、
聖女の両脇に立っていたシスター2人は慌ててその様子に警戒を高め、
聖女の前に立ちはだかる。
「王都が壊滅しているかもしれない時に、
こんな遊びをしてて良いんですかね?」
「・・・っ」
「あぁ、そちらが兄王子でしたか。
じゃあ正面の塊が勇者様一行ですか・・・」
俺の発言に一際気を乱した人物は姿を消して、
俺たちの入ってきた扉に近い部屋の角に立っていた。
そちらへ一瞥した後、手を前に翳す。
時間の無駄使いをする茶番を終わらす為に。
『《ガイストアプション》』
翳す右手の五指の先にひとつの魔法陣がクーの詠唱ととも出現し、
向かう前方で展開されている光魔法の吸収を始める。
体内に流れ込んでくる魔力を感じながら見据える先で、
光の屈折を用いたベールが徐々に歪んでいき捲れ上がっていく。
「これは・・・っ!」
「一瞬で魔法の無効化まではいきませんけど、
弱めたり効果を打ち消すことが出来る魔法です」
魔法が弱まっていく気配を感じ取ってか、
背後に控える勇者一行へと慌てふためき振り返る聖女。
立ちふさがるシスターは尚も警戒して俺に構えを取ったままだ。
そして・・・。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「はい、お久しぶりです。勇者様もお元気そうで」
屈折の向こうから現れた一団の中心にいた褐色の若者が、
俺には理解できない謎の言葉をアルシェにベクトルを向けて発し、
アルシェはしっかりとその内容を認識した上で返答を返した。
* * * * *
あの茶番を挟んだ理由はアルシェサイドの対応の様子を伺う為であったらしく、
あちらはあちらで俺たちの戦力などを計りかねていたとの事。
くだらない茶番の為に壁際へとどけておいたらしいテーブルと椅子を設置し直し、
改めて場を仕切り直して勇者サイドとの対談が始まった。
「じゃあ、こちらはこちらで始めましょうか」
「そうですね、水無月様♪」
長く伸びるテーブルの端からアルシェと勇者の対話する姿を確認してから、
嘆息ひとつを吐き出し、
俺も俺に用があるという聖女を相手に話をすることとなった。
だから、アルシェの側にはメリー・ゼノウ・セーバーに加えて、
クーデルカも護衛として就けた。
『こんにちわ~!』
「こ、こんにちわ・・・」
『護衛は護衛でお話しますわよー!』
「あ、はい。よろしくお願いします・・・」
俺と聖女の側でも側近と精霊どもの雑談をさせている。
まぁ、時間をつぶす相手をさせているだけだから、
シスター2人とアクア&ニルの会話はあまり気にしない方向で行こう。
『ワタクシも居ましてよ、クレシーダ』
「貴女様の事も存じております、無精の王アニマ様。
お会いできて光栄です」
「それも予言ですか?聖女様」
「予言では無くこれは未来予知です。
それとどうぞ私のことはクレシーダとお呼びください。
敬語もほどほどで結構ですよ♪」
「はぁ、えっと・・・おいくつで?」
「今年で9歳になります♪」
という事は無理をすれば収束魔法が使える、
リリカルなのはと同等の強さを秘める可能性が微レ存か?
にしても、聖女って奴はゲームじゃないんだから、
結構お歳を召されておられると思っていたのに、
まさかの幼女とは・・・。
いや、聖女に選ばれたその瞬間から歳を取らなくなったってパティーンかもしれない!
それならこの幼子は見た目は子供、頭脳は大人、迷宮なしの名探偵と同じ!
「あれれ~、おかしいぞぉ~って言ってみてくださいませんか?」
「え?あ、はい。あれれ~、おかしいぞぉ~」
あ、なんか満足したわ。
もうBBAでも幼女でもいいわ。
勇者とアルシェの会談も始まっているようだし、
こちらもいつまでも遊んでいるわけにはいかない。
そろそろ本題に入らないとな。
「で、なんで俺に接触したがったんです?」
「今年の風の月が60日ほど経ったとき、
新しい神託を受け取りました」
『神託?』
「以前のものは、
《幾千の夜と昼が流れつつ、世界の混沌は加速する。
星は力を消費し続け、世界は0へと向かいだす。
魔の王は異界へ手を伸ばし、いずれ世界は魔神の手に落ちるだろう。
微かな光は明滅し消滅を待つ。
異界の者、光を戻さん》だったな」
世界各国の王たちが警戒した神託。
その内容を現在集まった情報と結びつけていけば・・・、
幾千の夜と昼が流れつつ、世界の混沌は加速する。
星は力を消費し続け、世界は0へと向かいだす。の部分は、
オベリスクによる世界の魔力霧散が近いか・・・。
魔の王は異界へ手を伸ばし、いずれ世界は魔神の手に落ちるだろう。
微かな光は明滅し消滅を待つ。
これについては魔王を知らないからなんとも言えないけど、
魔神は魔神族ってことでいいのかな?
魔神族の見た目はそこまで人間離れはしていなかったし、
もしかしたら別に魔神がいる可能性もあり得る。
微かな光は明滅ってのは現状世界が危険信号を出しているって解釈だと思う。
異界の者、光を戻さん。
これは勇者一択で満場一致だろうな。
彼の戦闘を見てはいないがレベルも武具のランクも俺たちとは違うだろうし、
何より勇者特有のチートを併せ持つと思われる。
あと精霊の気配も彼からすることから、
もしかしたら精霊と契約してるのかもしれないな。
「ん?待てよ・・・?
風の月60日頃って俺が・・・」
「えぇ、そうですね。精霊の救世主様がこちらへ来た頃です」
「・・・は?」
俺の世界で季節は春、4月に俺はこの異世界にやってきた。
誰にも呼ばれていないのに召喚の塔にいきなり現れたんだ。
胸の鼓動が早くなるのを感じながら、言葉を詰まらせる。
精霊の勇者って・・・もしかしなくても俺のことか?
そういえばステータスの称号に???の救世主ってのがあったなぁ。
そんな事を頭に思い浮かべながら、俺は聖女クレシーダの顔を凝視することしか出来なかった。
何もないと思うけど、何かあれば連絡してくれ」
「ゼノウさんたちも一緒だし気軽に頼ってもいいからね」
「はい、姫様!私も勇者みてみたいけど我慢して待ってます!」
「では、ゼノウ。あとは頼みます」
「あぁ。こっちは任せろ」
「姫様、ご主人様」
『そろそろ出発致しましょう。あまり時間がありません』
『いくぞ~!』
『おー!ですわー!』
『噂の勇者・・・ワタクシァ興味あり、ます!』
おまえら精霊どもはお留守番でもいいんだけどな・・・。
実際のところ勇者が来たのか確認に行くだけだし、
来ていたとしてもギルドに顔を出してなかったら情報は手に入らないだろうしな。
俺としては散歩の延長で何か情報があればって程度の期待値しか持っていない。
「おっし、行くぞ」
「はい」
* * * * *
「プルメリオ=ブラトコビッチさんは来ましたか?」
「プルメリオ様の訪問履歴は第三者への開示は許可されていません」
「私宛に何か言付けがあるかもしれませんので、
カードの情報確認をお願いします」
「かしこまりました、お預かりいたします。
少々お時間が掛かりますのでソファにてお待ちください」
「わかりました」
ギルドに到着してからの俺の頭は混迷の極みにあった。
まず、プルメリオ=ブラトコビッチって誰だよっ!?
これに関しては俺たちが目的としてギルドに来た現状から、
勇者の本名なのだと自問自答で答えを導き出した。
では、第二問目。
え?勇者って日本人じゃないのっ!?ってとこだ。
いや待て、早合点してはいかんぞ宗八!
ハーフとかクォーターとか、
どこかしかで日本の血が入ってたり、
外国産まれの日本育ちとかって可能性もあるよな・・。
お次、第三問。
でもやっぱり日本人じゃない勇者ってこう・・・わかるだろ?
納得がいかないというかさ、
海外に異世界転移系の物語があるかはわからないけど、
そういうの読んだことないからさ・・・。
外国はどっちかといえば、
がっつりファンタジー設定でもっと移転要素の入る隙間ない感じだろ?勝手なイメージだけど。
そもそもなんたらビッチってなんだよ。
確かなんだこれミステリーだかで、
どこぞの国のサッカー選手のキーパー以外がビッチだった気がする。
どういう意味だっけか?
~の息子?マイサン!みたいな意味だった気がする。
じゃあ、勇者はブラトコさん家の息子さんってことかな?
いやいや、どうでもいいし!
『お父様、ソファへ移動しましょう』
「ん、そうだな」
「お兄さん、また気になることでもありましたか?」
「いや、個人的な事だからアルシェは気にしなくていい。
確認が終わるまで待つとしよう」
顔の前まで浮かび上がって移動を促すクーと、
下からのぞき込んでくるアルシェの頭を撫でつつ、
ソファへと移動する。
向かうソファにはアクアとニルとアニマがなにやら話しており、
そこに俺から離れたクーが合流する。
ソファに沈み込む俺の隣にアルシェが座り、
メリーは俺たちの背後へと位置取りをする。
「それで、何か勇者様の事で聞きたいことはありますか?」
「あー、そうだなぁ・・・。
今まで詳しくは聞かなかった俺も悪いんだけどさ、
勇者って何歳くらいで肌の色とかどんな感じ?」
「勇者様の年齢は19歳と聞いています。
肌の色は・・・お兄さんよりも黒いっぽい感じです」
浅黒い肌に19歳、それとビッチ。
「性格は陽気な方でしたが、
何をするかわからない所がありました」
「例えば?」
「城のなかでの行動を制限していなかったんですけど、
鍵の掛かっていない部屋はすべてノックもせずに入ってきたと・・・」
そう口にしてメリーへと視線を移すアルシェ。
つまり被害者であるメイドたちを束ねる、
侍女長のメリーであれば詳しい話も聞けるということか?
俺もメリーに視線を移し、話を促す。
「・・勇者様は姫様が仰ったとおりに各部屋を隈無く回り、
配置してある宝箱を開けようとしたり壺や樽を持ち上げようとしておりました」
「持ち上げようとしていた?」
「はい。
ただ、中身が詰まった樽は持ち上げることが叶わず諦めておりましたが、
簡単に持ち上がる壺は何か恨みがあるのか片っ端から壊しておりました」
何というかいやな予感がしてきた。
同じ世界の住人かもわからないけれど、
同じ異世界から来た人間として頭が痛くなってきた。
「他にはクローゼットを開けたりしてたか?」
「あ、はい。それもありました。
メリーからすぐに報告が上がってきたので、
早い対応として各部屋には鍵を掛けましたから私も被害には遭っていませんが・・・」
「まぁ、手前勝手な理由から召喚したこちら側からは、
勇者の行動にクレームは言えないもんな。
閉まっている扉を開けてほしいと言われたりは?」
「ございましたが、姫様の部屋には立ち入らせませんでした」
こりゃあ、勘違いしてそうだな。
異世界転移あるあるなのかもしれないけど、
その思考に支配される前にNPCも生活を営む人間という認識にならないもんかね。
はっきり言わせてもらうと、
俺には勇者くんが脳に異常のある人種なんじゃないかと思える。
俺がこの世界に来てからすでに半年以上経っているし、
そのひと月前に勇者はこの世界に呼ばれた。
精神が正常な人間ならゲームの中ではないと理解できているはず・・・、
出来ていなければ逆に世界の驚異・・・、
いや、世界の敵にすらなりかねないぞ・・・。
「テンプレではあるんだろうが、勇者に選ばれるやつはある意味純粋だな」
「純粋?」
「おそらく勇者像というものを自分の中に持っているんだ。
思い込んだら一方通行の思考で仲間を疑わず、
何のつもりか名乗りも上げない。
樽・壺・タンスの確認、その方法すべてが元の世界の知識なんだろう」
「でも、一般常識と示し合わせればおかしい行為だと理解できるのでは?」
「だからこそ、純粋なんだよ。
その行為を勇者という立場上の当然の権利として疑う事を知らない。
歳はアルシェよりも上かもしれないが、
精神的な年齢はまだまだ子供なんじゃないか?
話を聞いてみてお前らが口にし辛そうだった意味がわかったよ・・・、
勇者の行為に否を口には出来ないわな」
今更な話ではあるが、勇者の心象は正直最悪だ。
王都の状況次第で最前線の戦いを任せたかったけど、
強いには強いのだと思うけれど、
ゲームで言えば勝手な行動をして和を乱すゲストキャラみたいなもんだ。
おぉ~い、勝手に進むんじゃねぇよ!敵討ち漏らしてるじゃねぇか!
倒しきれねぇなら俺たちが合流するまで待ってろよ!!
お前が通った後から敵が沸いてんだよっ!動くなぁ!!
って感じ。
「他に情報はあるか?」
「いえ、その後はひと月で城下町を出られましたので、
どこの町に立ち寄ったか程度の噂話と伝言でなんとか位置を確認していた程度ですね。
エクスカリバーは手にしたそうなので、
ステータスもある程度の予想になります」
「そういえば聖剣エクスカリバーの要求ステータスはいくつなんだ?」
「メリー、いますぐわかる?」
「確か・・。STR/70 MEN/70 DEX/70ですね」
「たっか・・・、俺たちの倍かよ。
あ、でも必要なGEMは210ってことは、
レベルで言えば今の俺たちと同じ程度で装備できるのか」
「その代わりに他のステータスは一切上げられませんが」
メリーの言うとおり他の武器や防具を装備するためにVITを上げる必要もあるだろう。
それらを上げつつ駆け足で神聖教国までエクスカリバーの回収に行ってその後はずっと引きこもり?
ようやっと出てきたと思ったら魔神族に敵対されてるし、
勇者サイドの状況はどうなってんだか。
「お待たせ致しました、アルカンシェ様。
こちらが伝言になります」
「はい、拝見します」
勇者の話を聞き取っているうちにギルド側の準備が整ったらしく、
先に受付をした職員ではなく、
ギルドマスターの証したる上着を着用した女性がアルシェに接触をしてきた。
伝言の伝え方は口答ではなく紙媒体での対応。
メールもなければ念話もないならこれが確実であり、
今時間であれば冒険者も少ないから有りっちゃ有りか。
「・・・・確かに伝言を受け取りました」
渡された紙の中身を読んだアルシェは、
手紙をギルドマスターが差し出す皿の上に置くと、
無言のまま置かれた手紙に火をつけるギルドマスター。
小さい紙切れだった手紙はすぐに灰へと代わり、
その場にいる全員がその行程を黙って見守った。
「それでは失礼致します」
「お疲れ様でした」
ギルドの奥へと戻っていくギルマスを見送ってから、
伝言を受け取ったアルシェへと視線を戻す。
「それで?」
「明日、ギルドの一室で会談をしたいと」
「有意義な会談になればいいんだけどな・・・。
無駄足だったら出発を遅らせた責任を誰に追求すりゃいいのかわからんし」
「勇者様の成長か、常識人のお仲間次第で・・・しょうか。
アルシェ様、ご主人様、本日はこれで宿へ戻られますか?」
「どうする?」
「お兄さんこそどうしますか?」
「せっかく外に出てきたんだし、
明日の出発もなくなったから散歩して帰ろうかと思う」
『『『『散歩!』』、です!』のー!』
いや、お前らは宿に帰って寝てていいんだぞ?
そもそもギルドに着いてからもずっとソファで雑談してただけのお前らは何をしに着いてきたんだよ。
「なら、私も一緒したいです」
「まぁいいけどな。メリーはどうする?」
「私は宿に戻っております。
ゼノウ様たちに明日の出発が延期になったと伝える必要もございますし」
「了解、よろしくな。一時間以内に戻るから」
「かしこまりました」
* * * * *
翌日、勇者サイドと会う特別な日ではあるのだが、
別にやることはそれ以外に変更は無いため、
朝練、朝食といつもと変わりない日常を終えた。
「アルシェ、準備はいいか?」
「はーい。お待たせしました、お兄さん」
「ご主人様、遅くなりまして申し訳ございません」
現在いるのはギルドの一室。
約束があることはギルド事態も理解しており、
その対談者も勇者とアスペラルダ姫ということで、
特別に控え室をお貸しいただいた。
「いや、時間に余裕はまだあるから問題ない。
立場的にどっちが上とか考えると面倒だから、
先に乗り込んじまいたいだけだ」
「それもそうですね。
マリエルもゼノウさんもセーバーさんも準備はいいですか?」
「大丈夫でーす!」
「問題ありません」
「こっちも準備は出来ています」
対談には俺たちだけでは無く、
アドバイザーとして風の国出身の冒険者であるゼノウと、
先日ハルカナムに到着したセーバーにも、とある手段でお越しいただいた。
「すみません、セーバー。それにリュースィも。
昨夜ハルカナムに到着したばかりだったのに・・・」
「全くだ・・・なんてなっ!
移動自体に苦労はなかったし問題は無い。
事情次第では先に手を出しておきたいしな。
元々のクエストの奴は周りに被害は出ないんだろ?」
「生物がいなければ魔力の霧散は出来ないし、
オベリスクの効果も成長しない、それは絶対です。
あそこには魔物も精霊も近寄りませんから、
時間的な余裕はあります。
ただし、自然魔力は漂ってしまいますからいつまでも、
という訳にはいきませんけどね」
セーバーの契約風精霊のリュースィは、
俺の契約精霊ども&ゼノウの契約精霊のウーノと、
顔合わせと久しぶりの再会を兼ねた雑談をしている。
ゼノウパーティの他3名にはスライムの核による契約方法を、
セーバーパーティの他4名に指導するように伝えている。
ライナーは心配だが、
セーバーの所の男と仲良かったし頭の良いトワインとフランザが一緒だし、
説明面は問題ないはずだ。
ついでにアインスさん伝いで、
アスペラルダにいるポルトーに無精精霊との契約を勧めてもらうことにした。
これによって戦力面は確実に向上するし、
まずはポルトーと数名の将軍で試してから本格的な運用に移行するらしい。
「それでは行きましょうか」
「あいよ」
冒険者の目もギルド員の目もないこの場限りでアスペラルダ印のマントを解禁する。
フーリエタマナでアルシェの正体が姫と知っているのは、
一部のギルド員とギルドマスター、
そして勇者一行と俺の身内だけとなる。
王都手前で足跡を消したところで効果はないかもしれないけれど、
何もしないよりはマシと判断して隠しているけど、
これもあちらさんの罠がなかったらそんな状況にもなりはしなかった。
「それあんまり着けないのか?」
「必要以上に知らせる必要はありませんから。
立場ある方やお兄さんの判断で着けるようにしています」
「なるほどね。俺はお兄さんのお眼鏡に適ったって事か?」
「1つ強者であること、2つパーシバルさんの推薦、3つ生きている可能性。
この3つが決め手です」
「俺の要素すっくないなぁ・・・」
雑談をしているうちに会談部屋へと近づいていくにつれて、
精霊たちもそれぞれの主の元へと戻っていく。
ゼノウ1、セーバー1、俺4・・・多くね?
「精霊使いとしてご主人様は他の追随を許しておりません」
「お兄さんは精霊だけでなく動物にも好かれますから」
「確かにセーバーさんの乗っていた馬車を引いてた馬。
隊長にすっごい熱視線を送っていましたね」
「何それ初耳」
『ますたーすき~♪』
『お父さま、お慕いしております』
『匂いが好みですわー!』
『居心地は良い、です!』
「やめろ、恥ずかしい」
「皆様、到着しました。
ここからは私語厳禁でお願いします」
おっと、約束の部屋に到着したらしい。
予定よりも早い到着のはずだが人の気配が8人?
さてどんな人物か・・・。
コンコンッ。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
???
なんだ今の言語?
確か異世界に来るにあたって言語の壁はご都合魔法によって超えているはずだ。
本来アルシェはフレミグルド語と呼ばれる言葉で、
俺も日本語とそれぞれが口から発する言語は別なものなのだが、
耳に入る言葉がそれぞれ理解出来る言葉に変換されている。
なのに、今の言葉は何だ?
形容しがたい・・・そう、俺にとっての英語の様な・・・。
俺はドアノブを回しゆっくりと開いていくが、
視界に映り込む姿は・・・予想の勇者とは違って幼女だった。
さらに視界を広げると、
部屋の中には気配が他に7人あるのに移るのは先の幼女1人。
「あら?先ほどの返事は勇者様だったはずですけど、
貴女様はどちらさまですか?」
俺の背後から入室してきたアルシェと4人も、
姿の見えない他の7人に警戒をして、
アルシェとメリーを中心にした陣を作る。
その隙間からアルシェが件の幼女へ声を掛けた。
「お初にお目に掛かります、アルカンシェ姫殿下。
噂はかねがね伺っております。
そして水無月宗八《みなづきそうはち》様、伝言を聞いていたはずなのに何故我が国が後回しなのか伺っても?」
清楚な感じのシスターみたいな服を着込んだ幼女は、
まずアルシェに素敵な笑顔で挨拶をした後に、
何故か俺の名前を震え声で口に出し、
そして何故かこめかみに怒りマークを作って引きつった笑顔を向けてくる。
「俺を知る謎の幼女現る?」
「お前結構有名人なんじゃないか?」
「いえ、宗八の情報は一般的な情報網では引っかかりませんでしたよ?」
「・・・もしかして、貴女様は聖女様ですか?」
「正解です姫殿下」パチンッ!
困惑の最中、アルシェが正解を当てたらしい。
目の前にいる幼女は例の予言を各国に伝えた聖女様だそうだ。
その聖女様が指を鳴らすと、
その背後に瞬間移動してきたかのような一瞬で、
2人のシスターが姿を現した。
「私はユレイアルド神聖教国で聖女と呼ばれています。
名をクレシーダ=ソレイユ=ハルメトリと申します」
「お見知りおきとは思いますが、返礼いたします。
アスペラルダ王国が王女、アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと申します」
聖女は俺たちの世界でいうお辞儀をし、
アルシェも名乗りを返していつもの丁寧なカーテシーを返す。
その間俺は部屋の中を見回しながら、
クーに念話を送っていた。
(「昨日と同じような気配を感じる。クーはどうだ?」)
(『お父さまと同じく、昨夜感じた気配です』)
(「って事は、光魔法で姿を消してるのか・・・」)
(『どう致しますか、お父さま?』)
光魔法という単語やイメージから光の屈折を再現し、
姿を見えなくしているんだと思われる。
蜃気楼とかと同じ現象だな。
とはいえ、クーの空間魔法とは違って次元が違うわけじゃ無いから、
攻撃をすればちゃんと当てることが出来る。
チラリと視線を聖女に向けると、
にやりと笑っている事や名前、先のシスター登場の様子からコイツが術者だと思われる。
「無理矢理剥がすしか方法は無いだろうな」
『わかりました』
「『シンクロ!』」
突然黒いオーラが俺とクーを包み、
聖女の両脇に立っていたシスター2人は慌ててその様子に警戒を高め、
聖女の前に立ちはだかる。
「王都が壊滅しているかもしれない時に、
こんな遊びをしてて良いんですかね?」
「・・・っ」
「あぁ、そちらが兄王子でしたか。
じゃあ正面の塊が勇者様一行ですか・・・」
俺の発言に一際気を乱した人物は姿を消して、
俺たちの入ってきた扉に近い部屋の角に立っていた。
そちらへ一瞥した後、手を前に翳す。
時間の無駄使いをする茶番を終わらす為に。
『《ガイストアプション》』
翳す右手の五指の先にひとつの魔法陣がクーの詠唱ととも出現し、
向かう前方で展開されている光魔法の吸収を始める。
体内に流れ込んでくる魔力を感じながら見据える先で、
光の屈折を用いたベールが徐々に歪んでいき捲れ上がっていく。
「これは・・・っ!」
「一瞬で魔法の無効化まではいきませんけど、
弱めたり効果を打ち消すことが出来る魔法です」
魔法が弱まっていく気配を感じ取ってか、
背後に控える勇者一行へと慌てふためき振り返る聖女。
立ちふさがるシスターは尚も警戒して俺に構えを取ったままだ。
そして・・・。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「はい、お久しぶりです。勇者様もお元気そうで」
屈折の向こうから現れた一団の中心にいた褐色の若者が、
俺には理解できない謎の言葉をアルシェにベクトルを向けて発し、
アルシェはしっかりとその内容を認識した上で返答を返した。
* * * * *
あの茶番を挟んだ理由はアルシェサイドの対応の様子を伺う為であったらしく、
あちらはあちらで俺たちの戦力などを計りかねていたとの事。
くだらない茶番の為に壁際へとどけておいたらしいテーブルと椅子を設置し直し、
改めて場を仕切り直して勇者サイドとの対談が始まった。
「じゃあ、こちらはこちらで始めましょうか」
「そうですね、水無月様♪」
長く伸びるテーブルの端からアルシェと勇者の対話する姿を確認してから、
嘆息ひとつを吐き出し、
俺も俺に用があるという聖女を相手に話をすることとなった。
だから、アルシェの側にはメリー・ゼノウ・セーバーに加えて、
クーデルカも護衛として就けた。
『こんにちわ~!』
「こ、こんにちわ・・・」
『護衛は護衛でお話しますわよー!』
「あ、はい。よろしくお願いします・・・」
俺と聖女の側でも側近と精霊どもの雑談をさせている。
まぁ、時間をつぶす相手をさせているだけだから、
シスター2人とアクア&ニルの会話はあまり気にしない方向で行こう。
『ワタクシも居ましてよ、クレシーダ』
「貴女様の事も存じております、無精の王アニマ様。
お会いできて光栄です」
「それも予言ですか?聖女様」
「予言では無くこれは未来予知です。
それとどうぞ私のことはクレシーダとお呼びください。
敬語もほどほどで結構ですよ♪」
「はぁ、えっと・・・おいくつで?」
「今年で9歳になります♪」
という事は無理をすれば収束魔法が使える、
リリカルなのはと同等の強さを秘める可能性が微レ存か?
にしても、聖女って奴はゲームじゃないんだから、
結構お歳を召されておられると思っていたのに、
まさかの幼女とは・・・。
いや、聖女に選ばれたその瞬間から歳を取らなくなったってパティーンかもしれない!
それならこの幼子は見た目は子供、頭脳は大人、迷宮なしの名探偵と同じ!
「あれれ~、おかしいぞぉ~って言ってみてくださいませんか?」
「え?あ、はい。あれれ~、おかしいぞぉ~」
あ、なんか満足したわ。
もうBBAでも幼女でもいいわ。
勇者とアルシェの会談も始まっているようだし、
こちらもいつまでも遊んでいるわけにはいかない。
そろそろ本題に入らないとな。
「で、なんで俺に接触したがったんです?」
「今年の風の月が60日ほど経ったとき、
新しい神託を受け取りました」
『神託?』
「以前のものは、
《幾千の夜と昼が流れつつ、世界の混沌は加速する。
星は力を消費し続け、世界は0へと向かいだす。
魔の王は異界へ手を伸ばし、いずれ世界は魔神の手に落ちるだろう。
微かな光は明滅し消滅を待つ。
異界の者、光を戻さん》だったな」
世界各国の王たちが警戒した神託。
その内容を現在集まった情報と結びつけていけば・・・、
幾千の夜と昼が流れつつ、世界の混沌は加速する。
星は力を消費し続け、世界は0へと向かいだす。の部分は、
オベリスクによる世界の魔力霧散が近いか・・・。
魔の王は異界へ手を伸ばし、いずれ世界は魔神の手に落ちるだろう。
微かな光は明滅し消滅を待つ。
これについては魔王を知らないからなんとも言えないけど、
魔神は魔神族ってことでいいのかな?
魔神族の見た目はそこまで人間離れはしていなかったし、
もしかしたら別に魔神がいる可能性もあり得る。
微かな光は明滅ってのは現状世界が危険信号を出しているって解釈だと思う。
異界の者、光を戻さん。
これは勇者一択で満場一致だろうな。
彼の戦闘を見てはいないがレベルも武具のランクも俺たちとは違うだろうし、
何より勇者特有のチートを併せ持つと思われる。
あと精霊の気配も彼からすることから、
もしかしたら精霊と契約してるのかもしれないな。
「ん?待てよ・・・?
風の月60日頃って俺が・・・」
「えぇ、そうですね。精霊の救世主様がこちらへ来た頃です」
「・・・は?」
俺の世界で季節は春、4月に俺はこの異世界にやってきた。
誰にも呼ばれていないのに召喚の塔にいきなり現れたんだ。
胸の鼓動が早くなるのを感じながら、言葉を詰まらせる。
精霊の勇者って・・・もしかしなくても俺のことか?
そういえばステータスの称号に???の救世主ってのがあったなぁ。
そんな事を頭に思い浮かべながら、俺は聖女クレシーダの顔を凝視することしか出来なかった。
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