特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第08章 -瘴気の海に沈んだ王都フォレストトーレ編-

†第8章† -07話-[嵐の前の静けさ]

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 時刻は昼をそこそこ過ぎて、
 作戦開始から大体4時間と言ったところだろうか。
 先ほど救出作業をメリークーが開始したと報告を受け、
 クレアにも連絡して実際に影に入り始めた事も確認した。

「ちっ!やっぱり瘴気に触れると動きが重いな・・・」
『動きを補助する風自体に瘴気が絡んで重くなっているのですわー!』

 空域制圧を済ませてからは、
 ふらりと現れる空を飛ぶ瘴気モンスターを倒しつつも、
 地面に沸くモンスターの処理に回っていた。

 勇者PTは表通りで周囲の敵のヘイトを稼いでちゃんと機能している様子だが、
 裏通りに沸いた敵に関しては流石に勇者たちではなく、
 ギルドを狙ってカリカリガンガンと岩で強化された建物に穴を開けようと攻撃してしまう。
 なので、裏道に沸いた敵は俺たちが定期的に排除しているのだが、
 現在の風精霊纏エレメンタライズ[鎌鼬]の特徴でもある、
 風によるアシストに瘴気が介入してきて外での機敏さが発揮できない状態に陥っていた。

「とはいえ・・・」
『中は壁や路地に使われている土系統を中心にモンスターが沸いているから、
 攻撃の通りは良いですわねー!』

 数え切れない数の敵を屠っては次はすぐに沸く状況と外での戦闘経験から、
 瘴気モンスターは瘴気を元に生み出された通常モンスターの亜種で、
 通常のモンスターよりも凶暴で攻撃的な事と、
 見た目が黒っぽい色合いと赤い目、
 そして纏う黒紫のオーラが浮遊精霊の鎧と同じ効果を生んでいる事。
 最後に倒した場所に元となった瘴気が残されその地を汚染する。

 しかし、この場はすでに汚染地域となっていることで、
 倒して発生した瘴気が回帰し再びモンスターとなる悪循環がこの場では起こっていた。

「瘴気にもランクがあるっぽいけど、
 どうせなら外で倒した方がいいのかな?」
『結局後片付けが必要ですからあまり変わらないと思いますわー!』

 それもそうか。
 その時、覚えのある魔力の高まりを感じて空を見上げると、
 いつの間にそこに現れたのか、
 人の頭ほどの大きさをした禍津核が空に浮かんで今にも加階をしようとしていた。
 ゾワッと肌が粟立つと共に一緒に戦う娘に声を上げる。

「ニルッ!」
『《エリアルジャンプ!》』

 地面を蹴り上げて空へと大きく踏み込み、
 落ちる前に次の足で足下の空気を蹴って空を駆け上がる。
 アクアのように常に浮遊が出来る訳では無く、
 クーのように落下速度が落ちるわけでは無く、
 ニルは魔法によって空を走る選択をして今に至る。

 そのまま高速で駆け寄ると・・・。

「ぜあああああああああああ!!!!」
『《ストームインパクト!》』

 先のフライングサイズの堅い甲殻も砕いた蹴り技を繰り出し、
 禍津核の中心部へ蹴りで突きを出し破壊する。
 しかし、魔力の高まりはいくつも空で展開し、
 さらには街中にある数件の民家のなかでも確認が取れた。

『エアキックターン!ですわー!』

 破壊したその中空で宙返りをしながら足を屈め、
 魔力で固めた風の力場に両の足を揃えて力を込める。
 足裏から翠雷すいらい色の魔力による輪が広がっていくなか、
 身体を弾丸のように捻りながら次の禍津核へと自身を撃ち出す。

「メリオ!禍津核モンスターが沸く!
 空の禍津核はなんとか破壊するけど、地上の禍津核は間に合わない!
 エクスに魔力探知させて方向だけでも認識してくれ!」
〔了解です!〕

 先に空に4つ、あとから地上に7つの反応・・・・。
 完全に敵の囮に引っかかってしまった自分に叱咤したい気持ちが沸くが、
 やってしまったものは仕方なく後悔をしても遅いのだと今は自分の気持ちを見て見ぬフリをして次の禍津核へと歩を進める。

「《風竜一閃ふうりゅういっせん!》」

 ただし、足だけでは間に合わない距離にある禍津核に関しては、
 風竜一閃ふうりゅういっせんを当てて完全破壊、
 もしくは傷を入れて戦闘力の低下を狙う。

 幸い風竜一閃ふうりゅういっせんでも割れる程度の強度だった為、
 空の掃除自体は簡単に済ますことが出来たが、
 問題は地上で活性化している禍津核に対する懸念事項であった。

 もしかしたらの話だが・・・。
 禍津核モンスターは中に内蔵した魔力と精霊によって発生するモンスターなので、
 先のキュクロプス然りフライングサイズ然り、
 攻撃によって武器の破壊や討伐をすることが出来ているが・・・。
 もしも、内蔵されるモノが魔力ではなく瘴気だった場合、
 やっぱり瘴気による鎧を纏ってしまうのだろうか・・・。

「なるんだろうなぁ・・・。
 禍津核露出して破壊が一番手っ取り早いんだけど、
 いまはクーも居ないし魔力吸引も出来ないし・・・」
『亜種の亜種になるんですのー?』
「あー、禍津核製は特殊な部分を持つし、
 その上で瘴気モンスターの特徴があるならまた別種のハイブリットモンスターになるんだろうな」

 あぁー嫌だなぁ・・・。
 それが7つ同時ってことが勇者に任せっきりに出来ないことも教えてくれる。
 方向や場所のおおよその部分は感じ取れるのに、
 その場所が遠く、さらに民家の中に設置することで狙い撃ちで加階を妨害することが出来ないのがなおさら腹立つ。

 じわじわと強い敵を用意して首を徐々に絞めるかのように手順に、
 魔神族だろうが背後にいる奴の性格の悪さを感じざるを得ない。

『うーん、オベリスクの影響範囲内ですわねー・・・』
「やっぱり禍津核は影響を受けないんだな・・・。
 キュクロプスの件を考えれば1時間くらいの猶予はあると思うけど、
 その後の破壊行動は流石の勇者でも止めることは出来ないだろうな」

 空から滑空するようにゆっくりと落ちる俺たちは魔力反応のある方向を見つめていたが、
 その範囲のいくつかの民家が突如内側から破壊され、
 そこには卵のように盛り上がった岩の塊と瘴気の風で出来た繭が存在した。

「メリー、クー。
 街中で禍津核が発生した。
 おそらく瘴気を利用した特別製になると思われるだろうから出来れば相手にしたくはない。
 いま加階に入ったから1時間程度かな・・数は7」
〔急いではいますが、およそ10分程度はオーバーするかと・・・〕
〔その間はどうにかお父さまと勇者PTに耐えていただかなくてはいけません〕
「そりゃま、しゃーないからいい。
 ただ、俺たちのレベルで対応出来るのはここまでになるだろうから、
 次に出てくる奴に関しては勇者に任せないともうどうにもならないと思う」
〔かしこまりました、急ぎます〕

 本当はもっとコソコソ救出するつもりだったけど、
 結果的にはメリオとクレア達がいてくれて助かった面が大きい。
 予定よりも目立つ形で始まったこの作戦だが、
 敵の手の内と現在の敵勢力の一部が覗えたことは、
 情報として十分に参考になるものだ。

 ただ、死霊使いネクロマンサーの本領や守護者を使った禍津核モンスターがまだ見られてない事が、
 どうしても引っかかりを覚えてしまう。
 こちらの動きを様子見していて、
 救出するための行動と判断してあちらも試験運用の様に、
 試しに新作をぶつけているのかもしれない・・・。


 * * * * *
「姫様、今の見えましたか・・?」
〔えぇ、街の中で数カ所爆発した件よね・・。
 どうやら禍津核が街中で起動したみたい〕

 禍津核まがつかく
 私が初めて戦ったのはハルカナムのグランハイリア樹頂で、
 その時は、
「なぁ~んだ、隊長や姫様が警戒してるからもっと厄介かと思ってたけど楽勝じゃん」
 って思ってたけど、
 身体が柔らかいアタランテだったからで、
 この戦場に現れる禍津核まがつかくモンスターの厄介さは、
 確かに2人がいうように警戒するに値するものだった。

 瘴気モンスターも氷の波撃フローディングインパクトで殴っても倒しきれないし、
 倒したら倒したで瘴気をその場に残すからあまり1カ所で戦い続ける訳にもいかないし、
 サーニャさんも光魔法が使えない事から、
 最後に隊長か勇者に浄化をしてもらう必要があるらしい。

 そんな面倒な戦いも姫様からの指示に従って防衛ラインを護るだけだから、
 私はそこまで頭を使わずに戦闘に集中できているけれど、
 後ろに控えて盛り上がった氷の上で広い視界を持って私たちに指示をしつつも魔法で敵の数を減らす姫様はやっぱりすごいです!

〔あと1時間くらいでメリー達も救出が終わるから、
 こっちもその後処理を考えてそこから30分はここを護った方が良いでしょうね〕
「これ以上の敵が出なければなんとかなりそうですけど・・」

 戦闘を続けながらも、
 耳と頭を切り離したかのような対応をするマリエル。

 今、隊長の声が届いているのは姫様だけで、
 私たち護衛部隊には姫様からの指示しか届かないようになっているのは、
 2つの指示が重なると場が混乱するからだと説明されたけど、
 隊長はあっちで戦っていてこっちの状況はわからないんだから関係ないんじゃないかと個人的には思ってる。

〔マリエルもちゃんと自分の力を冷静に見れてるみたいね。
 お兄さんもこれ以上は対応出来ないって判断しているわ〕
「え”、隊長と一緒ですか?」
〔私もアクアちゃんも同じ意見だからお揃いよ。
 ただ、街中の爆発・・・禍津核まがつかくは瘴気と混ざるみたい〕
「・・・それってどうなるんですか?
 普通は魔力を込めて動かしてるんですよね?」

 確か禍津核まがつかくって隊長の精霊加階と同じような原理で使われると聞いたはず。
 魔法ギルドのカティナさんに渡した禍津核まがつかくを調査してもらった時には、
 魔力が込められていないと精霊を捕まえる力はないと言ってた。

 それに魔力以外の瘴気を混ぜるってこともよくわからないし、
 混ざったところでどうなるんだろう?

〔まず、強さと厄介さはいま戦っているマリエルがよくわかっているわね?〕
「それはまぁ、わかります」
〔その厄介さに瘴気の鎧を纏うとどうなる?〕
「・・・あ!核の破壊が出来ない・・ってことですか?」
〔そうよ。
 禍津核まがつかくモンスターを止める方法はいくつかあるけれど、
 核の破壊、魔力切れ、精霊の消滅の3つのうち、
 一番早い解決の破壊が出来なくなるの。
 瘴気が満ちたあの空間だと瘴気の鎧を剥ぐ事も、
 難しいから残りの2つに絞られるわ〕
「魔力切れは分かりますけど、
 精霊の消滅ってなんですか?」
禍津核まがつかくを動かすために魔神族は精霊を核に閉じ込めて、
 無理矢理力を行使させられているから、
 モンスターとなっている時間が長ければ長いほど存在が摩耗していって、
 最後には消えてしまうみたい。
 あくまでお兄さんやノイちゃんの意見を聞いたセリア先生の見解だけれどね〕

 妖精では無く精霊の話だとしても、
 ゾクッと怖気を示す肌を擦り覚えた気持ちを古い払うマリエル。
 浮遊精霊は幼い頃から水精のみだが見えてはいたし、
 アルシェの護衛に加入してからは、
 アクアやクーという幼い精霊をずっと見てきたわけで・・・。

 対話もした。
 食事もした。
 一緒に寝たこともある。
 ニルも含めてそんな娘たちが苦しむ姿が脳裏を過ぎると、
 自然と襲い来るモンスターを殴り飛ばす拳にも力が入る。

「あー、そっか・・・」

 私・・・、怒ってるんだ・・・。

 別に利用されている浮遊精霊達も知り合いというわけでもないけど、
 それが面白い話かって聞かれると・・・。

「当然っ!面白くないっ!えいやあああああああ!!」

 飛び上がって敵の攻撃を回避して、
 中空で駒のように身体をクルクルと回転させ、
 ピタッと静止状態からカエル妖精本気の踵落としが炸裂する。
 瘴気によって護られているはずの瘴気モンスターが頭から胸元まで上半身を拉(ひしゃ)げさせ絶命した。

「(あれがお兄さんが見初めていたマリエルのポテンシャル・・・)」『(すっごいねぇ~)』

 近くない距離にいるはずのマリエルの気迫と、
 先の瘴気の鎧を抜く一撃を遠目に確認し、
 心の中で兄が足技を使わせたいと言っていた意味を実感するアルシェとアクア。

 確かに模擬戦をする時に受ける足蹴りの衝撃をアルシェは槍で受けるのだが、
 自身の細腕では受けきる事の出来ない威力を持っているため、
 ライドで無理に対抗するのでは無く、
 逆に自分から後ろに引かなければならないものだった事を思い出す。

 おそらく無意識で何かを考えながらの一撃だろうことを予想するが、
 マリエルが覚醒した時の模擬戦の相手は嫌だなぁとも思う。
 今はマリエルも拳主体の戦闘ですけど、
 お兄さんが調整をして徐々に足技を使う事も増えてきちゃってますしね・・・。


 * * * * *
『(メリオ!さきほど観測した地点で魔力に似た力の上昇を確認!)』
〔メリオ!禍津核まがつかくモンスターが産まれるぞ!〕

 ほぼ同時に耳と意識に響く2人の声が届くなか、
 遠くで再度爆発したかのような音が街中を駆け抜け、
 土煙が巻き上がるのが見えた。

「メリオ、今の音とあの土煙はなんですかっ!?」

 戦闘を継続して5時間近く・・・。
 王都に突入してから文字通りずっと瘴気モンスター相手に戦闘を続け、
 言ってしまえば昼食も抜いてお腹も空いている。
 さらには事前に教えられていたとはいえ、
 厄介の種が増えた事を知らせるように今し方挙がる産声にも聞こえる異音。

 ここまでの長時間戦闘など初めての試みでもある中で、
 完全に相手にならなかった瘴気モンスターを倒すのですら、
 繊細さを欠いた攻撃では一撃で倒すことが出来なくなっていた。

「さっき水無月さんに教えて貰った禍津核まがつかく製のモンスターが産まれたらしい!」
「ここまで来ちまってから言いたくは無いんだけどなっ!
 正直そんな奴相手になんてしてられねぇぞ!」
「とはいえ、10分でしたかっ!?
 その間耐えれば撤退してもいいんでしたよねっ!?」
「正確にはわからないけど、
 そのくらいで救出が終わるから・・・、
 でも他にも救助を待っている人がいるから・・・」
「馬鹿言ってるんじゃ無いわよ!!
 こっちは自分たちが死なないのに必死な状態で、
 人助けなんて出来るわけないでしょうっ!!
 あっちが終わったらさっさと撤退するわよっ!!」

 勇者メリオのまだ助けきれていない人々を想う気持ちは尊いものだが、
 彼の仲間はこの状況を早めに脱する必要があると判断していた。
 王都に入った直後に勇者の手助けをすると誓った事はもちろん覚えていたけれど、
 身体と冒険者としての勘が、
 すでに限界を過ぎている事とこれ以上は何か良くない事が起こると訴えてきていた。

 仲間からの賛同を得られなかったメリオは、
 上空にいるであろう宗八へと目を向けようとしたその瞬間・・。

 ダッーーーーーンッ!
 という何かが落ちてきたような音と路面が破壊される音が重なって聞こえ、
 自分の足下まで何かが地面をなおも壊しながら滑ってきた。

「あー、痛ぇなクッソが。
 確かに俺の考えが浅かったのは認めるけど、
 2体で来るのは卑怯じゃ無いか?ばかやろーこのやろー」

 足下で発生した土煙の中からゆっくり立ち上がりながら文句を垂れるのは、
 今し方頼ろうとした水無月宗八その人であった。

〔水無月さんっ!?〕

 仲間も警戒心を高めているところで空から落下してきた精霊使いにも、
 状況の展開の早さにもついて行けていなかった。

「すまんな、こっちは2体しか引きつけることが出来そうにない。
 あとの5体は任せるぞ。
 にゃろー、ぶっ飛ばしてやるっ!」

 そういって再び空へと駆け上がっている後ろ姿を見送る事しか出来ない、
 そんな一瞬の出来事の後に、
 空から堅いものと堅いものがぶつかり合うような音が幾度となく響き始めた。
 視界には水無月宗八が空を走り回る様子と、
 その周りをさらに高速で飛び交う2体のモンスターの姿。

「あれでは頼れなさそうですね」
「逆に彼じゃないとあの2体の相手は厳しいでしょうね」
「10分以内に敵が辿り着かないとかはないのかしら?」
「街を壊しながら走ってきてるから、間に合いそうだぜ」

 これ以上は自分達が救助される自体になりかねない。
 そのことを胸に刻んで最後の仕事へと気合いを入れて望む覚悟をした勇者PTの顔には疲れから失われていた力が少し戻ってきていた。


 * * * * *
「クレア様、救護者1300名の避難が完了しました」
「まだ、その程度なんですね・・・」

 時期は水の月に突入していて寒いはずなのに、
 1時間ほど救護に従事したクレアの顔からは汗が滝のように流れており、
 その汗を腕でぬぐいながらまだまだ助けなければならない人々の事を想い呟くクレア。

「・・・駄目ですよ、クレア様。
 聖女様なのですから清潔には特に心がけなくては・・・失礼します」
「あ、すみません。サーニャ。ありがとうございます」

 サーニャが差し出すタオルで汗を拭き取ってもらいながら謝罪をする。

「まだ、2万人以上助けないといけませんから頑張らないとっ!」
「・・・そう、ですね。まだまだ運ばれて来ますから頑張りましょう」
「はい!
 でも、この調子で大丈夫なのでしょうか?
 あと1時間くらいで完了する予定なのですよね?」
「そう聞いていますが、何か策があるのではありませんか?」
「アルシェも落ち着いて戦闘を行っている様子ですし・・・、
 確かに水無月さんが何か考えての事かもしれないですね」

 ここまで多くの人間を目の当たりにしながらの救護を経験するのは、
 クレアが初めてであったこともあるが、
 幼さの残る純粋な聖女の姿を痛々しく見つめるサーニャは、
 この状況を寸分の狂いも無く理解をしていた。

 確かにもともと話をしていた内容としては、
 3万人程度救出が出来ると予想を聞いていた。
 しかし、今救出した人数と救出が完了予定時間がどうしても合わない。
 この予定と違う状況に対してあの精霊使いは連絡を完了時間だけしか伝えず、
 自分たちを護る護衛部隊の指揮を執るあの姫君はその事に触れていない。

 ただし、指示だしをする声音に何の迷いも無い。
 その指示を聞いて動く姉を含むあの3つのグループも、
 この情報は受け取っているのに対して何のアクションも起こさない。
 良いチームワークと良い覚悟だと判断します。
 それでも・・・恨みますよ精霊使い。
 我らの聖女さまに悲しい思いをさせるツケはいずれ支払って貰いますよ。


 * * * * *
「では、次のグループの方々。
 影の中へ搬送を開始致しますので、落ち着いて行動してください」
「ゆっくりでいいぞ!
 あっちには聖女様がいらっしゃるから弱っている者は治療して貰える!リラックスしろ!」

 ギルドの外から聞こえる生々しい戦闘音が四方から聞こえる状況下で行われる救出劇。
 聖女の前では粛々とした丁寧な標準語を話していたパーシバルも、
 再度こちらで順番待ちする者達を安心させる為に戻ってきていた。

『では、開始します』
「頼む」

 パーシバルの顔を見つめながら開始を宣言するクーに、
 言葉少なに頷きを返す。
 外での戦闘が激化している関係で送り出す人数も余裕を持って30人ずつ送っていたのを、
 40人ずつに変更をした救出班は、
 順調にその数を減らしていた。

 各グループには怪我人を安心させるためにギルド職員が数名付いていき、
 あちらに着いても影の中から外へと運び出す作業で、
 どうしても1回の時間が長くなってしまう。
 急ぐために増やした人数+救護班の運び出しで、
 クーの空間には合計で60人程度の人間がその間出入りしていた。

 その許容限界の重量を感じ取って、
 クーもメリーもその時間は身体の内側から発生する苦痛を堪え忍ぶ事となり、
 その様子をギルドで救出を待つ残り数組の者は何度も見ている為、
 恐怖に支配されそうになる自分をなんとか保つことが出来ていた。

「大丈夫か?」
「・・・はい。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「いや・・、謝る事じゃねぇんだけどよ。
 無理すんなとも言えなくて逆に申し訳ねぇな・・・」
『・・・これが今回のクー達のお仕事ですから、
 はぁ、はぁ・・・、皆様不安を与えてしまって申し訳ありませんが、
 私たちを信じてください』

 魔力切れを起こしていた者にはメリーとクーが到着してすぐにマナポーションを配布し回復。
 衰弱死寸前だった者を優先して影からクレアの元へと送り込み、
 いまここに留まっている者達は、
 意識朦朧とはしていたがマナポーションを飲んでからは救出作業に協力的だった事も、
 騒ぎ出す者が出なかった理由のひとつかもしれない。

「いま搬送されたグループで2100名を超えました。
 あと少しですね、ギルマス」
「そうか・・・。
 まぁ、よくあの状況でそれだけ生き残れたもんだな・・・、
 あと600人か・・」

 避難を完了した時点では7000人がこのギルドには居たのに、
 今は2700人程度しか生き残れていない・・・。
 その事実に吐きたくも無い溜息というか嘆息というか・・・、
 似た類いの息が漏れ、
 現状を改めて考える。

 作戦自体は少数が過ぎる小規模なものなのだが、
 参加者が勇者に聖女にアスペラルダの姫様と来ている豪華さに加え、
 闇精や水精など、
 普段目に触れる機会のない精霊が今回の作戦に参加している事も意外だった。

 それに状況をほぼ正確に把握した情報収集能力に、
 救出するために必要な環境を整えるチームワーク。
 自分を苦しめていた重圧と種族関係なく魔力を奪っていたものは、
 おそらくアインスから回ってきた情報にあったオベリスクという柱が原因だろう。

 妖精である自分以外はこの重圧を感じていないことから、
 妖精や精霊といった、
 魔法に関わりの深い種族にのみ作用する何かがあり、
 ステータスを見ればその時は確かに3分の1程度まで減っていた。
 壁の強化は早い段階から地道に始めていて、
 魔法でギルド全体の防御力を上げる岩で覆っていった。
 我々妖精種や精霊種は事象を改変して行う魔法を発動した後に、
 物体として残すか魔力に還元するかを選ぶことが出来る。

 人間は魔法を使って敵にダメージを与えたりすると、
 そのまま魔力へと戻り何も残すことは出来ないが、
 魔法生物である自分は適正のある土であれば魔力を抜いて岩を残す事が出来る。
 その力でギルドを護っていたけれど、
 それもあと少しで終わるらしい。

『パーシバル様、予定通り外で大型モンスターが発生しました』
「ギルドマスターであるパーシバル様は先に避難をお願いします」
「ちっ!わぁってるよ!
 みんな、ここはもうこいつらを信じるしかねぇ状況だ!
 落ち着いた行動を心がけろ!いいなっ!」
「「「「「はい!」」」」」

 後頭部をガシガシと男らしく掻きながら舌打ちしつつ了解を伝えるパーシバルは、
 残るギルド職員に最後の号令に乗せて気合いを入れる。
 流石身体は小さくともギルドマスターだけはあり、
 職員全員が気合いの入った返答を返す。

『送ります。
 あちらの戦闘指揮はアルシェ様、救護の指揮をクレシーダ様が取られていますので、
 どちらかの指示に従って後退を見誤らないようお願いします』
「はいはい・・って、おい!あれ以上後退でk、おい!話をk・・」

 何やら騒ぎながら影に落とされるドワーフ族を見送り、
 残る集団の調整とチェックを再開する。

「あと何度で撤退できるか確認しましょう、クーデルカ様」
『お父さまもニルもそろそろ限界が近いはずですし、
 ここの見極めが大事ですからね。
 頑張りましょう、メリーさん』
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