特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第09章 -奇跡の生還!蒼き王国アスペラルダ編Ⅲ-

†第9章† -04話-[模擬戦 VSアナザーワン]

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 国会と同じく教皇だけの意見では国の方針を決めかねる教国では、
 アスペラルダの諜報員である俺たちの集めた情報の信憑性の確認の為、
 教皇以外にも国を動かす意見を言える枢機卿並びに大司祭が判断材料とする為に観戦席に大量に収まっている。

「暇なのか?」
「暇ではありませんが、
 それだけアスペラルダから回ってきた情報は、
 我々の常識では考えられない内容なのです。
 その判断は後のち頂けるギルドからの情報と合わせて、
 果たしてあれだけの情報を集めるに足る力を持つのか・・ということです」
「ふぅん・・。
 こっちは精霊使いとして戦わせてもらうつもりですが、
 問題はありませんか?」
「大丈夫です。断片的ではありますが情報は得ておりますし、
 勝てる算段はついていますので」
「さいですか。こちらは胸を借りるつもりで全力を出しますので、
 持って15分程度かと思います」

 模擬戦を行う修練場では、
 まさにいまから始める為の準備に周囲を忙しなく移動する教国兵士に混ざり、
 戦闘前にクレチアさんと話をする機会があったので雑談に付き合ってもらっていた。

 その会話で俺は自分が格下であると判断している旨を伝えると、
 クレチアさんは片眉を上げて意外性を示す。

「その若さで姫様の護衛をお一人でしているのですから、
 国元から裏打ちされた実力があるのでは?
 なのに弱気な発言をするのはいかがなのです?」
「自信を持つのと慢心するのは別です。
 俺は元々戦士ではなく調査員として動く身なので許してください」
「その割に言葉とは裏腹で隙があれば勝つという意思を感じるのですが?」
「そりゃ護衛としての矜持もありますからね。
 ただでは負けませんし、勝てそうなら勝ちますよ」

 20歳近く年の離れたクレチアさんとニヤリと笑い合い、
 戦意をぶつけ合う俺たちの側へと走り寄ってくる兵士が1人。
 どうやら準備が整ったらしい。

「今日はお手柔らかに」
「すぐに潰されないことを祈ります」

 互いの健闘を言葉に込めて、
 俺たちは踵を返して開始位置へと移動をする。

「《アイシクルエッジ》セット:アイスピック」

 移動の間に魔法を右手に握るアイスピックに吸わせる。
 もちろん通常のアイシクルエッジでは武器加階ウェポンエヴォルトさせるのに魔力が足らないので、
 ベクトルを消費MPに振り切って制御できる分を振り込んで吸わせた。

『《闇纏マテリアライズ》』

 クーも戦闘装束に身を包み、
 着ている普通のメイド服は至る所に外装が装備されメイドアーマーへと変貌を遂げる。

『クー、元気さんだね~』
『夜はクーの役目ですからね!』
『闇精霊様様ですわー!』
「《武器加階ウェポンエヴォルトタイプ:グラキエルブランド》」

 ナイフ程度の大きさだったアイスピックが、
 大きめの片手剣へとその姿を変化させていく様子に驚きの声が方々から上がる。
 知らない魔法で低ランク武器が美しい蒼剣そうけんに感嘆と見惚れた声など色んな意味合いの声が聞こえてきた。

 コツ・・・。
 俺に指定された開始位置に到着し、
 くるりと反転してクレチアさんを見やるとあちらはすでに開始位置に着いている。
 視線が絡むと戦意を遠慮なしにぶつけてくるのを感じた。
 殺気とは違うからどうにも慣れないんだよなあ。

「クー」
『はい、いつでも』
「『《シンクロ!》』」

 やる気と覇気の篭もる詠唱に俺とクーの身体から闇光あんこうのオーラが吹き上がり、
 そのまま次の詠唱を口にする。

「『《闇精霊纏エレメンタライズ!》』」

 俺の胸元を浮かんでいたクーと俺は途端に黒い魔法の膜に覆われ、
 中ではクーが愛らしい姿をマントへと変えて俺に被さり顔を隠し纏われる。
 膜を切り裂き現す容姿に慣れない教国の方々は何度目かの響めきを起こす。

『よっこいしょ~』
『これ、ニルは兎じゃ無いほうがいいんじゃないですのー?』
『あー、タクトが確かに使えないですね。どうしますか、お父さま?』
「落ちないならどっちでもいいぞ。
 タクト使えた方が戦力としてはいいしな」
『首元なら捕まれると思いますけど、ニルどうですか?』
『ん~・・・ん!これならいけそうですわー!』

 ニルはアニマル形態からニュートラル形態へと姿を戻し、
 首元のクーの一部に自身を巻いて片腕と顔だけをそこから出している。
 もちろんニルのその手にはタクトが握られていた。

「始まったら構ってられないからな。
 落ちそうでも自分でなんとかするんだぞ」
『かしこまりですわー!』
「アニマも大丈夫か?」
『クーデルカの能力が上がっているとはいえ、
 直接受けてはワタクシ達の鎧も抜きかねませんから、
 出来れば避けてください』
「あいあい」

「準備はよろしいでしょうか?」

 審判役として立ち会うのは枢機卿が2名。
 つまり俺たちの国で言えば将軍が審判をするので、
 最悪死ぬ前には止めてくれるだろうことを信じています。

 さあ、お国の為に協力を得られるよう頑張りましょうか!


 * * * * *
「始めっ!」

 枢機卿の一人が開始を告げると、
 クレチアさんは魔法を警戒してか俺を中心に円を描くように走り始める。
 速度はやはり速いがメリーほどではないことから、
 あの手にしている大剣グラムとやら要求ステータスも高いのだろう。
 視線で追えるクレチアさんを視界に捉えながら、
 こちらも戦闘を開始する。

『《多重閻手マルチプルダーク!》』
『《ダウンバーストランチャー!》』
『《氷鮫の刃ブレイドシャーク!》』
氷鮫の刃ブレイドシャーク!」

 クーの支配域に存在する影から黒い手が幾重にも生えてきては空高く撃ち上がり、
 クレチアの元へと槍のように降り注ぎ、
 ニルはクレチアの動きを阻害する為に落ちる気流を周囲にばらまき、
 アクアは氷の刃2本を地面に走らせ、
 クレチアを追うように操作を行い、
 俺は魔法剣で下から上に斬り上げる動作でアクアと同じ魔法を1本発動させる。
 ただしこれは偏差射撃になる為、
 真っ直ぐ目標とした場所へと加速しながら進んでいく。

 俺たちは俺たちで攻撃を加えながらも開始位置からゆったりとした歩みを始め、
 追い込まれないように修練場の中心へと移動をする。

「にしても良く避ける・・・」
『当たらないね~』

 そう、あの魔法攻撃の嵐の中をクレチアさんは今なお走り続けており、
 それも防いでいるのではなく当たっておらず、
 空から無数に降り続けるクーの閻手えんじゅを避け続け、
 ニルの阻害魔法であるダウンバースト域に入っても、
 その時だけ余る身体能力を発揮して速度を落とさないし、
 アクアの氷鮫の刃ブレイドシャークからは逃げ切り、
 俺の氷鮫の刃ブレイドシャークも再加速で避けてしまった。

『続けますか?』
「普通なら終わる攻撃をあぁも涼しげに避けられたらな・・・、
 続けてスタミナをってのもアナザーワン相手じゃ意味なさそうだ」
『では、終わります。お姉さまももういいかと』
『あいさ~』
「ニル、2人の魔法が終わったらそのまま突っ込んでくるからソニックを強めにな。
 生身ならちとキツイが纏っている今なら問題ない」
『かしこまりですわー!』

(あの速度なら5秒以内に来ちまうから次の魔法は間に合わん・・。
 つまり早くもアドバンテージのあった遠距離戦は終わりかよ)

 ハンパねぇ身体能力のみでこちらの遠距離攻撃を完璧に避けきったクレチアさんは、
 予想通り展開の動きを目聡く察し、
 制動も掛けずに小さくカーブをして俺たちの元へとあのまま向かってくる。
 あんなデカい剣を持ってなんであんな走れるんだよ・・。

『《勇者の剣くさかべ!》シフト:マシンガン!』
『《闇玉シャドーバレット!》シフト:マシンガン!』
『《ソニック!》』

 向かってくるクレチアさんに向けた2種の魔法は氷の物理ダメージに、
 当たれば一瞬動きを止める闇玉。
 どっちが当たってもおいしいことこの上ない魔法が連弾となって襲いかかる。
 流石にこの弾幕を身体能力のみで回避しきるのは無理だろうから、
 あの剣での防御が見られるはず。
 クーはともかくアクアの射撃力は断トツだから、
 横に逃げようとも勇者の剣くさかべであれば確実に回避だけでは対処不可だ。

「《ウインドブラスト!》」
「それだと防ぎきれないぞ」
「・・・・」パクパクパク

 魔法の詠唱の響きは特殊なのでその魔力の感覚から発動した魔法は知解できる。
 しかしその魔法ではこちらが撃ち放つ弾幕と相殺させるには数が圧倒的に足りない。
 その感想をつい口に出してしまうが、
 聞こえたわけではないはずなのに挑発的な視線を向けてくるクレチアさんは返答とばかりに聞こえない音量で何かを口にする。

 4文字・・行くわよ?

 発動した魔法は風属性中級汎用魔法の[ウインドブラスト]。
 火は火力重視で数は少なく、
 水氷は範囲攻撃、
 雷は速射に偏っていて1発のみ。
 そんな汎用魔法のなかで多弾系に位置する風魔法。
 それでもうちの娘たちの魔法は相殺するには足らない6つの風玉が、
 クレチアさんの頭上に半円の形で展開された後、
 前方の地面にバラまかれる。

 結果。
 着弾するであろう場所に土煙が盛大に巻き上がり、
 駆け寄るクレチアさんの姿が一瞬土煙の向こうへと隠れ見失ってしまう。
 距離は6mもない・・・ならあのレベルの人だったら・・っ!

「クー!」
『お任せくださいっ!』

 クーに指示だしをしつつも、
 咄嗟に剣で防御の姿勢を取りながらバックステップをする為に足に力を入れる。
 飛ぶ前のしゃがみの段階で土煙越しに低い姿勢になったまま、
 残る6mを一気に加速して接近するクレチアさんの足が見えた。
 上半身と大剣は確認が出来ない。

「はああああああああああ!!!」

 四十路とは思えない若々しくも迫力ある声を発しながら踏み込まれた足。
 その風圧は凄まじく、
 発生していた土煙はすべて吹き飛ばされ、
 振り抜かれる大剣はやはりダウンバーストの阻害を受けてもキレが落ちることはなく俺たちに迫ってくる。

 グラキエルブランドとグラムが衝突する。
 しかし、衝突時の甲高い音は発生せず、
 横振りのグラムは俺の剣と俺の胸元を通り過ぎた辺りでピタリと動きを止め、
 俺たちは無事に地面に滑りながら着地をする。

「これが時空魔法ですか?」
「そうですけど、よくあの剣速で振り抜いておいて止められましたね」
『《勇者の剣くさかべ!》シフト:ショットガン!』
『《闇縛りシャドーバインド》』

 クレチアさんが振ったグラムは、
 俺の剣に当たる寸分手前から剣身は波紋ある空間の先に失せ、
 失せた剣身は振り切っていれば、
 クレチアさん自身に当たるように調整された空間に繋がっており、
 背後から生えてきていたグラムはクレチアさんに当たる手前でその動きを綺麗に止まっていた。

「くっ!?なかなかに痛い・・」

 誘い込みに成功した俺たちのカウンターで決まれば終わっていたかと思ったんだけど、
 流石はアナザーワンの頂点に君臨している女性だ。
 それでも通常の硬直では無く、
 変則的な形で動きを止めた事で発生した隙を突いて、
 アクアが近距離用の勇者の剣くさかべを撃ち込むと、
 グラムを置換空間から引き抜いて身体の中心だけを守り、
 足や肩などに少量のダメージを負う程度に抑えてしまった。

『《反転世界リバーサルワールド!》』
「《氷竜一閃ひょうりゅういっせん!》」

 クーの閻手えんじゅが地面を打ち鳴らすと、
 叩いた箇所から闇が広がっていき、
 修練場の地面や壁をすべて黒く塗りつぶしていく。

 一応接近された時用の動きはアクアも進めているけれど、
 ソレとは別にその間に俺は防御姿勢になりダメージの通ったクレチアさんに対し、
 追撃の一閃で攻撃を加えていく。

「はあっ!」
「マ!?」

 本当にこの人同じ人類かよっ!硬直が短すぎるっ!
 勇者の剣くさかべを防御する為に刃を寝かせていたグラムを素早い動きで構え直し、
 そのままグラムの側面で一閃を受け止めながら刃を立てて真っ二つに切り払ってしまう。
 しかし、グラムは凍りつき、
 クレチアさんの左右には斬られた一閃の魔力が散布されてこちらも大きめの氷塊を作り上げていた。

『《フォノンメーザー!》』

 ショットガンに視線を吸い寄せたところで発動していたバインドが足元から這い上がり、
 ここのタイミングで一気に締め上げてからの速射。
 これでもおそらく上半身は自由だからなんとでも防ぐ手立てはあるのだろうが、
 迫る射速の早く狙いも中心のニルが放ったメーザーにどう対処するか・・・。

「アナザーワンの武器はそこいらの武器と違いますよ、
 っと、はああああああああ!!」

 確かにグラムはシスターズの扱う武器と同じく大剣の中でも特に大きい部類の剣だ。
 しかし、その特大の腹に角度を付けた状態で盾として全面に押し出す。
 だけど、そっちもなめてんぞっ!

『ここをこーこーこーですわー!』

 ニルがタクトを鋭く振る動きに合わせて、
 真っ直ぐにクレチアさんを狙い、
 正にいまからグラムと当たるといった瞬間にメーザーが90度曲がり左へと待ち構えるグラムを避ける。

「なっ!?」

 そして曲がりは1度ならず合計3回の曲がりをカッカッカッと見せ、
 最終的にクレチアさんの背後から再びフォノンメーザーが迫っていく。
「これは厄介っ!
 んんんっ、はああああああああっ!!」

 防御の姿勢で構えていたクレチアさんは流石の反応速度で構えを変更し、
 背後からの熱線に対して下半身が固められている状態で、
 上半身だけで辛うじてギリギリ対応しきってしまい、
 その様子を前に俺は見られてないことを理解した上で口元をニヤつかせてしまう。

『あとは頼みます!《閻手えんじゅ!》』
『おっけー!』
『任せてくださいましー!』


 * * * * *

 迫るフォノンレーザー。
 不安定な体勢で体幹のみで対応しきったクレチアは凌ぎきったと考えていた。

 ドパンッ!
 聞き慣れない何か膜が破れたような音が背後から耳を打ち、
 角度を変える謎の魔法が発する熱量を前方感じていたのに、
 何故かいきなり眩しかった視界も熱量も消失し、
 視界の端には黒い何かの破片がいくつか背後から飛んできては消えていく。

 クレチアにわかったのは、
 熱線は3度目の射線変更が行なわれ、
 もう防御も回避も間に合わないほどに背中に接近していることを理解した。


 * * * * *
「くっ!ぐぅぅぅぅぅぅ・・・」

 クーの閻手えんじゅがニルの射線を1度目のカーブ前で一瞬塞ぎ、
 以降のカーブはすべてリセットされ、
 撃ち始めの直線状に再度クレチアさんへと向かって行きようやくまともなHITを得た。

 空気の振動を利用したフォノンメーザーは、
 火属性魔法を見紛う爆発と熱気を巻き起こし、
 クーのバインドも弾け飛ぶほどの威力を持ってクレチアさんは壁までぶっ飛んでいった。

「《氷竜一閃ひょうりゅういっせん!》」
『《多重閻手マルチプルダーク!》シフト:螺旋閻手らせんえんじゅ!』

 吹き飛んだ影響で土煙が発生している壁際へと横に強い一閃を、
 上からは逃げ場を潰す為にクーの閻手えんじゅが先端を凶悪な姿に変えて、
 修練場の至る所から飛び出しては壁際周辺を狙って降り注いでいく。

『《竜玉りゅうぎょく》』
『《ライトニングバレル!》』
『お父さま、魔法はこのくらいでいいでしょうか?』
「だなぁ。あまり協力国相手でも手の内全部は見せたくないし、
 魔法だけでクレチアさんに善戦出来たってだけでそっちはいいだろ。
 あとは・・・」

 降り注いだ螺旋閻手らせんえんじゅは土煙の向こうとその周辺を突き貫き、
 その後すぐに[ブラックスモッグ]へと魔法の内容を変更する。
 そこへ一閃が到達し横幅20m程度を氷で覆ってしまう。
 これにより少しでも足止めが出来、
 尚且つ煙を吸って盲目と毒の状態異常に掛かってくれればラッキーなんだけどな・・・。

「近接を見せるだけだ。
 魔法特化の[竜]を見せずにここを乗り越えられたのはデカい」
『アクアもがんばりたかったなぁ~』
「直接攻撃は置換があって要注意、
 遠距離攻撃を警戒して近距離にいればショットガン、
 中距離に居てもマシンガンにフォノンメーザー、
 遠距離は多重閻手マルチプルダークや一閃にその他多くの魔法がある。
 魔法はもう十分に見せつけられたと思う」
『じゃあ次は鎌鼬かまいたちで行きますの-?』
「実際の攻撃力を測れていないからな・・・、
 出来れば逆に飛ばされたとしても高さは身体で認識しておきたい」

「いえ、これで十分かと思いますよ」

 俺たちの展開会議に割り込みの声が突如響き、
 その声はクレチアさんでブラックスモッグの向こうから聞こえてきた。
 声にダメージを負っている印象を受けない事が本当にすごいと思う。

「チェンジ!」
『チェンジ!《風精霊纏エレメンタライズ!》』

 降参でもなく十分という言葉の意味合い的に、
 合格基準がクレチアさんへ1撃入れるとかそんな低いラインに設定されていたんだろうさ。
 これは俺たちを嘗めていたのではなく、
 クレチアさんを高く評価していたからだと思いたい。

 視線の先の黒煙の空気に流れが生じ、
 1度上に流れたかと思った瞬間には下にすぐさま流れを変えて剣圧で爆散する。
 そこには当然ダメージを受けたけどピンピンとしているクレチアさんが立っていた。

「今のが精霊主体の戦闘だと理解した上での合格ですか?」
「貴方は精霊使いなのでしょう?ならば問題はないかと思いますが」

 それはそうなんだけど、
 精霊使いが少ないからか言葉通り受け取られている気がして、
 些細なその認識の差に少しイラつきを覚える。

「精霊使いは精霊と共に戦うのであって、
 精霊の魔法のみで戦うわけではないのですけど?」
「貴方も冷気の魔力を飛ばして来ていたではないですか。
 あれも十分な威力を持っておりましたよ」

 あー、ひとまず落ち着け俺・・・。
 魔力を出し惜しみせずに戦えた高揚感から冷静さが失われていると判断し、
 一時言葉を交わさずにクレチアさんとの睨み合いに似た状況が作り出される。
 深呼吸を数度行い、頭に登った血の標高を引き下げていく。

「私は私の全力を持って教国からの合格を頂くつもりで望みました」
「はい、心得ております」
「いまの段階で俺は魔法面のみで戦闘をさせていただき、
 ここから近接戦をと考えていたところでストップが掛かったので・・・、
 不満を覚えています」
「アルカンシェ姫殿下ひめでんかの護衛隊長、およびに、
 アスペラルダ王国の代表として力を示すことに成功したのにご不満なのですか?」
「自分の力を受けきってくれる人と戦えるこの状況を利用して、
 高みを目指したいという我が儘ですが・・」
「己の主が前の模擬戦でよくものたまうことが出来ますね」

 クレチアさんの目元が鋭くなり俺を睨む視線にも殺気が含まれる。
 それでもこれで合格というのはやはり納得できない事であると同時に、
 強い人と戦う事で吸収や盗める何かを模索したいという思惑もある。
 それにクレチアさんは教皇様のアナザーワン。
 そんな人と実際に剣を交えて戦える機会などそう有りはしないだろうことも俺が引きたくない理由でもあった。

 クレチアさんが俺から視線を離して観覧席にいるアルシェと教皇を見やる。
 その間俺たちは視線をクレチアさんから離さずじっと回答を待つ選択を取った。
 何故かって?
 俺も釣られて視線を剥がしてしまえば、
 隙有りとばかりに重い1撃をもらいそうだと俺の勘が告げていたからだ。
 アイコンタクトも終わったのかクレチアさんが先ほどまで漏らしていた殺気を引き、
 再び俺の方へと顔を向けた頃には何故か口角を上げて嬉しそうな顔をしていた。

「結果はどうでしたか?」
「どっちだと思われますか?」
「己が主の前での模擬戦で焦らすのは良くないのでは?」
「フフフ、それもそうですね。
 模擬戦は継続、ただし時間は5分のみですが、
 それでもよろしいでしょうか?」
「はい、ありがとうございます。
 5分間は多少精霊の力も借りますが、私が主体の近接となります。
 5分は絶対に落ちませんので重ねて胸を借りさせてもらいます!」

 俺は宣言と共に剣を構え直してクレチアさんを正視する。

「正直言いまして、
 私からしても貴方は良い骨のある模擬戦相手と判断します。
 先も隙をわざと見せた対応だったのに警戒を緩めなかった・・、
 このまま私の期待通りの御仁であることを願います」

 なんか好意的なお言葉をもらってしまった。
 そんな意図はなくただ嫌な予感がしていただけなんだよなぁ・・・。
 とにもかくにも少しの緩和の後に構えを取るクレチアさんからは、
 再び殺気ではなく模擬戦開始時と同じ闘志を感じる。
 それだけでこの女性が俺たちよりも強いのだと言葉で表しづらいが、
 ライオンと対峙している気分だ。

「模擬戦を再開します」

 遠くからではあるが、
 枢機卿のひとりが掛け声をあげる。

「剣はこのままでいくぞー」
『アスペラルダを印象付ける為ですね』
『かしこまりですわー!』
『しっぽ生やしておくね~。《アクアテイル~》』

 異色の兎耳を持ったまま水の尻尾を生やすハイブリット生命体が爆誕したところで、
 集中状態に意識が入っていくにつれ、
 瞼も少し下がってきた。

「始め!」

 踏み込む身体は認識の耐えられる上限までソニックで敏捷性を上げ、
 踏み抜く身体は無茶な動きに耐えられるように闇精外装ブラックコーティングを着込み、
 振り抜く剣はすでに貯蔵できる魔力で満たされている為、
 全体から蒼天そうてんの魔力が漏れ始め、
 俺の動きに神秘的な軌跡が残されているのみであった。

「ぜあああああああああああ!!」
「はあああああああああああ!!」

 互いが正面からの斬り込みを行った結果、
 蒼剣そうけんとグラムの衝突に空気が震え、
 衝撃で発生した風が剣から溢れる蒼天そうてんの魔力をちりばめる。

「堅いっ!」
「ちっ!普通に重い・・」

 片や片手剣、片や両手剣であれば必然的に両手剣の方が剣速以外では勝る為、
 力負けしたが決して折れることの無かった蒼剣そうけん使いは、その場で錐もみしながら中空で回転し始める。
 これは本来であれば吹き飛ぶ状況を嫌い、
 クレチアさんの大剣に風の力を持って無理矢理乗り、
 この場に留まったが為に起こった事象であった。

「せいっ!」
『《エリアルジャンプ!》』
『えいや~!』

 斬り上げで追撃の斬撃を中空を蹴り上げる魔法で回避し、
 その隙を突いてアクアが追加で付けた尻尾を肩口に叩き込む。
 進化する前に受けた段階で防御しておきたい痛みのあるダメージが、
 さらに強化されて打ち込まれた。

「っ!?」

 台詞こそ気の抜ける声で攻撃した尻尾での打ち込みは、
 クレチアさんを持ってしても思いも寄らぬダメージ量を与えたらしく、
 静かに苦悶の表情をしつつほんの少しではあるが仰け反る姿を確認した。

「《水竜一閃すいりゅういっせんっ!》」

 その仰け反りの隙を無駄には出来ないと、
 空中で体勢を整えて着地と同時に一閃を放つ。

「甘いです!」

 状況からしてHIT確実の体勢においてもクレチアさんは、
 冷静にこちらの動作を見極めており、
 仰け反った状態からグラムの重さを利用してそのままその場で1回転してそのままグラムを横に構えて一閃を防いでしまう。

『《ストームインパクト!》』

 とはいえ、こちらもいちいちビビっては居られない。
 事前に何が来ようとも蹴ってやろうと思い、
 クレチアさんがバク転をして視界に俺たちが映らなくなった瞬間に一閃のすぐ後ろ取り付いたのだ。

「ぜぇああああっ!!」
「打撃技もなかなか・・・」
『まだです!《閻手観音えんじゅかんのん!》シフト:黒玄翁くろげんのう!』

 剣を持たぬ左拳を握り絞めると、
 影から閻手えんじゅが山となって現れ、
 一瞬でクレチアさんを潰さんとする大型の槌へと姿を整えると、
 振りと共に空いている側面から打ち込まれる。

「これも同時であればダメージに繋がりましたが、まだまだです!」

 剣の振りは俺たちの足で止められている。
 切っ先の向く方向からの攻撃であれば何かしら対処方法があると警戒して、
 柄の向く方から打ち込んだ黒玄翁くろげんのう
 しかし、こちらはこちらで柄の底で受け止められてしまう。

 決して軽くはない打撃攻撃として編み出したクーの攻撃に対し、
 柄の底という小さな面のみで止めてしまうクレチアさんの胆力すごすぎない?
 でも、確かに同時に出来るように連携をしっかり組んでいれば、
 クレチアさんが言うようにダメージには繋がったわけだし、
 次への糧として反省しよう。

 反省はするがまだ時間は残っている。
 闇魔法特有の短時間硬直での攻撃だった黒玄翁くろげんのうは姿を空気に溶かして消え、
 止められる事を想定していないストームインパクトが不発に終わり、
 そのままグラムに触れている足で剣の腹を蹴り上げ一旦距離を開ける。
「行きます」
「どうぞ」

 2度目の突撃。
 足下を留めていたバインドは束縛系魔法の特性で、
 対象の動きを留めてから解除となる条件が時間経過か1撃入れるかのどちらかとなり、
 すでにクレチアさん下半身は自由になっていた為、
 踏み込みもしっかりとし腰も入った応戦を持って対応される。

「ぜあああああああああああ!!」
「はあああああああああああ!!」

 基本は押し負けてしまう打ち合いが重なっていくなか、
 俺は1度たりともパリィをすることは叶わなかった。
 角度や力加減を微妙に変えて十数合切り結んだのだが、
 技術的に完全に押さえ込まれてしまっているし、
 なによりレベル差も50近くあるのでステータスは全体的にクレチアさんに負けている。
 実質すべて負けている。

 受けてはぶち抜かれ、
 回避のタイミングでアクアテイルで打ち込み攻撃していたのも、
 序盤はHITしていたがすぐに見切られるようになり、
 終始力負けで直撃を防ぐのがやっとという時間が過ぎていき、
 やがて・・・。

「模擬戦終了!」
「いっそぉ・・」
「こちらもそれなりにやったのですけれど、
 回避や防御に関しては一芸に秀でておりますね」
「死なないことが第一なのでね・・」
『もぎせんありがとうございました~!』
『お疲れ様でした』
『うーん、暴れたり無いですわー・・・』

 結局、一定の評価はいただけたし判断材料としては十分な戦力を示せたのだが、
 精霊纏エレメンタライズをしても魔神族はおろか、
 世界の上位者に対しては俺自身の経験不足が娘達の足を引っ張っている事実が露見するだけに終わった。

 旅を一旦止めて自力を上げる期間として2ヶ月間を設けたというのに、
 やりたい事が多すぎて時間が足りない。
 本当に身体がいくつかほしい・・・。
 確か某忍者漫画の影分身の術だったら、
 各分身が経験した事が蓄積されるらしいから、
 似た魔法をどうにかして開発しようかと本気で思い始めた。

「ひとまずの模擬戦は終わりです。
 先の部屋へ戻られて教皇様と再度謁見されてください」
「わかりました。お2方、審判役ありがとうございました。
 クレチアさんもお相手ありがとうございました」
「私の今日の仕事がこれだっただけです。
 気にされないでください」
「同じく」
「私も精霊使いを知れる良い機会でした。
 またの時はもう少し本気でお願いしますね」
「結構本気だったんですけどね」
「あら、そうだったのですか。
 致死のある攻撃がなかったものですから、つい」

 このアマ・・・、なかなか挑発しよる。
 スッと出せる致死攻撃は俺たちにはまだなく、
 今のところはアクアの竜玉りゅうぎょくを用いたカノンと、
 廃都で大型ガーゴイルを倒したスイシーダがもっともご期待の威力を発揮できるだろう。
 まぁどっちも隙が大きいから今回の模擬戦では披露は出来なかったし、
 人に向けるにはこちらも覚悟が足りないのも原因ではあるんだけどね。
「勇者を鍛えておいてくださいね」
「私は教皇様のアナザーワンなので担当するわけではありません。
 が、訓練相手を務める者には私から言葉を添えさせて頂きましょう」

 ジト目で少しの間最後の反抗として睨みを効かすけど、
 クレチアさんのどこ吹く風で涼しげな顔によって暖簾に腕押し。
 これ以上は無駄だと判断してその場を翻ってさっさと案内役のシスターの後に続いて元の部屋へと引いていく。

 その様子を眺めて見送るクレチアさんと審判を務めた枢機卿2名。

「結構大規模な魔法と激しい動きをしていたのに、
 あの青年は汗を掻いていませんでしたね」
「魔法はほとんど精霊の力を行使していたのでしょうけど、
 こちらの攻撃を捌く体術はかなり良い線だったと思いますね」
「クレチア、あれなら土産をやっても良かったんじゃないか?」
「それは最後まで見たから言えるのでしょう?
 今はまだ教国が動くかも確定ではないですし、
 今時点では試しに・・で打ち込んでいい物ではないですよ」

 教国3人が織りなす隠し玉を匂わす会話は、
 風の制御を用いた宗八そうはち達の耳にしっかりと届いていた

「やっぱり必殺技みたいなのがあるのか・・」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえ、独り言なので大丈夫です」
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