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第10章 -青龍の住む島、龍の巣編Ⅰ-
†第10章† -17話-[亜空間の戦場]
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マリエル達と離れ巣の上部から飛び降りたメリーとクーデルカは、
ポシェントと合流したゼノウ達の戦闘風景を滑空しながら眺めていた。
「厄介ではありますが、
クーデルカ様の魔法で空間をある程度抑えれば回避は出来ておりますね」
『それも十全であれば抑えきれませんでした。
クーはどこまでもお父さまに助けられてばかりです』
クーデルカの後半の言葉は独り言に近い懺悔のような小ささで口にされたのだが、
メリーの耳には微かながら何を言ったのか理解するには十分な音量であった。
それでも何も言わないのは、
おそらく自分の所属するパーティーの中でその感想を胸に抱いて居ない者はいない。
だから何を言う必要もないのだ。
「リュースィ!」
『お任せあれ~!《ライトニング・・・バーストッ!》』
「ジャックスラストッ!」
潜口魚からの攻撃を避けたセーバーの掛け声に従い、
後方で指示を待っていた契約精霊のリュースィが掌を空へと向けると、
小規模の雷雲がいくつか発生して渦を巻きながら一瞬で潜口魚の真上で一塊となり、
詠唱の続きと手を振り下ろす動作に従い強力な雷が轟音と共に降り注ぎ動きを止める。
その隙に回避の動作から復帰したセーバーが近接の中でも最も素早い斬り付けが出来る剣技で大きな剣を振りきって潜口魚にダメージを与える。
「着地可能高度になりました」
『こちらも攻撃を加えられる内にしておきましょう』
「かしこまりました。タイプ:光狩圏!ん、ふっ!」
元の魔法名は[虚空暗器]。
先ほどまではマフラーとしてメリーに装着され滑空を手助けしていた影の魔法は、
メリーの詠唱を切っ掛けにして姿を大きなチャクラムに似た武器へと変化させ、
中国では圏と呼ばれるその武器をメリーは落下速度が上がった空中にて投擲する。
しゅるるるるる・・・るるるるるっ!
と非力なメリーが投げた割には高速回転の音を鳴らしながら、
つい今し方セーバーに切り裂かれた潜口魚の背から斬り上がる。
『戻ったか・・・。ひとまず被害は出ていないと報告しておこう』
「短い時間でしたが疲れが見えておりますね」
『クーデルカの魔法があっても一瞬の遅延を産む程度しか期待は出来ない。
派遣されている以上は守りも疎かには出来ないだろう?』
光狩圏が潜口魚の身を削りながら体を駆け上がるなか、
トッ・・・と危なげなく地面に降り立ったメリー達の側にポシェントが疲れ眼で現れた。
『力不足で申し訳ありません』
『クーデルカの所為ではないだろう?
一瞬でも助かるのだから気に病む必要は無い』
『ありがとうございます』
感謝の言葉を述べつつもクーデルカは、
人差し指を挑発するかのようにクイクイと二度動かすと、
潜口魚を切り裂いた光狩圏がUターンしてメリーの元へと戻って来て再びマフラーとなってメリーの首元を覆った。
「・・・タイプ:箒」
メリーの次の詠唱に黒いマフラーが今度は漆黒の箒へと姿を変える。
『箒?それは武器なのか?』
「一応棍棒のカテゴリに入る立派な武器・・・の模倣品、でしょうか?」
『タイプ名の原型こそ本物の武器ですが、
中身は全く別物ですよ。これもお姉さまの真似事ですが』
ニルがクーデルカを好きなように、
クーデルカも姉のアクアを敬愛しているのは既に周知の事実だが、
今回の戦闘中にアクアが使った[おさかなさんソード]も現実には存在しない武器であり、
その基本構成を利用した魔法がクーデルカの虚空暗器となる。
以前アルシェが開発した[氷属性武器精製]は、
実際に存在する武器などの条件付けがあったのだが、
アクアとクーデルカの新たに開発した二種類の魔法武器は原型のないオリジナル武器となる。
その威力や効果は武器というよりは、
人工的なアーティファクトと言った方がこの世界の住人には理解を得られやすいだろう。
「私は潜口魚の空間削除を試みてみます。
戦闘に関してはクーデルカ様と協力して行ってくださいませ」
『戦闘への参加はしないのか?』
「いざとなればすぐ介入は可能です。
しかし、敵は弱りこちらは人数も多くなった関係で攻撃頻度が増加。
本来の役割に戻るだけですので」
『中央の戦闘に介入させない・・・だったか・・・。
このまま押していけば倒せそうなんだがな・・・』
『最低ラインの仕事が言われた介入させない、ですが。
倒せるなら倒すに越した事はありません。可能ならですけれど』
ここまでで一番ダメージを出したのは宗八の空間破壊。
次段にポシェントの戦技であるが、
一応ここまでの戦闘で大なり小なりのダメージは重ね続けているのに潜口魚があれから動きを悪くした様子がない。
「体力が規格外、防御力が規格外、攻撃方法も規格外。
鎧魚は素早く動く分体力が低い様に見受けられましたが、
対して潜口魚は素早く動かない上に当たれば存在を消される攻撃」
『空間に唯一対抗できるクー達が一瞬の足留めしか出来ない程度の力量差ですし、
あまり無理をして被害を出してはお父さまへ顔向け出来ません』
視界の中では戦闘は継続されており、
クーが先に設置しておいた[反転世界]の遅延にて辛うじて回避しているし、
本当に危ないと感じた時はセーバーの契約精霊であるリュースィが魔法にて突き飛ばして避けさせている。
終わらないこの戦闘が続く事を考えると、
最後には動き回る体力と回避に集中する精神力のどちらも削り取られて、
最後は潜口魚の腹の中となるのがオチだ。
「《影縫》」
『問題点は他にもあります。
攻撃がどうしても中空に居る時や、
半分亜空間に潜った状態にしか行えないので威力が半減してしまいます』
『確かに。手応えが薄くなっている感は否めないな』
メリーが地面を箒で掃きながらも支援の影縫を地面に再設置を行い、
もっと視覚的に位置が把握しやすいようにとばらまいてゆく。
『クーデルカには宗八の技は使えないのか?』
『ポシェント様もわかっておいででしょう?
クー達精霊は表属性に適正があって人間が裏属性に適正がある事を』
『それでも小規模の魔法は使えるだろう?』
『裏属性の魔法の中でも上位となる闇の時空・光の反射・土の重力は扱いが難しいです。
もしもクーが使うにしてもそちらに集中する必要が出て支援が止まります』
クーデルカが空間破壊を行うにしても、
魔法が不得手なメリーとしかシンクロが出来ない現状では、
どうしても無理が出てしまう上に規模も小さく、
宗八とノイティミルが起こしたあの規模にはどうしても出来ない。
小さく発動したとしても、
あの魔法は先に範囲を固定してから砕く為、
避けられる可能性が多大にあった。
つまり、宗八が発動した広範囲で無ければ意味がないのだ。
その時、
ドゴォオオオオオオォォォォァァァァンンンッ!!
と自分たちが居る巣とは反対側が爆発し、
遠くからでも見えたのは水の飛沫のようなものであった。
『中央は何が起きているんだ・・・』
『お父さまですね』
上空付近に見える飛沫から、
巣の外壁の厚さを知っているポシェントは軽い戦慄を覚えつつ、
中の様子を気にした言葉を口にしたが、
それに対して即答したのはクーデルカ。
「ですが、クーデルカ様。
ご主人様の手札にあそこまでの威力が出せる物はなかったかと」
『・・・おそらくですが、
こちらに来てから手に入った物と考えれば・・・龍の魔石でしょうか』
ニルは状況が状況だったのと頭がそこまで回らなかったので解答まで辿り着けなかったが、
流石に精霊姉妹の中でも屈指の一歩退いた目線を持ち、
宗八の侍女も目指すクーデルカは冷静な判断で答えに行き着いた。
「魔石は高濃度魔力を精製する為の道具だと聞いておりますが、
今日手にして扱う事など出来ますでしょうか?」
『高濃度魔力は魔法の扱いに特化した精霊でないと巧く扱えないはず。
俺は近接特化だからもちろん扱えても巧くはない』
『ですがアレは確かにお父さまの魔力ですし、
お父さまの水竜一閃で間違い有りません。
どうにかして龍の魔石を用いて強化をされたのでしょう』
興味が引かれているポシェントに比べると、
クーデルカは落ち着いた様子で視線や意識も全く乱れず潜口魚の位置を追っている。
『あの威力が連発出来ればどんな強敵でもいずれ勝てそうだな』
「そう楽観できないのが私たちの相対している魔神族でございます」
『それに最大数も把握できて居りませんから、
一人にかかずらわる時間を長く設ける訳にもいきません。
理想はテンポ良く討伐、もしくは二人相手でも拮抗ですしね』
とりあえず、討伐するのは勇者の仕事だと考えがある宗八は、
あくまでモブキャラであろうとし、
すぐに倒されても色々都合が悪いので足留めの役割くらいはと思っている。
『なるほど、お前達も大変だな』
「私たちは端役の対応ですのでまだマシです」
『メインはお父さまとアルシェ様、それにアクア姉さまですね。
今回はノイ姉さまも参加されておりますが、
サブマスター次第でどうなるか・・・』
『あれが端役か』
『ユニークモンスターで有る事は否めませんが、
魔神族に比べれば端役に違いはありません。
実際、お父さまが相手をしていれば既に終わっているでしょうし』
クーデルカの言葉に苦笑いを浮かべるポシェント。
それでも宗八の空間破壊が、
最もダメージを与えたという事実を目の当たりにしている手前、
その言葉を否定する事は出来なかった。
『確かにその通りかも知れない』
「いってらっしゃいませ」
得心の入った声で納得をするとポシェントは、
戦場に向かってわざと足音を立てて駆け出す。
その背後からメリーが箒の動きを止めてお辞儀にて見送りの言葉を投げかけた。
『効果は見込めますね』
「時間は掛かりますがなんとか。
侵入する程度であれば空けられましたがどう致しますか?」
『時間を稼ぐにしろ一つのミスが命取りです。
メリーさんさえよろしければ危険ですが突入したいと思っています』
メリーの足下にいつの間にか空いた黒い穴。
それを見つめながらメリーに訊ねられクーデルカは回答する。
突如出現した黒い穴の正体は、
潜口魚が潜り隠れている亜空間への裏口であり、
それを空ける為に[ダーケンブルーム]で亜空間表面を[掃く]という行為が必要で、
時間稼ぎをするセーバーやゼノウ達が合流しなければ実行する事の出来なかった戦術であった。
「もちろん。
私の主人は水無月宗八様とアルカンシェ様。
そして私はクーデルカ様のサブマスターですから」
『ありがとうございます。
地表の[反転世界]は止める事は出来ませんが・・・』
「その程度であれば問題ないかと。
私も伊達に魔法の訓練を行っておりませんので」
潜口魚の気配を追い続け観察をしていたクーデルカは気付いていた。
あの魚が未だに中央に戻れないかと様子を伺っている事を・・・。
『確実に希望を断つ為に行きましょう』
「かしこまりました。
すぅ~、皆様っ!!地表はお任せ致しますっ!!」
突入を覚悟したメリーはこれ以上の手助けが出来ない事を知らせる為、
息を大きく吸い込むと、
現在潜口魚と直接斬り合いをしている四人に向けて声を張り上げ離れる事を伝える。
「了解っ!」
「何するかわかんねぇけどっ!了解!」
『クー、頑張って下さいね~』
『・・・・』
ゼノウ、ライナー、リュースィの返事と声援。
そしてポシェントの頷きを確認してからメリーとクーデルカは足下に開いた入り口に飛び降りる。
地面の表層に開いた穴であるが、
その行き着く先は当然単純に地面の中というわけではなく、
視界は一瞬で見た事もない空間へと変化する。
自分たちが使う影倉庫や、
ポルタフォールで見た亜空間は内部が真っ黒な事に対し、
潜口魚が所有する空間は紫色に近い揺らめく空間となっていた。
「タイプ:双剣。
少し浮遊感がありますね」
『重力が地上と違って軽いのですね。
振りは問題ありませんか?』
「問題ありません。戦闘継続は可能と判断致します」
着地と共に箒から双剣に得物を変更したメリーが、
クーデルカの確認に対し握りと振りを軽く調べたところで答える。
『《閻手》』
上の方に波紋が広がり魚の下半身と思しきものが何もない空中から突如生え、
地上を攻撃しているのであろうバタつきを視認しつつ、
メリーにその役割を任せてクーデルカは魚とは反対の空間へと閻手を伸ばして距離を測ってみる。
「如何ですか?」
『驚くほど広くて戦闘には申し分ありません。
時空関係は一切発動できませんが』
広さに関しては力量差を感じざるを得ないが、
時空魔法に関して言えば予想の範疇であったクーデルカは淡々と答える。
この空間の発生源は潜口魚であるが故に、
ここは自分たちに取ってはアウェーで有る為、
空間の支配は99対1と言っても過言ではない。
もし100対0であれば侵入すら出来なかったはずなので、
1とは侵入し存在出来ている点からの考えだ。
ドオォォォォォォン・・・・・
上方から低くくぐもった音が空間全体にわずかに振動として響いてきた。
その音に合わせて潜口魚が横向きに吹き飛ばされた事から、
おそらく音の発生源は地上であり、
いま正に攻撃が当たったのだと理解する。
『まるで水の中にいるみたいです』
「体は軽いのに音は響かず魚が自由に泳いでいる・・・。
まるで異世界ですね」
『間違いではないのでは?
亜空間なわけですから潜口魚の世界と言えなくはありません・・・あ、気づきましたね』
「世界を支配している割にはのんびりしておりますね」
波紋から顔を亜空間へと戻してきた潜口魚は、
ようやっとこちらの存在に気が付いたらしく、
ゆったりとした回頭から一気に自分たちのいる最下層まで降りてくると、
あの巨体のくせに様子見を始めた。
睥睨する二組。
チャキ・・・。
左手を前に突き出し右手は顔の横に双剣の構えを取るメリー。
『前衛はお任せします』
「かしこまりました」
前衛と言ってもメリーのSTRや本来の筋力ではあの巨体を抑えることは出来ないし、
一撃の重さもなく軽い連撃を繰り返す双剣では、
対して効果的なダメージには繋がらないだろう。
ただし、こちらは仲間が地上にもいるので、
上に逃げても下に逃げてもずっと追いかけ回す事が出来るから体力の回復させる隙を減らすという意味合いもある。
「すぅーーー・・・・」
いつも後衛で支援しか行って居なかったメリーが、
アルシェと宗八に付いて旅を始めてから・・・。
「はぁああああああああ・・・」
それこそこんな大物と相対するのは今回が初陣となる。
元は戦うつもりなどは無く生活部分を支える為の同行であったのにどうしてこうなったのか・・・。
でも、今は主人である宗八の命令であり、
そのご息女で自分のパートナーであるクーデルカが共に戦おうと言っている。
「どこまで・・・出来ますでしょうか・・・」
ゴクリと喉を鳴らし思わず溢した小さな声に返事を返す者は誰もいなかった。
* * * * *
『来ますっ!空間歪曲!魔法・・に似てはいますが・・・』
「クーデルカ様の感覚をお借り致しますっ!」
潜口魚の周辺空間に徐々に、段々と、
小さな歪みがいくつも広がっていく。
数が増えるごとにクーデルカの耳と尻尾が逆立っていく。
『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
魚が吠える。
大きな口を広げていくつも線引かれていたエラが一斉に開いて震える。
その咆哮を合図に歪みが次々と出現元を離れ、
メリーたちへと向かって射出されていく。
「《闇食みっ!》乱れっ!」
双剣の利点である二振りによる連撃。
さらに既存の武器と違ってクーデルカ渾身のオリジナルの武器なので、
メリーが最も振りやすい剣身、剣幅のメリー専用の二振りの片手剣。
双剣から放たれるは黒い一閃。
と、までは整っておらず揺らめきの残る一閃が見えぬ弾丸をひとつひとつ撃ち落としていく。
『相殺出来ていますっ!』
「ということは、初級魔法ランク。数だけ多いタイプですねっ!」
魔法を食い殺し魔力へと変換して吸収する。
それが[闇食み]なのだが、
一向に魔力が回復する様子はないので殺しは出来ても吸収は出来ていないのだろう。
「前に出ます」
『《闇縛り!》』
地上の太陽光が反映されているのか、
この亜空間には影が出来ている為、
クーデルカの本懐でもある闇魔法は使用が可能であった。
亜空間下部まで降りてきていた潜口魚は自身が作り出した大きな影から幾重にも伸びてきた闇の手に絡め取られ身動きが鈍くなる。
鈍くなるだけで止める事は出来なかった。
それでもうっとおしく思ったのか、
潜口魚はエラから息を吸い込んで身体を膨らませると、
どこからともなく『ブブブブブブブブ』という低い振動音を発した。
『時空振動!防御態勢!』
「タイプ:ダインスレイフ!」
クーデルカの忠告に従い、
メリーは双剣から両手剣へと直ぐさま[虚空暗器]を切り替えると、
地面?へと突き刺してそれを背に隠れる。
瞬間。亜空間内に視認できない爆発が起こり、
クーデルカが設置した闇縛りは全て吹き飛び、
メリーも両手剣と諸共に吹き飛ばされそうな勢いに対抗してなんとかその場に踏みとどまった。
「地表では見られなかった行動ですね」
『自分のテリトリーである亜空間などの支配域でなければ利用が出来ないという事かと。
・・・念のためお父さまに報告しておきましょう』
地表で今回の時空震を起こされていれば、
影縫や反転世界で足留めしようが、
事前に破壊することは出来ていただろうし、
何より支援メンバーが接近する事も困難となっていた。
そしてここまで広大な自身の世界を持っておきながら、
地表の空間を支配出来ないとは思えない。
という事を鑑みてクーデルカは自分の持ちうる手札からその可能性を最愛の父親へと念話で連絡した。
『GUUUGAAAAAッ!!!』
こちらが思考を巡らせていても潜口魚には関係の無い事。
先ほどと同じ雄叫びを容赦なくあげて、
再び時空の歪みが幾重にも周囲に広がる。
視線の先はクーデルカ。
「クーデルカ様っ!」
『威力は先ほど計りましたので問題ありません。
メリーさんはそのまま接近をお願いします』
「っ!かしこまりました!タイプ:双剣」
全てがクーデルカに向かうわけではない事に気付いたメリーは、
クーデルカの言葉を信じて役割を全うする為にこの隙に急接近を謀る。
『《シャドーエッジ!》』
姉のアクアの後を追うクーデルカにとって、
姉の使える魔法は妹も使ってみたい、欲しいとどの世界の姉妹も同じであった。
結果。
アクアだけが使うわけではないが選ばれたのは[アイシクルエッジ]。
使用方法はアルカンシェを参考にし、
攻撃ではなく防御魔法へと特化させたクーデルカらしい魔法として昇華された。
『GUAAAAAAAAAAAAAA!!』
クーデルカの影が自前の影の何倍も広がりきったところで、
再度の咆哮を合図に撃ち放たれる無数の時空弾。
しかも、先ほどと違い集弾性を上げて来ており、
弾のほとんどがしっかりと最低でも擦るレベルにまで調整されていた。
『《編盾!》』
クーデルカが詠唱をしながら両の手を前方に構え、
小さな指と指を重ね合わせて編み目を作ると、
クーデルカを守る為に無数の闇の手が目の前で編み込まれていき、
分厚い布のような盾を作り出した。
弾が当たる度に布の盾は弛む。
クーデルカの構えた手も衝撃を受けるように何かに押され前後している。
それでも盾はしっかりとクーデルカを守り、
未だひとつたりとも通しては居ない。
『GUU・・GUU・・・』
死角からはメリーが近づいていることも察している潜口魚は、
攻撃が通らない様子に業を煮やし頭を左右に一度ずつ振るうと、
撃ち込まれていた魔法が一方向からではなくさらに左右に分かれ、
合計三方向から容赦なく撃ち込まれ始める。
『ふふふ、それは予想の範疇です。
《水分》二連!』
一方向ではなくなった時空弾の攻撃はDPSが極端に落ちる。
そうなればクーデルカが支えるまでもなくちゃんと機能して盾として全う出来るので、
編み目を作っていた両手を離し、
代わりに左右へと両手を貫手で広げて次の詠唱を唱える。
次に影が作り出すのは至極シンプルな形。
山から流れてきた水を分岐させるように山折りの影が二枚。
その傾斜に当たった時空弾は、
その流れに沿って二方向からの攻撃が四方向へと分けられ集弾性を下げられる。
そうなれば、
防御魔法へと昇華された[シャドーエッジ]が、
影の上を通過しようとする攻撃性のある全てを刺突にて綺麗に潰して行く。
『メリーさん!』
[編盾]と[水分]と[シャドーエッジ]にて完璧に潜口魚の時空弾を相殺しきったクーデルカ。
しかし、受け身ばかりでは勝てる勝負も勝てない。
次は攻撃役の番とばかりにメリーの名を呼ぶ。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自身に向かって来た時空弾は全て黒い双剣で斬り捨て、
挨拶代わりに加速を活かした最高速での刺突。
続けて両腕を広げた薙ぎ払いをお見舞いするが、
刺さりはするのに傷口は広がらない。
かまわず身体を独楽のように回転させて双剣による連撃を加えつつ、
位置をズラして行き一カ所に留まらないように意識した動きで縦横無尽に潜口魚を斬りつけていく。
潜口魚も黙って死角からDPSを上げられ続けるわけになく、
ヒレやのし掛かりによる抵抗を見せるものの素早い身のこなしに付いてこられていない。
大きく動き出そうとすればクーデルカの支援が入りバインドで止められる。
ブブブブブ・・・
魔力の発生はない。さっきの発動時もなかった。
それでも耳にははっきりと残り覚えている。
「タイプ:箒!《ほうき星っ!》」
『《編盾!》二連!』
ほとんど隙のない接近をしていたメリーの影から幾重にも伸びる闇の手が重なり合い、
漆黒の箒にまとわり付くと流れ星の如く後方へと伸びて行き、
潜口魚から一気に距離を取る。
とはいえ緊急脱出に使用した為、
背面が地面と鉢合わせした状態で後退していた。
そしてそれぞれの間に一枚ずつ盾を発生させたクーデルカによって、
衝撃と爆風が届かないようにと配慮する。
『空間凝縮!狙いは・・・クーです!』
「死角に回りますっ!」
潜口魚は再び大きく開いた口元に、
先ほどまでの攻撃とは比較にならない規模の歪みが収縮を始め、
ただでさえクーデルカにとっては意味不明な巨大生物なのに、
その潜口魚よりも歪みが大きくなっていく。
『頭は悪いようですね』
小さいクーデルカは意味不明な巨体が行うその様子を見守りながら鼻で不敵に笑い、
対処方法に頭を巡らせた。
ポシェントと合流したゼノウ達の戦闘風景を滑空しながら眺めていた。
「厄介ではありますが、
クーデルカ様の魔法で空間をある程度抑えれば回避は出来ておりますね」
『それも十全であれば抑えきれませんでした。
クーはどこまでもお父さまに助けられてばかりです』
クーデルカの後半の言葉は独り言に近い懺悔のような小ささで口にされたのだが、
メリーの耳には微かながら何を言ったのか理解するには十分な音量であった。
それでも何も言わないのは、
おそらく自分の所属するパーティーの中でその感想を胸に抱いて居ない者はいない。
だから何を言う必要もないのだ。
「リュースィ!」
『お任せあれ~!《ライトニング・・・バーストッ!》』
「ジャックスラストッ!」
潜口魚からの攻撃を避けたセーバーの掛け声に従い、
後方で指示を待っていた契約精霊のリュースィが掌を空へと向けると、
小規模の雷雲がいくつか発生して渦を巻きながら一瞬で潜口魚の真上で一塊となり、
詠唱の続きと手を振り下ろす動作に従い強力な雷が轟音と共に降り注ぎ動きを止める。
その隙に回避の動作から復帰したセーバーが近接の中でも最も素早い斬り付けが出来る剣技で大きな剣を振りきって潜口魚にダメージを与える。
「着地可能高度になりました」
『こちらも攻撃を加えられる内にしておきましょう』
「かしこまりました。タイプ:光狩圏!ん、ふっ!」
元の魔法名は[虚空暗器]。
先ほどまではマフラーとしてメリーに装着され滑空を手助けしていた影の魔法は、
メリーの詠唱を切っ掛けにして姿を大きなチャクラムに似た武器へと変化させ、
中国では圏と呼ばれるその武器をメリーは落下速度が上がった空中にて投擲する。
しゅるるるるる・・・るるるるるっ!
と非力なメリーが投げた割には高速回転の音を鳴らしながら、
つい今し方セーバーに切り裂かれた潜口魚の背から斬り上がる。
『戻ったか・・・。ひとまず被害は出ていないと報告しておこう』
「短い時間でしたが疲れが見えておりますね」
『クーデルカの魔法があっても一瞬の遅延を産む程度しか期待は出来ない。
派遣されている以上は守りも疎かには出来ないだろう?』
光狩圏が潜口魚の身を削りながら体を駆け上がるなか、
トッ・・・と危なげなく地面に降り立ったメリー達の側にポシェントが疲れ眼で現れた。
『力不足で申し訳ありません』
『クーデルカの所為ではないだろう?
一瞬でも助かるのだから気に病む必要は無い』
『ありがとうございます』
感謝の言葉を述べつつもクーデルカは、
人差し指を挑発するかのようにクイクイと二度動かすと、
潜口魚を切り裂いた光狩圏がUターンしてメリーの元へと戻って来て再びマフラーとなってメリーの首元を覆った。
「・・・タイプ:箒」
メリーの次の詠唱に黒いマフラーが今度は漆黒の箒へと姿を変える。
『箒?それは武器なのか?』
「一応棍棒のカテゴリに入る立派な武器・・・の模倣品、でしょうか?」
『タイプ名の原型こそ本物の武器ですが、
中身は全く別物ですよ。これもお姉さまの真似事ですが』
ニルがクーデルカを好きなように、
クーデルカも姉のアクアを敬愛しているのは既に周知の事実だが、
今回の戦闘中にアクアが使った[おさかなさんソード]も現実には存在しない武器であり、
その基本構成を利用した魔法がクーデルカの虚空暗器となる。
以前アルシェが開発した[氷属性武器精製]は、
実際に存在する武器などの条件付けがあったのだが、
アクアとクーデルカの新たに開発した二種類の魔法武器は原型のないオリジナル武器となる。
その威力や効果は武器というよりは、
人工的なアーティファクトと言った方がこの世界の住人には理解を得られやすいだろう。
「私は潜口魚の空間削除を試みてみます。
戦闘に関してはクーデルカ様と協力して行ってくださいませ」
『戦闘への参加はしないのか?』
「いざとなればすぐ介入は可能です。
しかし、敵は弱りこちらは人数も多くなった関係で攻撃頻度が増加。
本来の役割に戻るだけですので」
『中央の戦闘に介入させない・・・だったか・・・。
このまま押していけば倒せそうなんだがな・・・』
『最低ラインの仕事が言われた介入させない、ですが。
倒せるなら倒すに越した事はありません。可能ならですけれど』
ここまでで一番ダメージを出したのは宗八の空間破壊。
次段にポシェントの戦技であるが、
一応ここまでの戦闘で大なり小なりのダメージは重ね続けているのに潜口魚があれから動きを悪くした様子がない。
「体力が規格外、防御力が規格外、攻撃方法も規格外。
鎧魚は素早く動く分体力が低い様に見受けられましたが、
対して潜口魚は素早く動かない上に当たれば存在を消される攻撃」
『空間に唯一対抗できるクー達が一瞬の足留めしか出来ない程度の力量差ですし、
あまり無理をして被害を出してはお父さまへ顔向け出来ません』
視界の中では戦闘は継続されており、
クーが先に設置しておいた[反転世界]の遅延にて辛うじて回避しているし、
本当に危ないと感じた時はセーバーの契約精霊であるリュースィが魔法にて突き飛ばして避けさせている。
終わらないこの戦闘が続く事を考えると、
最後には動き回る体力と回避に集中する精神力のどちらも削り取られて、
最後は潜口魚の腹の中となるのがオチだ。
「《影縫》」
『問題点は他にもあります。
攻撃がどうしても中空に居る時や、
半分亜空間に潜った状態にしか行えないので威力が半減してしまいます』
『確かに。手応えが薄くなっている感は否めないな』
メリーが地面を箒で掃きながらも支援の影縫を地面に再設置を行い、
もっと視覚的に位置が把握しやすいようにとばらまいてゆく。
『クーデルカには宗八の技は使えないのか?』
『ポシェント様もわかっておいででしょう?
クー達精霊は表属性に適正があって人間が裏属性に適正がある事を』
『それでも小規模の魔法は使えるだろう?』
『裏属性の魔法の中でも上位となる闇の時空・光の反射・土の重力は扱いが難しいです。
もしもクーが使うにしてもそちらに集中する必要が出て支援が止まります』
クーデルカが空間破壊を行うにしても、
魔法が不得手なメリーとしかシンクロが出来ない現状では、
どうしても無理が出てしまう上に規模も小さく、
宗八とノイティミルが起こしたあの規模にはどうしても出来ない。
小さく発動したとしても、
あの魔法は先に範囲を固定してから砕く為、
避けられる可能性が多大にあった。
つまり、宗八が発動した広範囲で無ければ意味がないのだ。
その時、
ドゴォオオオオオオォォォォァァァァンンンッ!!
と自分たちが居る巣とは反対側が爆発し、
遠くからでも見えたのは水の飛沫のようなものであった。
『中央は何が起きているんだ・・・』
『お父さまですね』
上空付近に見える飛沫から、
巣の外壁の厚さを知っているポシェントは軽い戦慄を覚えつつ、
中の様子を気にした言葉を口にしたが、
それに対して即答したのはクーデルカ。
「ですが、クーデルカ様。
ご主人様の手札にあそこまでの威力が出せる物はなかったかと」
『・・・おそらくですが、
こちらに来てから手に入った物と考えれば・・・龍の魔石でしょうか』
ニルは状況が状況だったのと頭がそこまで回らなかったので解答まで辿り着けなかったが、
流石に精霊姉妹の中でも屈指の一歩退いた目線を持ち、
宗八の侍女も目指すクーデルカは冷静な判断で答えに行き着いた。
「魔石は高濃度魔力を精製する為の道具だと聞いておりますが、
今日手にして扱う事など出来ますでしょうか?」
『高濃度魔力は魔法の扱いに特化した精霊でないと巧く扱えないはず。
俺は近接特化だからもちろん扱えても巧くはない』
『ですがアレは確かにお父さまの魔力ですし、
お父さまの水竜一閃で間違い有りません。
どうにかして龍の魔石を用いて強化をされたのでしょう』
興味が引かれているポシェントに比べると、
クーデルカは落ち着いた様子で視線や意識も全く乱れず潜口魚の位置を追っている。
『あの威力が連発出来ればどんな強敵でもいずれ勝てそうだな』
「そう楽観できないのが私たちの相対している魔神族でございます」
『それに最大数も把握できて居りませんから、
一人にかかずらわる時間を長く設ける訳にもいきません。
理想はテンポ良く討伐、もしくは二人相手でも拮抗ですしね』
とりあえず、討伐するのは勇者の仕事だと考えがある宗八は、
あくまでモブキャラであろうとし、
すぐに倒されても色々都合が悪いので足留めの役割くらいはと思っている。
『なるほど、お前達も大変だな』
「私たちは端役の対応ですのでまだマシです」
『メインはお父さまとアルシェ様、それにアクア姉さまですね。
今回はノイ姉さまも参加されておりますが、
サブマスター次第でどうなるか・・・』
『あれが端役か』
『ユニークモンスターで有る事は否めませんが、
魔神族に比べれば端役に違いはありません。
実際、お父さまが相手をしていれば既に終わっているでしょうし』
クーデルカの言葉に苦笑いを浮かべるポシェント。
それでも宗八の空間破壊が、
最もダメージを与えたという事実を目の当たりにしている手前、
その言葉を否定する事は出来なかった。
『確かにその通りかも知れない』
「いってらっしゃいませ」
得心の入った声で納得をするとポシェントは、
戦場に向かってわざと足音を立てて駆け出す。
その背後からメリーが箒の動きを止めてお辞儀にて見送りの言葉を投げかけた。
『効果は見込めますね』
「時間は掛かりますがなんとか。
侵入する程度であれば空けられましたがどう致しますか?」
『時間を稼ぐにしろ一つのミスが命取りです。
メリーさんさえよろしければ危険ですが突入したいと思っています』
メリーの足下にいつの間にか空いた黒い穴。
それを見つめながらメリーに訊ねられクーデルカは回答する。
突如出現した黒い穴の正体は、
潜口魚が潜り隠れている亜空間への裏口であり、
それを空ける為に[ダーケンブルーム]で亜空間表面を[掃く]という行為が必要で、
時間稼ぎをするセーバーやゼノウ達が合流しなければ実行する事の出来なかった戦術であった。
「もちろん。
私の主人は水無月宗八様とアルカンシェ様。
そして私はクーデルカ様のサブマスターですから」
『ありがとうございます。
地表の[反転世界]は止める事は出来ませんが・・・』
「その程度であれば問題ないかと。
私も伊達に魔法の訓練を行っておりませんので」
潜口魚の気配を追い続け観察をしていたクーデルカは気付いていた。
あの魚が未だに中央に戻れないかと様子を伺っている事を・・・。
『確実に希望を断つ為に行きましょう』
「かしこまりました。
すぅ~、皆様っ!!地表はお任せ致しますっ!!」
突入を覚悟したメリーはこれ以上の手助けが出来ない事を知らせる為、
息を大きく吸い込むと、
現在潜口魚と直接斬り合いをしている四人に向けて声を張り上げ離れる事を伝える。
「了解っ!」
「何するかわかんねぇけどっ!了解!」
『クー、頑張って下さいね~』
『・・・・』
ゼノウ、ライナー、リュースィの返事と声援。
そしてポシェントの頷きを確認してからメリーとクーデルカは足下に開いた入り口に飛び降りる。
地面の表層に開いた穴であるが、
その行き着く先は当然単純に地面の中というわけではなく、
視界は一瞬で見た事もない空間へと変化する。
自分たちが使う影倉庫や、
ポルタフォールで見た亜空間は内部が真っ黒な事に対し、
潜口魚が所有する空間は紫色に近い揺らめく空間となっていた。
「タイプ:双剣。
少し浮遊感がありますね」
『重力が地上と違って軽いのですね。
振りは問題ありませんか?』
「問題ありません。戦闘継続は可能と判断致します」
着地と共に箒から双剣に得物を変更したメリーが、
クーデルカの確認に対し握りと振りを軽く調べたところで答える。
『《閻手》』
上の方に波紋が広がり魚の下半身と思しきものが何もない空中から突如生え、
地上を攻撃しているのであろうバタつきを視認しつつ、
メリーにその役割を任せてクーデルカは魚とは反対の空間へと閻手を伸ばして距離を測ってみる。
「如何ですか?」
『驚くほど広くて戦闘には申し分ありません。
時空関係は一切発動できませんが』
広さに関しては力量差を感じざるを得ないが、
時空魔法に関して言えば予想の範疇であったクーデルカは淡々と答える。
この空間の発生源は潜口魚であるが故に、
ここは自分たちに取ってはアウェーで有る為、
空間の支配は99対1と言っても過言ではない。
もし100対0であれば侵入すら出来なかったはずなので、
1とは侵入し存在出来ている点からの考えだ。
ドオォォォォォォン・・・・・
上方から低くくぐもった音が空間全体にわずかに振動として響いてきた。
その音に合わせて潜口魚が横向きに吹き飛ばされた事から、
おそらく音の発生源は地上であり、
いま正に攻撃が当たったのだと理解する。
『まるで水の中にいるみたいです』
「体は軽いのに音は響かず魚が自由に泳いでいる・・・。
まるで異世界ですね」
『間違いではないのでは?
亜空間なわけですから潜口魚の世界と言えなくはありません・・・あ、気づきましたね』
「世界を支配している割にはのんびりしておりますね」
波紋から顔を亜空間へと戻してきた潜口魚は、
ようやっとこちらの存在に気が付いたらしく、
ゆったりとした回頭から一気に自分たちのいる最下層まで降りてくると、
あの巨体のくせに様子見を始めた。
睥睨する二組。
チャキ・・・。
左手を前に突き出し右手は顔の横に双剣の構えを取るメリー。
『前衛はお任せします』
「かしこまりました」
前衛と言ってもメリーのSTRや本来の筋力ではあの巨体を抑えることは出来ないし、
一撃の重さもなく軽い連撃を繰り返す双剣では、
対して効果的なダメージには繋がらないだろう。
ただし、こちらは仲間が地上にもいるので、
上に逃げても下に逃げてもずっと追いかけ回す事が出来るから体力の回復させる隙を減らすという意味合いもある。
「すぅーーー・・・・」
いつも後衛で支援しか行って居なかったメリーが、
アルシェと宗八に付いて旅を始めてから・・・。
「はぁああああああああ・・・」
それこそこんな大物と相対するのは今回が初陣となる。
元は戦うつもりなどは無く生活部分を支える為の同行であったのにどうしてこうなったのか・・・。
でも、今は主人である宗八の命令であり、
そのご息女で自分のパートナーであるクーデルカが共に戦おうと言っている。
「どこまで・・・出来ますでしょうか・・・」
ゴクリと喉を鳴らし思わず溢した小さな声に返事を返す者は誰もいなかった。
* * * * *
『来ますっ!空間歪曲!魔法・・に似てはいますが・・・』
「クーデルカ様の感覚をお借り致しますっ!」
潜口魚の周辺空間に徐々に、段々と、
小さな歪みがいくつも広がっていく。
数が増えるごとにクーデルカの耳と尻尾が逆立っていく。
『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
魚が吠える。
大きな口を広げていくつも線引かれていたエラが一斉に開いて震える。
その咆哮を合図に歪みが次々と出現元を離れ、
メリーたちへと向かって射出されていく。
「《闇食みっ!》乱れっ!」
双剣の利点である二振りによる連撃。
さらに既存の武器と違ってクーデルカ渾身のオリジナルの武器なので、
メリーが最も振りやすい剣身、剣幅のメリー専用の二振りの片手剣。
双剣から放たれるは黒い一閃。
と、までは整っておらず揺らめきの残る一閃が見えぬ弾丸をひとつひとつ撃ち落としていく。
『相殺出来ていますっ!』
「ということは、初級魔法ランク。数だけ多いタイプですねっ!」
魔法を食い殺し魔力へと変換して吸収する。
それが[闇食み]なのだが、
一向に魔力が回復する様子はないので殺しは出来ても吸収は出来ていないのだろう。
「前に出ます」
『《闇縛り!》』
地上の太陽光が反映されているのか、
この亜空間には影が出来ている為、
クーデルカの本懐でもある闇魔法は使用が可能であった。
亜空間下部まで降りてきていた潜口魚は自身が作り出した大きな影から幾重にも伸びてきた闇の手に絡め取られ身動きが鈍くなる。
鈍くなるだけで止める事は出来なかった。
それでもうっとおしく思ったのか、
潜口魚はエラから息を吸い込んで身体を膨らませると、
どこからともなく『ブブブブブブブブ』という低い振動音を発した。
『時空振動!防御態勢!』
「タイプ:ダインスレイフ!」
クーデルカの忠告に従い、
メリーは双剣から両手剣へと直ぐさま[虚空暗器]を切り替えると、
地面?へと突き刺してそれを背に隠れる。
瞬間。亜空間内に視認できない爆発が起こり、
クーデルカが設置した闇縛りは全て吹き飛び、
メリーも両手剣と諸共に吹き飛ばされそうな勢いに対抗してなんとかその場に踏みとどまった。
「地表では見られなかった行動ですね」
『自分のテリトリーである亜空間などの支配域でなければ利用が出来ないという事かと。
・・・念のためお父さまに報告しておきましょう』
地表で今回の時空震を起こされていれば、
影縫や反転世界で足留めしようが、
事前に破壊することは出来ていただろうし、
何より支援メンバーが接近する事も困難となっていた。
そしてここまで広大な自身の世界を持っておきながら、
地表の空間を支配出来ないとは思えない。
という事を鑑みてクーデルカは自分の持ちうる手札からその可能性を最愛の父親へと念話で連絡した。
『GUUUGAAAAAッ!!!』
こちらが思考を巡らせていても潜口魚には関係の無い事。
先ほどと同じ雄叫びを容赦なくあげて、
再び時空の歪みが幾重にも周囲に広がる。
視線の先はクーデルカ。
「クーデルカ様っ!」
『威力は先ほど計りましたので問題ありません。
メリーさんはそのまま接近をお願いします』
「っ!かしこまりました!タイプ:双剣」
全てがクーデルカに向かうわけではない事に気付いたメリーは、
クーデルカの言葉を信じて役割を全うする為にこの隙に急接近を謀る。
『《シャドーエッジ!》』
姉のアクアの後を追うクーデルカにとって、
姉の使える魔法は妹も使ってみたい、欲しいとどの世界の姉妹も同じであった。
結果。
アクアだけが使うわけではないが選ばれたのは[アイシクルエッジ]。
使用方法はアルカンシェを参考にし、
攻撃ではなく防御魔法へと特化させたクーデルカらしい魔法として昇華された。
『GUAAAAAAAAAAAAAA!!』
クーデルカの影が自前の影の何倍も広がりきったところで、
再度の咆哮を合図に撃ち放たれる無数の時空弾。
しかも、先ほどと違い集弾性を上げて来ており、
弾のほとんどがしっかりと最低でも擦るレベルにまで調整されていた。
『《編盾!》』
クーデルカが詠唱をしながら両の手を前方に構え、
小さな指と指を重ね合わせて編み目を作ると、
クーデルカを守る為に無数の闇の手が目の前で編み込まれていき、
分厚い布のような盾を作り出した。
弾が当たる度に布の盾は弛む。
クーデルカの構えた手も衝撃を受けるように何かに押され前後している。
それでも盾はしっかりとクーデルカを守り、
未だひとつたりとも通しては居ない。
『GUU・・GUU・・・』
死角からはメリーが近づいていることも察している潜口魚は、
攻撃が通らない様子に業を煮やし頭を左右に一度ずつ振るうと、
撃ち込まれていた魔法が一方向からではなくさらに左右に分かれ、
合計三方向から容赦なく撃ち込まれ始める。
『ふふふ、それは予想の範疇です。
《水分》二連!』
一方向ではなくなった時空弾の攻撃はDPSが極端に落ちる。
そうなればクーデルカが支えるまでもなくちゃんと機能して盾として全う出来るので、
編み目を作っていた両手を離し、
代わりに左右へと両手を貫手で広げて次の詠唱を唱える。
次に影が作り出すのは至極シンプルな形。
山から流れてきた水を分岐させるように山折りの影が二枚。
その傾斜に当たった時空弾は、
その流れに沿って二方向からの攻撃が四方向へと分けられ集弾性を下げられる。
そうなれば、
防御魔法へと昇華された[シャドーエッジ]が、
影の上を通過しようとする攻撃性のある全てを刺突にて綺麗に潰して行く。
『メリーさん!』
[編盾]と[水分]と[シャドーエッジ]にて完璧に潜口魚の時空弾を相殺しきったクーデルカ。
しかし、受け身ばかりでは勝てる勝負も勝てない。
次は攻撃役の番とばかりにメリーの名を呼ぶ。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自身に向かって来た時空弾は全て黒い双剣で斬り捨て、
挨拶代わりに加速を活かした最高速での刺突。
続けて両腕を広げた薙ぎ払いをお見舞いするが、
刺さりはするのに傷口は広がらない。
かまわず身体を独楽のように回転させて双剣による連撃を加えつつ、
位置をズラして行き一カ所に留まらないように意識した動きで縦横無尽に潜口魚を斬りつけていく。
潜口魚も黙って死角からDPSを上げられ続けるわけになく、
ヒレやのし掛かりによる抵抗を見せるものの素早い身のこなしに付いてこられていない。
大きく動き出そうとすればクーデルカの支援が入りバインドで止められる。
ブブブブブ・・・
魔力の発生はない。さっきの発動時もなかった。
それでも耳にははっきりと残り覚えている。
「タイプ:箒!《ほうき星っ!》」
『《編盾!》二連!』
ほとんど隙のない接近をしていたメリーの影から幾重にも伸びる闇の手が重なり合い、
漆黒の箒にまとわり付くと流れ星の如く後方へと伸びて行き、
潜口魚から一気に距離を取る。
とはいえ緊急脱出に使用した為、
背面が地面と鉢合わせした状態で後退していた。
そしてそれぞれの間に一枚ずつ盾を発生させたクーデルカによって、
衝撃と爆風が届かないようにと配慮する。
『空間凝縮!狙いは・・・クーです!』
「死角に回りますっ!」
潜口魚は再び大きく開いた口元に、
先ほどまでの攻撃とは比較にならない規模の歪みが収縮を始め、
ただでさえクーデルカにとっては意味不明な巨大生物なのに、
その潜口魚よりも歪みが大きくなっていく。
『頭は悪いようですね』
小さいクーデルカは意味不明な巨体が行うその様子を見守りながら鼻で不敵に笑い、
対処方法に頭を巡らせた。
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