特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第13章 -1st_Wナユタの世界-

†第13章† -12話-[臨界]

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 フォレストトーレから戻って翌日。本当に拳聖けんせいエゥグーリア=ワグナールはやってきた。

「マジで来たんですね……」
「王女殿下と話は合わせていたからな。
 手が空いているのに諸君らが来ないならこちらから出向くのが筋」

 筋じゃないと思うよ。
 こっちが結果的に約束を反故する結果に繋がってるんだしエゥグーリアは相手にする必要はないんだ。本心は骨のある相手と拳を交えたいからだとわかっているけど余計な事は言わないよ、お互いに利がある話だしね。

「あっちで訓練しているから好きなのを選んで相手してやってください。
 一応弱い者の引き上げもお願いしたい」
「了承した。手前に出来る限り協力しよう」

 そう言葉を残すと彼は嬉々として歩き始めた。アーグエングリンから誰も引き連れずに単独でこちらに来た彼の扱いには細心の注意が必要になるものの個人の戦闘力は抜群に高いし激情家でもないから普通に賓客扱いで問題ないだろう。
 それよりも問題は異世界のヒビに発生していた。

「時々あちら側から殴られている?」
「儂も初めての事です。おかげで臨界は早まりそうですな。
 もしかすれば二~三日で人が通れるほどの穴になるかもしれませぬ」

 ヒビは時間を経るごとに大きく伸びていき、すでに浮遊瘴気精霊はこちらに出てきてしまっているそうだ。
 ノイとベルと共に開発していた光属性と地属性を合わせた複合魔法を土精ヴィルトゲンや土精ファレーノに魔法式を伝えて使用できるようにしていたからさっそく浮遊瘴気精霊は浄化してもらっている。

「ともかくローテーションで監視はしているし気を回し過ぎる必要はないです。
 繋がると同時に魔神族の妨害もあるかもしれませんから様子見程度の心持ちでお願いします」
「分かり申した」

 剣聖けんせいセプテマ氏の報告に警戒心は上げておき一先ず臨界を迎えていないのであれば手の施しようが……無いわけじゃないけど強制的に開くよりは時間稼ぎがしたいから放置一択だ。
 セプテマ氏とはこのまま別れ、エルダードワーフとドラゴドワーフの村を訪れて身支度が整い次第フォレストトーレ元王都に送る旨を伝えて回りその日は終わった。


 * * * * *
 そして翌日。異世界の穴はさらに広がりを見せ浮遊瘴気精霊だけでなく好戦的な瘴気精霊までこちらの世界に這い出始めた。
 とはいえ戦闘力云々はほとんど無く生命体に寄生する事を目的とした存在なので気を付けて浄化すればこれも問題は無い。ただし、基本が精神体の精霊や竜と出会う前に精神抵抗を持つ人間が対処する必要が出た。
 そっちは仲間に人間が多い事から特に問題も無いが明日にも臨界しそうな異世界を警戒して地竜と現地人のドワーフ達の移動を急ぐことになった。

「こちらがフォレストトーレ王ラフィート様より渡すように言付かっている手紙となります」
「拝見致します。少々お待ちを」

 元王都にまずは俺だけで訪問し現場監督と名乗る男性にラフィートからの手紙を渡す。
 すでに話は通してあるとラフィートは言っていたけどラフィートが現地に居ない以上配置された者たちが勝手をする可能性もあるからちょっと緊張の面持ちで返事を待つ。

「確かにラフィート様からの手紙でした。
 予定通り復興手伝いをしていただく代わりに少しの間匿う事を約束いたします」
「ありがとうございます。
 どこに[ゲート]を繋げればいいか案内してもらえますか?」
「わかりました。付いてきてください」

 監督に連れて行かれた先は元王都の中心地にほど近い場所だった。
 現在は中心部に慰霊碑が最優先で作成されており、その周囲だけは瓦礫の撤去なども進んでいて広場となっていた。
 この広さなら多少手狭でもドワーフ達の生活に苦労はないだろう。竜達は瓦礫があっても地竜らしい頑丈な身体で気にせず生活できるだろうし驚かない様に周知してから広めのゲートを開いた。

 先頭でゲートを潜ったのはエルダードワーフ代理村長のソニューザ、そして恋人のドラゴドワーフのネフィリナの二人だ。
 彼らが通った後から続々とそれぞれのドワーフが物珍しそうにキョロキョロしながら続いてこちらへと移動して来る。最後には地響きと共に地竜が移動して来た事に多少混乱も見受けられたが現場監督や責任者などが声を張り上げ叱責した事で程なくして混乱は収まった。
 とはいえ流石に物語にしか出てこない竜を己が瞳で拝めたことで別の意味で騒動が発生しそうな気配もある。

「じゃあ…どうする?今日だけなら残って見守っても良いけど」
「いや、ここまで助けてもらっておいて甘え過ぎも考え物だ。
 宗八そうはちは成すべきことがあるしそれは俺たちの島を守る事に繋がるならそちらを優先してほしい」
「その点はソニューザに同意だね。
 私達だって不安を大なり小なり抱えているけど協力して生活するなら自分達で立たなきゃね。私達に出来ない事はアンタに任せるしかないってのは正直心苦しいけどさ、代わりに頑張って頂戴よ」
「応。グリーズもこのままこちらに残るで大丈夫ですか?」

 一応気を回してソニューザ達に声を掛けたけど一蹴された。
 まぁあまり構い過ぎるのも良くない上に向上心があるなら彼らに任せても問題ないだろう。現場監督たちもラフィートから再三扱いには注意するように言い含めてあるようだし。
 最後はグリーズ。地竜アースの王様なら配下の為にもこちらに残るべきだろう?

『もちろん約束通りこのまま残りますよ。
 付いて回ったこの数日は実に楽しかった。事件が解決した後にまた折を見てついて回らせてもらっても良いですか?』
「フリューネが居るんだからもう一匹増える程度なんてことはないですよ。
 全てが解決次第迎えに来ますから現地の人間やドワーフ達と上手く共生してくださいね」
『温厚な私を怒らせたら大したものですよ。ましてや戦士でもない人間の言葉や攻撃で私達が相手をするなど有り得ません。が、肝に銘じておきましょう』

 続いて小型になって肩に乗っているクラウディーナを持ち上げて問いかけた。

「グリーズは切りが良いから離れるけどクラウディーナはどうします?」
『裂け目は確認出来ましたしこれで離れてもいいのでしょうが何やら胸騒ぎがして……。あちらまで付いて行くつもりはありませんが明日まで付き合ってもよろしいですか?』
「まぁ危険が無ければ越したことはないですけど、白竜の胸騒ぎを無視する訳にもいきません。明日を過ぎたら送りますので」
『わかりました』

 返事をしたクラウディーナは俺の手から飛び立ち再び肩に戻って来た。
 白竜が別れないとわかったのでここでの役割は完了したと判断してソニューザと話し合っていた現場監督に声掛けして離れよう。

「それでは少しの間よろしくお願いしますね。では!」

 こうして地竜の島に住むエルダードワーフ・ドラゴドワーフ・竜の避難は完了した。
 そこまで待たせるつもりは無いけど出来る限り早く解決して元の生活に戻れるように頑張らなくては、な。


 * * * * *
 そして運命の日。
 朝から異様なプレッシャーの掛かる重苦しい空気の中、俺たちは異世界の入り口前に集合していた。

「このプレッシャー。苛刻かこくのシュティーナか?」
「クーちゃんや入口を安定化させる為に来てくれた闇精の方々の意見ではそうなってますね。
 お兄さんはこの状況をどのように見ていますか?」

 昨晩から異世界の入り口から瘴気が漏れ出てくる事はあってもピタッと瘴気精霊たちの侵攻は止まった。
 そして朝から島全体に掛かるプレッシャーに全員が混乱しつつ予定通りに入口周辺に陣取る中でアルシェが傍で質問して来た。

「シュティーナの目的は破滅からの解放。だから破滅側の仕事もしつつこちらに助力しようとするはずなんだけど……、こうも分かりやすい攻勢合図なら臨界と共に何か一発仕掛けてくるんだろうな」
「だからその対応をしなさいって意図ですか?
 シュティーナと言えばオベリスクでしょうか……」
「俺もそれを考えた。だけど今までみたいに数本程度落としたところで……」


「効果は無いって言いたいのでしょう? ざんね~ん!」


 アルシェとの会話に挟まる覚えのある声と同時に一瞬にして複数の影が島全体に発生して全員が見上げる空には夥しい数のオベリスクが射出されるのを今か今かと待っている様にも見えた。

「シュティーナッ‼」
「全員臨戦態勢!オベリスクを優先して叩いてくださいっ‼」

「はい、スタ~トォ‼」
「《無精霊纏エレメンタライズ‼》」
「《ユニゾン‼》」
「《ユニゾン‼》」
「《ユニゾン‼》」
「《ユニゾン‼》」

 アルシェの指示とシュティーナの掛け声、そしてバリィィィィンッ‼と異世界の入り口が大きく砕けて人が複数人で行き来出来る程度に一気に広がる音が混じり合い臨界は唐突に訪れ戦端は開かれた。
 どうやらシュティーナは視線や意識をオベリスクに向けさせた際に仕掛けを施し地面へとオベリスクを降り注ぐと同時に入口を広げたらしい。

「——っ!隊長!メルケルスですっ‼」
「何っ‼」

 前衛後衛でペアを組んでいると思っていたがまさか出て来るとは…。
 マリエルの叫びにも似た大声に反応するも轟音をまき散らしながら俺たちには目もくれずナユタの世界へと突っ込んで行ってしまった。
 これであちらでの戦闘は魔神族二人を相手取る必要が確定したわけだ。

「すぐに突入しますかっ!?」
「バカタレ!先にこっちのオべリスクを掃除しないと防衛に不安が残る!
 俺たちは這い出て来る瘴気モンスターや瘴気精霊を潰しつつ皆がオベリスクの掃除が終わるのを待つぞ!アルシェ!」
「すでに動き出しています。私達は疲れない程度に慣らすことを優先しますよマリエル!
 タルちゃんもここに残ってくださいね!」
「わかったのだ~!」

 俺たちが仲間に指示出しをし這い出て来た敵の対処を始めた頃にはすでに苛刻かこくのシュティーナの姿は影も形も見えなくなっていた。今回の役目はオベリスクの投下、入口の拡大、メルケルス突入支援といったところか?
 それならそれで良い。ともかく此処さえ乗り切ればあとはゆっくり侵攻していくだけになるはずだ。準備は十分に出来ているのだから落ち着いて事に当たれば俺たちなら大丈夫だ!さぁ、ナユタの世界!攻略するぞっ!
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