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第13章 -1st_Wナユタの世界-
†第13章† -33話-[エピローグ-アルシェ-]
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「ZZZZZZzzzzzz……。ZZZZZZzzzzzz……」
大きな部屋の大きなベッド。その中心で寝息を立てているのは愛する私のお兄さん。
その周りにはアニマル体となったアクアちゃん達がそれぞれの定位置でお兄さんを囲って眠っている。
ナユタの世界から私達だけが先に戻り、お兄さんが帰って来るまでに実に三日の期間が開いていた。
こちらの世界へとひどく疲れた様子で現れた時は安堵と心配が入り交じり抱き着いてしまいましたが、お兄さん達は[精霊纏]を解くとすぐに寝室へと案内され一瞬で寝付いてしまった。
詳しい事はお兄さんたちが目覚めてから聞くことになるでしょう。
私達もお兄さんに説明しなければならない問題を抱えていますから、早く、元気になって目覚めてくださいね。
* * * * *
——時は、世界樹のバリアが消失する時間軸まで遡る。
「姫様ぁ~、マリエル到着しました!メリーさんもお疲れ様です!」
「来たわね。状況が動くまでしばらくはここに留まるからお互いをカバー出来るように意識しておいてね」
「りょ~かいです!」
現在、私達は精霊と共に行動をしていない。
だから戦力も自分のステータスと技術頼りとなっている。ここは敵地の中心部。何が起こっても対処出来るようにメリーと合流したマリエルと協力して自分達の身を守らなければならない。
合流した後はマリエルと情報を交換しながら世界樹の動向を見守っていました。が、突然[揺蕩う唄]からお兄さんの深刻な呼びかけが聞こえてきました。
〔見えているか?〕
誰に問いかけているかわからない問い掛け。
基本的にコールで話す時は誰に向けた言葉かはっきりさせる為に名前を先に呼ぶ。お兄さんが決めた事だ。
おそらく信じられない様な何かを見て口を衝いて出たのでしょう。相手は子供達かしら……。
「アルシェ様」
「世界樹が震えているわね。身を低くして様子を見ましょう」
世界樹の振動に合わせて光が明滅する。
お兄さんの言葉は続けて世界樹外に居るメンバーへ問い掛け始めた。
〔フランザ達はどうだっ!?アレが見えているか!?〕
〔は、はい!アレとは、黒いミミズの様な、蛇の様なアレの事で間違いありませんよねっ!?〕
〔そうだ!見えていない者はいるか!?〕
ミミズ?
会話に少しの間が広がる。フランザが周囲のメンバーへ確認を取っているのでしょう。
〔……タルテューフォと拳聖エゥグーリア様は見えていない様ですが感じ取れる様です。この地の者は何も……。
——アレは……何ですか?〕
〔アルシェ達は何ともないか?〕
「無事ではありますが、世界樹が尋常ではないほどに震えています…。
外から見えているソレは世界樹から何かを無理やり剥がしているのではありませんか?」
私の返答を咀嚼するようにお兄さんは一時黙り込むと言葉を続けた。
〔呼びかけの方はどうだった?〕
「反応はありませんでした、が、個人的な意見で言えば意識が希薄なだけで意思はあると思っています」
〔アレが完全に抜けたら意思が戻るかもしれない。その時にまた声掛けを頼む。
ただし危険と判断した場合は安全第一を優先してゲートに戻れ。場所はマリエルが知っている〕
「わかりました」
マリエルも何かを感じ取っているのか世界樹に触れ思案顔をしてながらキョロキョロと見渡している。
続々と報告が飛び交うコールの会話を聞きながら変わらず声掛けも続けてみましたが世界樹からの返答はありません。
そんな中ついにバリアの収縮が始まりました。
〔アルカンシェ様、急速にバリアが収縮し始めました。
我々はゲート周りまで下がり防衛に務めますがよろしいですか?〕
「宜しくお願いします。セーバーは前に出る必要があるでしょう?
指揮系統はフランザに任せて防衛に専念しなさい」
〔了解です。アルカンシェ様方も戻りが難しい様ならゼノウかトワインに連絡ください〕
「わかりました」
ミミズの様な何かが世界樹から抜ける際に世界樹の力を引っ張り出している。
しかも無理やり強引な手段で引き剝がしているから世界樹が悲鳴は上げて、痛がって、震えている。
ただ、力を失うにつれて世界樹の意識が浮上して来た。そう感じるのは何故だろう?
「私の声は届いていますか!聞こえていますか?私の声にお答えください!」
何度目かの問い掛け。それでも世界樹は何も返してはくれない。
「姫様。それでは世界樹に姫様の声は届かないですよ。
この世界樹……雷属性です。ぐす」
「マリエル、どういう事? って、なんで貴女泣いてるの!?」
「属性相性が良くて同調したんでしょうか……。
言葉ではなく世界樹の感情が流れ込んで来て……。ぐすっ。人々を守れなかった事、ナユタを利用された事、他世界に被害を出した事。世界樹にとっては、ぐずっ、破滅に取り込まれた事はやっぱり不本意な出来事だったみたいです」
「じゃあ泣いている所申し訳ないけれど、世界樹とのコミュニケーションはマリエルに任せます。
瘴気とモンスターの対応は私とメリーで行いますよ」
「う”い」
涙を乱暴に拭い震える声で返事をしたマリエルは幹の内部に手を添えながら瞑想に入った。
メリーも私の命令に従い迎撃の構えを見せる。
「《アイスブリザード!》」
バリアが失せた場所はすぐさま瘴気が流れ込んで来ており、ゲート周辺はお兄さんの光魔法で守られているものの世界樹内部には容赦なく流れ込んできた。
マリエルの手が空いていれば風魔法で対処してもらう所だけれど、今回の彼女の役割は替えが効かない。
ならば魔法が不得手なメリーではなく私がこの場を変わる必要があるでしょう。
収縮したバリアはナユタを取り込んでいる中心部の小範囲のみを残すのみとなった。
吹雪が押し寄せる瘴気を防ぎ、雪崩れ込んでくるモンスターの足と身体を凍えさせる。
その隙をメリーは見逃さず3本の通路を満遍なく動き回ってモンスターを片付けていく。
もちろんメリーにばかり負担を掛けられないので私自身も氷の飛礫を撃ち、敵を穿ち数を減らす。
その間にマリエルは世界樹との交信を続けた。
「——どうか。安らかな眠りを」
マリエルが何かを呟くと残ったバリアが粒子へと変わり、その粒子は2つの流れを取った。
一つはマリエルへ、もう一つはナユタへと吸い込まれて行く。
続いてナユタにも変化があった。彼を取り込んでいた樹脂がドパンッと溶け、絡まっていた樹木も解けて行く。
外のミミズが世界樹から出た後は振動は治まったものの内部を照らしていた光は弱弱しく。世界樹の寿命が残り僅かだと感じられていた。その僅かに残っていた生命が今。
「——姫様。世界樹は亡くなりました」
「そうですか……。お疲れ様です、マリエル。
詳しい話は後程聞きますがまず脱出が先です。世界樹の願いなど伝言はあるかしら?」
「生贄となったナユタは生きているそうなので彼の保護を希望されています」
「わかったわ。ゼノウ、トワイン!聞こえているでしょう? 迎えに来てください」
〔すぐに参ります〕
マリエルの言葉を聞いてすぐに指示を飛ばした。
メリーは状況を見極めてマリエルへ一言二言伝えるとナユタ少年を中心部から引っ張り出して布で包み始めた。
マリエルもメリーと交代してモンスターを倒し始める。
少し待てばゲートに近い通路にゼノウとトワインの救援部隊が到着したので吹雪を抑えて向かい入れた。
「アルカンシェ様、お待たせしました」
「ご苦労様です。ナユタの本体を連れ帰る事になったのでフォローをお願い」
「メリーさんが抱えるのですね。わかりました。
アルカンシェ様は氷で他通路を塞いで挟撃を防いでください。突破される前に世界樹から脱出しましょう」
「ゼノウとマリエルが前衛、メリーが真ん中で後衛にトワインと私ですね。行きますよ!」
お兄さんの光魔法のおかげで残した通路から来るモンスターは全て弱体化していた為、計画通りに脱出に成功。
そのままセーバー達ゲート防衛組と合流してナユタはとりあえずメリーに任せて私達は戦況の見極めを始めた。
住民の脱出は完了した。この世界に残る事を決めた住民の守りに裂けるほどこちらの戦力は無いので見捨てるしか選択肢はなかった。
形を残していた住宅は潰され、足蹴にされ、住民の悲鳴が微かに聞こえるけれどモンスターの奇声にかき消された。
空を見上げれば雲間を雷が走っているのが見えた。
全てが同じ方向から走って来るから、おそらくあの先でお兄さんと魔神族ナユタが戦っているのでしょう。
「——っ!!?全員警戒!一閃の流れ弾が来ますよ!」
雲に映る色は瘴気の色。空気中に漂う瘴気も相まって視認性は悪かった。
そんな雲のキャンバスが真っ赤に染まったのだ。瘴気を散らし、雲を消し去る一閃が雷の先から飛んできた。
全員がチラリと一閃に視線を向ける。今まで見たことの無いほど巨大な一閃。火とは思えない神々しい炎。
「「「「「あっ!」」」」」
声が重なった。
空を真紅に、美しく染め上げた一閃はそのまま世界樹へと飛んでいき、スパンと世界樹の上半分を斬り飛ばしてそのまま彼方へと消えてしまった。お兄さんにそんな意図はない。皆がわかっている。
でも、 気まずい空気が私達を支配してしまった。
* * * * *
——————————ッ!!!!!!!
世界中の音が一つの音にかき消された。
落雷の音でした。ただの落雷ではありません。世界が終わる、と誰もが無意識に想像するような。そんな落雷。
「皆、耳は大丈夫? 聞こえていますか?」
「私は大丈夫です」「私もです」
次々と無事の報告が聞こえてくる。
ただ全員が全員の感想として音の衝撃が凄まじ過ぎて身体の芯から振えたそうです。もちろん私も。
凄い轟音だった。あんな……。お兄さんは大丈夫でしょうか……。
「おわっ!?」
誰かの驚いた声に引き寄せられ視線を送ると。お兄さんが立っていた。
世界樹に背を向け、私が想いを馳せた戦場に向けて立っている。
私は駆け寄り声を掛けた。
「おかえりなさい、お兄さん。さっき遠くで凄い雷が落ちていましたけど、あれってナユタですか?」
「そうだよ。命からがら[影別荘]経由で戻ってきちゃった。
あれの影響でこれから本震も来るから向こうに避難しておいた方が良いぞ。立ってられないくらいの奴だから」
確かに若干大地が揺れている。この程度の揺れに今更危機感を抱いてはいなかったけれど……。
マリエルも心配していたのか勢いよく駆け寄って来た。
「避難は終わってます!隊長、よく無事でしたね!」
「いちいち規模が洒落にならんからこっちも無事で良かったよ。流れ弾とか飛んできて無いよな?」
………。
私も含めて全員が視線を逸らした。もしくは先頭に集中していますよって態で誤魔化している。
ナユタの攻撃の流れ弾は確かに飛んできていない。それはお兄さんが位置調整をしながら戦ったからだ。
でも……。観念した数名が世界樹に視線を送るとお兄さんも釣られて視線を移す。
「短くなってるっ!?なんでっ!?」
「えっと、お兄さんの一閃がですね…、えっと。斬り飛ばして通過して行きました」
「俺が被害出してるぅぅぅううううううっ!?」
「姫様と私達は世界樹から離れた後だったから影響はなかったですけどね。うわっ!本当に揺れが酷くなって来た」
困惑するお兄さんと話している短い間に揺れが変化していく。
「アルシェ様。ご主人様の言う通りあちらに移動しておきましょう」
「メリー…そうね。お兄さん、これだけは落ち着いて聞いてください」
未だに混乱の最中。取り乱しているお兄さんの頬を挟んで無理やり視線を交差させた。
落ち着いて戦闘出来るように。私達に出来る事はもう無いから。
頑張って。死なないで。帰ってきて。
「世界樹は死にました。お兄さんの一閃が来る前の話です。
この世界は放っておいても時期に滅びます。だから。 ——逃げ遅れないでくださいね」
「——あぁ。わかった」
大きな部屋の大きなベッド。その中心で寝息を立てているのは愛する私のお兄さん。
その周りにはアニマル体となったアクアちゃん達がそれぞれの定位置でお兄さんを囲って眠っている。
ナユタの世界から私達だけが先に戻り、お兄さんが帰って来るまでに実に三日の期間が開いていた。
こちらの世界へとひどく疲れた様子で現れた時は安堵と心配が入り交じり抱き着いてしまいましたが、お兄さん達は[精霊纏]を解くとすぐに寝室へと案内され一瞬で寝付いてしまった。
詳しい事はお兄さんたちが目覚めてから聞くことになるでしょう。
私達もお兄さんに説明しなければならない問題を抱えていますから、早く、元気になって目覚めてくださいね。
* * * * *
——時は、世界樹のバリアが消失する時間軸まで遡る。
「姫様ぁ~、マリエル到着しました!メリーさんもお疲れ様です!」
「来たわね。状況が動くまでしばらくはここに留まるからお互いをカバー出来るように意識しておいてね」
「りょ~かいです!」
現在、私達は精霊と共に行動をしていない。
だから戦力も自分のステータスと技術頼りとなっている。ここは敵地の中心部。何が起こっても対処出来るようにメリーと合流したマリエルと協力して自分達の身を守らなければならない。
合流した後はマリエルと情報を交換しながら世界樹の動向を見守っていました。が、突然[揺蕩う唄]からお兄さんの深刻な呼びかけが聞こえてきました。
〔見えているか?〕
誰に問いかけているかわからない問い掛け。
基本的にコールで話す時は誰に向けた言葉かはっきりさせる為に名前を先に呼ぶ。お兄さんが決めた事だ。
おそらく信じられない様な何かを見て口を衝いて出たのでしょう。相手は子供達かしら……。
「アルシェ様」
「世界樹が震えているわね。身を低くして様子を見ましょう」
世界樹の振動に合わせて光が明滅する。
お兄さんの言葉は続けて世界樹外に居るメンバーへ問い掛け始めた。
〔フランザ達はどうだっ!?アレが見えているか!?〕
〔は、はい!アレとは、黒いミミズの様な、蛇の様なアレの事で間違いありませんよねっ!?〕
〔そうだ!見えていない者はいるか!?〕
ミミズ?
会話に少しの間が広がる。フランザが周囲のメンバーへ確認を取っているのでしょう。
〔……タルテューフォと拳聖エゥグーリア様は見えていない様ですが感じ取れる様です。この地の者は何も……。
——アレは……何ですか?〕
〔アルシェ達は何ともないか?〕
「無事ではありますが、世界樹が尋常ではないほどに震えています…。
外から見えているソレは世界樹から何かを無理やり剥がしているのではありませんか?」
私の返答を咀嚼するようにお兄さんは一時黙り込むと言葉を続けた。
〔呼びかけの方はどうだった?〕
「反応はありませんでした、が、個人的な意見で言えば意識が希薄なだけで意思はあると思っています」
〔アレが完全に抜けたら意思が戻るかもしれない。その時にまた声掛けを頼む。
ただし危険と判断した場合は安全第一を優先してゲートに戻れ。場所はマリエルが知っている〕
「わかりました」
マリエルも何かを感じ取っているのか世界樹に触れ思案顔をしてながらキョロキョロと見渡している。
続々と報告が飛び交うコールの会話を聞きながら変わらず声掛けも続けてみましたが世界樹からの返答はありません。
そんな中ついにバリアの収縮が始まりました。
〔アルカンシェ様、急速にバリアが収縮し始めました。
我々はゲート周りまで下がり防衛に務めますがよろしいですか?〕
「宜しくお願いします。セーバーは前に出る必要があるでしょう?
指揮系統はフランザに任せて防衛に専念しなさい」
〔了解です。アルカンシェ様方も戻りが難しい様ならゼノウかトワインに連絡ください〕
「わかりました」
ミミズの様な何かが世界樹から抜ける際に世界樹の力を引っ張り出している。
しかも無理やり強引な手段で引き剝がしているから世界樹が悲鳴は上げて、痛がって、震えている。
ただ、力を失うにつれて世界樹の意識が浮上して来た。そう感じるのは何故だろう?
「私の声は届いていますか!聞こえていますか?私の声にお答えください!」
何度目かの問い掛け。それでも世界樹は何も返してはくれない。
「姫様。それでは世界樹に姫様の声は届かないですよ。
この世界樹……雷属性です。ぐす」
「マリエル、どういう事? って、なんで貴女泣いてるの!?」
「属性相性が良くて同調したんでしょうか……。
言葉ではなく世界樹の感情が流れ込んで来て……。ぐすっ。人々を守れなかった事、ナユタを利用された事、他世界に被害を出した事。世界樹にとっては、ぐずっ、破滅に取り込まれた事はやっぱり不本意な出来事だったみたいです」
「じゃあ泣いている所申し訳ないけれど、世界樹とのコミュニケーションはマリエルに任せます。
瘴気とモンスターの対応は私とメリーで行いますよ」
「う”い」
涙を乱暴に拭い震える声で返事をしたマリエルは幹の内部に手を添えながら瞑想に入った。
メリーも私の命令に従い迎撃の構えを見せる。
「《アイスブリザード!》」
バリアが失せた場所はすぐさま瘴気が流れ込んで来ており、ゲート周辺はお兄さんの光魔法で守られているものの世界樹内部には容赦なく流れ込んできた。
マリエルの手が空いていれば風魔法で対処してもらう所だけれど、今回の彼女の役割は替えが効かない。
ならば魔法が不得手なメリーではなく私がこの場を変わる必要があるでしょう。
収縮したバリアはナユタを取り込んでいる中心部の小範囲のみを残すのみとなった。
吹雪が押し寄せる瘴気を防ぎ、雪崩れ込んでくるモンスターの足と身体を凍えさせる。
その隙をメリーは見逃さず3本の通路を満遍なく動き回ってモンスターを片付けていく。
もちろんメリーにばかり負担を掛けられないので私自身も氷の飛礫を撃ち、敵を穿ち数を減らす。
その間にマリエルは世界樹との交信を続けた。
「——どうか。安らかな眠りを」
マリエルが何かを呟くと残ったバリアが粒子へと変わり、その粒子は2つの流れを取った。
一つはマリエルへ、もう一つはナユタへと吸い込まれて行く。
続いてナユタにも変化があった。彼を取り込んでいた樹脂がドパンッと溶け、絡まっていた樹木も解けて行く。
外のミミズが世界樹から出た後は振動は治まったものの内部を照らしていた光は弱弱しく。世界樹の寿命が残り僅かだと感じられていた。その僅かに残っていた生命が今。
「——姫様。世界樹は亡くなりました」
「そうですか……。お疲れ様です、マリエル。
詳しい話は後程聞きますがまず脱出が先です。世界樹の願いなど伝言はあるかしら?」
「生贄となったナユタは生きているそうなので彼の保護を希望されています」
「わかったわ。ゼノウ、トワイン!聞こえているでしょう? 迎えに来てください」
〔すぐに参ります〕
マリエルの言葉を聞いてすぐに指示を飛ばした。
メリーは状況を見極めてマリエルへ一言二言伝えるとナユタ少年を中心部から引っ張り出して布で包み始めた。
マリエルもメリーと交代してモンスターを倒し始める。
少し待てばゲートに近い通路にゼノウとトワインの救援部隊が到着したので吹雪を抑えて向かい入れた。
「アルカンシェ様、お待たせしました」
「ご苦労様です。ナユタの本体を連れ帰る事になったのでフォローをお願い」
「メリーさんが抱えるのですね。わかりました。
アルカンシェ様は氷で他通路を塞いで挟撃を防いでください。突破される前に世界樹から脱出しましょう」
「ゼノウとマリエルが前衛、メリーが真ん中で後衛にトワインと私ですね。行きますよ!」
お兄さんの光魔法のおかげで残した通路から来るモンスターは全て弱体化していた為、計画通りに脱出に成功。
そのままセーバー達ゲート防衛組と合流してナユタはとりあえずメリーに任せて私達は戦況の見極めを始めた。
住民の脱出は完了した。この世界に残る事を決めた住民の守りに裂けるほどこちらの戦力は無いので見捨てるしか選択肢はなかった。
形を残していた住宅は潰され、足蹴にされ、住民の悲鳴が微かに聞こえるけれどモンスターの奇声にかき消された。
空を見上げれば雲間を雷が走っているのが見えた。
全てが同じ方向から走って来るから、おそらくあの先でお兄さんと魔神族ナユタが戦っているのでしょう。
「——っ!!?全員警戒!一閃の流れ弾が来ますよ!」
雲に映る色は瘴気の色。空気中に漂う瘴気も相まって視認性は悪かった。
そんな雲のキャンバスが真っ赤に染まったのだ。瘴気を散らし、雲を消し去る一閃が雷の先から飛んできた。
全員がチラリと一閃に視線を向ける。今まで見たことの無いほど巨大な一閃。火とは思えない神々しい炎。
「「「「「あっ!」」」」」
声が重なった。
空を真紅に、美しく染め上げた一閃はそのまま世界樹へと飛んでいき、スパンと世界樹の上半分を斬り飛ばしてそのまま彼方へと消えてしまった。お兄さんにそんな意図はない。皆がわかっている。
でも、 気まずい空気が私達を支配してしまった。
* * * * *
——————————ッ!!!!!!!
世界中の音が一つの音にかき消された。
落雷の音でした。ただの落雷ではありません。世界が終わる、と誰もが無意識に想像するような。そんな落雷。
「皆、耳は大丈夫? 聞こえていますか?」
「私は大丈夫です」「私もです」
次々と無事の報告が聞こえてくる。
ただ全員が全員の感想として音の衝撃が凄まじ過ぎて身体の芯から振えたそうです。もちろん私も。
凄い轟音だった。あんな……。お兄さんは大丈夫でしょうか……。
「おわっ!?」
誰かの驚いた声に引き寄せられ視線を送ると。お兄さんが立っていた。
世界樹に背を向け、私が想いを馳せた戦場に向けて立っている。
私は駆け寄り声を掛けた。
「おかえりなさい、お兄さん。さっき遠くで凄い雷が落ちていましたけど、あれってナユタですか?」
「そうだよ。命からがら[影別荘]経由で戻ってきちゃった。
あれの影響でこれから本震も来るから向こうに避難しておいた方が良いぞ。立ってられないくらいの奴だから」
確かに若干大地が揺れている。この程度の揺れに今更危機感を抱いてはいなかったけれど……。
マリエルも心配していたのか勢いよく駆け寄って来た。
「避難は終わってます!隊長、よく無事でしたね!」
「いちいち規模が洒落にならんからこっちも無事で良かったよ。流れ弾とか飛んできて無いよな?」
………。
私も含めて全員が視線を逸らした。もしくは先頭に集中していますよって態で誤魔化している。
ナユタの攻撃の流れ弾は確かに飛んできていない。それはお兄さんが位置調整をしながら戦ったからだ。
でも……。観念した数名が世界樹に視線を送るとお兄さんも釣られて視線を移す。
「短くなってるっ!?なんでっ!?」
「えっと、お兄さんの一閃がですね…、えっと。斬り飛ばして通過して行きました」
「俺が被害出してるぅぅぅううううううっ!?」
「姫様と私達は世界樹から離れた後だったから影響はなかったですけどね。うわっ!本当に揺れが酷くなって来た」
困惑するお兄さんと話している短い間に揺れが変化していく。
「アルシェ様。ご主人様の言う通りあちらに移動しておきましょう」
「メリー…そうね。お兄さん、これだけは落ち着いて聞いてください」
未だに混乱の最中。取り乱しているお兄さんの頬を挟んで無理やり視線を交差させた。
落ち着いて戦闘出来るように。私達に出来る事はもう無いから。
頑張って。死なないで。帰ってきて。
「世界樹は死にました。お兄さんの一閃が来る前の話です。
この世界は放っておいても時期に滅びます。だから。 ——逃げ遅れないでくださいね」
「——あぁ。わかった」
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