特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -03話-[ヴリドエンデ帝国軍の戦力調査③]

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 ~Side Arcanche~

 アルカイド様が凄い意気込みで臨まれた打ち合いは両者ダメージを負う事もなく無事に終わりを迎えた。
 ただ、終了した時点で王太子殿下は汗をかき若干息も上がっていたのでやはり戦闘力に於いては訓練をあまり出来ていないとの報告は相違ない様子でした。

「陛下の補佐として日々働いていると聞いておりましたが合間に訓練もされておられるのですか? 今からでも軍団長を目指しても遅くは無いのではと感じる程に楽しい一時でした」
「お褒め頂きありがとうございます。確かにほとんど訓練出来ていないので王太子になった頃から余り成長は出来ていませんがやはり剣を振るうのは気持ちが良い物ですね。アルカンシェ様も女性とは思えぬほど卓越した槍捌きで全く隙が無くて退屈されているのではと心配になりました」
「うふふ、軽い打ち合いと言ったではありませんか。ただ、私の立場を王女ではなく破滅に対する戦力と考えてくださるならば兵士の方々には全力で向かって来て欲しいのです。無理は承知しておりますが何卒」

 勝ち負けの無い試合展開をした事でヴリドエンデ帝国に属する兵士たちは安堵の表情で試合後の私達の動向を見守っている。
 この後が本命の帝国軍の戦力を測る為の試合なので改めてアルカイド様に頭を下げて王女に対する取扱いを辞めて欲しいと嘆願する。

「ふぅ……。わかりました、アルカンシェ様の願いは王太子である私が責任を負いましょう。私もヴリドエンデの王族として育った身です。女性がここまで強くなるには相応な理由があると確信しています」
「まぁ!ありがとうございますアルカイド様!」


 * * * * *
 ~Side Mariel~

 試合方式について話し合いをした結果。
 アスペラルダ陣営からの強い希望により一対多人数戦をする運びとなった。もちろん姫様の強さを私達は知っているからこその進言だったけれど、まさか大陸最高戦力と謳われるヴリドエンデ帝国軍の兵士達が……。

 ——ドッ!
「うがああああっ!」
 ——ガンッ!
「いっ!わあああああ!」

 私達ですら魔法を用いた動きと防御に徹されれば模擬戦中にまともに攻撃を入れられない。
 魔法を抜きにしても私達は体の動きを確認し徐々に打ち合う速度を上げたり等の訓練を施されている。なので、人の域で出せる攻撃速度程度なら私もあれくらいは避けられるし合間に攻撃を打ち込むことも出来る。にしても、突かれれば吹き飛び横薙ぎされれば吹き飛ぶ。それも後ろに控える兵士を巻き込まぬ様に飛ばす位置を計算して攻撃を加えている始末。
 ダメージはあっても怪我もなく再び列の最後尾に加わる兵士の動きも視界に抑えつつ見守っていると隣に人影あり……。コイツ何の用だろう?

「お隣宜しいでしょうか、ライテウス殿」
「気軽にマリエルとお呼びください、王太子殿下。どうぞご自由に」

 姫様から視線を外したくないのに隣に来るだけでは飽き足らず話しかけて来やがった……。
 姫様が王族として訪問している以上私も従者としての立場を求められる。いけ好かないイケメン王太子が相手だろうとそれなりに相手をしないと姫様の顔に泥を塗る事になるので出来る限り失礼が無いようにしつつ姫様を視界に収められるように頑張ろう。

「ありがとう。それではマリエル殿と呼ばせてもらおう。不躾ながら貴女方は何をどこまで突き詰めたのですか?」
「本当に不躾なご質問をされますね……。我々の訓練方法など部外者へお教えする訳がないではありませんか、と言いたいところですが隊長ならば止めないでしょうしお教えいたしましょう。何から何まで全てです。拳の握り方、高所からの落下による受け身、一対多数、防御を抜く痛みに慣れさせ、毎朝柔軟からのローテーション、挙句ステータスの地力底上げまでを行いました。ここ1~2年であの仕上がりです」
「1~2年!? 聞いた内容ではそこまで特別な事はしていない様に思ったけど、高所の部分とステータスの底上げはよくわからなかったな……。それはアスペラルダの兵士全員、というわけではないのかな?」
「訓練内容を考えるのは隊長ですので兵士全員ではなく私達だけですね。だからこそ少数精鋭に仕上がったと言えるでしょう。姫様の近衛として完成させる為に女性だろうと偏見せずに容赦無く徹底的に厳しい訓練も施しましたから」

 それに比べて王太子殿下はずいぶんと舐めた事を姫様に言ってましたねと流し目を送る事も忘れない。
 その視線と言葉に含んだナイフに気付いた王太子はアハハと苦笑いを浮かべて聞き流して下さる様だ。うちの姫様を先に侮った発言をしたのは貴方様ですものね!オホホホ!私の姫様が実力で黙らせたのですから王太子はここでの態度で如何で底が知れてしまいますものね? オーホッホッホッホ!

「ハハハ……。あ、そろそろカリガッソとファフスターの親子が前に出て来ますよ。二対一だけどこれでアルカンシェ様も満足してくれるかな!」
「この相対が見所というのは同意ですが……あそこまで温まっている姫様相手にどこまで食い下がれるか……」
「え? 確かにアルカンシェ様は強いけど彼らは私と違って現役だし流石に……」
「結局は人の域の話ですよね? 私達が相手をしているのは神の類なので申し訳ありませんがここが戦力に数えられるかの分水嶺です。以前の何もない島と違って王都では見逃し一つで大惨事ですから戦力は多いに越したことはありません」

 残っていた平兵士が全員壁に地面を転がされるか壁に叩きつけられて退場して行った。
 そしてここで真打登場。今までの兵士達もレベルは95~100と高かったのに体の使い方が甘く、その隙を姫様は見極めて一撃で吹き飛ばしていったけれど、上手い具合に闘気が高まった姫様の前についにご馳走がやって来た。姫様を残して誰も居なくなった戦場に足を踏み入れて来たのは軍団長に登り詰めた男とその血を受け継いだ王太子近衛の男……。
 あぁ……。口から冷気が漏れ出ている……。火が付いていますね、姫様。

「メリー!機を見て入りなさい!」
「かしこまりました、アルシェ様!。王太子殿下、マリエル様。失礼致します」
「え? マリエル殿!? 彼女はアルカンシェ様の侍女ではないのですか!? 入るってどちらに!?」
「侍女ですが隊長の意向でアナザー・ワンにも負けない強さを得ています。あの強さの二人のコンビネーションを考えればメリーさんの投入は最善でしょう。もちろん入るのは挑戦者の方ですよ」

 多少の会話を挟んだ姫様と挑戦者二人は距離を置き仕切り直してから、鬼気迫る姫様の様子に気付いているお二人も気を引き締めて最初から全力を持って切り結び始めた。先ほどまでは四対一で平兵士を相手取っていた姫様も攻撃のすべてが重い一撃でありコンビネーションも上手い二人を相手には同じ要領では捌き切れない。平兵士相手にはその場からほとんど動かず軽々と対処していたのに、今度はゆっくりと後方へ移動しつつ捌いて行く。
 目の前で凄い勢いで迫り通り過ぎる刃を一瞬で取捨選択して弾き受け止め避ける。別に一撃入ったら終わりという試合では無いのだけれど、私達は隊長の影響もあって攻撃を受ける事を嫌う傾向にある。という理由もあるけれど魔神族の攻撃が一撃必殺に近い事が最も大きい。ナユタ一人に目の前で隊長が落とされた事や山にめり込むほど飛ばされた事でもヤバイ奴らだってことがわかる。

「……すごい」
「団長とカリガッソさんを相手にあんな長く戦える奴なんて見た事ねぇ……」
「<凍媛セオグラッセ>の二つ名が付くのも納得だ。ヤベェよあの姫様……」

 平兵士たちの騒めきが聞こえてくる。
 ——<凍媛セオグラッセ>。姫様にいつの間にか付いていた二つ名。隊長と姫様は二枚看板なので二つ名も知れ渡っているけれど、一応私とメリーさんにも二つ名が付いている。<穹妖ヴァレンシィ>と<瞬纏パムウェルヌ>だってさ。誰が何を考えてるんだよって感じ。

「マリエル!氷駆輪舞アイシクルロンドの許可を貰いなさい!」

 2分ほどの短時間を全力戦闘しているアデール親子の身体が温まって来た頃合いに姫様から再び指示が飛んできた。
 そろそろメリーさんが参戦するタイミングを作る様だ。

「アルカイド王太子殿下。足の動きをサポートする魔法の使用許可を願えませんでしょうか?」
「魔法? そういえばアルカンシェ様は魔法使い…という話でしたか……。今の姿を見て誰も納得しないだろうけど。それは攻撃に転用出来る魔法なのかな?」
「攻撃魔法ではありません。本来は長距離を移動する為の魔法でしたが姫様が精霊と調整をして戦闘用に組み上げたものとなります。足を滑らせて前後左右のサポートは勿論の事、下がり過ぎない様に動きを止めたり突きを出す際の前進に攻撃を受け止める際の勢いを殺す動きまでサポートします」
「聞く限りでは本当に足の動きをサポートするだけの魔法の様だな……。ならば許可しよう」
「許可いただきました!」

 ——ガキィィィイイイインッ!
 返事のタイミングを謀ったかの様に返事と共に金属同士が大きく打ち合う音が聞こえた。
 アデール親子は二人揃って上段からの強烈な斬り下ろしを実行し、姫様は槍を水平に持ってそれを受け止めていた。視界の端に映っていたメリーさんの姿がブレた瞬間に姫様は魔法を使用した。

「《氷駆輪舞アイシクルロンド!》」
「ぐっ!」
「二対一で押し負けるだとっ!?」

 アクセルを踏む様に全力で一瞬だけ前進した姫様は二人を弾き飛ばし少しの間を確保した。
 その隙にメリーさんが背面から忍び寄り二刀流短剣で連撃を叩き込むも素早くその場を退き槍で防ぎ切った姫様に再びアデール親子が斬り掛かり三対一の試合が始まった。軽装のメイドさんが軍団長と筆頭近衛に混ざって邪魔にならずに姫様と戦う姿に何度目かの騒めきが平兵士の間に広がっていく。

「もうなんでも有りな気がしてくるねアスペラルダは……。侍女が軍団長と同程度の強さって何ですか……」
「もともと姫様の護衛も兼ねた侍女だったと聞いています。ただ、隊長の思惑もあって闇精霊との契約と共に力を付けるようになって行きましたね。あまり前線には出ずに後衛や姫様のサポートとして動きますが命令されれば問題なく戦力に加える事が出来る程度には鍛えられています」
「それは君たちが特別なのかな? 私や弟も同じくらい強くなる可能性はあるかい?」
「誰でもあの程度なら強くなれますよ。それでも足りないから私達は精霊と契約してさらに先を目指して鍛えているのです」

 今の姫様の根底になるのは隊長が施した厳しい訓練成果による磨かれた戦闘センスだ。
 そのセンスを生かす為にステータスがある。レベル1に比べればレベル100は戦闘力に雲泥の差が生まれるけれど、姫様の動体視力や槍捌きを十全に利用する為にはレベルで上昇させるだけのステータスでは足りていなかった。だから、さらに称号を稼いで戦闘センスを活かせるステータスとそれに伴いステータスに合う装備を新調するに至ったのだ。
 冒険者は訓練などをあまりしないけれどダンジョンでの実践経験は豊富となり、兵士になれば朝練や模擬戦などの機会は断然多くなる。戦闘センスはどちらも磨かれる事は磨かれるけれどPTや団体で同じ鍛え方をするので隊長が言う原石発見が遅れる傾向にある。冒険者であれば突出する誰かに引っ張られてランクが上がる様に兵士は実戦で頭角を現し出世するだろう。それでは少数が過ぎる。
 誰でも私達と同じ様な訓練や称号稼ぎが出来れば精霊抜きの戦闘力くらいは手に出来ると考えれば歓声を上げている平兵士達はなんて時間の無駄遣いをしている事か……。

「……どうすれば私達は自分の国を守れるのだ?」
「朝から柔軟と走り込み、朝食を食べたら模擬戦と訓練。昼食を食べたらギリギリまでダンジョンでモンスターを大量に倒して称号を稼ぎ、夕食を食べたらぐっすり眠って……それを基本的に毎日繰り返すだけですよ。特に大事なのは自分の何を尖らせるか目標を持つ事と個別に訓練を用意する事。称号はダンジョンまでの移動距離がネックですね。私達は隊長が運んでくれるので短期間で色んなダンジョンを巡れますが普通は出来ないのでどうしても称号稼ぎは年単位で時間が掛かります」
「やってはいる、はずなんだがな……。確かに軍団長に比べて兵士の個人練度が足りていないと長く悩んでいた。詳しくは聞いていないが頭角を現す面々は休日にダンジョンに通っているのかもしれないな」
「ステータスと磨いた技術力は緊密な関係です。センスと言い換えても良い。ステータスが上昇する事でセンスの上限が解放されて行く、のだと思っています。私も詳しくはありませんが……」

 魔神族の異世界との臨界はまだ数か月の猶予がある。
 いつ入口が出現するかもわからない状況だったので隊長はまず自分達の戦力アップを優先したけれど、ある程度の目安が立った今ならこの世界の戦力アップに時間を割けるだろう。まぁあの人はアレやコレや色んな事に手を出しているからわかんないけど。
 その後十分程続いた試合の展開は変わらず平行線だったけれど、王太子は静かに姫様達の試合を瞳に焼き付けていた。
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