特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
386 / 450
第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -32話-[破滅の主、神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇《ウロボロス》]

しおりを挟む
 リッカが炎帝樹の中央部で対話を試みていた同時刻……。

 水無月宗八みなづきそうはち苛刻かこくのシュティーナを相手取り優勢に攻め続けていた。ただし、魔神族の中でも破滅の衝動に支配されておらず依然として出会った時から自我を保っている稀有な存在でもあり、敵でありながら助言をしてくる為、相手をするには少々面倒な立ち位置のシュティーナを相手に会話を挟みつつ空間を越えて迫る複数の刃を視線を向ける事無く宗八そうはちは防ぎきって見せていた。
「じゃあ、今回退けない理由ってのが破滅本体がやって来る予定だからなのか?」
 宗八そうはちの問い掛けにどれだけ攻めても防がれる事を面白く思わないシュティーナは笑顔を繕って答える。
「そうよ。こっちも自我は保っているけど本体である世界樹を押さえられている以上破滅の将としての仕事を熟さないといけないの。もう間もなくこの世界にも破滅が訪れるわ。だからイクダニム。貴方は早急に選択しなければならないわよ」
 シュティーナの答え、そして突き付けられた選択権にこれから何が起こるのか、と嫌な予感を過ぎらせる宗八そうはちだが、決定的な情報を漏らさない事はわかっているので結局事が起こってからでなければ宗八そうはちにも配られた手札を見ることがない。いまは破滅についての情報収集を優先すべきと考え会話を続ける。
「破滅には名はあるのか?」
「名前なんて無いわよ。多少の争いはあっても穏やかな私達の世界を破壊し滅ぼした存在。だから破滅と仮称しているだけで、そもそもどういう存在かすら私達魔神族にもわからないわよ」
 宗八そうはちの攻撃に対し空間を固めて障壁を成したシュティーナに舌を巻くも、すぐに対抗魔法で障壁を割って剣を振り下ろした。
「どうして破滅は始めから自身で乗り込んで来ないんだ? 強いなら魔神族を送り込むなんて回りくどい事する必要は無いだろう?」
 振り下ろされた剣はシュティーナの大鎌で防がれた。そのままポールダンスかの如く器用な立ち回りを見せ大鎌を支点に様々な動きと攻撃を繰り出すシュティーナに付き合い宗八そうはちは防御に回る。
「それはおそらく世界樹から得たエネルギーを少しも漏らしたくないからね。破滅は自分で神力エーテルを精製出来ないから得るには世界を滅ぼすしかない。戦うなら攻撃にしろ被弾にしろ神力エーテルは消費してしまうから、そこを嫌っているのだと思うわ」
「だからエネルギーの保険と合わせて手駒として神族を魔神族に仕立てて尖兵にしているのか……」

 世界樹に詰まっているエネルギーは【神力エーテル】という最高品質の魔力だ。
 何を目的に活動しているのか不明な破滅だが、シュティーナの言葉を信じるならばとにかく神力エーテルの吸収を第一として考えている様子だ。そして、消費を抑える為に非常食の様に世界樹に禍津大蛇オロチを寄生させ生き地獄を与えつつ守護者システムに介入して魔神族を産み出し尖兵にした。以前のナユタの様に攻め込まれた場合は世界樹に残った神力エーテル禍津大蛇オロチが回収して本体の元へ送り届ける算段だったのだろう。
 シュティーナの言う破滅の訪れとは禍津大蛇オロチの寄生に関する事だろうと宗八そうはちは推測していた。だが、それ以外にも聞き出せる情報があれば今回だけではなく今後の対策にも活用出来ると思い質問を繰り返す。
「他に破滅についての情報は無いのか?」
 そんな宗八そうはちの思惑を見透かしながらもグレーゾーンを歩く事を決めたシュティーナが悩み、答えた。
「確定情報では無いけれど、破滅は今まで吞み込んだ神力エーテル分で存在が加階して神格位を得たのではないか、と考えているわ」
 その発言には流石の宗八そうはちと剣が乱れた。危うく被弾するという所で第二長女ノイティミルの聖壁の欠片モノリスが大鎌の一撃を弾くことで事無きを得たのだが宗八そうはちはそれどころではなかった。位階というのは何も精霊だけに充てられる言葉ではない。魔物だって成長すれば存在進化という加階を果たすし、元の世界でも高次元存在は精神生命体というのが通説だ。
 物語の中では人間のまま神格位を得る場合もあるが、これは高次元存在が祝福をして得るのが大半で基本は人から別の存在に加階ないし変質している事がほとんどだ。

 では、破滅が神格位を得ている場合に考えられる存在とはどういう存在だろうか?
 方々の世界を滅亡寸前にまで破壊し滅ぼす手口はナユタの世界とアルダーゼの世界を見て確定だろう。だが、そもそもが神力エーテルを吸収しまくるだけで神の座に足を掛けられるかと言われれば疑問だ。様々な世界がある中で宗八そうはちも知らない神格位を得られる手段が存在するのだろうとは思う。
 本体がどの様な姿をしているのかは想像するしかないが、禍津大蛇オロチを見る限り蛇の姿をしていると考えた宗八そうはち達は破滅=ウロボロスと呼称する事に決めていた。蛇と神のワードが交わるならば[白蛇]が妥当だろうか?
 縁起の良い存在や神の使いとも言われる白蛇だった存在が何かの拍子に反転して厄災を振り撒くウロボロスになった。これが一番しっくりくる想定だ。どちらにせよ未だ対峙した事も無いウロボロスとの相対に宗八そうはちの胸はざわついた。
「神が相手では勝てないかしら?」
「やってみないとわからない……。少なくとも情報が足りなければ糸口は得られないからな。今回出て来るなら可能な限り情報収集してみるさ」
 宗八そうはちの顔色が陰った事を察して質問したシュティーナに希望的観測を口にする宗八そうはち。まだ破滅の本体と遭遇していない事で折れてはいなくても神という言葉に心が揺らいだように見えたシュティーナは手を止め空を見上げた。事実宗八そうはちは頭に浮かんだ白蛇という実在する存在から神を連想させた事で【神と仮定したアンノウン】が【本当に神に連なる者】に紐づけされた事で急に実感が湧いたのだ。
「……まだ勝てない様なら今回はすぐに逃げる事をお勧めするわ。じゃあイクダニム。また会える事を期待しているわ」

 そう言葉を残したシュティーナは大鎌の召喚器[アムネジア]で空間を斬り裂くとそのまま姿を消した。
 ただ、シュティーナに言葉を返すよりも宗八そうはちが優先したのは、神を相手取るにあたり不安要素を排する事だった。魔神族はあくまで高次元存在の神族が変質した存在だ。身体は世界樹の神力エーテルを用いて構築されているので一般的な魔法では効果が無く、高濃度魔力で強化した魔法を使用する事で戦う事が出来るようになった。それでも神力エーテルまで濃縮されていない高濃度魔力は所詮下位互換の攻撃であり、完全体になった魔神族には効果が薄く、ナユタ戦の際は彼が使用する魔法を闇精クーデルカの魔法で神力エーテルを吸収する事で討伐するに至れた。
 ただし、完全体になったとて神ではない。神族時代は想定していない世界樹の神力エーテルを全て注ぎ込むことで至れる存在進化ではあっても所詮は神族のスペックの延長線上である為、便宜上半神デミゴッドの位階だろう。

 半神デミゴッドも一応は神格位を得たと言っても過言ではない。
 更にそのうえの位階だったなら本当に【神】という存在かもしれない。そうなれば効果的な攻撃をするには経験上、高濃度神力ハイエーテルを扱えるようになるしかない。今ですら満足に神力エーテルの精製を行えていないのに高濃度に濃縮する技術も手段なんてまだ……

 果てしない上り坂を宗八そうはちが幻視した直後。
 空が落ちてきたのかと勘違いしそうな程に強烈なプレッシャーが世界に掛かると同時に——ビシッ!と天蓋そらから異音が降って来た。ヒビは途轍もなく大きく広がっていて、今尚もピキリピキリと天蓋そらに黒いひび割れが広範囲に伸びて行く。闇精クーデルカが警告を発するまでも無く誰が見ても分かる緊急事態だがそんな光景を見上げる全員が息を飲み何者かの登場を待つ事しか出来ない。

 バリンッ!と大きな穴が天蓋そらにひとつ開いた。
 空間の向こうは真っ暗な深淵となっていて、そこからゆっくりと姿を現した頭部は瘴気特有の黒紫こくしの空気を纏いながらユルリと覗き込む様に顕現した。蛇だ、と思ったのも束の間。すぐに宗八そうはちは自分の思い込みを否定する。確かに蛇に酷似はしているが舌を頻繁に出さないうえに頭部の形が明らかに違うのだ。大きく裂けている口は異常に筋肉質でありズラリと並ぶ歯は肉を食い荒らす為に鋭利な歯が生えている。更に瞳も蛇特有のものではなく三対六眼。それぞれがギョロギョロと同じ方向を見ることは無く気味の悪い挙動をし続けている。
 断じて神ではない。——化け物だった。

 続けて二つ目、三つ目の大穴が開き同様に頭部が覗いて来る。
 気付けば天蓋そらのひび割れは彼方まで広がっていた。周囲を見回しても視界に映る天蓋すべてにヒビが入っており、いつ身体も現れてもおかしくはない状況だとようやく正気を取り戻した宗八そうはちは急ぎ全員に声を飛ばそうとした矢先に天蓋そらが落ちてきた。いや、世界樹を覆う様に蜷局とぐろを巻いた神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスが落ちて来て自身の身体を用いて世界樹を中心にドーム状の結界を張ったのだ。

 いつの間にか魔神族は皆撤退しておりこの世界に残っているのは宗八そうはち達突入組とアルダーゼ一味のみ。
 気味の悪い模様の身体をもつれさせながらウゾウゾと止まることの無い動きを見せるウロボロス。幸い身体が超巨大過ぎてゲートも結界内部に含まれていたので宗八そうはちは改めて撤退の言葉を飛ばす。

「総員撤退!アルシェの安全を確保しつつゲートまで駆け抜けろっ!!」
 宗八そうはちの言葉は突入組に強制接続して届けられた。結界内部はウロボロスの体鱗から液体が漏れているのか黒い高濃度瘴気の雨が降り始めていた。了解と返事が返って来る中、炎帝樹内部で対話を試みていたリッカから連絡が入る。
〔隊長、炎帝樹との対話完了しました。アルダーゼ様達の保護を条件に世界の消滅を承諾してもらえましたが今しがた突然炎帝樹が苦しみ始めてしまって……どう致しましょう〕
 リッカの報告に瞬時に選択肢が頭に浮かび優先順位を決めなければならなくなった。
 1.アルカンシェの脱出 2.世界樹の破壊 3.聖獣の保護 4.アルダーゼの保護 5.仲間達の脱出
 世界樹の破壊は宗八そうはち自身が行うにしろウロボロスが何かするにしろ炎帝樹の神力エーテルは奪われてしまう点はもうどうしようもないだろう。慈悲を与えるならば宗八そうはちの手でトドメを刺すべきだ。それにゲートに向かう仲間の協力が無ければアルダーゼと聖獣の救出は絶望的だ。加えて心情的にも危機意識的にも救出に手を割くよりも早くこの世界からの脱出を行うべきだと訴えかけて来る。
〔黒い雨の中に10㎝前後の蛇みたいなのが混ざってます!障壁で防御しても魔力を食べているのか障壁に穴を空けて来てキリがありません!〕
 追加されるマリエルからの情報でさらに時間を掛けられない事を突き付けられた宗八そうはちは、自分の出来る処理範囲で行動することを決めアルカンシェには皆を率いて脱出してもらう為に連絡を取ることにした。
しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...