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閑話休題 -破滅対策同盟《アルストロメリア》大報告会-
閑話休題 -103話-[破滅対策同盟大報告会③]
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ゲートを越えた先は空気が異様に薄く、風切り音が酷く、朽ち果てた遺跡が目の前に広がっていた。
前人未踏。人が足を踏み入れる事が本来有り得ない緑竜の巣がある浮島に足を踏み入れたラフィートは一瞬感動で暫し動くことが出来なかった。この心の機微を察してか同行して居る宗八も風精王セリアティアも彼の再起動を待つ。
「……はっ!お待たせして申し訳ありませんセリアティア様。宗八も」
『構いませんわ』
「雲のおかげで風の渦巻きとか見れて面白いもんな。分かるよ」
緑竜の巣は厚い雲で覆われており、その内側を激しい乱気流が吹き荒んで雷を産みたまたま雲を抜けてきた侵入者を弾き飛ばす。その防御機能は内側から見ると見慣れない光景となって雲が頻繁に動き回るので見ていて飽きないのだ。宗八も数度しか顔を出していない為、目的地である遺跡に入るまでの間にその光景を楽しんだ。
勝手知ったる通路を進んでいく宗八の後を追ったラフィート。視界には自然鉱石である風の大魔石が複数生えているのを横目に最奥に進んでいくと、突如美しい緑色の竜が視界に飛び込んで来た。直感で理解した。
『あまり刻を置かずして再訪してしまって申し訳ないですわ、クァイアオーグナ』
『新米風精王はなかなかフットワークが軽い様ですね。<万彩>もようこそ。そして……あなたは初顔合わせですね』
セリアティアが先頭を切って緑竜に挨拶をすると、丸まっていた緑竜が身体を持ち上げながら返事をする。視線はセリア、宗八を経てラフィートで止まった。
「フォレストトーレ国王、ラフィート=フォレストトーレだ。美しくも輝かしい緑竜に出会えて幸甚の至り、よろしくお願いする」
『ラフィート……。ふむ、貴方も精霊との繋がりを持つのですね。何も無い所ですがよくぞ参られました』
お辞儀をして名乗ったラフィートに合わせて起き上がった緑竜も人間の様に頭を下げて返礼すると、再び視線は宗八に戻って来た。
『<万彩>の魔石は出来ていますよ。次はマリエルの魔石に取り掛かるので次はまた2カ月経ってから様子見に来て下さい』
宗八とマリエルは初めて訪問した際に初期値の風魔石を精製してもらい、その後は濃度を上げては再精製を繰り返してもらっていた。宗八達は時間の流れが違うアルダーゼの世界を攻略していた為、もう最大値の高濃度風魔石が出来上がっている時期という事を完全に失念していたので、少し喉が詰まらせつつも気持ちを整えてから言葉を発した。
「ありがとうございます。今回は魔石の件とは別に緑竜を火の国に招待する為に訪問しました。現在、火の国にて魔神族の関わる世界の一つを攻略した報告会を開催する手筈を整えています。緑竜もご存じの通り青竜は同行して居るのでもちろん参加するのですが、ユレイアルド神聖教国を招待した際に白竜も付いて来てしまったので、どうせなら協力してくれている竜達に今後この世界にも起こり得る報告をさせていただけたらと……」
宗八の言葉を咀嚼しながら緑竜は少し悩んだ。竜は人の世の流れに興味を示さず、いずれ来たる役目を果たす為に生きているだけの存在だ。そのいずれが何を指しているのかは自分の胸に収まる[竜玉]が教えてくれると口伝で知っている程度で……。特段、宗八達訪問者が現れたとはいえ強い興味は持っていなかった。
大地で何が起ころうと空の上にある浮島には何の影響ももたらさない事も影響している。ただ、青が巣を離れて人と共に行動し、白も参加するとなれば暇な一日を寝て過ごすよりは幾分か有意義な時間になりそうだと好奇心が湧いて来た。
『良いでしょう。私も同行しましょう』
割と早い段階で決断した緑竜に宗八は頷きセリアティアは微笑み、ラフィートは圧倒的な存在感から知らず知らずに緊張していたのか深く息を吐きだした。
「あ、基本的にラフィートと行動してほしいので青竜の様に人と同じ程度か肩乗りまで小さくなってくださいね」
聖女クレシーダと同じポジションとするならば、火の国に緑竜が滞在する限りは自分と共に行動するのか、とラフィートはまだまだ続く緊張状態に早くも話を受けたのは早まったかと後悔し始めていた。
『ラフィート、このくらいでどうでしょうか?』
流石に初顔合わせをしたばかりのラフィートの肩のお世話になるつもりはないらしい常識的な緑竜はラフィートと同程度の体高まで自身を縮めて問いかけてきた。この問い掛けが宗八でも無くセリアティアでも無かったのは、宗八が伝えた通り同行するラフィートを気遣ってのものだった。その気持ちに気付いたラフィートの緊張感が多少軽くなる。
「その大きさで構わない。短い間かとは思うがよろしく頼む」
こうして緑竜はヴリドエンデへと足を踏み入れた。
* * * * *
「り、り、竜だとっ!?我が迎えるというのか!?」
続けて、アルカンシェに率いられて土の国アーグエングリンに充てがわれた一室に訪問してラフィートにも説明した内容を伝えて見た所、座っていたソファに身を縮めて恐れ戦いているのは公国の国主で在らせられるカンパネラ=アーグエングリンだ。その隣で気品ある堂々とした居姿で佇むブリーシュ公妃の方が余程一角の人物に見受けられた。
「アスペラルダは常に同行して居る青竜がおりますし、この度ユレイアルドは白竜を連れて来ておりました。先ほどラフィート陛下にもこの度の件をお伝えし無事に緑竜を迎える運びとなりました。国の力関係や竜の自尊心など色々と検討した結果、カンパネルラ陛下にも黄竜を迎える協力を頂きたいのです」
アルカンシェの説明を受けてもオドオドしたままのカンパネラを見て宗八の眼が細くなる。竜と関係を持つと言う事は一種の箔に繋がると貴族なら考えるだろうにカンパネラは目の前の脅威に怯えるばかりで利点までは頭が働かない様子。
これはダメかもしれない、とアルカンシェすらも諦めようと考えが過ぎった所で公妃が声をあげる。
「わかりました。カンパネラに代わり私が黄竜を迎えに向かいましょう」
「ブリーシュ様っ!御身はっ!」
ブリーシュの宣言に素早く反応したのはファグス将軍だった。その後も家臣たちが次々と声を上げ静止の言葉を掛けるもブリーシュの瞳に迷いはなく既に彼女の中で決断は成っている様子だ。その姿を目にしたカンパネラにも変化が起こる。
「い、いや!ブリーシュを危険な場所へ向かわせるわけには行かない!我が!我が行く!」
「意気地の無い男だと理解しながら内政能力があるので婚姻しましたが、公主として取るべき行動を選択出来ないようでは黄竜を前にしても無様を晒すだけでしょう!? 私が立候補してからで無ければ覚悟も決められないのなら貴方の器はその程度の物です!大人しくこの場で待っていてください!」
激烈に男のプライドを抉る様な言葉に宗八は自分がアルカンシェに言われたらと、つい考えてしまって悲痛な表情を浮かべてしまう。あとから聞いた話だが、公妃が本来の血筋でカンパネラは入り婿だそうだ。ブリーシュの言う通り内政面は素晴らしい人物なのだが軍事や国の関係性や貴族の立場にはまだまだ疎くその辺はブリーシュやファグス将軍がフォローしてバランスを取っているのが今の土の国アーグエングリンだとか。
言葉を失い項垂れるカンパネラに「この場は任せてください」と声を掛けながら肩に手を置くブリーシュは、アルカンシェに視線を移すと頭を下げる。
「私で務まるでしょうか?」
アルカンシェは肯定した。
「私も会った事はありますが理知的な竜でした。ブリーシュ公妃殿下でも問題はないと判断致します」
「ありがとうございます」
人間の方が話が纏まりそうだったので宗八は地精王ティターンの下へ向かう。
「ティターン様は黄竜に会ったことはありますか?」
『いや、初めて顔を合わせる事になる。だが、機会があるなら挨拶はしたいと思っていた所だから感謝したいくらいだ』
元々人型だったティターンは巨体を人のサイズまで縮めて参加してくれていた。それでも身長3mほどなので大きな扉が設置された上級貴族用の客室がアーグエングリンには充てがわれている。
普段から表情の固いティターンだが心から感謝している様子に宗八もご満悦だ。何しろ愛娘である地精ノイティミルはしばらくの間、地精の里でお世話になっていたので光精王ソレイユや火精王サラマンダーに比べて好感度が高く感謝もしていた。更に仲間に加護を付けてもらったり竜の巣の捜索をして貰ったりと何かと協力的なのに何も返せていなかった為宗八は今回の件でティターンが喜ぶ姿を見てやっと一つ恩が返せたホッとする。
* * * * *
結局ブリーシュ公妃と地精王ティターンを連れて地竜の巣へとやって来た。
最終手段としてラフィートにも説得に参戦してもらう予定もあったがブリーシュ公妃が男気を見せた事で意外なとんとん拍子で話が進み黄竜の前にやってくる事が出来た。
「黄竜、お久しぶりです」
『よく来ました<万彩>。そちらは今代の地精王ですか?』
黄竜の優先順位として次に言葉を掛けられたのは地精王ティターンだった。宗八とティターンは膝を着いていなかったがブリーシュだけは王族でありながらも膝を着き頭も垂れていた。実はティターンと邂逅した時も同様だったのでティターンに驚きはなかった。宗八は先行していたので単純にブリーシュの態勢に気付いていなかった。
『地精王を担っているティターンだ。立場は違えど地竜の長に出会えて嬉しく思う』
会釈もしないティターンに黄竜も堂々たる態度で応じた。
『こちらこそ、この出会いに感謝しよう。我の名はグリュエザール。長としてのよしみでグリーズと呼ぶと良い』
『良い関係が築けそうだ。これからよろしく頼むよ、黄竜』
ここでやっと宗八がブリーシュに気が付いた。
「(黄竜、グリーーーズッ!んっ!)」
これがラフィートやマクラインやミリエステならば然程気に掛ける事もないが為人を未だ知らない奴(王族)が膝を着いている状況で雑談を続けるのは辛いものがあった。出来る限り小声で黄竜にブリーシュの存在を伝える。
『ん? あぁ。そちらの人間よ。君も初顔合わせだね、どなたかな?』
「黄竜様、お目に掛かれて光栄です。土の国アーグエングリンの公妃をしております、ブリーシュ=アーグエングリンと申します。この度は<万彩>の手を借りお目通りが叶いました。宜しくお願いいたします」
これにて顔合わせは完了した。ヴリドエンデ王国では着々と準備が進んでいるはずなので黄竜にも手早く今回の訪問理由を伝えると案の定興味を示した。
『なるほど。<万彩>が成長している事は島に入って来た瞬間には気付いていましたが、確かにその報告会には興味があります。ぜひ参加させていただきたい』
「おっけー」
軽い宗八の了承にブリーシュ妃は眉を動かしたが宗八の特殊な立場を思い出し口には不満を出さなかった。その代わり伝えていない重要情報を伝える様に誘導する。
「水無月さん。赤竜が来るかもしれない事もお伝えしなければいけませんよ」
宗八の中では賑やかしイベントのひとつ程度と考えていたのだが、この世界の人間からすれば絵物語の生き物である竜が強襲してくる可能性があるだけで心胆を寒からしめるくらいの緊張感があるらしい。緊張感を持ったブリーシュ妃の表情から黄竜を預かるアーグエングリン公国として失礼があってはならないという気迫を感じ取った宗八は指示通りに赤竜の件を伝える。
「すみません、黄竜。竜が火の国に集まる事で赤竜がその場に現れる可能性があります。俺が対処する予定なので手は出さなくとも大丈夫ですので」
『構わない。人の身ですら我と同程度の強さで在ろう<万彩>が相手になるのだ。本気を出せば誰にも被害を出すことなく痛めつける事は可能であろう』
「っ!?」
黄竜は特に気にした様子はなく先ほどの宗八の様に軽い反応だった。しかし、その言葉に含まれていた隣に立つ人間の強さを知ってブリーシュ妃は今更ながら大将軍ファグスか客将の拳聖エゥグーリアを連れて来るべきであったと後悔した。
ここまで宗八という人物については身内からの話しか聞いたことは無かった。色々出来る規格外の人物だが世界の為に破滅に対し勇戦出来る得難い人物であると聞いてはいたが流石に軍団と多対一で戦えば勝てるだろうと考えていたのだが、竜と戦える個人の強さを図る事が出来ずに息を飲んでしまった。
ブリーシュ妃のその様子に気付いたのは黄竜と地精王ティターンの二人だけで、宗八はそんな事よりもどいつもこいつも竜王の一匹を相手に簡単に言ってくれると呆れていた。
これにて全竜の参加が決定的となり、ようやく大報告会は始まった。
前人未踏。人が足を踏み入れる事が本来有り得ない緑竜の巣がある浮島に足を踏み入れたラフィートは一瞬感動で暫し動くことが出来なかった。この心の機微を察してか同行して居る宗八も風精王セリアティアも彼の再起動を待つ。
「……はっ!お待たせして申し訳ありませんセリアティア様。宗八も」
『構いませんわ』
「雲のおかげで風の渦巻きとか見れて面白いもんな。分かるよ」
緑竜の巣は厚い雲で覆われており、その内側を激しい乱気流が吹き荒んで雷を産みたまたま雲を抜けてきた侵入者を弾き飛ばす。その防御機能は内側から見ると見慣れない光景となって雲が頻繁に動き回るので見ていて飽きないのだ。宗八も数度しか顔を出していない為、目的地である遺跡に入るまでの間にその光景を楽しんだ。
勝手知ったる通路を進んでいく宗八の後を追ったラフィート。視界には自然鉱石である風の大魔石が複数生えているのを横目に最奥に進んでいくと、突如美しい緑色の竜が視界に飛び込んで来た。直感で理解した。
『あまり刻を置かずして再訪してしまって申し訳ないですわ、クァイアオーグナ』
『新米風精王はなかなかフットワークが軽い様ですね。<万彩>もようこそ。そして……あなたは初顔合わせですね』
セリアティアが先頭を切って緑竜に挨拶をすると、丸まっていた緑竜が身体を持ち上げながら返事をする。視線はセリア、宗八を経てラフィートで止まった。
「フォレストトーレ国王、ラフィート=フォレストトーレだ。美しくも輝かしい緑竜に出会えて幸甚の至り、よろしくお願いする」
『ラフィート……。ふむ、貴方も精霊との繋がりを持つのですね。何も無い所ですがよくぞ参られました』
お辞儀をして名乗ったラフィートに合わせて起き上がった緑竜も人間の様に頭を下げて返礼すると、再び視線は宗八に戻って来た。
『<万彩>の魔石は出来ていますよ。次はマリエルの魔石に取り掛かるので次はまた2カ月経ってから様子見に来て下さい』
宗八とマリエルは初めて訪問した際に初期値の風魔石を精製してもらい、その後は濃度を上げては再精製を繰り返してもらっていた。宗八達は時間の流れが違うアルダーゼの世界を攻略していた為、もう最大値の高濃度風魔石が出来上がっている時期という事を完全に失念していたので、少し喉が詰まらせつつも気持ちを整えてから言葉を発した。
「ありがとうございます。今回は魔石の件とは別に緑竜を火の国に招待する為に訪問しました。現在、火の国にて魔神族の関わる世界の一つを攻略した報告会を開催する手筈を整えています。緑竜もご存じの通り青竜は同行して居るのでもちろん参加するのですが、ユレイアルド神聖教国を招待した際に白竜も付いて来てしまったので、どうせなら協力してくれている竜達に今後この世界にも起こり得る報告をさせていただけたらと……」
宗八の言葉を咀嚼しながら緑竜は少し悩んだ。竜は人の世の流れに興味を示さず、いずれ来たる役目を果たす為に生きているだけの存在だ。そのいずれが何を指しているのかは自分の胸に収まる[竜玉]が教えてくれると口伝で知っている程度で……。特段、宗八達訪問者が現れたとはいえ強い興味は持っていなかった。
大地で何が起ころうと空の上にある浮島には何の影響ももたらさない事も影響している。ただ、青が巣を離れて人と共に行動し、白も参加するとなれば暇な一日を寝て過ごすよりは幾分か有意義な時間になりそうだと好奇心が湧いて来た。
『良いでしょう。私も同行しましょう』
割と早い段階で決断した緑竜に宗八は頷きセリアティアは微笑み、ラフィートは圧倒的な存在感から知らず知らずに緊張していたのか深く息を吐きだした。
「あ、基本的にラフィートと行動してほしいので青竜の様に人と同じ程度か肩乗りまで小さくなってくださいね」
聖女クレシーダと同じポジションとするならば、火の国に緑竜が滞在する限りは自分と共に行動するのか、とラフィートはまだまだ続く緊張状態に早くも話を受けたのは早まったかと後悔し始めていた。
『ラフィート、このくらいでどうでしょうか?』
流石に初顔合わせをしたばかりのラフィートの肩のお世話になるつもりはないらしい常識的な緑竜はラフィートと同程度の体高まで自身を縮めて問いかけてきた。この問い掛けが宗八でも無くセリアティアでも無かったのは、宗八が伝えた通り同行するラフィートを気遣ってのものだった。その気持ちに気付いたラフィートの緊張感が多少軽くなる。
「その大きさで構わない。短い間かとは思うがよろしく頼む」
こうして緑竜はヴリドエンデへと足を踏み入れた。
* * * * *
「り、り、竜だとっ!?我が迎えるというのか!?」
続けて、アルカンシェに率いられて土の国アーグエングリンに充てがわれた一室に訪問してラフィートにも説明した内容を伝えて見た所、座っていたソファに身を縮めて恐れ戦いているのは公国の国主で在らせられるカンパネラ=アーグエングリンだ。その隣で気品ある堂々とした居姿で佇むブリーシュ公妃の方が余程一角の人物に見受けられた。
「アスペラルダは常に同行して居る青竜がおりますし、この度ユレイアルドは白竜を連れて来ておりました。先ほどラフィート陛下にもこの度の件をお伝えし無事に緑竜を迎える運びとなりました。国の力関係や竜の自尊心など色々と検討した結果、カンパネルラ陛下にも黄竜を迎える協力を頂きたいのです」
アルカンシェの説明を受けてもオドオドしたままのカンパネラを見て宗八の眼が細くなる。竜と関係を持つと言う事は一種の箔に繋がると貴族なら考えるだろうにカンパネラは目の前の脅威に怯えるばかりで利点までは頭が働かない様子。
これはダメかもしれない、とアルカンシェすらも諦めようと考えが過ぎった所で公妃が声をあげる。
「わかりました。カンパネラに代わり私が黄竜を迎えに向かいましょう」
「ブリーシュ様っ!御身はっ!」
ブリーシュの宣言に素早く反応したのはファグス将軍だった。その後も家臣たちが次々と声を上げ静止の言葉を掛けるもブリーシュの瞳に迷いはなく既に彼女の中で決断は成っている様子だ。その姿を目にしたカンパネラにも変化が起こる。
「い、いや!ブリーシュを危険な場所へ向かわせるわけには行かない!我が!我が行く!」
「意気地の無い男だと理解しながら内政能力があるので婚姻しましたが、公主として取るべき行動を選択出来ないようでは黄竜を前にしても無様を晒すだけでしょう!? 私が立候補してからで無ければ覚悟も決められないのなら貴方の器はその程度の物です!大人しくこの場で待っていてください!」
激烈に男のプライドを抉る様な言葉に宗八は自分がアルカンシェに言われたらと、つい考えてしまって悲痛な表情を浮かべてしまう。あとから聞いた話だが、公妃が本来の血筋でカンパネラは入り婿だそうだ。ブリーシュの言う通り内政面は素晴らしい人物なのだが軍事や国の関係性や貴族の立場にはまだまだ疎くその辺はブリーシュやファグス将軍がフォローしてバランスを取っているのが今の土の国アーグエングリンだとか。
言葉を失い項垂れるカンパネラに「この場は任せてください」と声を掛けながら肩に手を置くブリーシュは、アルカンシェに視線を移すと頭を下げる。
「私で務まるでしょうか?」
アルカンシェは肯定した。
「私も会った事はありますが理知的な竜でした。ブリーシュ公妃殿下でも問題はないと判断致します」
「ありがとうございます」
人間の方が話が纏まりそうだったので宗八は地精王ティターンの下へ向かう。
「ティターン様は黄竜に会ったことはありますか?」
『いや、初めて顔を合わせる事になる。だが、機会があるなら挨拶はしたいと思っていた所だから感謝したいくらいだ』
元々人型だったティターンは巨体を人のサイズまで縮めて参加してくれていた。それでも身長3mほどなので大きな扉が設置された上級貴族用の客室がアーグエングリンには充てがわれている。
普段から表情の固いティターンだが心から感謝している様子に宗八もご満悦だ。何しろ愛娘である地精ノイティミルはしばらくの間、地精の里でお世話になっていたので光精王ソレイユや火精王サラマンダーに比べて好感度が高く感謝もしていた。更に仲間に加護を付けてもらったり竜の巣の捜索をして貰ったりと何かと協力的なのに何も返せていなかった為宗八は今回の件でティターンが喜ぶ姿を見てやっと一つ恩が返せたホッとする。
* * * * *
結局ブリーシュ公妃と地精王ティターンを連れて地竜の巣へとやって来た。
最終手段としてラフィートにも説得に参戦してもらう予定もあったがブリーシュ公妃が男気を見せた事で意外なとんとん拍子で話が進み黄竜の前にやってくる事が出来た。
「黄竜、お久しぶりです」
『よく来ました<万彩>。そちらは今代の地精王ですか?』
黄竜の優先順位として次に言葉を掛けられたのは地精王ティターンだった。宗八とティターンは膝を着いていなかったがブリーシュだけは王族でありながらも膝を着き頭も垂れていた。実はティターンと邂逅した時も同様だったのでティターンに驚きはなかった。宗八は先行していたので単純にブリーシュの態勢に気付いていなかった。
『地精王を担っているティターンだ。立場は違えど地竜の長に出会えて嬉しく思う』
会釈もしないティターンに黄竜も堂々たる態度で応じた。
『こちらこそ、この出会いに感謝しよう。我の名はグリュエザール。長としてのよしみでグリーズと呼ぶと良い』
『良い関係が築けそうだ。これからよろしく頼むよ、黄竜』
ここでやっと宗八がブリーシュに気が付いた。
「(黄竜、グリーーーズッ!んっ!)」
これがラフィートやマクラインやミリエステならば然程気に掛ける事もないが為人を未だ知らない奴(王族)が膝を着いている状況で雑談を続けるのは辛いものがあった。出来る限り小声で黄竜にブリーシュの存在を伝える。
『ん? あぁ。そちらの人間よ。君も初顔合わせだね、どなたかな?』
「黄竜様、お目に掛かれて光栄です。土の国アーグエングリンの公妃をしております、ブリーシュ=アーグエングリンと申します。この度は<万彩>の手を借りお目通りが叶いました。宜しくお願いいたします」
これにて顔合わせは完了した。ヴリドエンデ王国では着々と準備が進んでいるはずなので黄竜にも手早く今回の訪問理由を伝えると案の定興味を示した。
『なるほど。<万彩>が成長している事は島に入って来た瞬間には気付いていましたが、確かにその報告会には興味があります。ぜひ参加させていただきたい』
「おっけー」
軽い宗八の了承にブリーシュ妃は眉を動かしたが宗八の特殊な立場を思い出し口には不満を出さなかった。その代わり伝えていない重要情報を伝える様に誘導する。
「水無月さん。赤竜が来るかもしれない事もお伝えしなければいけませんよ」
宗八の中では賑やかしイベントのひとつ程度と考えていたのだが、この世界の人間からすれば絵物語の生き物である竜が強襲してくる可能性があるだけで心胆を寒からしめるくらいの緊張感があるらしい。緊張感を持ったブリーシュ妃の表情から黄竜を預かるアーグエングリン公国として失礼があってはならないという気迫を感じ取った宗八は指示通りに赤竜の件を伝える。
「すみません、黄竜。竜が火の国に集まる事で赤竜がその場に現れる可能性があります。俺が対処する予定なので手は出さなくとも大丈夫ですので」
『構わない。人の身ですら我と同程度の強さで在ろう<万彩>が相手になるのだ。本気を出せば誰にも被害を出すことなく痛めつける事は可能であろう』
「っ!?」
黄竜は特に気にした様子はなく先ほどの宗八の様に軽い反応だった。しかし、その言葉に含まれていた隣に立つ人間の強さを知ってブリーシュ妃は今更ながら大将軍ファグスか客将の拳聖エゥグーリアを連れて来るべきであったと後悔した。
ここまで宗八という人物については身内からの話しか聞いたことは無かった。色々出来る規格外の人物だが世界の為に破滅に対し勇戦出来る得難い人物であると聞いてはいたが流石に軍団と多対一で戦えば勝てるだろうと考えていたのだが、竜と戦える個人の強さを図る事が出来ずに息を飲んでしまった。
ブリーシュ妃のその様子に気付いたのは黄竜と地精王ティターンの二人だけで、宗八はそんな事よりもどいつもこいつも竜王の一匹を相手に簡単に言ってくれると呆れていた。
これにて全竜の参加が決定的となり、ようやく大報告会は始まった。
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