特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
408 / 450
第16章 -勇者 VS 魔王-

†第16章† -00話-[魔族領の異変]

しおりを挟む
 ——魔界最奥の土地。魔王城前。

 魔族の各部族が兵士を集めて、とある魔王城前の荒野に集っていた。魔王城の名は[グラディオウス城]。
 八百年前に魔族を率いて人族に戦争を仕掛けた魔王が根城にしていた伝説的な魔王城であり、現在はその後に頭角を現した新魔王が拠点にしている。
 彼らの主たる魔王の名は[オーティス]。
 ついに人族領へ戦争を仕掛ける事を宣言した魔王の指示で集まった武装した魔族の数は五十万を超えていた。荒廃した広い土地ならいくらでもある魔族領だからこそ一か所にここまでの数を揃える事が出来ていた。
「お前、オーティス様を見た事あるか?」
 集められた兵士の一人が隣の別部族の青年兵士に問いかける。
「いいや、見たことは無いし声も聞いたことが無い。でも、部族長が参加するって決めたんだ。俺に拒否権はねぇよ」
 鍛えられた肉体に双剣を腰に装備した青年の額には声を掛けた男と同じく黒い角が生えている。
 人族と魔族は元は同じ人間であった。しかし、魔族領は人族領に比べて魔力濃度が高く、そんな環境で長い年月を掛けて適用し続けた結果。魔族に額には多種多様な一本角が生えるようになったのだ。身体に吸収される魔力濃度への適正も高くなったとはいえ過剰分の排出の為に生えた角は髪や爪と同じ成分と魔力が合わさって形成された人類の進化の証だ。

 当然、この場に集まった全員の額から角が生えている。
 魔族領での生活は額の角以外にも肉体に影響を及ぼし、魔力適正の高い悪魔の羽根や尻尾が生える悪魔族、竜に変身する竜魔族、肉弾戦に適正の高い天使の羽根を生やす天魔族、喋れない代わりに打撃が利かない軟体魔族、手の平サイズの遊魔族など多種多様な特性や肉体を持つ魔族が生まれた。
 ——という種族歴観を多くの魔族は持っているが事実は異なっていた。
 その事実を知るのは今や魔王オーティスぐらいなものだ。

「最近、変な思想の連中が各地で活動しているの知ってるか?」
 魔王が現れるまでまだ時間がある。兵士は尚も会話を続け青年兵も応える。
「八百年以上前にも人族領で活動していたと噂の集団だな。それがどうした」
「なんでも、何かヤバイ奴を召喚しようとしているって話なんだよ。どう思う?」
 青年兵は兵士に対して怪しい奴を見る視線を向けて溜息を吐きつつ返答した。
「……だから? そのヤバイ奴の情報が何も無いのにどう思うも無いだろうが……。それより前を向け。王の御成りだ」
 兵士が気付かぬうちに式典は進み、遥か彼方の魔王城のバルコニーに確かに魔王らしき人物が現れていた。
 魔王城の敷地内の城門前にも兵士は集まっているがそちらは魔王城に勤務する精鋭部隊のみで、今回招集された他部族の面々の多くは荒野に集まっていたので普通なら魔王の姿も声も聞こえない。出撃式が終わるのを待ち、終われば人族領に向けて出発するだけだ。
「ここからよく気付けたな」
「遠くまで見通せるのが千里眼を持つ俺達眼魔族だからな。これくらいはわけもない」
 先ほどまで普通に眼が二つしかなかった青年兵の額に三つ目の瞳が開いていた。もともとの視力でも遠見の能力を有しており、更に遠くを見通す場合は第三の眼を開眼させる部族の出身だったようだ。
「まぁ、どちらにしろ何を言っているのかはわからないか……」
 兵士の呟きに青年兵は何も答えなかった。事実、魔王城から荒野までは数十kmの距離がある。聞こえるとすれば聴く事に特化した魔族だけだろう。
 しばらく演説があったのちに魔王は城内に戻って行った。

 ——パンッ!パンパンッ!
 城の近辺から荒野まで等間隔に設置された砲塔から空に向けて軽い炸裂音が順々に響き始めた。どうやら出発が始まったらしい。
 式典の流れは事前に各部族にも伝えられており、荒野組の間を城から出発する精鋭組が通った後を付いていけば良いとのお達しだったので各部族がこれから始まる戦争に興奮し恐怖した。

 ——パンッ!パンパンッ!
 音が近づいて来る。精鋭組の移動に合わせて打ち上がる砲の弾は空で小さく爆発するも何か白い粉の様なの物を撒き散らすだけで豪華な感じはしない。戦争への見送りと言えばもっと豪勢なのではないか?城下町がある魔王城なら多くの魔族からの見送りもあっただろうに……と兵士は思っていた。

 ——パンッ!パンパンッ!
 精鋭組が荒野に辿り着いた頃合いに不意に空から雪が降り始めた。
「は?」
「なんだこれ!?」
 荒野の各所でザワツキが起こる。当然だ。冬まで間もなくとはいえ季節は秋なのに雪が降り始めれば驚くのは無理もない。
 いつの間にか晴れていた空は曇り雲に覆われ雪が広範囲に降り続ける。そんな中でも精鋭組は足を止めずに進み、荒野組も戸惑いながらも精鋭組の後方に位置取って出発した。

 ——パンッ!パンパンッ!
「この雪、おかしくないか?」
 誰かが呟いた。
 声が聞こえた者たちは雪を手にして感触を確かめると確かにおかしかった。冷たくないし、水も残さず消えるのだ。溶けるというよりは吸収した様に見え、本当に雪なのかと不安が広がる。

「うっ!ぐぅぅぅぅぅっ!」
「おい!どうした!? ぐっ!ああああああああっ!」

 精鋭組の数人が突如苦しみ始めた事で事態は急変する。
 戦争が始まった事で不安定な精神状態だった魔族たちは、秋の降雪と雪の消え方の不可思議さに不安を煽られている状態の中で、先導する立場の精鋭組が苦しみ始めた様子から更に混沌と化し混乱が広がる中。戦争を前線で指揮する軍団長の魔族は叫ぶ。

「——大魔王オーティス様に栄光あれっ!!」

「がああああああアアアアアアッ!」
「うわああアアアアアアアアアッ!」
「ぐうぅゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
「グラアアアアアアアアアアッ!」

 次々と精鋭組が叫び散らしバタバタと倒れていく。
 死屍累々の状況だが荒野組にも苦しみ出す者が現れ徐々に蔓延していった。最終的に戦争へと出発した魔族約五十万人が出発間もなくの道中で倒れ命を落とす結果となった。見送る者も無く、誰にも知られぬままに死体となった軍団。事情を知るのは軍団長だけだろう。
 ——ドクンッ!
 脈動に合わせて身体が屍がピクリと動く。心臓を再起動させる様に行われる複数回の脈動に屍は何度も動いた。
 やがて、適度な感覚の脈動が止まる個体が現れ、その個体はむくりと身体を起こし立ち上がった……。

「………ヴ」
 立ち上がった魔族は、すでに元の人格を宿していない。
 瞳は夜行性の生物の様に怪しく光り、いつの間にか胸から広がった皮膜は全身に及び岩の様に防御力を高める。もちろん本当に岩程度しか防御力が無いわけではない。
「ヴヴ……」
 次々と起き上がる屍は皆同じ様相を呈しており、全員が人とも思えぬ呻き声をあげ歩き出す。
 どこを目的地としているのか誰にもわからないが少なくとも出発地点の魔王城に向かう者は一人たりとも居なかった。
しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...