皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

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第16話 クエストの合間に

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 無事に集会所に辿り着いた4人は集会所横に併設された野営地に住み着き、クエストを共にすることとなった。クエストには素材集めや小動物の狩猟などの採集クエスト、中型から大型の怪物を狩猟する討伐クエストがある。

 集会所到着当初はメア達と一緒に採集クエストに励み、合間にユキの稽古をつけていた。ユキはその体躯をいかした先行型の攻撃に特化していて、剣術の飲み込みがはやい。ミオから回復魔法の詠唱も学び、この大地で暮らすには十分すぎるほどの力を蓄えた。

 ユキの成長に合わせ、クエストの難易度を徐々に上げ、大型の怪物の討伐に参加するほどになっていた。

 そういった難易度の高いクエストに集まる面々との討伐は、帝国の指揮系統とは全く異なる。それぞれが高い技術を持ち、仲間の力量を尊重し助け合う。帝国で採用していた組織というのはその実、弱き者の救済のためにあったのだと感じることが多かった。この大陸では弱き者には厳しいが、生きる力をつけた者には自由が約束されているのだ。

 冒険者と呼ばれる者たちと何度も討伐に出かけたが、クエストが完了すれば解散する。それは相手への配慮であり、軍人のような駐屯という概念はない。一期一会の組織系統なき軍団でも目的は達成でき、お互いの次なる目標のために解散する。それがとても新鮮だった。


 あれから半年が過ぎた。ユキは中型の怪物をなんとか1人で討伐できるようになってきたし、メアも俺も暮らしの基盤を整える程度の金は貯まった。しかし竜神の情報は収集することができなかった。冒険者とよばれる者達も、竜神の鱗や爪といった採集クエストの存在は知っていたが、竜神の存在自体を知らないのだ。



 メアとユキ、そしてミオと4人で集会所脇の野営地で火を囲む。今日は少し北の山の麓に群生する中型の怪物を狩猟してきた。火が沈む前にクエストを終えたので、自分たちの食事用に狩猟をし、夕方から火をおこしはじめた。

「レジー……俺、ちょっと今日……」

 ミオは定期的に夜に姿を消した。姿を消す前きまって具合が悪そうなので、最初の頃は心配していたが、メアに嗜められてからは口うるさく言わなくなった。

「わかった。今日はこのままここで野営しているから」

「うん……」

 ユキの作った料理をかきこみ、ミオはフラフラと闇に消える。3人がその様子を見守っていたら、メアが口を開いた。

「案外、女がいたりしてな」

 思いがけない言葉に、驚きより前に笑い出してしまった。

「年頃だしな。ミオは俺を応援すると言っていたが、ミオには俺の助けは不要そうだな」

 俺の言葉に今度は2人が目を丸めた。

「レジーは女がいるのか?」

「女性ではないが……竜神にもう一度会いたいという願望から、情報を集めにこの集会所に来たのだ。ミオには半年俺の願望に付き合わせてしまっているな……心に決めた女性がいるのであれば申し訳ないことをしている……」

 クエストの報酬はいつも折半していたが、ミオがその報酬でなにを望み、なにに使っているのかということを気にしたことがなかった。

「女がいるなんて、冗談だ。でもなんだってレジーはたった一度見た竜神に会いたいと思うのだ?」

「本当に自分が窮地に立たされていた時、助けてもらったのだ。それで大切なものを失わずに済んだ」

「大切なもの……?」

「いい大人がそれを大切にしているなんて恥ずかしくて言えないようなものだ。聞かないでくれ」

 恥ずかしくて少し笑ったら、メアは優しく、しかし困ったような顔で笑う。

「それならば、ミオもレジーを助けてくれているのではないか?」

「そう、だな……」

 即座に返答はしたが、メアの言葉の衝撃が体を襲っていた。確かにあの船でミオに会わなければ、俺は今頃どうしていたのだろう。あの街で適当な職を見つけて肉体労働をしていたのだろうか。生きる目的もなく、ただ人生を悔やみ、皇帝に懺悔するだけの苦しい人生を歩んだのだろうか。

「レジー、別に困らせたいわけではないんだ。オーク女の勘などあてにしないでくれ」

 気まずい雰囲気が、焚き火に照らされ揺らめいている。ミオは確かに寝る前と朝起きた時にキスをする。船で約束した通り、ミオは毎日俺の頭を抱えて寝た。それを弟だからと納得させていたのはミオではなく俺だったのか。

「レジー、僕は姉様と2人で行くと約束した場所があるんです。東の高山にある街です。道中は中型のグランズドッグという野犬のようなものがいて、それで僕は姉様の足手まといになるからってずっと我慢していたのです」

「ユキ、まだそんなことを言っているのか。こうやってこのままここで暮らせばいいではないか」

「メア、いいではないか。ユキ、俺たちも同行した方が良いか?」

「いいえ、姉様と2人でなくてはダメなんです。僕は姉様を守れますか?」

 ユキの真剣な眼差しが俺の心を打つ。ユキはこの半年で見違えるほどの剣士になった。それに毎日のように一緒にいるから気がつかなかったが、こうして改めて見ると出会った時よりも体は一回り大きく、顔つきからも幼さが消えた。

「ユキはもうメアを守る剣士だ。そう思うのは俺だけではない。今まで大型狩猟を共にした冒険者も認めていた」

 ユキは嬉しそうに笑うが、メアは複雑そうな顔をした。

「レジー達は家は持たないんですか? 姉様は家を欲しがっているので、レジー達の家のそばに建てたいんです。それに旅から帰ってきた時にレジーに報告したい……」

「そういえばミオも家を欲しがっていたな……豪遊したいとも言っていたが……ミオと話し合ってみる」

 メアはようやくホッとしたように息をついた。メアはユキと安全に暮らせる場所を求めていて、遠征などあまり興味がないのだろう。

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