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第25話 2度の訪問者
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メアとユキが旅に出てから3ヶ月が過ぎた。ミオと俺で小麦畑を切り盛りしながら、宿舎には路上で彷徨う様々な者を受け入れた。種族的には人族とオーク族が多かった。しかしそれは種族の問題というより、種族の経済的貧困が大きく関係しているといえる。
宿舎のこどもは午前中、ミオに回復魔法や、この大陸の座学を教わり、午後に農耕の手伝いをする。朝昼晩の食事や掃除などは宿舎で取り決めをして当番制、金銭の感覚を掴むため、月に一度給与を支払う。それでこの大陸で生きる術と社会性を学んでいくのだ。
収穫がない初年度は収入源がないため、ミオと俺は時々クエストをこなす。農耕と討伐の二足草鞋で、家を建てた時から今日まで、ミオには様々な苦労をかけた。
でもその甲斐あってか、今年は水害や害虫被害もなく無事に終えることができた。収穫の終わった畑を玄関先で眺めている時、遠くから2つ長い影が見える。
ひとつはメアだった。しかしもう一つの影が大き過ぎて、誰だかわからない。
「レジー!ミオー! ただいまー!」
野太い声に聞き覚えすら無い。
「ユキ!?」
隣に座っていたミオが駆け出していく。ミオに手を引かれ走る様で、ミオとの体格差がわかる。
「レジー、ただいま。収穫はどうだった?」
俺の目の前に立つ精悍な青年が、ユキだとは信じられない。そもそも身長が違う。
「私は毎日見てるから気がつかなかったが、こうやってミオと並ぶと随分と大きくなったな。レジーただいま。収穫はうまくいったか?」
「ああ……」
俺は未だ信じられずユキの肩や腕を触り、確かめていく。
「レジーに報告したいことがあるんだ。メア……」
ユキに呼びかけられたメアは恥ずかしそうに下を向き、ミオの手を引き納屋に歩き出した。
ユキと2人その影法師を見送ったら、さっき座っていた玄関の階段に腰を下ろす。
「最初の年の大事な時に、農業を手伝えなくてごめんなさい」
「もともとそういう予定だったんだ。俺のわがままではじめたことなんだから、そんなことを気にするな。しかしユキは見違えるほど大きくなったな」
「メアも、最近は俺にキスをされると恥ずかしがるんです。レジーのおかげだ。基本的な体の使い方を教えてもらったおかげで、すぐに鍛えることができた」
「急にこれだけ伸びると、夜痛かったのではないか?」
「あ、レジーもそうだったんだ。もう骨がギシギシいって、なんかの病気かと思ってた」
ユキは笑い、俺も笑った。ようやくよそよそしい口調が戻った時、ユキの顔から笑みが消え、真剣な眼差しを向ける。
「東の高山に行って、指輪のための石を2人で見つけることができた。僕はメアに求婚して、メアはそれに応じてくれた」
唐突な報告にあいた口が塞がらない。この大陸の風習に疎いとはいえ、ユキが東の高山に行きたがる理由など気に留めたこともなかったのだ。
「そうか……おめでとう。今の気持ちをなんと表現したらいいか……。すごく嬉しくて、ミオのように駆け出してしまいそうだ」
「レジーのおかげだって、僕もメアも思っている。だから1番に知らせたかった」
「そうか……そうか……」
例えようのない感動に感嘆をもらしていると、ユキは照れ笑いした。その顔が昔の面影を色濃く映し出していた。
「実はなかなかイエスって言ってもらえなかったんだ」
「なぜ? 年齢的な問題か?」
「いいえ、どちらかというと寿命の問題です」
「寿命?」
「オーク族は600年程度生きる。人族は生きてせいぜい80年。メアは150年程度生きてるけど……僕の方が早く死んでしまう。だから僕ははやく結婚したいって言ってたのに、メアは僕が死んだ後のことばかり考えて……」
オーク族の寿命。その言葉で鈍い痛みが心の端にのしかかる。
「でも、150年寂しい思いしたんだから、少しくらい2人の時間があってもいいんじゃないか、僕がいなくなったらまた存分に寂しがればいいってゴリ押ししたら、メアは……」
「メアは?」
「泣いて喜んでくれました……」
「そうか……」
さっきから悲しかったり感動したりと心が忙しい。胸が震えっぱなしで、良い言葉ひとつ贈ってやることができない。
「レジー! 今日の晩飯メアのお土産だってー!」
遠くからミオの素っ頓狂な声が響く。ユキと顔を見合わせて笑ってしまう。俺の先を見て、ユキが声を漏らす。
「来客?」
振り返ってみるとユキの向く方に人影がひとつ。
「いや、今日はそんな予定はない」
2人立ち上がり、街の方角から歩いてくる影をじっと見つめた。
宿舎のこどもは午前中、ミオに回復魔法や、この大陸の座学を教わり、午後に農耕の手伝いをする。朝昼晩の食事や掃除などは宿舎で取り決めをして当番制、金銭の感覚を掴むため、月に一度給与を支払う。それでこの大陸で生きる術と社会性を学んでいくのだ。
収穫がない初年度は収入源がないため、ミオと俺は時々クエストをこなす。農耕と討伐の二足草鞋で、家を建てた時から今日まで、ミオには様々な苦労をかけた。
でもその甲斐あってか、今年は水害や害虫被害もなく無事に終えることができた。収穫の終わった畑を玄関先で眺めている時、遠くから2つ長い影が見える。
ひとつはメアだった。しかしもう一つの影が大き過ぎて、誰だかわからない。
「レジー!ミオー! ただいまー!」
野太い声に聞き覚えすら無い。
「ユキ!?」
隣に座っていたミオが駆け出していく。ミオに手を引かれ走る様で、ミオとの体格差がわかる。
「レジー、ただいま。収穫はどうだった?」
俺の目の前に立つ精悍な青年が、ユキだとは信じられない。そもそも身長が違う。
「私は毎日見てるから気がつかなかったが、こうやってミオと並ぶと随分と大きくなったな。レジーただいま。収穫はうまくいったか?」
「ああ……」
俺は未だ信じられずユキの肩や腕を触り、確かめていく。
「レジーに報告したいことがあるんだ。メア……」
ユキに呼びかけられたメアは恥ずかしそうに下を向き、ミオの手を引き納屋に歩き出した。
ユキと2人その影法師を見送ったら、さっき座っていた玄関の階段に腰を下ろす。
「最初の年の大事な時に、農業を手伝えなくてごめんなさい」
「もともとそういう予定だったんだ。俺のわがままではじめたことなんだから、そんなことを気にするな。しかしユキは見違えるほど大きくなったな」
「メアも、最近は俺にキスをされると恥ずかしがるんです。レジーのおかげだ。基本的な体の使い方を教えてもらったおかげで、すぐに鍛えることができた」
「急にこれだけ伸びると、夜痛かったのではないか?」
「あ、レジーもそうだったんだ。もう骨がギシギシいって、なんかの病気かと思ってた」
ユキは笑い、俺も笑った。ようやくよそよそしい口調が戻った時、ユキの顔から笑みが消え、真剣な眼差しを向ける。
「東の高山に行って、指輪のための石を2人で見つけることができた。僕はメアに求婚して、メアはそれに応じてくれた」
唐突な報告にあいた口が塞がらない。この大陸の風習に疎いとはいえ、ユキが東の高山に行きたがる理由など気に留めたこともなかったのだ。
「そうか……おめでとう。今の気持ちをなんと表現したらいいか……。すごく嬉しくて、ミオのように駆け出してしまいそうだ」
「レジーのおかげだって、僕もメアも思っている。だから1番に知らせたかった」
「そうか……そうか……」
例えようのない感動に感嘆をもらしていると、ユキは照れ笑いした。その顔が昔の面影を色濃く映し出していた。
「実はなかなかイエスって言ってもらえなかったんだ」
「なぜ? 年齢的な問題か?」
「いいえ、どちらかというと寿命の問題です」
「寿命?」
「オーク族は600年程度生きる。人族は生きてせいぜい80年。メアは150年程度生きてるけど……僕の方が早く死んでしまう。だから僕ははやく結婚したいって言ってたのに、メアは僕が死んだ後のことばかり考えて……」
オーク族の寿命。その言葉で鈍い痛みが心の端にのしかかる。
「でも、150年寂しい思いしたんだから、少しくらい2人の時間があってもいいんじゃないか、僕がいなくなったらまた存分に寂しがればいいってゴリ押ししたら、メアは……」
「メアは?」
「泣いて喜んでくれました……」
「そうか……」
さっきから悲しかったり感動したりと心が忙しい。胸が震えっぱなしで、良い言葉ひとつ贈ってやることができない。
「レジー! 今日の晩飯メアのお土産だってー!」
遠くからミオの素っ頓狂な声が響く。ユキと顔を見合わせて笑ってしまう。俺の先を見て、ユキが声を漏らす。
「来客?」
振り返ってみるとユキの向く方に人影がひとつ。
「いや、今日はそんな予定はない」
2人立ち上がり、街の方角から歩いてくる影をじっと見つめた。
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