皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

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第24話 帰る家

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 2人ひとしきり泣いて眠ったら、次の日は突き抜けるような快晴だった。ミオは躊躇いがちに、いつものキスをする。

「くすぐったい……」

 俺の言葉にミオは力なく笑った。その笑顔が痛々しかった。

「ミオ、家を建てよう。どんな家がいい?」

 ミオの目が見開かれて、潤んだ瞳に光がぐるんと反射する。

「俺の、俺の部屋は天井が高くて、広い部屋がいい。そ、それで。大きな丸いベッドでレジーと一緒に寝るんだ。それで、それで! 宝物を飾れる棚を作るんだ! 持ち歩くから出し入れしやすい便利な棚だ!」

 顔をくしゃくしゃにしてミオは一生懸命に説明する。その顔をそっと撫でた。

「そうしたら宝物の秘密を教えてくれるか?」

「教える! 教える! 教えるよ! レジー! 俺の秘密を全部教えるよ!」

 泣き出しそうなミオを抱き寄せ、額にキスをする。

「じゃあ、メアにそう言っておいで。どこに建てるか皆で決めよう」

 ミオはガバッと起き上がり、ドタバタとテントを出て行く。そしてヨレヨレの声でメア達を叩き起こした。いつもの朝の囀りにメア達の安堵した空気がテントまで流れ込む。



 リディアードからの報酬は全財産ではなく、家を建てる費用で落ち着いた。彼はそんなものでは足りないと食い下がり、ミオが恐縮するほどだった。結局、メアの家と、農耕のための開墾費用と、農耕労働者の宿舎まで費用を持ってもらうことになった。

 農耕については俺の希望だった。街の人族の末裔、人族でなくともなんらかの理由で職に就けない者たちに、労働の機会を与えたかった。農耕も体力が必要だが、ギルドのように命を失うことはない。

 これにはメアも賛同してくれて、決めかねていた土地は街から安全に移動できる森の先と決まった。

 家を建てるにあたり、俺が驚いたのは、この大陸には領地という概念がないことだった。好きな場所に住むことができるが、それを守る後ろ盾がない。自分の家は自分で守る、それがこの大陸の掟だった。

 リディアードは費用だけではなく、ドワーフの職人たちも手配してくれた。だから土地を決めてから1ヶ月足らずで住み始めることができた。



「ミオ、そろそろ寝るぞ」

「うん、ちょっと待って」

 ミオは理想通りの部屋で、毎日宝物を服から取り出し並べていく。てっきり宝物は常時棚に展示しておくのだと思ったが、毎日持ち歩かなければならないとのことだった。

 ミオは宝物を全部置くと、肌着になってベッドに駆け寄って来る。俺の部屋にもベッドがあるが、ミオの部屋に設えたこの丸いベットで2人寝る。

「そろそろ宝物の秘密を教えてくれてもいいんじゃないか?」

 ミオは俺の唇をくすぐるようにキスをする。いつもはそのまま寝てしまうのに、ミオは浮かない顔で俺を見つめた。

「レジー、家を建ててくれてありがとう」

 住みはじめて1ヶ月、改まったミオのお礼に少し戸惑いを抱く。家を建てたのにも関わらずミオは時々夜にいなくなり、竜神のウロコを使ったのかさえよくわからなかった。使い道はミオに任せた手前、聞くことを憚られたのだ。

 ミオが俺の唇をそっと喰む。そして小さな手が胸から、スッと下に移動した。ミオに初めて会った船の中の戸惑いが呼び起こされて、思わずミオの腕を掴んだ。

「やめるんだ」

 ミオは目を伏せて俺と目を合わせない。

「なんで……?」

 責めるような声色で、ミオの本心を知る。家を建てて一緒に暮らす、それはミオにとってみれば俺がそう決意したと感じたのだろう。

「しようよ。そうじゃなきゃ……」

 ミオの震える声で彼の勇気を知る。ずっと言い出そうと悩んでいたのだろう。

「ミオが成人したら、考える」

「本当!? 帝国の成人って18歳だろ!? 来年俺を抱いてくれるの!?」

「俺も経験がないんだ。上手くできないからって怒り出すんじゃないぞ」

 抱いた経験もなければ、抱かれた経験もなかった。

「そんなこと心配するなよ、俺が教えてやるよ!」

 ミオは目を輝かす。この純真な心の前では、自分の欲望がより一層後ろ暗く感じる。

「メア達、明日から東の高山に旅に出るって」

「そうか。少し寂しくなるな」

「ユキは姉様守るってはりきってたぞ」

「メア達が帰ってくる頃には丁度麦の収穫だな。宴が開けるように、農耕もクエストもこなさなければな……」

「俺も頑張るよ、レジー、俺のレジー」

 ミオはぐずぐずと俺の頭を抱き寄せ、眠りに落ちる。その時、温い感情が湧いた。ミオの胸に抱かれ何度も感じた安寧。俺が守り、縋るべきはこの安寧しかなかった。
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