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第23話 雨音
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あれから雨は止まなかった。竜神の涙が、俺の胸を叩いているようだった。
一晩歩き続け、集会所の野営地に戻ったのは次の日の昼過ぎ。テントの入り口に差し掛かった時、中からミオが慌てて出てくる。
「な……なんでそんなに濡れてるんだよ! はやく入って!」
「ミオ」
テントに入れようと手を引っ張るミオを遮り、俺は竜神のウロコをミオに手渡す。
「リディアードさんのクエストを断ってきたのか!? なんでコリンに渡して来なかったんだよ!」
ミオは怒りからかテントから飛び出してきた。
「渡してきた。報酬は後日ミオが決めると言っておいた。このウロコはミオが使うんだ。もっとはやく気づくべきだった」
そうしたら、迷うこともなくミオを救済し、竜神を傷つけることもなかった。
「なんでだよ! 俺はどこも悪くないって言ってるだろ! なんで! どうやってこれを手に入れたんだよ!」
「不要ならば売ればいい」
ミオは信じられないという顔で俺を見る。しかし頭が厚い膜に覆われたようにぼんやりしていて、ミオの考えていることがわからなかった。
「もう竜神に会わなくていいのかよ!」
昨日ウロコを持っていることと、竜神に会えることは違うと言っていたのはミオ自身ではないか。そう思っているのに、言葉が出ない。
「俺に、そんな資格はない」
ミオが雨に打たれている。だから俺は踵を返して歩き出す。
「どこへいくんだよ! レジー! レジー!」
後ろから軽い衝撃があったと思ったら、ミオの手が前に飛び出してきた。そのまま腰に抱きつき、ミオは絶叫する。
「いやだ! いやだ! もう家が欲しいなんて言わない! 財産が欲しいなんて言わない! レジーを困らせることを言わないから! 置いていかないで、置いていかないでよぉ!」
ミオはそのまま泣き叫び、俺から離れようとしなかった。そしてその絶叫を聞いたメアとユキがテントから飛び出て来る。
俺は自分自身が衝動的になにをしようとしたのか、メアの心配そうな顔を見て思い知る。胸が痛くて仕方がなかったが、観念してミオとテントに入った。
テントに入ってしばらく自分から滴り落ちる雨を眺めていた。それを見ていたミオは嗚咽を堪えながら、俺の鎧を脱がしはじめる。
「ミオ、すまなかった」
ミオは俺の謝罪を受け入れることなく、紐を解き、鎧を脱がしていく。そして、肌着も脱がして拭きはじめた。ぐずぐずと鼻を啜りながら、鎧をいつもの場所に仕舞う。隙間ができたテントの真ん中に就寝用のマットを敷いて、俺はそこに押し倒された。
ミオは俺の履き物も剥いで、布で拭っていく。でも俺はなされるがまま、なにもできなかった。雨に当たりすぎたのと、寝不足で、意識が急激に遠のく。
ミオがいつものブランケットをかけた時、微睡に意識が沈み込んだ。しかし、ミオが横に寝転がり、その胸に俺の頭を引き寄せた時。その懐かしい匂いに、胸を掻きむしりたくなるほどの痛みが暴れ出した。
傷つける側になって知る解決しようのない痛みに、俺は声をあげて泣き、ミオの服を濡らす。ミオはいつまでも鼻を啜りながら、俺の慟哭を受け入れ、2人テントに打ち付ける雨音を聞く。
音が聞こえるのに濡れない、それが世界から隔離された、見向きもされない石にでもなったようだった。
一晩歩き続け、集会所の野営地に戻ったのは次の日の昼過ぎ。テントの入り口に差し掛かった時、中からミオが慌てて出てくる。
「な……なんでそんなに濡れてるんだよ! はやく入って!」
「ミオ」
テントに入れようと手を引っ張るミオを遮り、俺は竜神のウロコをミオに手渡す。
「リディアードさんのクエストを断ってきたのか!? なんでコリンに渡して来なかったんだよ!」
ミオは怒りからかテントから飛び出してきた。
「渡してきた。報酬は後日ミオが決めると言っておいた。このウロコはミオが使うんだ。もっとはやく気づくべきだった」
そうしたら、迷うこともなくミオを救済し、竜神を傷つけることもなかった。
「なんでだよ! 俺はどこも悪くないって言ってるだろ! なんで! どうやってこれを手に入れたんだよ!」
「不要ならば売ればいい」
ミオは信じられないという顔で俺を見る。しかし頭が厚い膜に覆われたようにぼんやりしていて、ミオの考えていることがわからなかった。
「もう竜神に会わなくていいのかよ!」
昨日ウロコを持っていることと、竜神に会えることは違うと言っていたのはミオ自身ではないか。そう思っているのに、言葉が出ない。
「俺に、そんな資格はない」
ミオが雨に打たれている。だから俺は踵を返して歩き出す。
「どこへいくんだよ! レジー! レジー!」
後ろから軽い衝撃があったと思ったら、ミオの手が前に飛び出してきた。そのまま腰に抱きつき、ミオは絶叫する。
「いやだ! いやだ! もう家が欲しいなんて言わない! 財産が欲しいなんて言わない! レジーを困らせることを言わないから! 置いていかないで、置いていかないでよぉ!」
ミオはそのまま泣き叫び、俺から離れようとしなかった。そしてその絶叫を聞いたメアとユキがテントから飛び出て来る。
俺は自分自身が衝動的になにをしようとしたのか、メアの心配そうな顔を見て思い知る。胸が痛くて仕方がなかったが、観念してミオとテントに入った。
テントに入ってしばらく自分から滴り落ちる雨を眺めていた。それを見ていたミオは嗚咽を堪えながら、俺の鎧を脱がしはじめる。
「ミオ、すまなかった」
ミオは俺の謝罪を受け入れることなく、紐を解き、鎧を脱がしていく。そして、肌着も脱がして拭きはじめた。ぐずぐずと鼻を啜りながら、鎧をいつもの場所に仕舞う。隙間ができたテントの真ん中に就寝用のマットを敷いて、俺はそこに押し倒された。
ミオは俺の履き物も剥いで、布で拭っていく。でも俺はなされるがまま、なにもできなかった。雨に当たりすぎたのと、寝不足で、意識が急激に遠のく。
ミオがいつものブランケットをかけた時、微睡に意識が沈み込んだ。しかし、ミオが横に寝転がり、その胸に俺の頭を引き寄せた時。その懐かしい匂いに、胸を掻きむしりたくなるほどの痛みが暴れ出した。
傷つける側になって知る解決しようのない痛みに、俺は声をあげて泣き、ミオの服を濡らす。ミオはいつまでも鼻を啜りながら、俺の慟哭を受け入れ、2人テントに打ち付ける雨音を聞く。
音が聞こえるのに濡れない、それが世界から隔離された、見向きもされない石にでもなったようだった。
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