皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

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第31話 帝国への連絡船

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「昨日の夜の便で最後だよ。帝国への船はこっちの大陸から出ていない。帝国が一方的に人族を下すための船に、こっちの大陸から乗るのは僅かだからな。次の予定は聞かされていない」

 港のオークが面倒そうに答える。とりつく島もなく4人黙ってしまった。ユキが意を決して質問をする。

「他の大陸に渡る船で帝国に寄ってもらうことはできませんか?」

「ここら辺の船はほとんどが大陸沿いの他の港か、西の大陸の貿易くらいだ。帝国なんて明後日の方向、どの船も通りがかるものか」

「そうかい、ありがとよ」

 メアはこれ以上は無駄だと、礼をし話を切り上げようとした。

「お前……女オークか? ヘヘッ、女オークはロクなのがいないって聞いてたが、なかなかいい体してるじゃねぇか。よく見ると顔もそんじょそこらのエルフより綺麗だ。一晩付き合ってくれたら、帝国への船を手配してやってもいいぜ」

 双剣に手をかけたユキの手をメアが遮り、舌なめずりするオークに向かい合う。

「帝国への船の手配などできるのか? その口がさっき、そんなものはないと言っていたのだぞ」

「俺を楽しませてくれたら、船くらいチャーターしてやるさ。そっちのひょろ長いのがお前の情夫か? そんなのとは比べもんにならないほど激しいぜ? ヒヒヒ」

「ガセネタか。とりあえずありがとよ」

 メアはユキの手を掴み踵を返す。

「なんだとメス豚がぁ! 物足りねぇ顔して欲しがってるから声かけてやったんだろうがよ! 女オークが竿を選り好みしてるんじゃねぇぞ!」

「一晩5発だ」

 唐突なメアの言葉にオークはポカンと口をあける。

「オークは男が多いから他種族の雄の精力なんて知りようもないものな。人族の雄というのは化け物だよ。大きさも時間の長さも回数も桁違いで、毎晩泡を吹くまで抱き潰される。お前は一晩、何回楽しませてくれるのだ?」

 オークはおろか、俺もミオもユキの圧倒的雄の力量差に押し黙る。

「メア! そういうこと人前で言っちゃダメ!」

「なんだ、ユキの表面がそんな優男だから舐められてるんだぞ」

「違うでしょ! もう行くよ! ミオもレジーも行くよ!!」

 ユキは恥ずかしがって3人の背中をまとめて押す。

「性液は何回出してもドロドロで、すごい濃いぞ! あんなのブチ込まれたら1発で孕んじまう!」

「メア! もうやめて!」

 ユキはメアの口を手で塞いで、グイグイと押し、その場を離れた。少し歩いた先でメアがユキから抜け出した時、ミオがある一点を見つめて動かなくなる。

「ミオ、どうかしたか?」

 俺の呼びかけにミオはうーんと悩んでいる様子だった。

「船のチャーターなんて、多分すごくお金かかるだろ? 操舵なんて俺たちにはできないし、着岸もプロじゃなきゃできない。紹介がなければどんな人を集めればいいのかもわからないよ」

「そうだな……。俺も陸の戦いが多かったから、船のことはさっぱりで、遭難するのが関の山だな……」

 ミオと2人悩んでいる先で、ユキを黙らせたメアは人族の貨物運搬従事者と世間話をしていた。

「なんたって、帝国は船を出さなくなったんだ?」

「なんだか反乱が絶えず帝都の情勢が不安定で、犯罪人を島流しにしている場合じゃないようですよ」

「ならば犯罪者急増して船便が増えそうなものだがな。いつからそんな状態になってるんだ」

「皇帝がご成婚されてから、たった1年足らずでこんな感じだもんなぁ……。結婚により皇紀の能力が失われたってもっぱらの噂だよ」

「能力?」

「なんだか未来予知ができたらしい。それで皇帝陛下に見染められたのに、結婚を機にその能力が失われるなんてな」

「へぇ……。なんだかよくわからない話だな」

 メアが俺に視線を向ける。それと同時にミオが思い立ったように言った。

「レジー、馬車のようなものを背負えば3人乗せられると思うんだけどどうかな?」

 唐突な提案に、ミオのアイデアがうまく咀嚼できなかった。

「馬車?」

「俺がこう、背負ってさ」

 ミオが馬車を背負う素振りをする。それで理解ができた。

「メアとユキに知られても大丈夫なのか?」

 ミオはなんだか恥ずかしそうに顔を伏せて辿々しく言う。

「俺、レジーにだけだよ。知られたくなかったの。だ、だってさ。あんな姿だと、好きになってもらえないって、思ってたからさ……」

 メアとユキは俺の鱗を剥いだりしないだろ? と付け加えて耳まで真っ赤にする。それがたまらなく愛おしくて、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。

「担ぎやすいように、ドワーフに作ってもらおう。あんな豪華な家もすぐに作ってくれたんだ。すぐに作ってもらえるだろう」

 ミオの頭を撫でて労うと、えへへと笑う。そしてメアとユキを大声で呼んで、ドワーフの元へ向かうことにした。



 道中の森の中で、ミオは一度竜神の姿になり全員で採寸をした。ユキはかなり驚いていたが、メアはさほど驚かない。

「メアはそんなに驚かないんだね」

 ミオの言葉に、メアは少し笑った。

「乙女が竜神を諦めるとは思えなかったからね。ミオが竜神なんじゃないかって思っていた節があった」

「女オークの勘は鋭い」

 ミオと俺が感嘆すると、メアは得意げな顔をした。ユキは目を輝かせてミオの鱗を撫でている。

「すごく綺麗だね。レジーも惚れてしまうわけだ」

「レジーが1番好きなところはこっちだよ」

 ミオは得意げに服をずらして胸毛をチラつかせる。

「ミオ」

 俺が短く呼ぶと、ミオはごめんなさいと胸元を正した。それにメアがクククと笑いを漏らす。

「レジーは……独占欲が強いんだな……」

 大笑いをするメアの横で、ユキが姉様も見習ったらどうだ、とさっきの暴露を叱責する。


 そうして、ドワーフの里に辿り着き無事にミオが担ぐ荷台を発注することができた。完成は思いの外はやく、明日の午後には自宅に届けられるとのこと。代金は不要だと言うドワーフに無理やり金を押しつけて、帰りにコリンを見舞う。ミオの提案だった。

 コリンはすでに健康を取り戻しておりふっくらしていた。リディアードは相変わらず金を受け取れと俺たちを困らせたが、コリンの笑顔には変えられないと言うと、嬉しそうに笑った。

 4人明日の出発に向け、それぞれ自宅に帰る。これまでの道中が意図してこうなったのではない。しかしこの一連の巡回が、この大陸との別れを暗示しているような奇妙な不安がいつまでも付き纏っていた。
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