皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
35 / 47

第34話 一路帝都へ

しおりを挟む
 あくる朝、遠くから聞こえる音で目が覚めた。ミオはいつもより短くキスをしてテントから飛び出た。俺も慌てて出ると、メアとユキは既に帝都の方角を向き、耳を澄ましている。

「レジー、なんの音だ?」

「多分、投石で建物が壊されている音だ。メア、ユキ。今帝国は戦争状態だ。予定を変更して、ここで待っていてくれ」

「おいおい、そんな片腕の戦士を放り出してここでキャンプしてろだって?」

「メア、それにユキ。軍隊における一人一人の戦力は、こどもの遊びのようなものだ。しかし戦術によっては国一個を滅ぼすほどの威力になる。ミオ、ミオはここで待っていてくれるか?」

 ミオは薄ら笑って、首を横に振る。

「ミオ、アデルを救いたいし、メアやユキ、それにミオにだって幸せになってもらいたい。俺は高望みしすぎか?」

「絶対に離れない、そう言ったはずだよ。レジー。腕が戻らないように、命だって一度消えたら戻せないんだ。それを守りたいと思うことは高望みしすぎか?」

 ミオが真剣な眼差しで俺を見つめる。謎かけのような問いにどう答えたらいいのかわからない。全員で行くことのリスクをわかってもらえないもどかしさで喉が渇く。

「みんなで行って、仮にユキが死んだら、メアはレジーを恨むと思う? そんなはずはない。レジーの困難にユキが逃げ出す方がよっぽどメアは恨むはずだ」

 メアとユキは大きく頷く。

「もしレジーが1人で行きたければ行けばいい。命と引き換えにアデルと帝国を救えるかもしれないね。でもその時は俺がこの帝国を滅ぼすよ。レジーのいない帝国なんかに興味はないし、レジーが死んだら悲しいからね」

 ミオの幼く残虐な意思に、言葉を失う。

「レジーは、自省ばかりで自分を軽んじすぎなんだよ。俺にそんなことをさせたくないなら、みんなを連れて行く最良の手立てを考えて」

「つまりあれだな、レジーは足手纏いだと言いたかったんだな」

 メアがあっけらかんとした声色でこの場の空気を壊す。

「そうなんだよ。別に頼ってくれればこんな帝国すぐに滅ぼせるのにさ。メアなんか刺されたって別に死なないだろ?」

 それは死ぬな、とメアがミオの肩を掴む。その光景を見て、俺はまた同じことを繰り返すところだったと思い至る。なぜこんなに自分に権力が集中したか。それは多少なりとも自分にしかできないという驕りがあったのだ。自分の命さえかければ、残された者のことなど関係ないという無責任さを見て見ぬフリをしていた。帝国に対しても、ここにいる3人に対しても。

「ミオ、俺はこどもだな」

 ミオは俺の言葉になぜか下の肌着を脱ぎ始めた。

「な、なにをしてるんだ」

「だって不経済なんだろ?」

 肌着をその辺に捨てシャツ一枚になったミオが俺に走り寄って飛びつく。そして深く長いキスで俺の口を塞いだ。

「アデルはきっと皇帝の宮殿にいるんだろ? これでひとっ飛びしようよ。あ、でも荷台は壊れると帰り困るから、メアが背中で、ユキとレジーが腕ね」

「いやぁ、帝国の人族はびっくりするんだろうなぁ。あっちの大陸の者だって竜神なんて見たことないのに」

 メアが笑いながら、竜神になったミオの腕をペチペチと叩いている。ユキも便乗して軽口を叩く。

「でもこっちの方がかっこいいよ。なんか神が来たって感じで。皇帝がいる宮殿に降り立てそうな場所があるかな?」

 俺はミオの胸の中で3人の視線を浴びる。自分の幼さを全員に見られているようで、恥ずかしさから視線を落とした。

「レジー、俺のレジー。レジーのその美しさが好きなんだよ。でも今日は俺に頼って。滅ぼしたりしないから。ね?」

 ミオが大きな手で俺の頭を掴んで上に向かせる。そうして長い首を器用に畳んで俺の唇を奪った。それが離れると一層恥ずかしくなって言葉が絞り出せない。

「レジーはなんだって?」

 メアの言葉にミオが答える。

「みんなよろしく、だって」

「はは、乙女だなぁ。恥ずかしがっちゃって」

 メアは竜神から俺を受け取り、地面に座らせる。ユキはミオに指さされたテントから俺の甲冑を取り出してきた。メアとユキに甲冑を着せられ、再び竜神に抱きすくめられる。もう片方の腕にユキを、背中にメアを載せたら、一気に上昇し、一路皇帝の住う宮殿へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる
BL
ベルリアンの次期当主、ノア・セシル・キャンベルの従者ジョシュアは頭を抱えていた。自堕落でわがままだったノアがいきなり有能になってしまった。なんでも「この世界を繰り返している」らしい。ついに気が狂ったかと思ったけど、なぜか事態はノアの言葉通りに進んでいって……?

【BLーR18】箱入り王子(プリンス)は俺サマ情報屋(実は上級貴族)に心奪われる

奏音 美都
BL
<あらすじ>  エレンザードの正統な王位継承者である王子、ジュリアンは、城の情報屋であるリアムと秘密の恋人関係にあった。城内でしか逢瀬できないジュリアンは、最近顔を見せないリアムを寂しく思っていた。  そんなある日、幼馴染であり、執事のエリックからリアムが治安の悪いザード地区の居酒屋で働いているらしいと聞き、いても立ってもいられず、夜中城を抜け出してリアムに会いに行くが……  俺様意地悪ちょいS情報屋攻め×可愛い健気流され王子受け

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」 冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生! 庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。 そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。 皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。 (ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中) (第四回fujossy小説大賞エントリー中)

処理中です...