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第35話 竜神降臨
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宮殿は3層からなる建物で、2階は建屋の3分の1の面積がバルコニーとなっている。そして皇帝の謁見の間、及び執務室は3階となっており、バルコニーに降り立つことはつまり、帝国の中枢で働く全ての人間に見られることとなる。
「滅ぼすとは一体なんなのだ」
宮殿に降り立つ前に気になっていたことをミオに聞いた。
「雷だって落とせるし、豪雨で国ごと沈めることだってできるよ。レジーは農耕や治水でその脅威をよく知ってるだろ?」
竜神が悲しめば雨が降る。俺が死ねば悲しみから国ごと沈むというのも大袈裟な話ではないということか。
「貧乏人なんて言って悪かったって思ってるよ」
唐突なミオの謝罪に俺も、ユキも顔を見上げる。
「土地を開墾して、貧しき人々に生きる希望を与える。農耕をやってみてわかったよ。食べることすらままならない状態では、希望なんて抱けない。彼らはちゃんと希望という財産を持っていた。だからレジーを見送りに来たんだろ?」
ユキはなにを言っているのかわからないといった目で俺を見る。しかし俺にはミオがなにを言っているのかよくわかった。俺がこの土地を離れるときに見送りに来た人々を見て言い放った言葉に、ミオは謝罪をしているのだろう。長い時間を生きる竜神にとって、彼らの行動は不可解極まりなかったに違いない。
「だから滅ぼしたりなんかしないよ。レジーの宝物だからね」
言い終わらないうちに、ミオが宮殿の2階のバルコニーに降り立った。帝都を一望できるバルコニーは、攻撃を受けやすいためか衛兵すらいなかった。
この宮殿に登る唯一の道に、寡頭勢力の一派がなだれ込んでいた。衛兵の戦力は階下に集中しているのだろう。
「ミオ、その姿でも宮殿に入れる。天井が高いんだ」
ミオをこの攻撃のしやすいバルコニーに残すわけにはいかなかった。4人でバルコニーを通り抜け、窓から2階の廊下に侵入する。体の大きなミオが窓枠にはまり、3人で引っ張っているときに、衛兵が1人、近づいてきた。
「ミ、ミゼル卿!?」
「ああ、思いの外はやく見つかってしまったな。すまんがちょっと手伝ってもらえるか?」
「な、なにをそんな悠長なことを……ああっ、この窓は枠を外せば両方開くんですよ。一旦、窓の外に出てください!」
衛兵に言われた通りミオは一旦外に出たら、衛兵が窓を2枚外してくれた。
「な……なんなんですか、この生き物は……」
「すまんな、説明している時間が無い。アデルに会いたいのだが、彼は今どこにいる?」
「謁見の間が現在参謀本部になっており、多分そちらに……しかしミゼル卿、そこには陛下も居られます」
「ああ、そうか……。今下から攻めているのは何者だ?」
「辺境貴族のグスタ卿一派です。ミゼル卿が帝国を離れてから勢力争いが激化し、恩恵を受けられない末端の領主からの反乱が絶えないのです」
「グスタ卿か。俺が帝国を離れるときにも既に苦しい状況だったからな……。領民も飢えに喘いで捨て身で乗り込んできたのであろう。それをああやって軍事で抑え込んでいるのか?」
俺の問いに衛兵は黙った。黙った理由はすぐに理解した。もはや統治などと言っていられないほど帝国全土が混乱しているのだ。
「わかった。苦労をかけたな。迷惑ついでに、侵入者を捕らえた体で俺を謁見の間に連れていってくれないか?」
「ミゼル卿……弟アデルが貴方の腕を持ち帰ったことは聞き及んでおります。それの借りを返しにきたというのであれば、もうそんなことを気にせず不毛の大地へお戻りください」
「名誉を取り返しに来たわけではない」
「いいえ、もはやそんなこともどうでもいいのです。もうこの帝国は終わりです。貴方が帝国を追放されたときに、この国は終幕に向かっていたのです」
衛兵にこんなことを言わせる帝国そのものに、後悔や無念といった感情が迫り上がってくる。
「しかし衛兵が少ないな。階下に派遣しているのか?」
「それもありますが……」
「わかった。ありがとう。ミオ、メア、ユキ、行こう」
衛兵の態度で宮殿内の様子がわかった。彼にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。謁見の間は廊下の突き当たりに位置している。歩き出した時、衛兵が呼び止めた。
「ミゼル卿……帝国は……」
振り返ると衛兵は手を宙に漂わせ、言いたいことを言えずにいるようだった。
「約束はできないが、やるだけやってみる」
それだけ言い残し、4人謁見の間へ急いだ。
「滅ぼすとは一体なんなのだ」
宮殿に降り立つ前に気になっていたことをミオに聞いた。
「雷だって落とせるし、豪雨で国ごと沈めることだってできるよ。レジーは農耕や治水でその脅威をよく知ってるだろ?」
竜神が悲しめば雨が降る。俺が死ねば悲しみから国ごと沈むというのも大袈裟な話ではないということか。
「貧乏人なんて言って悪かったって思ってるよ」
唐突なミオの謝罪に俺も、ユキも顔を見上げる。
「土地を開墾して、貧しき人々に生きる希望を与える。農耕をやってみてわかったよ。食べることすらままならない状態では、希望なんて抱けない。彼らはちゃんと希望という財産を持っていた。だからレジーを見送りに来たんだろ?」
ユキはなにを言っているのかわからないといった目で俺を見る。しかし俺にはミオがなにを言っているのかよくわかった。俺がこの土地を離れるときに見送りに来た人々を見て言い放った言葉に、ミオは謝罪をしているのだろう。長い時間を生きる竜神にとって、彼らの行動は不可解極まりなかったに違いない。
「だから滅ぼしたりなんかしないよ。レジーの宝物だからね」
言い終わらないうちに、ミオが宮殿の2階のバルコニーに降り立った。帝都を一望できるバルコニーは、攻撃を受けやすいためか衛兵すらいなかった。
この宮殿に登る唯一の道に、寡頭勢力の一派がなだれ込んでいた。衛兵の戦力は階下に集中しているのだろう。
「ミオ、その姿でも宮殿に入れる。天井が高いんだ」
ミオをこの攻撃のしやすいバルコニーに残すわけにはいかなかった。4人でバルコニーを通り抜け、窓から2階の廊下に侵入する。体の大きなミオが窓枠にはまり、3人で引っ張っているときに、衛兵が1人、近づいてきた。
「ミ、ミゼル卿!?」
「ああ、思いの外はやく見つかってしまったな。すまんがちょっと手伝ってもらえるか?」
「な、なにをそんな悠長なことを……ああっ、この窓は枠を外せば両方開くんですよ。一旦、窓の外に出てください!」
衛兵に言われた通りミオは一旦外に出たら、衛兵が窓を2枚外してくれた。
「な……なんなんですか、この生き物は……」
「すまんな、説明している時間が無い。アデルに会いたいのだが、彼は今どこにいる?」
「謁見の間が現在参謀本部になっており、多分そちらに……しかしミゼル卿、そこには陛下も居られます」
「ああ、そうか……。今下から攻めているのは何者だ?」
「辺境貴族のグスタ卿一派です。ミゼル卿が帝国を離れてから勢力争いが激化し、恩恵を受けられない末端の領主からの反乱が絶えないのです」
「グスタ卿か。俺が帝国を離れるときにも既に苦しい状況だったからな……。領民も飢えに喘いで捨て身で乗り込んできたのであろう。それをああやって軍事で抑え込んでいるのか?」
俺の問いに衛兵は黙った。黙った理由はすぐに理解した。もはや統治などと言っていられないほど帝国全土が混乱しているのだ。
「わかった。苦労をかけたな。迷惑ついでに、侵入者を捕らえた体で俺を謁見の間に連れていってくれないか?」
「ミゼル卿……弟アデルが貴方の腕を持ち帰ったことは聞き及んでおります。それの借りを返しにきたというのであれば、もうそんなことを気にせず不毛の大地へお戻りください」
「名誉を取り返しに来たわけではない」
「いいえ、もはやそんなこともどうでもいいのです。もうこの帝国は終わりです。貴方が帝国を追放されたときに、この国は終幕に向かっていたのです」
衛兵にこんなことを言わせる帝国そのものに、後悔や無念といった感情が迫り上がってくる。
「しかし衛兵が少ないな。階下に派遣しているのか?」
「それもありますが……」
「わかった。ありがとう。ミオ、メア、ユキ、行こう」
衛兵の態度で宮殿内の様子がわかった。彼にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。謁見の間は廊下の突き当たりに位置している。歩き出した時、衛兵が呼び止めた。
「ミゼル卿……帝国は……」
振り返ると衛兵は手を宙に漂わせ、言いたいことを言えずにいるようだった。
「約束はできないが、やるだけやってみる」
それだけ言い残し、4人謁見の間へ急いだ。
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