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第36話 誰がための帝国
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両開きの戸の前でメアとユキが左右に張り付いている。俺の合図と共に2人が同時に扉を押し開けた。
参謀本部、そう呼ぶにはあまりに人が少ない。想像していた通りだった。中央の丸テーブルの奥に座っていた皇帝陛下が立ち上がる。その横に座っていたアデルは顔を引き攣らせるだけで、動きはしなかった。
「な……」
そして左右から衛兵が飛んできたが、俺を囲むように5歩程度のところで留まった。メアとユキがそれぞれ剣を抜き、それを制したのだ。
「貴様……混乱に乗じて戻ってきたのか!? なにをしている! 早く捕らえろ!」
1年ぶりに謁見する皇帝に、胸が少し騒いだ。しかし、流れた時がそう見せるのか、それとも陛下自身が変わってしまったのか、以前見ていた顔とは違うような気がする。
「陛下。テーブルがある手前このまま失礼いたします。アデル、お前に用があるのだ」
「私にはございません。陛下、私が捕らえても問題ございませんか?」
皇帝は動揺を隠しきれていなかった。それはそうだろうと思う。参謀本部には文官はおろか、武官もいなかった。自身の決断のみでここまで追い詰められたのだろう。しかしアデルの問いに応えたのは皇帝ではなかった。
「金獅子の双腕……称号を剥奪されてなんとお呼びすればいいか……」
「レジーで構いません。皇紀リベリオ」
儚げな印象がもっと強くなった皇紀リベリオは憔悴していた。若き皇帝の道筋を照らすことができず、彼の憤怒に心休まる日などなかったのだろう。呼び名を問いながらリベリオは言葉を探しているようだった。だから簡潔に言った。
「貴方の見た未来はどこまででしたか?」
リベリオは無念に顔を歪ませ答えない。しかし現状を見ればその後の顛末が窺い知れた。俺を追放したことを皮切りに、帝国の統制が大きく傾き、それに手段を講じることができなくなった皇帝は次々に宮殿から臣下を追い出したに違いない。誰が信用に足る人物なのかわからない中、若き皇帝にできることといえば、排斥しかなかったのだろう。
「なぜ、アデルを側近にしたのです?」
「なぜ、なぜリベリオにそんなことを聞くのだ。未来とはなんだ、アデルは自分で志願してきたのではないのか?」
皇帝はリベリオと俺を交互に見て動揺する。それをアデルは座ったままじっと見つめていた。
「なぜだ! 答えろ!リベリオ!」
皇帝の激昂は皇紀に向けられる。皇紀はただただ怯えてなにも話せないでいた。
「リベリオは陛下を裏切ったりいたしません。彼はこの国の行く末を、平和を切に願っています。だから私を帝国から追放しました」
「なにを! 帝都が攻め込まれ宮殿に兵が雪崩れ込もうとしているときに! なにを言っているんだ!」
「陛下。この地を踏んだ罪を、秩序に寄与する形で返上します。アデル、いつからこの状態なのだ」
「私を差し置いて勝手に話を進めるな! アデル、貴様の兄を捕らえもう片方の腕を奪え! 罵詈雑言を吐けぬよう舌も抜くんだ!」
アデルは座ったまま動かない。それに苛立った皇帝が詰め寄った時、アデルは言い放った。
「まずは貴方の口から真実が知りたい。他でもなく、レジー、貴方から」
アデルはテーブルの上に置いた手を握り、力を込めた。ミオが俺の後ろで少し動いた気がする。
「これは私が見た側の真実です。どう解釈するかの判断は陛下にお任せいたします。まず、後宮の撤廃を進言したこと、こちらは陛下の母君のご心労と財政を鑑み、私から提言しました」
「な……なぜ今そんなことが関係あるのだ? 父の散財を止めたことは誉められこそすれ、咎められることなどなにもない!」
アデルはこちらを向かない。そしてミオも口を挟まなかった。だから最も重い真実を述べた。
「そして陛下に口による奉仕をしたこと、それも事実です。軍の中にそういった風習はございません。またこれについて陛下から強要されたことも、特別な報酬を受け取ったことも、地位を得たこともございません。私の一存で致したことに間違いありません」
皇帝は口を開けたまま動けずにいる。冷静に考えればなぜそんなことが関係あるのか皆目わからないだろう。それに陛下自身も隠したい真実だったに違いない。
「その目的は、名誉と言えば名誉でした。貴方の寵愛を我がものとしたかった。しかし陛下の選んだ妃はリベリオだった。リベリオは私が隠した事実を知っていた。そして私がいずれ陛下を暗殺するという未来を提示した」
「なぜ、なぜそんな未来など……」
「陛下も知らなかった事実をリベリオは知っていた。私が陛下を愛していると。だからその未来を信じるに至りました。そして、私が……」
あの日、胸がふたつに引き裂かれた日。
「リベリオに掴みかかった理由は、陛下の寵愛を横取りされたと、分不相応で身勝手な逆上をしたからです。それを陛下に目撃されたことで私は追放された。これが私の真実です」
参謀本部、そう呼ぶにはあまりに人が少ない。想像していた通りだった。中央の丸テーブルの奥に座っていた皇帝陛下が立ち上がる。その横に座っていたアデルは顔を引き攣らせるだけで、動きはしなかった。
「な……」
そして左右から衛兵が飛んできたが、俺を囲むように5歩程度のところで留まった。メアとユキがそれぞれ剣を抜き、それを制したのだ。
「貴様……混乱に乗じて戻ってきたのか!? なにをしている! 早く捕らえろ!」
1年ぶりに謁見する皇帝に、胸が少し騒いだ。しかし、流れた時がそう見せるのか、それとも陛下自身が変わってしまったのか、以前見ていた顔とは違うような気がする。
「陛下。テーブルがある手前このまま失礼いたします。アデル、お前に用があるのだ」
「私にはございません。陛下、私が捕らえても問題ございませんか?」
皇帝は動揺を隠しきれていなかった。それはそうだろうと思う。参謀本部には文官はおろか、武官もいなかった。自身の決断のみでここまで追い詰められたのだろう。しかしアデルの問いに応えたのは皇帝ではなかった。
「金獅子の双腕……称号を剥奪されてなんとお呼びすればいいか……」
「レジーで構いません。皇紀リベリオ」
儚げな印象がもっと強くなった皇紀リベリオは憔悴していた。若き皇帝の道筋を照らすことができず、彼の憤怒に心休まる日などなかったのだろう。呼び名を問いながらリベリオは言葉を探しているようだった。だから簡潔に言った。
「貴方の見た未来はどこまででしたか?」
リベリオは無念に顔を歪ませ答えない。しかし現状を見ればその後の顛末が窺い知れた。俺を追放したことを皮切りに、帝国の統制が大きく傾き、それに手段を講じることができなくなった皇帝は次々に宮殿から臣下を追い出したに違いない。誰が信用に足る人物なのかわからない中、若き皇帝にできることといえば、排斥しかなかったのだろう。
「なぜ、アデルを側近にしたのです?」
「なぜ、なぜリベリオにそんなことを聞くのだ。未来とはなんだ、アデルは自分で志願してきたのではないのか?」
皇帝はリベリオと俺を交互に見て動揺する。それをアデルは座ったままじっと見つめていた。
「なぜだ! 答えろ!リベリオ!」
皇帝の激昂は皇紀に向けられる。皇紀はただただ怯えてなにも話せないでいた。
「リベリオは陛下を裏切ったりいたしません。彼はこの国の行く末を、平和を切に願っています。だから私を帝国から追放しました」
「なにを! 帝都が攻め込まれ宮殿に兵が雪崩れ込もうとしているときに! なにを言っているんだ!」
「陛下。この地を踏んだ罪を、秩序に寄与する形で返上します。アデル、いつからこの状態なのだ」
「私を差し置いて勝手に話を進めるな! アデル、貴様の兄を捕らえもう片方の腕を奪え! 罵詈雑言を吐けぬよう舌も抜くんだ!」
アデルは座ったまま動かない。それに苛立った皇帝が詰め寄った時、アデルは言い放った。
「まずは貴方の口から真実が知りたい。他でもなく、レジー、貴方から」
アデルはテーブルの上に置いた手を握り、力を込めた。ミオが俺の後ろで少し動いた気がする。
「これは私が見た側の真実です。どう解釈するかの判断は陛下にお任せいたします。まず、後宮の撤廃を進言したこと、こちらは陛下の母君のご心労と財政を鑑み、私から提言しました」
「な……なぜ今そんなことが関係あるのだ? 父の散財を止めたことは誉められこそすれ、咎められることなどなにもない!」
アデルはこちらを向かない。そしてミオも口を挟まなかった。だから最も重い真実を述べた。
「そして陛下に口による奉仕をしたこと、それも事実です。軍の中にそういった風習はございません。またこれについて陛下から強要されたことも、特別な報酬を受け取ったことも、地位を得たこともございません。私の一存で致したことに間違いありません」
皇帝は口を開けたまま動けずにいる。冷静に考えればなぜそんなことが関係あるのか皆目わからないだろう。それに陛下自身も隠したい真実だったに違いない。
「その目的は、名誉と言えば名誉でした。貴方の寵愛を我がものとしたかった。しかし陛下の選んだ妃はリベリオだった。リベリオは私が隠した事実を知っていた。そして私がいずれ陛下を暗殺するという未来を提示した」
「なぜ、なぜそんな未来など……」
「陛下も知らなかった事実をリベリオは知っていた。私が陛下を愛していると。だからその未来を信じるに至りました。そして、私が……」
あの日、胸がふたつに引き裂かれた日。
「リベリオに掴みかかった理由は、陛下の寵愛を横取りされたと、分不相応で身勝手な逆上をしたからです。それを陛下に目撃されたことで私は追放された。これが私の真実です」
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