38 / 47
第37話 誰がための愛
しおりを挟む
重い沈黙が横たわる。
「リベリオ、なぜ、なぜあの時に真実を言わなかったのだ……」
「陛下、それは私への情けです。彼を責めることはおやめください」
「情け? なにが情けなのだ! リベリオを寝取るつもりかと、貴様にもそう言ったはずだ! なぜあの時真実を言わなかったのだ!」
胸が痛む。しかしここまで来て黙るわけにもいかなかった。後ろでじっと俺を見つめるミオがどんな気持ちで聞いているのかと思うと焦燥感が前に出た。
「認めたくなかったからです。陛下が私を愛することはないという事実を、信じたくなかった。卑怯者です」
皇帝は青ざめ、前髪が少し揺れていた。その表情は俺が1番見たくなかったもののような気がする。完全なる拒絶から視線を逸らし、リベリオの方を向いた。
「皇紀リベリオ、貴方の見た未来は私が皇帝陛下と結ばれ、そして嫉妬に狂い陛下を暗殺する。そういう未来だと聞いた。それ以外の未来はわからなかったという理解でよろしいか」
「はい……」
「ではなぜ、アデルを側近にしたのだ」
リベリオはビクッと体を揺らした。
「私の見た未来でもアデルは国の中枢を担いました。レジーが皇帝を暗殺し、国を傾かせた罪の呵責でどこかへ消えた後、国を立て直したのはアデル、その人です」
だから反乱軍に身を寄せたアデルに都合よく歪めた事実を吹聴し、味方につけたというわけか。リベリオはアデルに吹聴した内容を公表されることを恐れてか、カタカタと震えていた。
「皇妃リベリオ、私は感謝しています。貴方が運命を変えたい、そう願わなければここに居る者の数が違ったでしょう。私も皇帝陛下を失わずに済み、弟アデルも反乱軍で後悔する選択をせずに済んだ」
リベリオは顔をあげる。その拍子に涙が散った。ミオと同じくらい、あどけない顔だった。彼もまた無我夢中でどうしたらいいのかわからなくなってしまったのだ。
「陛下、アデルに腕を返してもらうまでの間、しばし裁量をいただきたく存じます」
「な……なぜ……」
「それが陛下への忠義だからです」
皇帝は後ろの玉座にストンと座った。
「アデル、下の領主と和解する。ついてきてくれ。メア、ユキ、手加減はできるか?」
「なんだい、さっきは戦争には足手纏いだと言ったくせに! こちとら名を馳せたタンクなんだよ! 守りに徹しろと言われれば守り通すさ!」
「姉様、その大剣では手加減できません。姉様は後列で」
「私に指図しようなんて百年はやいんだよ!」
メアとユキが痴話喧嘩している間を、アデルが通り抜け、そして俺の前で俯き立ち止まった。
「なぜ、なぜ。リベリオが私に吹聴したことを責めないのです」
アデルが声を振り絞るその光景で、ミオの言葉が脳裏を駆け巡る。
「アデルはそれを信じなかったではないか。だから海を渡って来てくれたのだろう?」
肩を震わせるアデルの頬に片手をそっと寄せる。そして冷たい頬を包んで何度もさすった。1年前、2度と温めてやることができないと絶望した冷たい頬に触れると、こみ上げるものがあって奥歯を噛んだ。
「信じてくれてありがとう……迎えに来てくれて……」
ありがとう、そう言う前にアデルが俺の胸に飛び込んできた。冷たい甲冑に頬を寄せ、アデルはおいおいと泣いた。頭を撫でた時、やはり両腕がないと不便だと、ミオの方を向いた。
ミオは、その青い目から涙を流していた。
「アデル、金や近況を送り続けられたと言っていたな。あれは彼が送ってくれていたのだ。兄弟の行く末を案じ、ずっと俺たちを守ってくれた竜神という種族の者だ」
顔を上げたアデルの頬に、おっかなびっくりミオの大きな手が近づく。どう触っていいかわからないのか、ミオの手が宙を彷徨う。その指をアデルはしっかり握った。
「ミオもついて来れるか? 途中挟まってしまったら、そこで待機してくれ」
メアとユキに合図を送り、アデルの手を引いて走り出す。
「な、なんで!? え? なんでそんな扱いなの? なんで、待ってレジー!」
喚くミオの両手をメアとユキが握り、一同で、宮殿入り口に急行した。
「リベリオ、なぜ、なぜあの時に真実を言わなかったのだ……」
「陛下、それは私への情けです。彼を責めることはおやめください」
「情け? なにが情けなのだ! リベリオを寝取るつもりかと、貴様にもそう言ったはずだ! なぜあの時真実を言わなかったのだ!」
胸が痛む。しかしここまで来て黙るわけにもいかなかった。後ろでじっと俺を見つめるミオがどんな気持ちで聞いているのかと思うと焦燥感が前に出た。
「認めたくなかったからです。陛下が私を愛することはないという事実を、信じたくなかった。卑怯者です」
皇帝は青ざめ、前髪が少し揺れていた。その表情は俺が1番見たくなかったもののような気がする。完全なる拒絶から視線を逸らし、リベリオの方を向いた。
「皇紀リベリオ、貴方の見た未来は私が皇帝陛下と結ばれ、そして嫉妬に狂い陛下を暗殺する。そういう未来だと聞いた。それ以外の未来はわからなかったという理解でよろしいか」
「はい……」
「ではなぜ、アデルを側近にしたのだ」
リベリオはビクッと体を揺らした。
「私の見た未来でもアデルは国の中枢を担いました。レジーが皇帝を暗殺し、国を傾かせた罪の呵責でどこかへ消えた後、国を立て直したのはアデル、その人です」
だから反乱軍に身を寄せたアデルに都合よく歪めた事実を吹聴し、味方につけたというわけか。リベリオはアデルに吹聴した内容を公表されることを恐れてか、カタカタと震えていた。
「皇妃リベリオ、私は感謝しています。貴方が運命を変えたい、そう願わなければここに居る者の数が違ったでしょう。私も皇帝陛下を失わずに済み、弟アデルも反乱軍で後悔する選択をせずに済んだ」
リベリオは顔をあげる。その拍子に涙が散った。ミオと同じくらい、あどけない顔だった。彼もまた無我夢中でどうしたらいいのかわからなくなってしまったのだ。
「陛下、アデルに腕を返してもらうまでの間、しばし裁量をいただきたく存じます」
「な……なぜ……」
「それが陛下への忠義だからです」
皇帝は後ろの玉座にストンと座った。
「アデル、下の領主と和解する。ついてきてくれ。メア、ユキ、手加減はできるか?」
「なんだい、さっきは戦争には足手纏いだと言ったくせに! こちとら名を馳せたタンクなんだよ! 守りに徹しろと言われれば守り通すさ!」
「姉様、その大剣では手加減できません。姉様は後列で」
「私に指図しようなんて百年はやいんだよ!」
メアとユキが痴話喧嘩している間を、アデルが通り抜け、そして俺の前で俯き立ち止まった。
「なぜ、なぜ。リベリオが私に吹聴したことを責めないのです」
アデルが声を振り絞るその光景で、ミオの言葉が脳裏を駆け巡る。
「アデルはそれを信じなかったではないか。だから海を渡って来てくれたのだろう?」
肩を震わせるアデルの頬に片手をそっと寄せる。そして冷たい頬を包んで何度もさすった。1年前、2度と温めてやることができないと絶望した冷たい頬に触れると、こみ上げるものがあって奥歯を噛んだ。
「信じてくれてありがとう……迎えに来てくれて……」
ありがとう、そう言う前にアデルが俺の胸に飛び込んできた。冷たい甲冑に頬を寄せ、アデルはおいおいと泣いた。頭を撫でた時、やはり両腕がないと不便だと、ミオの方を向いた。
ミオは、その青い目から涙を流していた。
「アデル、金や近況を送り続けられたと言っていたな。あれは彼が送ってくれていたのだ。兄弟の行く末を案じ、ずっと俺たちを守ってくれた竜神という種族の者だ」
顔を上げたアデルの頬に、おっかなびっくりミオの大きな手が近づく。どう触っていいかわからないのか、ミオの手が宙を彷徨う。その指をアデルはしっかり握った。
「ミオもついて来れるか? 途中挟まってしまったら、そこで待機してくれ」
メアとユキに合図を送り、アデルの手を引いて走り出す。
「な、なんで!? え? なんでそんな扱いなの? なんで、待ってレジー!」
喚くミオの両手をメアとユキが握り、一同で、宮殿入り口に急行した。
23
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい
一花みえる
BL
ベルリアンの次期当主、ノア・セシル・キャンベルの従者ジョシュアは頭を抱えていた。自堕落でわがままだったノアがいきなり有能になってしまった。なんでも「この世界を繰り返している」らしい。ついに気が狂ったかと思ったけど、なぜか事態はノアの言葉通りに進んでいって……?
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)
欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間
華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる