皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

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第34話 一路帝都へ

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 あくる朝、遠くから聞こえる音で目が覚めた。ミオはいつもより短くキスをしてテントから飛び出た。俺も慌てて出ると、メアとユキは既に帝都の方角を向き、耳を澄ましている。

「レジー、なんの音だ?」

「多分、投石で建物が壊されている音だ。メア、ユキ。今帝国は戦争状態だ。予定を変更して、ここで待っていてくれ」

「おいおい、そんな片腕の戦士を放り出してここでキャンプしてろだって?」

「メア、それにユキ。軍隊における一人一人の戦力は、こどもの遊びのようなものだ。しかし戦術によっては国一個を滅ぼすほどの威力になる。ミオ、ミオはここで待っていてくれるか?」

 ミオは薄ら笑って、首を横に振る。

「ミオ、アデルを救いたいし、メアやユキ、それにミオにだって幸せになってもらいたい。俺は高望みしすぎか?」

「絶対に離れない、そう言ったはずだよ。レジー。腕が戻らないように、命だって一度消えたら戻せないんだ。それを守りたいと思うことは高望みしすぎか?」

 ミオが真剣な眼差しで俺を見つめる。謎かけのような問いにどう答えたらいいのかわからない。全員で行くことのリスクをわかってもらえないもどかしさで喉が渇く。

「みんなで行って、仮にユキが死んだら、メアはレジーを恨むと思う? そんなはずはない。レジーの困難にユキが逃げ出す方がよっぽどメアは恨むはずだ」

 メアとユキは大きく頷く。

「もしレジーが1人で行きたければ行けばいい。命と引き換えにアデルと帝国を救えるかもしれないね。でもその時は俺がこの帝国を滅ぼすよ。レジーのいない帝国なんかに興味はないし、レジーが死んだら悲しいからね」

 ミオの幼く残虐な意思に、言葉を失う。

「レジーは、自省ばかりで自分を軽んじすぎなんだよ。俺にそんなことをさせたくないなら、みんなを連れて行く最良の手立てを考えて」

「つまりあれだな、レジーは足手纏いだと言いたかったんだな」

 メアがあっけらかんとした声色でこの場の空気を壊す。

「そうなんだよ。別に頼ってくれればこんな帝国すぐに滅ぼせるのにさ。メアなんか刺されたって別に死なないだろ?」

 それは死ぬな、とメアがミオの肩を掴む。その光景を見て、俺はまた同じことを繰り返すところだったと思い至る。なぜこんなに自分に権力が集中したか。それは多少なりとも自分にしかできないという驕りがあったのだ。自分の命さえかければ、残された者のことなど関係ないという無責任さを見て見ぬフリをしていた。帝国に対しても、ここにいる3人に対しても。

「ミオ、俺はこどもだな」

 ミオは俺の言葉になぜか下の肌着を脱ぎ始めた。

「な、なにをしてるんだ」

「だって不経済なんだろ?」

 肌着をその辺に捨てシャツ一枚になったミオが俺に走り寄って飛びつく。そして深く長いキスで俺の口を塞いだ。

「アデルはきっと皇帝の宮殿にいるんだろ? これでひとっ飛びしようよ。あ、でも荷台は壊れると帰り困るから、メアが背中で、ユキとレジーが腕ね」

「いやぁ、帝国の人族はびっくりするんだろうなぁ。あっちの大陸の者だって竜神なんて見たことないのに」

 メアが笑いながら、竜神になったミオの腕をペチペチと叩いている。ユキも便乗して軽口を叩く。

「でもこっちの方がかっこいいよ。なんか神が来たって感じで。皇帝がいる宮殿に降り立てそうな場所があるかな?」

 俺はミオの胸の中で3人の視線を浴びる。自分の幼さを全員に見られているようで、恥ずかしさから視線を落とした。

「レジー、俺のレジー。レジーのその美しさが好きなんだよ。でも今日は俺に頼って。滅ぼしたりしないから。ね?」

 ミオが大きな手で俺の頭を掴んで上に向かせる。そうして長い首を器用に畳んで俺の唇を奪った。それが離れると一層恥ずかしくなって言葉が絞り出せない。

「レジーはなんだって?」

 メアの言葉にミオが答える。

「みんなよろしく、だって」

「はは、乙女だなぁ。恥ずかしがっちゃって」

 メアは竜神から俺を受け取り、地面に座らせる。ユキはミオに指さされたテントから俺の甲冑を取り出してきた。メアとユキに甲冑を着せられ、再び竜神に抱きすくめられる。もう片方の腕にユキを、背中にメアを載せたら、一気に上昇し、一路皇帝の住う宮殿へ向かった。
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