お気楽公爵家の次男に転生したので、適当なことを言っていたら英雄扱いされてしまった。

イコ

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第二話

男としても、女としても

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《sideテル》

 ご主人様と飲み歩くのも、これで何度目かしら。あたしは農業が出来ればそれでよかった。だけど、私の家は貧しくて、奴隷として売られた。

 気づけば、変わり者のご主人様に連れ回される日々。

「テル、君は本当に付き合いがいいね。助かるよ」

 キンキンに冷えたエールを片手に、ほんのり赤くなったご主人様が笑いかけてくる。
 
 初めて飲んだ時は感動した、飲み慣れてしまえば、もうこれ以外にエールを飲みたいとは思えない。

 その誘惑に負けて、ついつい一緒にきてしまう。最近は夜更かしとエールの飲み過ぎで顔がパンパンになって、気にしているんだけどね。

「そりゃあ、私には選択肢がないもの。奴隷だし。ほら、お酒も次を頼んだわ、冷やしてちょうだい」
「ハイハイ。そんなこと言うけど、嫌なら断ってくれてもいいんだよ?」
「ご主人様に断れるわけないでしょ? それに、意外と楽しいのよ、こういうの」

 そう言いつつも、あたしは心の中で呟く。

 正直、農業をさせてくれたら一番いいけど、この人といると退屈しないのも確かなのよ。それに、私の心は女。だけど、見た目は中性的な男、それを気にせず付き合ってくれるのは、ちょっと嬉しいのよね。

 それに、ご主人様、こう見えて酔うと無防備になるの。そこがまた、可愛いんだから。叶わぬ恋。だけど、あなたのそばにいられる。

「テル、君はどんなお酒が一番好き?」
「うーん、そうね。ご主人様が作ってくれるキンキンに冷えたエールかしら?」
「僕と一緒だね!」

 無邪気に笑う笑顔がとても可愛くて、軽口を叩きながら、あたしはご主人様とグラスを傾けた。



 酒場を出た後、冷たい夜風が酔いを少しだけ覚ましてくれる。でも、ご主人様はまだほろ酔い気分。あたしの肩に手をかけながら、ふらふら歩いていく。

「テル、夜風って気持ちいいよね」
「ご主人様、それより足元に気をつけなさい。転んだら私が背負う羽目になるんだから」

 そんな軽口を叩いていると、不意に聞こえてきたのは、女の子の悲鳴だった。

「誰か、助けてください!」
「……テル、行こう」

 普段はどこか気の抜けたご主人様の表情が一変した。鋭い目つきに変わり、足取りもまっすぐに。悲鳴の方に駆けつけると、女の子が酔っ払いに絡まれていた。

「いいからついてこいって言ってるだろうが!」
「やめてください!」

 あたしが飛び出そうとした瞬間、ご主人様が手を伸ばしてあたしを制した。そして、スッと相手の背後に回り込む。

「おい、嫌がってるだろう。やめなよ」

 その一言で、酔っ払いは振り返った。

「ああ? なんだてめぇ……」

 次の瞬間、ご主人様の手が酔っ払いの首を掴み、持ち上げた。

「ひっ!?」

 男の悲鳴が響く。ご主人様の目はいつもの優しげなものとは違う、まるで別人みたいな冷たさだった。

「テル、その子を頼む」
「はい、ご主人様」

 あたしは怯える女の子に近づき、軽く肩を抱いてやる。小柄で痩せた子だ。ボサボサの髪と汚れた服を見る限り、生活も厳しいんだろう。

「大丈夫よ、もう怖い人はいなくなるから」

 そう言うと、女の子は小さく頷いた。一方、ご主人様は酔っ払いを地面に叩きつけ、静かに告げた。

「もう一度言う。二度とこんなことをするな。次は容赦しない」
「わ、わかりました! 許してください!」

 その後、酔っ払いを逃がしたご主人様がこちらに戻ってきた。

「テル、この子を送ってやってくれるか?」
「あら、ご主人様はどうするの?」
「少し、一人になりたい気分なんだ」

 その言葉を聞いて、何か思うところがあるのだろうと感じた。あたしは黙って頷き、女の子の手を引いた。



 彼女の話を聞くと、学園都市の酒場で働いているという。家計を助けるためにアルバイトをしているらしい。

「さっきは怖かったわね。でももう大丈夫よ。家は近いの?」
「はい、お屋敷はこの先です……本当にありがとうございました」

 彼女の言葉を聞いて、少しだけ胸が温かくなった。

 屋敷に着くと、彼女は深々と頭を下げた。

「テルさん、ご主人様にもお礼を伝えてください!」
「あら、私にもちゃんと感謝してね。おネェは優しいけど、タダ働きはしないわよ?」
「もちろんです!」

 そう言って彼女が笑顔を見せてくれた時、初めてその顔が驚くほど整っていることに気づいた。垢抜けないけど、磨けば光るタイプね。

 彼女が家に入ると、屋敷から怒声が響いた。

「あの子も訳ありってことかしら? さて、うちのご主人様が放っておくとは思えないわね」

 少しだけそんなことを考えながら、あたしは彼女を見送り、ご主人様の元へと戻った。

 きっとご主人様はあの子を救いに行く。なら、私がすることはその補助よね。農業をしないのだから、時間はいくらでもあるわ。

 それに、今の私ではご主人様の役に立てない。

「チョコちゃん。お願いがあるんだけど」
「テルちゃん。どうしたんですか?」
「ご主人様のお手伝いよ。それにチョコちゃんが大好きなお酒を飲む話」
「それは最高ですね!」

 奴隷である私たちに自由をくれるご主人様に、私たちも応えてあげなきゃね。きっと、ご主人様は将来的に英雄になられる。

 それまでたっぷりと恩を売っておくわ。
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