幸せの在処

紅子

文字の大きさ
6 / 18

前の世界の真実

しおりを挟む
翌日、私とハルクは少し緊張しながら、『聖なる力を宿す者』の名前をお父様に尋ねた。

「たしか、リリーナ、フ?」

「リリナフではありませんか?」

「ああ、そうだ。リリナフだ。よく分かったな?」

私とハルクは顔を見合わせた。ハルクは私を励ますように頷く。

「昨日、不思議な夢を見ました。切欠は、お父様の発した『聖なる力を宿す者』と言う言葉です。第1王子殿下をリリナフに近づけてはなりません。国が、この世界が乱れます」

戯れ言と一蹴されるのを覚悟の上で、リリナフの紡ぎ出す物語を語った。

「僕は、夜中に魘されるパールを起こして、話を聞きました。何故そんな夢を?と思いました。僕がいる限りパールが死ぬなんてことはあり得ませんし、パールがいないのに僕が学園に通えるとも到底思えません。ですが」

「分かっている。荒唐無稽な話だと言うことも、パールがそのような戯れ言を言うような娘ではないということもだ。早めに神殿に行くとしよう。パールの、あるいは2人の持つ適性に関わりがあるかもしれんからな」

お父様からは否定も肯定もされなかった。ただなるべく早く神殿に、ということで3日後に約束を取り付けてきた。通常なら1月ほど待つのだから、権力とお金の力は侮れない。

当日。天気は上々。雲ひとつない青空が広がっている。そんな中、私たち4人は、ハルクとザカルヴィアハルクパパ侯爵と侯爵夫人ハルクママを伴って神殿にやって来た。

「お待ち申しておりました、ハザンテール公爵、ザカルヴィア侯爵」

足を踏み入れた神殿は、私の記憶そのまま清涼な空気を纏っている。そして、前回逆行前同様、神殿長自ら私たちを出迎えてくれた。すぐに控えの間に案内される。なんとなく神殿長がソワソワと落ち着かないように見えた。それを気にしてか、一息ついたところで、お父様が代表して口火を切った。

「無理を言ってすまなかったな。急ぎ、2人に授けられた適性と能力を確認したかったのだ」

「あの、そのことですが、昨晩、主神ハルシオンルー様からご神託を受けたのです。このような事態は初めてなのですが、ご子息とご息女、2人一緒に祈りを捧げるようにと」

「なんと!」

「それは、誠か?!」

「まあ!」

「なんということでしょう」

神殿長からの突然の爆弾発言に、お父様たちはこれ以上ないくらい驚いている。主神ハルシオンルー様からのご神託など早々あるものではない。個人に宛ててなど、尚更だろう。私とハルクは顔を見合わせた。なんだか、話が大きくなっている気がする。

「はい。ですので、早速お二方を祈りの間へご案内致しても宜しいでしょうか?」

「もちろんだよ」

「ハルシオンルー様も待ちかねておられるだろう」

直ぐさま、神殿長自ら案内された祈りの間でハルクと2人。並んで静かに祈りを捧げた。



「よく来たね。さあ、目を開けて」

頭の中に直接響くように声が聞こえた。そして、頭を優しく撫でる手がある。ゆっくりと目を開けた。隣には驚いた顔のハルクがいる。私も同じように驚いた顔をしているのだろう。

「ハルシオンルー様?」

ハルクが確信を持って尋ねた。

「そうだよ。君たちには大きな枷を背負わせてしまった」

ハルシオンルー様は、今にも泣きそうな顔をしている。

「時戻しのことを知っているのですか?」

「もちろん。私はこの世界パラディアスを統べる神だからね。パーレンヴィアが固有スキルを発動してくれたお蔭で、この世界の崩壊が免れた。ハルクールが時戻しをしてくれたから、新しくこの世界を構築できる。この先1000年、大きな争いのない豊かな世界を与える予定だった。だが・・・・。君たちは知っているだろう?入り込んではいけない異物がこの世界にあることを」

知っているとは、私の見た夢のことを指しているのだろうか?異物とはリリナフのこと?それとも『聖なる力』のこと?

「フフ。パーレンヴィアは賢いなぁ」

「わたくし、何も口に出してはいませんのに」

「私はこれでも神だからね。君たちの心の声も聞こえる。でなければ、祈りなど聞くことは出来ないだろう?」

「確かに、そうですわね」

「話を戻そう。1度目の、時戻しの前の世界に出現した異物は、魅了の力。今の世界にある異物は、聖なる力。このどちらも私はこの世界に与えていない。魅了の力は、パーレンヴィアによって排除された。聖なる力も排除すべきものだ。でなければ、この世界は再び崩壊の危機に晒されるだろう」

驚いたなんて言葉では済まされない。この世界の崩壊とは、どういうことなのだろう。

「何故、いえ、どうやってハルシオンルー様の与えていない力がこの世界に?」

「そうだね」

ハルシオンルー様は、目を伏せた。何かあるのだろうか?

「・・・・私はね、愛に満ちあふれた穏やかな世界が好きなんだ。だって、美しいだろう?人々に困難を与えるのは、それを乗り越えようと魂が研鑽し、世界を輝かせてくれるからだ。だが、戦争は別だ。あれは、行き過ぎた欲が引き起こすもの。私の世界を荒廃させ、何も生み出すことなく疲弊させる。魅了の力など、欲の塊だ。この穏やかな世界には必要ない。本来なら直ぐさま排除せねばならぬものだ。だが、創造神も私もこの世界の魔道具を使えば、私の引いた青写真ブループリントから大きく逸脱はせず、世界の崩壊は免れると判断した。対抗手段さえ在るなら脅威とはなり得ない。既に在るものを無理に排除すればそこに歪みが生じる。そのリスクを取るより、あの者がこの世界から去れば、魅了の力も排除される。だから待つことにしたのだ。もっとも、結果として、パーレンヴィアにもハルクールにも固有スキルを使わせてしまったけどね」

ハルシオンルー様は、ハルクの質問には答えず、この世界の在り様を口にした。

「僕たちに与えられた固有スキルは、保険だったのですね?」

「そうだ。君たちは、互いに《対を為す者》だから意味がある。万が一の時には、パーレンヴィアなら必ず使うと知っていたからね。そして、ハルクールがそれを黙って見ていることはないだろう?それに、誰も魅了にかからなければ、私の引いた青写真ブループリントのままに世界は進んでいくはずだった。だが」

「魅了の力に囚われた者がでてしまった」

ハルシオンルー様の言葉を引き継いだハルクに、ハルシオンルー様はゆっくりと深く頷いた。

「あの者たちの魅了が解けないまま時が進むと、パーレンヴィア、君はあの場でオスナール宰相の三男の指示によってギラハルム騎士団長の次男の手にかかってしまうんだよ。そして、多くの国を巻き込んだ戦争に発展し、魔物の大暴走が引き起こされる。やがて世界は崩壊する」

あの世界の崩壊の道筋を頭の中で再現されて、私たちは絶句した。





















それは、想像を絶するほどの凄惨さだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すれ違う輪、重なる道

紅子
恋愛
~数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る~の続編です。そちらを先にお読みください。 異世界に来て4年。役目を終え、もう一度会いたいと願った人と過ごす日々の中、突然、私に異変が・・・・。この世界は、いったい何をしたいのか?茶番のような出来事に振り回される私とアルの運命は? 8話完結済み 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付きで書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

どんなに私が愛しても

豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。 これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する

紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!! 完結済み。 毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

きっと、貴女は知っていた

mahiro
恋愛
自分以外の未来が見えるブランシュ・プラティニ。同様に己以外の未来が見えるヴァネッサ・モンジェルは訳あって同居していた。 同居の条件として、相手の未来を見たとしても、それは決して口にはしないこととしていた。 そんなある日、ブランシュとヴァネッサの住む家の前にひとりの男性が倒れていて………?

公爵令嬢ジュスティーヌ・アフレは美しいモノが好き

喜楽直人
恋愛
学園の卒業式後に開かれたパーティーの席で、王太子が婚約者である公爵令嬢の名前を呼ぶ。 その腕に可憐な子爵令嬢を抱き寄せて。

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

処理中です...