すれ違う輪、重なる道

紅子

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重なる道

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ぎゅっと誰かに抱き締められている。温かい何かが首筋や肩を伝っているのがわかった。

「ん」

目を開けて初めに見たのは、広い背中。その背中は震えている。そして、「ごめん、シェリア、ごめん」とずっと呟いている。

シェリアって誰?
私を抱き締める貴方は誰?

暖かくてとても安心できる。グリーズとは違う逞しい腕と少し高めの体温にほっとした。

グリーズって、誰?

この時初めて自分の記憶が混乱していることに気づいた。

「あの・・・・」

言葉が続かない。私を抱き締める人は、私の声にはっとして顔をあげた。

「泣かないで?」

男の人がぼろぼろと涙を流して泣いているのを初めて見た。無意識に、こぼれ落ちる涙を指で拭っていた。それでも止まることなくぽたぽたと流れてくる涙に、その人の頭に腕を廻し抱き締めた。放っておけなかった。自分のその行動に自分が驚いた。

なんでこんなに心が痛いの?

「ごめん。間に合わなかった。私達の魂の繋がりが消えてしまった」

私の腕の中から力ないくぐもった声が教えてくれる。

「魂の繋がり・・・・」

それは、そんなに大切なものなの?
私の魂と繋がりを断たれたことを悲しむ貴方は誰?

「貴方は誰?」

ポツンと零れ落ちた言葉は、思ったよりも大きく響き、男の人が私の腕から顔をあげた。その顔は、驚きで目を見開いている。

「シェリア・・・・。覚えてないのか、私のことを?」

「なんか、混乱してるの。いろんな記憶が混ざって全てが霞の向こうにある感じ?」

貴方のことは分かりません、とは言ってはいけない。本能がそう告げた。

「そうか。記憶から消えた訳じゃないんだな?」

「たぶん・・・・」

それについては、たぶんとしか言えない。

「私は、アルフォンス。いや、アルバート。貴女の番だ」

アルバートの視線が私の胸元に行ったのが気になってふと視線を落とすと、服がはだけて左胸が不自然に開いている。彼の指が私の左胸に触れた。

「ここに番の印があったんだ」

そこにないものを見ようとする切ない瞳に、何も言えなくなってしまった。

「貴女の神名は、“サリア・シノザキ・シャガロア”。番の儀式で教えあった」

アルバートが私の神名を呟いた途端、私の中で何かが弾け、膨大な記憶が流れ込んできた。その暴力的な感覚に身体が仰け反る。

「シェリア!シェリア!」

待って。
大声出さないで。
頭が割れる。

「ア・ル・・・・黙って」

やっとのことでそれだけ言うと割れるような痛みに耐える。それは徐々に収まり、私は全てを思い出した。ほっと息を吐いた時、視界の端にヒラヒラと舞う紙切れが映った。

デジャヴュー

前にも同じことがあったような・・・・。

アルもその紙切れに気づいたようだ。

「何だ、あれは?どこから現れた?」

「あれは神様からの手紙。この世界に来たばかりの頃一度もらったことある」

「シェリア・・・・記憶が繋がったのか?」

「うん。アルが私の神名を呼んだでしょう?それで繋がった」

「よかった。忘れたままなら、どうしようかと思った」

ん?どうしようかと思った・・・・?どうするつもりだったの?なんか、背中がそら寒いんだけど。

「えっと、とりあえず、あの紙、見てみない?」

話題を変えるべく、神様からの手紙を読むことを勧めた。

アルは、苦笑しながら私を抱き上げると紙のある方へと向かってくれた。そして、拾い上げたその紙には、相変わらず軽い文面が踊っていた。



《アルバート・シャガロア様/篠崎咲李亜様》


《前略

久しぶり~♪

なんか、大変な目に遭ったね。君たちを見てるとほんと退屈しないよねぇ。いやー、グリーズの願いがべリアとひとつになることだったなんて、ビックリだよ。魂はふたりとも輪廻に戻ってるからね。ひとつになったのは、想いの残滓。シェリアとべリアは同じ魂だからね。その魂に滓のように残っていた想いがグリーズの身体に残っていた滓とくっついた、ってとこかな。

異世界の魔術師は、ここに残す。この島は彼等の負の魔力を利用して結界を張る。誰にも認識できず、誰も入れない結界を。その結界に魔力の半分近くを使うから、今後、召喚聖女は必要なくなる。そのための資料はすべて消えてなくなるよ。

安心して?負の魔力はこの世界からなくならないし、魔獣は今後も生まれ続けるよ。

それから、君たちの番の印だけど、再生できるようにしておくよ。アルバートとの約束を違えるわけにはいかない。するかしないかは、今回の功労者、シェリアに任せるね。ステータスを確認すれば分かるよ。


じゃあ、またね~♪


この世界の神より》




「「・・・・ハァ」」

ふたりして溜め息が出たのは、仕方ないと思う。脱力しそうだ。また、目の端にヒラヒラと舞う紙切れが映った。

またかよ!



《追伸

君たちがこの島を出てくれないと、結界が張れないから、入り江に用意した風船に乗って、さっさと出てってね。

この世界の神より》


「「・・・・」」

溜め息も出ない。

「シェリア、番の印は再生するよね?私を置いて逝くなんてしないよね?」

アルの笑顔が怖い。以前、セルベージ殿下に向けていたものより数段怖い。

「えっと、はい。すぐします」

身の危険を感じた私は即座にステータスを開いて、“番の印の再生”を行使した。新たな番の印は、真っ直ぐに立つ杖。蔦が交差しながら杖に絡まり、花を咲かせている。私達は再び番の儀式を交わし、金色に輝く花の祝福を受けた。最後に私は、ベッドで横たわる異世界の魔術師を振り返り、アルとその場を後にした。

入り江には、手紙にあったとおり、ふたりが余裕で入る風船が浮いていた。私達が近づくと風船は意思を持っているのか、私達の方に近寄ってきてぱくんと私達を飲み込んだ。そして、ふわふわと空に舞い上がり、風に吹かれて漂い始めた。

「アル。これは、風任せなのかな?」

「どうだろう?」

なんて危険な乗り物。
ここの神様は、ポンコツ?疑惑だよね。

「「シェリア!!!」」

何処からか私を呼ぶ声がする。これは、蒼貴と白銀かな?キョロキョロとあたりを見回すと凄い勢いでこちらに近づく物体があった。

うん。あの風圧で風船が吹っ飛びそうだ。


ポン!


えっ!風船が割れた?!
ウソ~!!!

「シェリア、飛べ!」

そうだ!私、飛べるんだった!

残念ながらアルは飛べない。蒼貴曰く、素質がないそうだ。私を抱きかかえるアルごと飛んだ。程なく、蒼貴に拾われ、紅蓮、白銀、緑葉らと再開できた。

「シェリアァァァァ!!!心配したよぉぉぉぉ!」

「シェリア、無事か?!」

「ハァ、よかったぁ・・・・」

「シェリアさんや。何ともないんじゃな?アルフォンスも無事じゃな?」

「心配かけてごめんね?大丈夫だよ。いろいろあったけど、その話は帰りがてら、ね?」

「ふたりとも無事だ。こんなところに長居は無用だ。さっさと帰ろう」

みんなアルに賛成した。私は寝ていただけだから疲れてはいないけど、アル達は大変だっただろう。早く帰って休ませてあげたい。私達は共に家へと戻る空の旅を楽しむことにした。道すがら、居なくなった間のことをみんなに話しをすると、それを聞いたアルも従魔達も顔を歪めている。

「人騒がせな。なら、あの負の魔力の気配もシェリアの意識が飛ばされたのも神域のふざけた演出も全部あの異世界の魔術師の仕業だったのか!」

たぶんね。
この世界の破滅を望んだのは、召喚聖女に恋をしたこの世界の魔術師みたいだけど、それを利用したのは、異世界の魔術師だ。真実は小説より奇なりだ。

まだ暫くは負の魔力が多くて、魔獣も多いけど、今までのように活性化された状態はなくなるはずだ。今後のことはアルが何とかしてくれるだろう。私は、平穏な毎日を送れればそれでいい。平凡な私には平凡な日常がお似合いだ。



「シェリちゃん!」

「シェリ!」

「シェリ姐!」

「姐さん!」

家に着くとエドガー達、特殊部隊の仲間が私を出迎えてくれた。私は、ここでアルや従魔達、そして、特殊部隊の仲間と共に生きていく。それが私の幸せだ。


END














最後までお読みいただき、ありがとうございました\(^o^)/
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