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忘却の彼方へ
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ルクセンバルグ王国の国境を抜けた私たちは、行きとは違う街に辿り着いた。少しでも早く国境を抜けたかった私は、一番近い国境の手前までヴィーグに本当に言葉の通り、空を飛んでもらった。ここは、クレイガー王国と隣接する別の国である。一番近い街までは、徒歩で大体、半日もあれば着く。今は宿で一息ついたところだ。
『サイカよ。何故あの小僧に魔道具を残してきたのだ?』
「ん~?だって、狂って死なれるのも後味悪いし、監禁軟禁されないなら、話をするくらいはいいかなと思ったの。まあ、私も権力者と関わりたくないってだけで、態度悪かったしね」
『同情と罪悪感か。不要だと思うがな』
あの軟禁された生活を思えば、ヴィーグに同意なんだけど、酷いことをされたわけじゃないし、相手の生死が関わるなら妥協も必要だ。私のせいで死なれるなんて寝覚めが悪い。
「一部の人にだけ半身いるなんて中途半端な制度だから、混乱を招くんだよ。責任は、神様にあると思わない?」
全員にいるかいないか、どちらかにしろ!と言いたい。
『それは、まあ、我からは何とも言えんな』
神様の眷族のヴィーグの口から神様の悪口が出てくるとは思っていない。
プルプルプル・プルプルプル
このタイミングで、アダベルトに渡した通信の魔道具から連絡が入った。プチッとオフにする。
『でないのか?』
「まだ、切羽詰まってるわけじゃないし、いいでしょ。通信したら出ると思われても面倒臭い」
『それもそうだな』
私とヴィーグは、お互いにうなずき合った。
「この街は、何が有名か知ってる?」
『そうだな。ルクセンバルグ王国との国境までの最後の街だからな。いろいろとあるぞ。この国の名産は大抵そろう』
それも何だかな、と思う。空港のショップと同じか。
「じゃあ、タイサルド公国の名物は?」
『織物だな。特に羊毛は最高級といわれている。食べ物は、辛いものが多い。寒い国だからな』
今いる街は、タイサルド公国の中でも北寄りに位置する。北へ行くほど寒くなり、最北の街は夏でも万年雪が残るほど寒い。
「それなら、魔法陣でカイロみたいなのを創ったら、売れそうだね。保温の固定魔法陣があるから、それを少し改良すれば出来そうじゃない?」
お金には困っていないけど、ないよりある方がいい。
『まずは、市場調査が先だな。サイカの考えているものが既に売られているかもしれん』
「それもそうだね」
翌日から私とヴィーグは、この街のギルドで情報収集し魔道具店を巡ってこの国の暖房事情を把握した。
「このスープ、辛くて美味しい。冬ならもっと美味しかったのかな?」
『この辺りなら、半年もすれば雪が降るぞ』
今は、夏の初め。新緑の美しい季節だ。シーアーバンスと違って、夏でも涼しい。朝晩は薄手の上着が必要だ。今食べているのは、この街の名物辛辛スーパ。辛~いスープにペンネが入っているスープパスタ的なもの。まだまだ肌寒いこの季節にはこの辛さが美味しい。
「保温の固定魔法陣があるんだから、もっと暖房器具も発達してると思ったけど、薪が主流とはね」
保温の魔法陣と暖房器具の魔法陣が別物だとは思わなかった。
『薪は森で集められるが、魔石はそういうわけにはいかんからな』
「それもそうか。もっと北の方だと一日中必要になるのか。そうすると、薪が一番経済的なんだよねぇ」
魔石を使った魔道具の暖房器具は、燃費が悪くて、火を嫌うところ以外で使われることは滅多にないみたい。王宮とか、図書館とか、ギルドとかね。大きくて場所を取るのも不人気のひとつだろう。それに、魔法陣描きの名前で注文するのもハードルをあげる要因になっている気がする。メーカーによって特徴が異なるのと同じだ。それがもっと顕著に現れるのだから、当たり外れが激しいと言わざるを得ない。
「暖房器具には手を出さないことにする」
『それがいいだろうな。面倒事を避けるのはいいことだ』
宿に戻った私は、スキルを発動して保温の固定魔法陣の改良を始めた。ヴィーグは、やれやれといった様子でヴィーグ専用のラグに寝そべって目を閉じてしまった。その間に何度も通信の魔道具が鳴る。鬱陶しくて、無限鞄にポイッと放り込んだ。これで、邪魔なものはなくなった。
「出来た!見て見て。どう?かなりシンプルになったでしょ?」
『暖房器具には手を出さないんじゃなかったのか?』
「これは、保温の魔法陣であって、暖房の魔法陣じゃないからいいの」
『なるほど?で、これは紙に描くのか?』
ヴィーグは、私の屁理屈に呆れて反論しても無駄だと思ったらしい。
「うーん。使い捨てだけど、布に描いた方が持ち歩きはしやすいかもね」
『これだけシンプルなら、駆け出しの初心者でも難なく描けるな』
自分の魔力を流さなくては暖まらないが、朝一度流せば、一日中保つ。使用魔力は、薪に火をつけるのと変わらない。手袋に入れてもよし。靴に仕込んでもよし。首に巻いてもよし。
「さて、これを固定魔法陣に登録するんだけど」
さて、どうしたものか?
『ああ・・・・?何かあるのか?』
「うん。初めてのことで、どうしたらいいのかな、と」
『なるほどな。シーアーバンスなら、ナーサリーやアルバロたちがいるが、ここのギルドの信用度は分からんな』
そうなんだよね。自分の名前で申請しても、掠め取られることはよくあると、副ギルド長にしっかりきっちり言い聞かされ、注意を促された。
「一旦、シーアーバンスに帰る?」
『無理に登録しなくてもいいだろう』
まあ、冬まではまだまだ時間もあるし、慌てなくてもいいか。そんな暢気なことを考えていた。その間にも、アダベルトからの通信がひっきりなしに続いているとは思いもせず。無限鞄に入れた通信の魔道具は見事に私とヴィーグの間では忘れ去られていた。ついでに、アダベルトのことすら、記憶の遥か彼方に去ってしまったのだが、これが後でとんでもない事態になるとは、すっかり忘れ去った私には思いつきもしなかった。
『サイカよ。何故あの小僧に魔道具を残してきたのだ?』
「ん~?だって、狂って死なれるのも後味悪いし、監禁軟禁されないなら、話をするくらいはいいかなと思ったの。まあ、私も権力者と関わりたくないってだけで、態度悪かったしね」
『同情と罪悪感か。不要だと思うがな』
あの軟禁された生活を思えば、ヴィーグに同意なんだけど、酷いことをされたわけじゃないし、相手の生死が関わるなら妥協も必要だ。私のせいで死なれるなんて寝覚めが悪い。
「一部の人にだけ半身いるなんて中途半端な制度だから、混乱を招くんだよ。責任は、神様にあると思わない?」
全員にいるかいないか、どちらかにしろ!と言いたい。
『それは、まあ、我からは何とも言えんな』
神様の眷族のヴィーグの口から神様の悪口が出てくるとは思っていない。
プルプルプル・プルプルプル
このタイミングで、アダベルトに渡した通信の魔道具から連絡が入った。プチッとオフにする。
『でないのか?』
「まだ、切羽詰まってるわけじゃないし、いいでしょ。通信したら出ると思われても面倒臭い」
『それもそうだな』
私とヴィーグは、お互いにうなずき合った。
「この街は、何が有名か知ってる?」
『そうだな。ルクセンバルグ王国との国境までの最後の街だからな。いろいろとあるぞ。この国の名産は大抵そろう』
それも何だかな、と思う。空港のショップと同じか。
「じゃあ、タイサルド公国の名物は?」
『織物だな。特に羊毛は最高級といわれている。食べ物は、辛いものが多い。寒い国だからな』
今いる街は、タイサルド公国の中でも北寄りに位置する。北へ行くほど寒くなり、最北の街は夏でも万年雪が残るほど寒い。
「それなら、魔法陣でカイロみたいなのを創ったら、売れそうだね。保温の固定魔法陣があるから、それを少し改良すれば出来そうじゃない?」
お金には困っていないけど、ないよりある方がいい。
『まずは、市場調査が先だな。サイカの考えているものが既に売られているかもしれん』
「それもそうだね」
翌日から私とヴィーグは、この街のギルドで情報収集し魔道具店を巡ってこの国の暖房事情を把握した。
「このスープ、辛くて美味しい。冬ならもっと美味しかったのかな?」
『この辺りなら、半年もすれば雪が降るぞ』
今は、夏の初め。新緑の美しい季節だ。シーアーバンスと違って、夏でも涼しい。朝晩は薄手の上着が必要だ。今食べているのは、この街の名物辛辛スーパ。辛~いスープにペンネが入っているスープパスタ的なもの。まだまだ肌寒いこの季節にはこの辛さが美味しい。
「保温の固定魔法陣があるんだから、もっと暖房器具も発達してると思ったけど、薪が主流とはね」
保温の魔法陣と暖房器具の魔法陣が別物だとは思わなかった。
『薪は森で集められるが、魔石はそういうわけにはいかんからな』
「それもそうか。もっと北の方だと一日中必要になるのか。そうすると、薪が一番経済的なんだよねぇ」
魔石を使った魔道具の暖房器具は、燃費が悪くて、火を嫌うところ以外で使われることは滅多にないみたい。王宮とか、図書館とか、ギルドとかね。大きくて場所を取るのも不人気のひとつだろう。それに、魔法陣描きの名前で注文するのもハードルをあげる要因になっている気がする。メーカーによって特徴が異なるのと同じだ。それがもっと顕著に現れるのだから、当たり外れが激しいと言わざるを得ない。
「暖房器具には手を出さないことにする」
『それがいいだろうな。面倒事を避けるのはいいことだ』
宿に戻った私は、スキルを発動して保温の固定魔法陣の改良を始めた。ヴィーグは、やれやれといった様子でヴィーグ専用のラグに寝そべって目を閉じてしまった。その間に何度も通信の魔道具が鳴る。鬱陶しくて、無限鞄にポイッと放り込んだ。これで、邪魔なものはなくなった。
「出来た!見て見て。どう?かなりシンプルになったでしょ?」
『暖房器具には手を出さないんじゃなかったのか?』
「これは、保温の魔法陣であって、暖房の魔法陣じゃないからいいの」
『なるほど?で、これは紙に描くのか?』
ヴィーグは、私の屁理屈に呆れて反論しても無駄だと思ったらしい。
「うーん。使い捨てだけど、布に描いた方が持ち歩きはしやすいかもね」
『これだけシンプルなら、駆け出しの初心者でも難なく描けるな』
自分の魔力を流さなくては暖まらないが、朝一度流せば、一日中保つ。使用魔力は、薪に火をつけるのと変わらない。手袋に入れてもよし。靴に仕込んでもよし。首に巻いてもよし。
「さて、これを固定魔法陣に登録するんだけど」
さて、どうしたものか?
『ああ・・・・?何かあるのか?』
「うん。初めてのことで、どうしたらいいのかな、と」
『なるほどな。シーアーバンスなら、ナーサリーやアルバロたちがいるが、ここのギルドの信用度は分からんな』
そうなんだよね。自分の名前で申請しても、掠め取られることはよくあると、副ギルド長にしっかりきっちり言い聞かされ、注意を促された。
「一旦、シーアーバンスに帰る?」
『無理に登録しなくてもいいだろう』
まあ、冬まではまだまだ時間もあるし、慌てなくてもいいか。そんな暢気なことを考えていた。その間にも、アダベルトからの通信がひっきりなしに続いているとは思いもせず。無限鞄に入れた通信の魔道具は見事に私とヴィーグの間では忘れ去られていた。ついでに、アダベルトのことすら、記憶の遥か彼方に去ってしまったのだが、これが後でとんでもない事態になるとは、すっかり忘れ去った私には思いつきもしなかった。
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