巻き込まれて死亡?!神様、責任とってくださいね?

紅子

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副ギルド長の半身

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アダベルトと話し合ったとおり、明日からルクセンバルグ王国へ旅立つ。その前に、魔法ギルドに納品にやって来た。アダベルトも一緒にいる。

「アルバロ、久しぶり」

「サイカか。久しぶりだな。納品か?よそ者が多くなってるから気を付けろ。まあ、アダベルト様と一緒なら、大丈夫か」

アルバロの言葉に周りを見回すと、見知らぬ顔がたくさんいる。

「うわぁ、ホントだ。外から見ても混みすぎてて近づきたくなかった」

「ははははは。まだしばらくは、こんな感じが続きそうだ」

アルバロはげんなりした様子で周りをちらっと見た。

「お疲れ様。これ、納品したいんだけど」

「馬車の、か。副ギルド長の管轄だな。呼んでくるから待ってて」

《ホカホカ》と《ヒエヒエ》はともかく、馬車の魔法陣は、描き慣れるまでは副ギルド長が確認を担当すると決まったそうだ。発動しないものが多すぎたための措置だとか。そんなに難しくないと思うんだけどなぁ。

「サイカ!助かります。馬車の魔法陣は、なかなか合格が出なくて。私の内職でも追いつかず、限界なんです!」

副ギルド長も魔法陣、描いてるんだ。それは、それは。目の下の隈が・・・・。何も言うまい。

「慣れだよ」

神様からコピーできるペンをもらっておいてなんだけど、慣れればたぶん大丈夫。

「いいえ。あなたの能力を過小に見積もっていたと実感しています。私ですら、3割は発動しませんから。あれは、最上級の魔法陣描きでないと手に負えません。ハルシュバーンに師事していただけのことはありますね」

「違うから!師事してないから!これ、納品」

私と副ギルド長の話をアダベルトは隣で大人しく聞いていた。ニコニコの上機嫌な顔で。尻尾は私の腰に巻き付き、時々、私の首筋に顔を埋めている。それを周りにいる誰も指摘しないのは、半身の習性だと理解しているから。最初のうちは、恥ずかしいのとソワソワするのとで拒否していたけど、副ギルド長から「無理に習性を抑えると後が大変ですよ」と言われ、泣く泣く妥協した。実際、拒否していた間のアダベルトの威嚇は凄まじかったらしい。私には向けられないから気付かなかった。みんな、ごめん。

「まあぁ、アダベルト様。来てらしたのねぇ。今日こそは、依頼にご一緒させてくださいな」

そこに、甘えるような声音でアダベルトに擦り寄ってきた女がいた。妖艶を勘違いして娼婦よりもきわどい格好をしたちょっと痛い女だ。ちょっとイラッとする。アダベルトは、聞こえていないのか、楽しそうに私の髪を弄りながら、顔を埋めている。クンクンと匂いを嗅ぐのはぞわっとするから、さすがにやめてほしい。

「・・・・・・」

そのすべてを私に極振りしているアダベルトはもちろん、私と副ギルド長も一切反応しない。こちらはこちらで忙しいのだ。そういうことにしておかないと、私の精神が羞恥心で死ぬ。

「これだけあれば、少しは余裕ができますが、馬車の数を考えるとまだまだ足りませんねぇ。早く腕を上げてもらわなくては、私の仕事趣味に支障が出そうです。身重の妻に負担をかけるなんてもっての外ですから」

「えええ~。副ギルド長の仕事って、ギルド長の補佐でしょう?討伐は含まないと思う」

「いえいえ、私の本業ですから」

査定してもらいながら、軽口を言い合っている合間に、甘ったるい猫撫で声が耳に入ってくる。

「ねぇぇ、アダベルト様ったらぁ。相変わらず連れないんだからぉ。そんなところも、す・て・き。きゃ♪んもぅ、そんな貧相な子放っておいて、行きましょうよぉ」

ここで、機嫌良く私に引っ付いていたアダベルトの雰囲気が一変した。そう、まさに酷寒。アダベルトの腕に触れようとしていた女の手が中途半端なところで止まった。

「失せろ」

静かな底冷えする声が、冷気と共にその女に放たれた。

「・・・・ッ!!!」

一瞬のうちに、女の髪だけが凍り付き、「ピシッ」という音を立てて砕け散った。ピンクブロンドの長い髪は、根元から綺麗さっぱりなくなった。殺さなかったのは褒めてもいいかな。

「あ・・・いや・・・・いやぁぁぁあああああ。わた、私の髪がぁ!!!」

副ギルド長は、それを一瞥しただけで、何事もなかったように査定している。私とアダベルトは、顔を向けることすらしない。他のギルド員や職員も憐れな女を遠巻きに見ているだけだ。

「大型獣人の半身のことを悪く言うなんて。確かに匂いは薄いが、半身だって気付いてなかったのか?いや、まさかな」

「あれだけマーキングしつつ、牽制してるのに?怖いもの知らずかよ」

「死ななかっただけ幸運だったな」

女が泣きながらギルドから出て行くとき、追い打ちをかけるようにそんな会話がされていた。私は聞こえないふりをしたが、匂い?匂いって何?!今すぐに自分の匂いを確認したい!薄いって???臭いの?!

「そうだ、明日からサイカとルクセンバルグ王国に行くから、暫く留守にする。一応、伝えておく」

私が平然とした態度を維持しつつも脳内パニックに陥っていると、横からアダベルトの冷静な声が届いて、少し落ち着いた。匂いのことはちょっと置いておこう。毎日、お風呂に入ってるし、臭くないはず。

「・・帰ってきたばかりだというのに。それで、今回はどのくらいで戻りますか?」

「行って帰るだけで1月でしょう。前はほとんど観光できなかったから」

アダベルトをジロリと睨んでも、全く意に介さない。

「1月くらい滞在して、観光すればいいだろ?案内する」

まあ、そんなもんかな。

「2月くらいで帰ってくるよ」

「時々は通信してください。生死不明はなしでお願いしますね?」

にっこりとした副ギルド長の目は、笑っていない。

「所々で通信する」

「今回は、アダベルト様が一緒なので安心ですね。一時はどうなるかと思いましたが、上手くいっているようでほっとしました。半身がいる身としては、気になりますからね」

「そういえば、副ギルド長の半身って誰なの?」

気になってたけど、聞く機会がなかった。この戦闘狂の半身だよ?テントも半身と一緒に使うから、空間は広めにって要望が入ったくらいだから、半身も戦闘狂なのかもしれない。

「おや、サイカは知らなかったのですか?匂いで気付きそうなものなのですが」

「気付いてなかったのか?!あんなに分かりやすく匂いがするのに?」

アダベルトも話が聞こえていた職員たちもびっくりしている。だから、誰なのさ!匂いってなんなのさ?!!!

「ナーサリーですよ」

「・・・・え。ええええええええ~!!!」

ちょっと、待って。ナーサリー?えっ?今、妊娠中じゃなかった?安定期に入ったからって、この忙しいのに受付してるよね?そういえば、副ギルド長は、心配だから休みなさいとかなんとか言って・・・・。『身重の妻に・・・・』

「はあああぁぁぁ。そういうこと」

脱力。そりゃ、妊娠してるのは一目瞭然だから、結婚してるだろうとは思ってた。でも、まさか、相手が副ギルド長だなんて思うまい。アダベルトですら気付いてたのに、私、鈍すぎる。

『サイカは鈍いんじゃない。興味がなさ過ぎるのだ。ナーサリーの妊娠も腹が出てくるまで気づかなかったろう?匂いの分からないサイカでは、仕方ないのかもしれんが、普通は、伴侶が誰か気になるものではないか?』

匂い?この世界の妊娠は、匂いで分かるんだ?不思議だ。でも、私には分からない。なぜ?

私が???となっているのに気付いたのか、ヴィーグが呆れ顔で説明してくれた。

『サイカの魂には匂いを嗅ぎ分ける機能は付いておらん。この世界に産まれたのではないからな。が、今はそれを気にするところか?ナーサリーの伴侶のことはどうなった?だから、興味がなさすぎると言ったのだ』


ハッとした。ヴィーグのご意見、ごもっともです。妊娠には驚いたけど、結婚してたんだねぇとしか思わなかった。伴侶のことまで気が向かなかったというか、気にもならなかった。反省。

「サイカは、もう少し、魔法陣以外のことにも興味を持ったほうがいいでしょうねぇ」

「そんなことないよ。他にもちゃんと興味持ってるし!」

「例えば?」

「海で獲れるものとか、パン屋の新作とかカフェのケーキでしょ。他には、新しい食事処。市場に出る季節限定の食べ物、あとは・・・、実りの森で採れるもの!」

「食べ物ばっかりだな」
『食べ物しかないぞ』

ギルドには笑いが起こり、みんなほっこりとしたのだった。
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