数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る

紅子

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貴族の嗜み

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アルが連れてきたのは、年配の女性3人。

これは、もしかしなくても・・・・。

「シェリア、こちらは、着替えを手伝ってくれる侍女頭と侍女達だ」

「シェリアです。お世話をおかけします」

「わたくし、先の王妃、王太公妃様のところで侍女頭を勤めますアラマンダと申します」

「同じく侍女のベティーヌと申します」

「同じく侍女のエスティーヌと申します」

「さあ、お嬢様。こちらでお召し替えをいたしましょう。殿下も別室でお召し替えを。殿方は、隣の部屋でお待ちください」

「我はここに居る」

「私も残る」

「あー、私は着替えたら隣にいるから、終わったら呼んでくれ」

「女性の着替えに殿方は同席できません!とっとと出ていきなさーい!」

「男の姿でなければよいのだな?」

あ、嫌な予感。

「蒼貴、白銀、そのままで・・・・・そこに居ていいから。ソファーでお茶でも飲んでて。おやつも置いて行くね?」

「よかろう」

「ああ、さっさとしろよ」

「しかし、お嬢様。お着替えなさるのに、殿方と一緒というのは・・・・。殿下もなんとか仰ってください!」

「あー、問題ないだろう。侍女頭、気にしなくていい。居ないものとして扱ってくれ」

困惑顔の3人を残して出ていってしまった。

「仕方ありません。さあ、皆さん、急ぎますよ!お嬢様はこちらへ。服を脱いでコルセットを着けますよ。今までつけた経験はございますか?」

「ありません」

「では、しっかりと立っていてください。せい!」

「ぐへっ」

魔法で、旅の汚れを洗浄された後、思い切り絞められた。いや、締められた。無理無理無理。息が出来ない。骨折れる。

「さあ、息を吐いて。もうひと締めしますよ!」

「無理です。これでいいです。出来るなら、緩めてください!!!」

切実に。

「まあ、なんと軟弱な。これくらいは貴族の嗜みにも足りません。美しさは、やせ我慢ですよ!」

「私、貴族じゃないですから!美しくなくていいです!倒れます。骨折です」

とてもじゃないが、まともに息すら出来ない美しさなんて要らない。どうにも緩めてもらうことはできなかったので、自分でなんとか整えて隙間を作った。3人をとも興味深げに見ていたが、「もう少しいけるのでは?」と言われたときには、「ドレス着なくていいです。昼餐も行きません!」と脅してしまった。こんなのを毎日なんて、私に貴族は向かない。

そして、用意されたドレスは、お直し不要のぴったりのサイズだった。王宮って凄いね。

「まあ、殿下が用意されていただけあって、ぴったりですね」

「殿下の瞳の色だなんて、愛されてらっしゃいますのね」

違った。凄いのはアルだった。なんで私のサイズを知ってたんだろう・・・・?きっとこれも考えてはいけない、私の心の平安のためにも。ドレスは、金色だ。必要以上に綺羅綺羅しい。

「さあ、お化粧と髪を結いますよ。爪の手入れもいたしますから、じっとなさってください!」

かれこれ1時間。やっと終わった。

「アクセサリーは、こちらになります」

これ着けるの?冷や汗が流れるよ、これ。どこの王族?いや、アルは王族だけど。

真ん中に50カラットはありそうなダイヤモンドが鎮座し、その周りをエメラルドが囲み、繊細なレースのように小さなダイヤモンドとエメラルド、所々にゴールドのビーズがあしらわれ首元を飾る。土台と鎖部分はもちろんプラチナだ。キラキラなのに上品な一品だ。ピアスとブレスレットもセットだった。ティアラまである。

重い。いろんな意味で重い。

侍女頭の女性に頭から足先までじっくりと検分された。

「いいでしょう。さあ、殿下をお呼びします」

「あ、ありがとうございました」

慌てて挨拶をする。過程はどうであれ、礼儀は必要。
侍女頭は、笑顔で頭を下げて2人の侍女達と音もなく出ていった。

やっと終わった。疲れた。全ての体力を使い果たした。もう、どこへも行きたくない。

「化けたな」

「たまには、いいのではないか」

誉められている気がしない・・・・。

どさっとだらしない格好でソファーに凭れていると、ノックもなくアルが入ってきた。

「ほお、これは・・・・」

じっと私から目を逸らさない。とても居心地が悪い。アルは、凄ーくよく似合っている。いつもの鋭さが少しだけ柔らかくなり、甘さが増した。隣に並びたくない。

「似合わないよね。分かってる。ドレスとアクセサリーに負けてるのは、諦めて。もう、なんでこんなに豪華なのばっかり選んだの!もっと、じ・・・・ふあ」

下を向いてぶつぶつと言っていたら、不意に抱き上げられた。

「綺麗だ。よく似合ってる。誰にも見せたくないな。私の方は、もう少し着飾らないと見劣りしそうだ。チュッ」

額の化粧が崩れない辺りにキスされた。ぼん!と一気に顔が熱をもった。その見た目でそういうことしたらダメ。そんなに近くで甘~く微笑まれたら・・・・「きゅう」気絶してもいいですか?

「しっかりせぬか」

「まだ始まってもいないよ」

「気を飛ばすのは後じゃ」

「そのまま連れていけ」

「さあ、行こうか、シェリア」

だから、その格好にその笑顔はダメ~!


お祖父様達の住まいは、王宮から馬車で30分ほど走ったところにある。この揺れの少ない馬車は、アルの設計。初めて乗ったときのあまりの酷さに記憶を掘り起こしたらしい。他にも色々と作ったものを教えてくれた。時計が普及していると思ったら、これもアルの仕業だった。1時間に1度鳴る鐘で動くと言うのに非常にイライラしたらしい。

話をしているうちに着いたそこは、王宮を2廻りほど小さくしただけの豪邸、いやお城だった。アルにエスコートされ馬車を降りると、たくさんの人が並んでいる。一番前。アルをだいぶ渋ーい感じにした壮年の男性が女性を連れて歩み寄ってきた。

「お久しぶりでごさいます、お祖父様、お祖母様。伯父上もお変わりなく」

「よく来たな、アルフォンス」

「元気そうでよかったわ。時々は顔を見せにいらっしゃい」

「やはりお前も我が一族だな」

バンバンとアルの背中を力強く叩いているこちらが、伯父様だろう。この方もアルとよく似ている。3人揃うと歳を経る過程を見ているようだ。

スッと3人の視線が私へと注がれた。それを見計らったようにアルが私の背中にそっと手をあてた。

「この女性が、私の番です。シェリア、挨拶を」

「お初にお目にかかります。わたくしは、シェリア。後ろにおりますのは、わたくしの護衛でございます。先程は、わたくしのために侍女頭を遣わしていただき、大変助かりました。お礼申し上げます」

そして、カーテシー。緊張する。舌を噛まずに言えたことを誉めたいと思う。後ろの4人は相変わらずでかい態度で佇んでいる。どう見ても護衛には見えないが、口を開かないだけ良しとしよう。

「丁寧な挨拶をありがとう。私はこの館の主、セルバート。そして、妻のジゼルだ」

「ジゼルですわ。フフ、優しそうなでよかったわ」

「伯父のアクラムだ」

よかった。従魔達のことも気にしていないようだし、なにより、暖かく迎え入れられたことがわかった。ほっとして自然に顔が緩んだ。

そして、滞りなく食事も終わり、別室でお茶をいただいているところに、見知った顔の騎士様が3人と初めましての女性騎士様がやって来た。食事は大雑把な味付けの極めて西洋的なものだった。繊細さは、微塵もない。毎日なんて遠慮したいと思ってしまった。

「お呼びと伺い、参上いたしました」

「ああ。これから重要な話をする。入れ」

アルに促され、空いている席へ着いた。

「今回は、誓約の魔法を使うでの。嫌ならこの場から退出せよ」

なんか、アル以外全員が驚いてるけど、なんで?「誓約の魔法だと?」、「聞いたことはあるが・・・・」、「たしか、神獣様の・・・・」、「・・命を・・・・」とかぼそぼそ言うのが聴こえてくる。そんなに大袈裟な魔法なのかなぁ? 

「緑葉、誓約の魔法って何?」

「そうさの。我らにのみ使える魔法じゃの。誓約を違えれば、最悪死ぬ」

「ええ!なんでそんな危ない魔法使うの?死ななくてもいいんじゃない?」

「だから、お主は危機感がないと言われるのだ」

「自分の立場が全く分かっていないな。まだ、説明が足りないか」

「それが、シェリアなんだけどね」

私達も小声でボソボソと言い合っている間に答えが出たようだ。誰も出ていかない。つまり、そう言うことだ。

「緑葉殿。ここにいる全員、その誓約の魔法を受けよう」

「えっ、と。よろしいのですか?その誓約の魔法を破ると最悪死ぬそうですが・・・・」

「お気遣いはありがたいが、それもわかった上での決断だ」

そう言われれば、何も言えない。
本当にいいのかなぁ?

「破らなければいいんだから大丈夫さ」

シュバルツ様、軽すぎです。

「じゃ、シェリア、防音結界を張ってね?」

従魔達は、全員を囲うように四隅に移動した。

「とっとと始めるぞ。シェリアとアルフォンスは、私のそばへ。他の者は、動くな」

「「「「・・・・アヌ・・・・リ・・・・ザント・・・・」」」」

白銀、蒼貴、紅蓮、緑葉のそれぞれが、小声でぶつぶつと呟き始めた。すると、銀、青、赤、緑の細い糸のようなものがひとりひとりに伸びて、一定の方向にぐるぐると廻り始めた。それはやがて、繭のようになり弾けて消えた。

「全員受け入れたな」

「誓約の内容は理解できたであろうな」

「誓約の内容って?」

「簡単なことだよ」

「悪いようにはしとらんから、安心せい」

どう聞いても教えてはくれなかった。ケチ!
そして、私達が席に着くと漸く女性騎士様と自己紹介ができたのだった。彼女は、ロザンナ。役職は副団長。もうひとりの副団長の番だということだった。ちなみに、セルバート様とジゼル様も番、アクラム様も番がいる。

「シェリア、彼等を元の姿に戻してくれるか」

「わかった。小さいサイズの元の姿に戻ってくれる?」

大きなサイズで戻られると、このお城が破壊される。

「これは・・・・!」

「初めて見ましたわ。小さいと可愛いですわね」

「「「!!!!」」」

「マジかよ」

様々な反応が見られるが、全員が驚くところを見ると、やはり彼等は特別な存在のようだ。

「なぜ、神獣様達がここに?しかも、4神全てそろっておられるなど。シェリア嬢の護衛とはどう言うことだ?」

ここから、長い長い、私とアルの話が始まった。
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