数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る

紅子

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家の中に家?

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街道に出てからは、馬を預けてある場所まで半日だった。

前日は、初めて野営をした。テントを建ててその中で眠ったんだけど、魔法があるからそれほど不便ではない。「野営なんて、初めて~♪」と浮かれていたら「どちらのお姫様でしょうか?!」と驚かれてしまった。平民はもとより貴族の令嬢であっても、野営が初めてはあり得ないそうだ。自分の領地や旅行などに野営はつき物だからだ。アルは「まあ、そうだろうな」と苦笑していたが。

そして、今は馬と対面している。
そう、馬と・・対面だ。

「えっと?これ、馬なの?」

「私も初めて見たときそう思った」

確かに顔は長くて馬面をしている。だが、おかしい。何度数えても足が8本なのだ。スレイプニルという魔獣で、卵から育てることで人の言うことを理解し、従うようになる。人間は無理だが、獣人はボスと認識されるかららしい。

獣人、凄い。
異世界、凄い。

スレイプニルは、5頭。どうするのかと思っていたら、私の従魔達は、自分達で調達してきていた。

神獣、凄い。

それから4日。漸く、王都に辿り着いた。騎士団専用の入り口から入る。少し前にアルからフードのついたポンチョを被せられた。「念のため、これを着ておけ」とフードも目深に掛けられて、前がよく見えない。おまけにアルのマントの中に入れられた。

「団長、副団長もお役目、お疲れ様っした。リンハルト殿下もご無事で何よりっす」

門番かな?声しか聞こえないけど、軽そうな人だなぁ。

「団長、俺とシュバルツは、先に行くから」

言い終わらないうちに、2頭の蹄の音が遠ざかっていった。

「リンハルト殿下、ご無事のご帰還、何よりでございました。ところで、団長。その・・相乗りしておられる方と後ろの方々は?」

「今日の当番はミュゼルのところか。ご苦労。彼らは、リンハルトとジルベルトを保護してくれた方たちだ。このまま通す。報告は明日の昼以降に私の執務室だ」

「畏まりました。各隊長に周知しておきます」

「頼んだ」

ついては来たものの本当によかったのかと今更ながら不安になってきた。あのまま、あそこで待っていればよかったんじゃないの?

そう思ったら、だんだん身体が萎縮していった。どうしていいか分からない。怖い。ここから逃げ出したくてたまらなくなった。身体が震える。ここは、私の知らない世界・・・・・・・・だ。

「大丈夫だ。心配しなくていい」

「でも・・・・」

「焦らなくていい。ずっと箱庭に居たから、外の世界が怖くなったんだろう?ゆっくり慣れればいい」

「そう、かも、しれない・・・・」

声に力が入らない。

「シェリア、箱庭に戻りたいなら、場所を用意する。必ず、守る。だから・・・・、私から逃げなるな・・・・」

私を支える腕に力が込められる。アルの懇願するような声に心が痛くなった。

「うん。・・・・私、ここに居ていいんだよね?」

「ここに居てもらわないと困る。王宮が嫌なら、市井に降りてもいい。旅がしたいなら連れていく。箱庭が安心するならずっとそこで暮らしてもいい。シェリアは、どうしたい?」

「そんなに簡単にいかないよ。王族なんでしょ?」

「そんなことか。捨てればいいだけだ」

「そんな簡単に」

「シェリアをまた失うくらいなら、たいしたことない。元々、それほどの価値を見いだしていないしな。煩わしいことこの上ない」

「そ、そうなんだ」

「独りで悩むな。シェリアが王宮で暮らすのは酷なことはわかってる。人に囲まれて傅かれるのも窮屈だろう?折角、神様が与えてくれたチャンスだ。無理せず自由に暮らそう?」

「アルは、それでいいの?アルなら良い王様になれるよ。そういうの得意でしょう?」

「得意か不得意かで言えば、得意だな。でも、シェリアは隣に居ないだろ?」

「そうだね」

王妃なんて無理だ。

「なら、要らない。シェリアの言う良い王様にはなれない。だから・・・・」

決して離れるな。

最後にそう言った後、スッと姿勢を正し、スピードをあげた。



目の前には、あの鼠のお城もビックリな宮殿が聳え立っている。後ろには断崖絶壁が控えており、余計に迫力を増している。馬上で口をあんぐりと開けて見上げていると、フードを目深に直された。

「口は閉じようか」

失礼しました。

「団長、人払いは済んでます。シュバルツが見張りをしてますけど急いでくださいよ」

「わかった。シェリア、降りるぞ」

「シェリアお姉ちゃん、バイバイ」

「うん。リン君、バイバイ」

リン君達とはここでお別れだ。また会えるといいな。

アルは自分が降りた後、丁寧に私を降ろしてくれた。ここからは歩いていくんだなぁとポケッと思っていたら、頭からすっぽりとマントが掛けられて、抱き上げられてしまった。腕にお尻を乗せた縦抱きだ。安定感はあるけど、とことん私を表に出したくないらしい。私より、従魔達の方が目立つと思うよ。そう言ったら、「危機感は全く望めない」と各方面から呆れられた。

「漠然としすぎて、何に危機感を持てば良いのか分からないんだよ?」と訴えたら、「さすが、平和大国で生きてきただけはあるな」と返された。嫌味だよね、それ?その後、いろんな人からお説教されたり説明されたが、いまいち、実感として分からなかったと言うのが本音だ。言わないけどね。

「いいと言うまで顔は隠しておけ」

どこまでも続く廊下をひたすら歩くこと15分。やっとひとつの扉の前に辿り着いた。本当に人払いがされていたようで、道中、誰にも会わなかった。

「もういいぞ」

「ここは?」

「私の住まいだな」

この部屋が?それともこの建物が?

「ここは王宮と廊下で繋がった離宮のひとつで、現在の私の住まい。この部屋は私の私的なリビングになる。隣は寝室だ」

詳しい説明をありがとう。

ここでやっと降ろされ、マントとポンチョを外された。視界が広くなったところで部屋を見回すが、広くて落ち着かない。

「広すぎる・・・・」

「だろうな。私もここには、物を取りに来る以外戻らない。前に来たのは、2いや3年前か」

騎士団の執務室の方が落ち着くらしい。寝る場所もあるなら、帰らないよね。

どれくらい広いか。箱庭の表の庭から裏庭までがすっぽり入ってまだ余裕がある。他にも応接室や客間、図書室、執務室、ダイニング、昼餐室、晩餐室などが別にある言うから、驚きだ。離宮だよねここ?庶民には、辛い大きさだ。

「なんでここに?」

「ここなら、家具を少し片付ければ、箱庭を出せる。離宮とはいえ、庭は、庭師も入るし、外からも見える。建物の中に家があるとは思わないだろう?この離宮には、使用人はいないからな」

「えっ、ここに箱庭を出せるの?」

畑は?土ないよ?

「心配せんでも出せる」

「こんなに広いのに、誰もいないの?」

「前はいたんだがな。今の私には必要ないから、ここで働いていた執事や侍女、使用人は全てリンハルトが生まれたときに移動させた。時々、掃除だけはしているみたいだ」

簡単に移動させたとか言ってるけど、きっと産まれた時から側にいた人もいただろうに。ここは、アルにとっても窮屈なのかもしれない。

早速、ソファーやテーブル等を片付けて部屋を空っぽにした。何もなくなると更に広く感じる。

ちょっとしたコンサートホールみたい。

魔法と同じ要領で箱庭を展開した。どうなっているのかは考えてはいけない。門扉はどっしりとした扉に、庭を取り囲んでいた木は壁になった。なぜか地面もあるし、見上げると空が見える・・・・。考えてはダメだ。

裏庭に廻ってみると、この庭に元々備わっている・・・・・・・・木や藪はそのままに奥には窓が見え、離宮のバルコニーから庭が見えた。 

シュールだ。
考えてはいけない、受け入れろ!だ。

「空まで見えるとはのぉ」

「これ、上から見たらどうなってるんだろう。僕、見てきたい!」

「我も行こう」

「あっ、わたしも外から中を見てみたい!」

「なら、バルコニーに行こう」

ぞろぞろと廊下を通って隣の部屋へ移動し、そこからバルコニーへ。中を覗くとそこには・・・・。

えー!コンサートホールに戻ってる!

何もないリビングが広がっていた。人が居るとどうなんだ?という事で、アルが中に戻った。が、一向に現れない。遅いなぁと待っていると「どうだった?」と声をかけられ、飛び上がるほど驚いた。見えなかった・・・・。上から覗いた紅蓮と蒼貴によると、屋根があって、中は見えなかったそうだ。

異世界って、不思議。

さて、やっと箱庭の我が家に落ち着き、これからの予定を告げられた。従魔達は、元の姿に戻り、お気に入りの場所で寛いでいる。

「この後、じいさんとばあさん、伯父上殿と一緒に昼餐をとる。護衛殿も同席で構わないが、料理は護衛殿の知っての通りだ。いいか?」

「いいか?って、もう決まってるんでしょ?断れるの?」

「我らの食事は不要だ。同じテーブルにはつかぬ。同室に我らの席を用意せよ。そこでシェリアの茶菓子でも食べておる」

「承知した。まあ、何とか理由をつければ、断れなくはない」

「それって、断れないって言うのよ。仕方ないね。マナーはなんとかなるけど、服は?ドレスなんてさすがにないよ?」

「助かる。ドレスは用意してあるから心配しなくていい。護衛殿はそのままで大丈夫だ。この3人には、シェリアの素性と護衛殿の本来の姿を明かそうと思っている。王族ではこの3人だけだ。後は、騎士団の副団長2人と第一騎士隊の2人だ。昼餐の後、同席する。第一騎士隊は私の護衛だ。その話し合い次第では、他にも知らせるかもしれない」

「王様はいいの?それにこの国では、騎士団が王族の護衛もするの?」

「国王は、父上は知らない方がいい。あの人に全ては、抱えきれないだろう。通常は近衛に専属の護衛がいる。ジルベルトは、リンハルトの専属護衛だ。所属は、王国騎士団近衛騎士隊になる。リンハルトの護衛は後5人いるな。近衛は騎士団の中でも身分と実力が必要だ。しかも要人警護の腕も必要になる。規則や規律も厳しい。煩くて私には合わなかった」

一緒に居たときのジルベルト様を思い出す。確かに煩かった。リン君の教育係もしてたよね。しっかりと規律を守らせようと頑張ってたな。

「あれは、煩いかもね・・・・」

カーン・カーン・カーン

「来たようだな。出迎えるから、ここから移動しよう。護衛殿はどうする?ここに居ても構わないが」

「シェリアを独りにするわけなかろう」

「私も行く。紅蓮と緑葉はどうする?」

「儂は、ここで留守番だの」

「僕も、ここに残るよ」

「ねぇ、誰が来たの???? 」

疑問には答えてくれず、箱庭から近い別の部屋へと私を案内したアルは、その足で出迎えに向かった。
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