数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る

紅子

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こんにちは、異世界!

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それから2日。
私は、ずっと料理をして過ごした。従魔達はひとりは必ず護衛として残るが、他は交替で食料調達だ。アル達も訓練を兼ねて参加していた。



アルたちがやって来た次の日の朝は大変だった。自業自得とも言うが・・・・。

夜も更け、それぞれが、自分の客室に引っ込むというときに、アルがさっと私を横抱きにして2階へ上がろうとした。もちろん、全員に止められた。

「団長、それは不味い」

「自重してください」

「シェリア、慎みは必要だぞ」

意外なことにアルは渋々ながらすぐに諦めていた。少し、それに違和感を感じたけど、従魔達と2階へ。そこには、新しい扉が。従魔用の部屋が用意されていた。今までは私の部屋に居候だったが、それぞれの好きな場所が再現されていて、嬉しそうに元の姿でくつろぎ始めたのをみて、自分の部屋へ戻った。

その夜中。

コンコンコンコン

「私だ」

扉をノックする音とアルの声。慌てて、従魔達に見つかる前に部屋へと入れた。そして、アルに気づかれないように防音の結界を張る。

「さっきあんなに素直に従ったのは、こういうつもりだったんだ」

「迷惑だったか?」

「やっと会えたのに、迷惑なんて思わないよ」

「本当は、夢だったんじゃないかって不安になったんだ。朝まで我慢できなかった」

腕の中に閉じ込められて、顔中にキスが降ってくる。私もぎゅっと抱き締めた。

「夢じゃないよ。ここに居る」

「そうだな。ちゃんと居た」

フワッと抱き上げられた。行き先はベッド。離れると不安なのはお互い様だ。その夜は、お互いの体温を感じながら朝まで一緒に眠った。



そして、朝。

本当は、みんなが目覚めるよりも早く起きて、知らん顔しようと思っていたんだけど、ふたりとも起きれなかった・・・・。アルですら、安心して寝過ごしたって言ってるくらいだ。

「こうなったら開き直るしかないな」

「仕方ないよね」

身支度を整えて、ふたりで1階へと降りた。そこには、呆れ顔の従魔たちと怒りを押さえた副団長のエドガー様、ニヤニヤとしているシュバルツ様とフェルナン様がいた。リン君とジルベルト様は、部屋で待機のようだ。

「団長、私は自重してくださいと申し上げましたよね?自室に戻ったあなたが何故、2階から降りてくるのでしょう?シェリア嬢、貴女もですよ?白銀殿に慎みは必要だと言われていましたよね?」

うわー、激怒だよ。

「まあ、こうなるとは、思っとったがの」

「何もなかったようだし、いいんじゃないの?」

「ハァ、シェリアに慎みを求めても無駄だな」

「自重は必要だがな」

おや、こちらは、容認?

「そんなに怒るなよ、エドガー。シェリアの護衛殿もこう言ってるだろ」

「いいえ!誰かが釘を刺さなければ、どんどんエスカレートするでしょう。相応の時までは自重と自制を忘れないでください」

「全く、箍が外れた獣ほど危険なものはないのに・・・・」とぶつくさと小声で言っている。

「その通りじゃな」

「外れた箍は頑丈なほどに付け直してもらおうか」

あれ、掌返したっぽい?

「団長、がんばれー」

ふたりが手を振って応援している。ああ、他人事ね。 

結局、2日目の夜も一緒に眠ったことで、手に負えないと判断された。自重はするから、ごめんね?



3日間の朝。
いつもより早い時間に朝食を食べ、王宮に向けて出発だ。

まず、エドガー様、シュバルツ様、フェルナン様が箱庭から出た。魔獣の確認が必要だからだ。それから、私とアル以外が出る。私は、2年間お世話になったこの箱庭に別れの挨拶をした。そして、私が外に出ると、箱庭は跡形もなく消えた。箱庭のあったところには木が植わり、藪が繁っている。

「・・・・、え、えー!!!!」

「はあ?!」

「「「「!!!」」」」

「心配要らぬ。亜空間に格納されただけだ」

「必要ならば、すぐに出せる」

「説明は、夜じゃな。ここにずっとおっても構わんがの」

「シェリア、結界張るんだよ」

「そうだな。先を急ごう」

私は、四方を従魔達に囲われ、歩き出した。先頭は、副団長のエドガー様。その後ろに、シュバルツ様とフェルナン様。更に後ろにリン君とジルベルト様。私と従魔達。殿しんがりはアル。

それから、1時間程。この世界にも時計は普及している。懐中時計が最小のサイズだけど、魔石で動く魔道具だ。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

もう、限界です。なんでみんな、そんなに体力があるの?アルなんて、従魔達にあっちに魔獣、こっちに魔獣と指示を出され、「遅い!」と怒鳴られつつもさんざん走り回ってるのに平気な顔をしている。

「もう、限界ですぅ。ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

「まあ、もった方ではないか」

「箱庭に2年間もいたら、こうなるよね」

「元々、体力なんて無いんだから、無理するな」

「シェリアさんや。飛んで行くといい」

あっ、そうですね。風魔法で低空飛行すればよかったんですよ。

「緑葉、最初に教えてほしかったよ」

「体力のなさを自覚するためだな」

自覚しました。いやというほどわかりました。

ふわんと浮き上がり、その場にふよふよと漂うと、みんな絶句した。リン君だけは、目を輝かせてくれたが。

「飛べる人なんてはじめて見たよ、俺」

「団長もおかしいけど、番様も普通じゃないな」

シュバルツ様もフェルナン様も聞こえてるよ。

「シェリアお姉ちゃん、凄い!ぼくも飛びたい!!!」

「もっと大きくなったら、蒼貴に教えてもらうといいよ」

「分かった!蒼貴、教えてね♪」

「うむ、お主の魔力量次第だな」

「出発するぞ」

歩き疲れた私は、ふよふよと漂うように飛びながら、瞼が落ちてきた。

不味い、横になって寝たい。

「シェリア、寝るなよ」

ハッ。意識飛んでた。アル、よく気づいたね。

「蒼貴、運んであげなよ」

「そうだな。動かなくなっても困る」

「手間のかかることだ。・・・・。これでいいだろう。シェリア、寝ても構わんぞ」

どういうこと?何したんだろう?

「ほれ、行くぞ」

「あっ!」

私の意思とは関係なく・・・・・・・・・・、前に引っ張られていく。

うわー、これとっても楽。飛んでるときも、意識して前に動かさないと止まっちゃうんだよね。 うわー、これなら寝れる! 

さて、ではお休みなさい。

そのままこてんと横になった。

「さすがにそれは不味いだろ」と呆れたアルにマントでぐるぐる巻きにされたが、眠すぎた私は、目を開けることができなかった。



「シェリア、昼だ。もうすぐ休憩する。起きろ」

耳元でアルの声がした。

「ん」

ふわあ、と伸びをしようとしたが、手が拘束されていて、動かない。もぞもぞと動くとぎゅっとさらに拘束された。

「暴れるな」

パッと目が覚めた。いつの間にかアルに抱っこされている。

「へっ。あれ?」

「やっと、目が覚めたようだな。行きと同じこの先の開けたところで休憩にするぞ」

「「「了解!」」」

「リンハルト殿下、もう少しですよ」

「大丈夫だよ。紅蓮と緑葉におやつもらったから、まだ歩ける!」

私はというと、アルに抱えられたまま休憩場所まで運ばれた。


それから2日。
ひたすら森の中を歩いた。まあ、私はふよふよと飛んでいただけだが。夜は箱庭を出してそこで休んだ。1日目の夜にお風呂で溺れかけた以外は、順調に進んでいる。それについては、思い出したくない。




その1日目の夜。

「シェリアさんや。今日はよく歩いたからの。ゆっくりと休んだ方がよい。明日もあるしの」

「そうだよ。部屋に戻るといいよ」

「うん、そうするね」

夕食も終わり、明日の予定を確認することになった。リンハルトは、すでに夢の中だ。シェリアもボーッとして、そのまま寝てしまいそうだ。部屋に戻る足元が覚束ない。部屋まで連れていこうかと思った矢先、白銀殿に止められた。

「さっさと明日のことを話し合うぞ、小僧」

「・・・・、明日の朝は・・・・」

午前と午後の2回リンハルトのためにおやつの時間をとること、お昼寝の時間を確保すること、昼寝の間だけジルベルトが抱いて運ぶこと、シェリアは1日中飛んで移動すること、昼食・野営は箱庭を出すことを決めた。ただし、箱庭が出せるのは、明日までだ。明後日の夕方には、街道に出る予定だ。余計な詮索を避けるために出さない。

緑葉殿によると、箱庭はスキルのひとつで、2000年前には箱庭を持つものが珍しくなく居たそうだ。1000年前には、見なくなったそうだが。って、どんだけ生きてるんだこの人達は・・・・。

「アルフォンスよ。ちいとシェリアさんを見てきてくれんか」

「???わかった」

私は不思議に思いながらも2階のシェリアの部屋へ向かった。

コンコンコンコン

「シェリア、入るぞ?」

いない?
風呂か?あっ、嫌な予感がする。

慌てて風呂場を除くと今にも溺れそうなシェリアがいた。だいたいなんで風呂になんて入ってるんだよ!
急いでシェリアを風呂から引き上げる。

「シェリア!シェリア!起きろ!」

「ん?アル?」

「なんで風呂になんて入ったんだ?!魔法で洗浄すればいいだろう」

「お風呂?・・ふわあ。やー!おろして~!ふえ」

漸く自分の置かれた状況を理解して、慌てて手で身体を隠しているが今更だ。しっかり見た。福眼だな。

「まだ慣れないのか?」

「ずっと慣れないよ!もう、やー」

私の腕の中で身体を丸く固くして、真っ赤な顔で泣きそうになっている。

「相変わらず、可愛いな。煽ってるのか?チュッ」

可愛すぎて、思わず瞼にキスをした。ますます、固くなってぎゅっと目を閉じてしまう。そんなことしたら、止められなくなるのにな。わかってない。

「そんなわけない!」

「チュッ。ほら、乾燥したからもう寝ろ。チュッ」

ベッドに入ったら安心したのか、瞼がトロンとしている。このまま、一緒に寝てしまおうか?

「おい!小僧!さっさと降りてこんか!」

はあ、うるさい小舅が居たな。

「お休み、シェリア」

「う、ん・・・・」

眠ってしまったシェリアの髪を暫く撫で、名残惜しさをねじ伏せて下へと戻った。「遅い!」と小舅から散々説教されたが、気にもならなかった。


その小舅たち、いや、神獣様達によると、シェリアの元へ白銀殿が辿り着いたのは、神の采配だろうということだった。神獣様の行くところに偶然や偶々はあり得ない。必ず、訳がある。シェリアを見たときにその理由を悟った。だから、最も重い血の契約を交わしたそうだ。そのすぐ後に3体の神獣様達が訪れたのも、また、必然。シェリアは、知らなくていいことだとも言っていたか。

ぼそりと呟いた緑葉殿の言葉が耳にこびりついている。

「何事もなければよいがのぉ」

確かに、強大な力をもつ神獣様を、それも4体従えているのは、気になっていた。本当に何事もなければいい。

「必ず、守るから」

無防備に眠る愛しい存在を確かめるように抱き締めると私も眠りについた。
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