番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子

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記憶が、あります?

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声を殺して泣いている私の部屋にドタバタと飛び込んできたのはクラウスとお兄様だった。

「レイ。大丈夫か?」

クラウスはベッドに乗り上げ、ひっそりと泣いている私を抱き上げると膝の上に乗せた。クラウスの温もりに我慢していたものが溢れだし、クラウスの胸にしがみついて声をあげて泣いてしまった。

「うわぁ!ローズ。どうしたの?怖い夢でも見たの?」

ローズ?

お兄様はどうしていいか分からず、あわあわとしている。

「ローランド殿下。暫くローズマリー姫様とふたりにしてくれないか?」

殿下?姫様?そう言えば、まだこの死に戻りの生を確認していないことに気が付いた。

「だが・・・・」

「場所は隣の居間に移る」

「まあ、いいだろう」

私は抱きかかえられて、ベッドからソファーに移動する。お兄様も私付きの侍女たちも部屋を出ていった。扉の向こうに人の気配がするから完全にふたりではないが、私たちの声は届かないだろう。

「レイは前の記憶があるな?」

コクン

「俺もある。他にも覚えていることがあるが、俺はレイを連れ出しに来た」

え?どういうこと?

私の疑問に答えるようにクラウスは話し始めた。

「ここは、ウィリアム殿下とローズマリー嬢の嘆きが複雑に絡み合って創り出された偽りの世界だ。レイはその世界に囚われている。俺はレイを正しい輪廻に戻すために来た」

「この終わりのない世界から連れ出してくれるの?でも、わたくしは・・・・」

あなたとの赤ちゃんを殺してしまった。思い出すだけで涙が溢れる。宿ったばかりの愛しい命を奪ってしまったのだ。

「レイ。最後に俺に話したかった嬉しいことを教えて?」

何故、このタイミングで?言えるわけない。あの時、頭が真っ白で咄嗟にあなたを庇ってしまったけど、あなたなら、騎士のあなたなら簡単にかわせたはずだ。冷静になればすぐにわかることだった。やはり私の人生は18歳で終わる運命呪いなんだ。

「・・・・」

「レイ?」

言えない。言いたくない。この人に嫌われたくない。でも・・・・。私は本当のことを伝えるべきだ。この人には知る権利がある。

「赤ちゃん・・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」

怖くて顔をあげられない。クラウスの顔を見れない。きっと怒ってる。

「赤ちゃん・・・・本当に?」

クラウスは取り乱すことなく静かに聞き返してきた。

「うん」

私の涙は止まらない。突然クラウスは私をこれでもかというほど抱き締めてきた。

「そうか、そうか♪」

喜んでる?どうして?

「でも、わたくしが殺してしまったの。あの時、わたくしが!」

「それは違う!レイ!よく聞くんだ。レイが俺を庇ってくれたとき、俺はうれしかったんだ。レイが番よりも俺を選んでくれたことが。レイが苦しんでいるのに、最低だろ?この世界で番はある意味絶対だ。あの時の俺は、この世界のことを知らなかったから、レイがいつウィリアム殿下のもとに行きたいと言い出すかずっと不安だった。ウィリアム殿下がレイを求めるなら、俺はいない方がいいと、愚かにもそう思ってしまったんだ」

「クラウスは死ぬつもりだったの?」

驚きで涙が止まった。

「ああ。レイがウィリアム殿下と幸せになるのを見るのはさすがに辛いからな」

ばつが悪そうにしているところをみると、思い込みだったと反省しているらしい。

「あの後、どうなったの?」

「どうにも。ウィリアム殿下がレイの死を認識した直後に世界はリセットされた。レイの授かった命は、酷なようだけど、幻想なんだ。ウィリアム殿下、ローズマリー嬢、レイ、俺。この4人の魂以外、ここには存在しない。全てが創られた生命だ。俺とレイのふたりが子を望んだから、レイの中に命が宿ったんだ」

クラウスは目を細め、これ以上ないくらい愛しそうに私を見つめる。私たちの願いがあの子を。私は無意識のうちにお腹に手を当てていた。その手の上にクラウスの手が重なった。

「俺がこの世界で目覚めたのは昨日だ。ローランドは前の世界のことは覚えていなかった。俺はレイを連れ戻しに来たから、記憶があるんだろう」

「わたくしは・・・・この世界の始まりからずっと覚えてる。気が狂いそうなほど繰り返してるわ」

「気付くのが遅くなってごめん」

クラウスはずっと私を待っていた。私と出逢うはずなのにどれだけ転生しても逢えない。魂の国に戻る度に私に出逢えなかったことに落胆し、私を探して回っていたそうだ。そして、あるとき気が付いた。私の魂があるはずのない世界に居ることに。

「どうすれば、ここから出られるの?」

「ウィリアム殿下とローズマリー嬢が同時に未練を消化できたとき、この世界は終わる」

「そんなこと不可能だわ」

ウィリアム殿下は私という番を、ローズマリー様はウィリアム殿下を求めているのだ。

「大丈夫だ。俺に考えがある。きっとうまくいくはずだ。まず、この生の記憶を思い出して。レイにはレイにそっくりな双子の姉がいるだろう?その子がローズマリー嬢だ。ウィリアム殿下は、隣国にいる。今は12歳のはずだから、近いうち番を探してこの国に来るだろう。その前に、レイは俺の番になってほしい。いいか?」

「クラウスはいいの?」

「もちろん。この生でレイと添い遂げたい。俺が番だと言うのは無理があるから、レイからになるんだが、出来るか?」

そう言えば、クラウスは今15歳だから番避けの装飾品をつけている。私からならまだ小さかったから分からなかったで通る?

「いいよ。でも、クラウスも気付かなかったのは無理がない?12歳と7歳でしょ?」

「そこなんだよな。俺はレイが幼すぎて気付かなかった、で通す」

意外にも、私とクラウスはあっさりと番と認められた。普段の私たちの仲の良さに何故、クラウスが番だと言い出さないのか不思議がられていたくらいだった。もう少し大人になった私の意思を尊重したかったというクラウスの言い分が通り、私たちはウィリアム殿下がこの国を訪れるよりも早く、皆から祝福されて婚約した。
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