愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子

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春うらら。
ポカポカの陽気に眠ってしまいそうですぅ。

なんて、ね。

私はシュシュ。シュシュ・グランダ。伯爵家の長女として産まれた。現在5歳。ここは魔法があって魔獣と呼ばれる凶暴な動物のいる世界。森に住み人を襲うこともある。領地を持つ貴族はその討伐も仕事のひとつであるため、私兵の所有を許されている。私の産まれた家は、中流階級の貴族であり、広くはないが領地を持っているから、当然、私兵もいる。小麦の産地であり、野菜も豊富に育つ穀倉地帯故にそれなりに裕福だと思う。有事の際には隣の辺境伯領の食糧庫になる。その領地に、お祖父様・お祖母様・お父様・お母様・10歳年上のお兄様・双子の妹・2歳下の弟と一緒に住んでいる。8人家族だ。

お兄様は金茶の髪に瑠璃の瞳を持つ将来有望な15歳。これで金髪なら白馬に乗った王子様そのものという容姿端麗で頭脳明晰・魔力も高く能力に至っては最上級の回復持ち。他にもいくつか能力があるらしい。という優良物件には、既に婚約者がいる。王家公認だ。お相手は隣のハワード辺境伯家の2歳下のご令嬢。時間を見つけては会いに行っているのを私は知っている♪跡継ぎであるお兄様にお祖父様とお祖母様は多大な期待を抱き、特にお祖父様は領内を連れ回している。

双子の妹は5歳にして非の打ち所のない美幼女。見事な金髪が緩やかに波打ち、瑠璃の瞳は少し垂れぎみでくりくりと大きく愛らしい。うっすらと色づくもちもちの頬、紅を差したようなぷっくりとした唇。キメ細やかな白い肌。屋敷にいる者みんな彼女にメロメロだ。特にお父様とお母様の溺愛ぶりは社交界でも有名らしい。

私が2歳の時に産まれた弟はクルーガと名付けられた。金髪にお祖母様と同じ紫の瞳を持つ天使のような子だ。私とはあまり会うことがない。私がクルーガに近付くとリルアイゼが「お姉様がクルーガを苛めた」と騒ぎ始めるから近付けない。可愛いがりたいのに!

そして、私。全体的に普通。取り立てた能力もないし容姿も十人並み。お兄様が気にかけてくれるお蔭でかろうじて家族としていられるという、居ても居なくてもいい存在。

そんな私が、実は女神の愛し子だったりする。この世界に産まれる前、女神様とお話し・・・させていただいた。女神の愛し子であることを断ることはできず、それなら!と能力や待遇について相談したのだ。


それが以下の通り。

・個人情報はともかく、前世の記憶を残してもらう
これは、どの家に産まれるかを選べないと言われたから、どんな生まれであっても自活できるように。

・能力は普通程度
高い能力を持っていると狙われる。容姿も平々凡々を希望。

・代わりにもふもふの使い魔を2匹
私を守ってくれる存在は必要でしょ。もふもふなのは私の趣味!

・愛し子と周りにバレたくない
ぶっちゃけ、どんな扱いになるかわかったもんじゃないでしょ?どんな生まれでも利用されるに決まってる。自由なんて絶対に望めない。

今回の世界の災厄は、この世界を取り巻く魔力の乱れが原因で魔獣が凶暴化し数も増えるというもの。その魔力の乱れを正常化するのが私のお仕事。だったら旅でもするのかと思いきやこの女神様、発想がちょっと普通じゃなかった。歌を歌えときましたよ!音と私の持つ魔力の力で乱れた魔力を調律するんだと。「ふ~ん・・・・」鼻唄でもいいなら隠し通せそうじゃない?



そんな契約を交わし産まれたものの、双子とは思わなかった。しかも!片方は5歳にして『絶世の』とつきそうな美しさ。お蔭で兄以外の家族には殆んど忘れられた存在。産まれたときからいる私の専属侍女の存在が私の存在を示している。


『シュシュ。今日は外に行かないのか?』

2歳で女神様との約束を思い出した後すぐに使い魔としてやって来たのは・・・・。狛犬と九尾の狐。コマちゃんとキュウちゃんだ。私以外の人には見えない。

『う~ん。いい天気だよね。昼寝日和。マリーさえいなきゃのんびりできるのに・・・・』

マリーは私の専属侍女。私がちょっとでもダラダラすると叱責してくる。私、まだ5歳なんだけどね。リルアイゼと比べられ、“淑女として”が口癖らしい。

『あいつか』

コマちゃんが顔をしかめるのも仕方ない。リルアイゼ贔屓のマリーは、私がこの部屋から出るのを嫌がる。外なんかもってのほか。日焼けが・・・・、シミが・・・・とうるさい。リルアイゼのいる居間に行くことを勧められるが、自分がリルアイゼに会いたいだけ。実際私が行ったところで、置物扱いされるのがオチ。お茶の1杯すら出てこない。

ああ、外に行きたいなぁ。
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