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5歳の誕生日を家族でお祝いした数日後。やることもなく部屋でボーッとしていた。家族は殆んど私に構うことはない。というか、お母様とお祖母様はリルアイゼと弟のクルーガの世話に忙しいし、お父様とお祖父様は仕事で昼間は出掛けることが多い。家にいても執務室に籠って出てこない。お兄様は学園に通うため、王都に行ってしまった。誕生日に私のプレゼントまで用意されていたのが奇跡的なくらい家族との交流がない。
「・・えさま~?おねえさま?どこぉ?」
甘ったるい声が聞こえ、とたとたという軽い足音が部屋に近づいてくる。双子の妹リルアイゼだ。
「・・・・」
彼女が私を探すときはろくなことがない。私は自室の居間から隣のベッドルームへと踵を返した。
「シュシュ様。リルアイゼ様がお呼びですよ。お返事はどうされました?」
マリーの棘を含んだ呼び掛けを無視してベッドルームの扉を開こうとして・・・・。
バン!!!
マリーが鬼のような形相で私を睨みながら扉を叩いた。
「リルアイゼ様がお呼びですと申し上げました。聞こえませんでしたか?」
こいつ・・・・。そんなにリルアイゼがお気に入りなら私の侍女を辞めてリルアイゼのところにいけばいい。宰相の密偵なのは察しがついているが、この程度の奴を送り込むあたり、グランダ家が舐められているのか、この程度しかいないのか?お兄様あたりは密偵に気づいていそうだが、お父様たちはただの侍女だと思っていそうだ。どっちにしても5歳児にその対応はない。
「ハァ・・・・。だから、何?」
私は会いたくないのだ。
「まああああああ。淑女として、そのお返事はどうかと思います」
そんなやり取りをしている間に、ノックもなしに廊下へと続く扉が開いた。リルアイゼが部屋に乱入してきたのだ。
「やっぱりお部屋にいたのね、お姉様」
白いうさぎのぬいぐるみを片手に抱いて、満面の笑みで私を見た。後ろにはお母様とお祖母様を引き連れている。リルアイゼのこの行為を咎める者は誰もいない。
「リルアイゼ、ノックしてください」
「はう。ごめんなさい」
リルアイゼはうるうると泣きそうな顔を向けてきた。
「まあ。シュシュ!またそんな意地悪なことを言って!」
「いいの、お母様。リルがいけなかったのぉ」
ポロリと瑠璃の瞳から涙が零れ落ちた。なんともタイミングのいいことだ。
「リル。なんて優しい子なの」
お祖母様はリルアイゼを抱き締めた。私は毎回の茶番に辟易としながら黙ってそれを見つめるだけだ。こんな人達だから5歳児らしくない私の言動にも疑問を持たない。
「それで、どんなご用件でしょう?」
はっとリルアイゼはお祖母様の腕の中から顔をあげた。
「あのね!この子にお友達をあげたいの♪お姉様のところに茶色のうさぎちゃんがいるでしょう?この子、メルロって言うの。ステファンならメルロにピッタリでしょ♪」
「は?」
何を言ってるのか分からない。
「ステファンをメルロにちょうだい♪」
つまり、私の茶色のうさぎのぬいぐるみをあなたに差し出せってこと?
「嫌よ。お父様に新しいうさぎのぬいぐるみを買ってもらえばいいでしょう?」
「え?でもおうちにもうひとつあるのに買うなんてダメよ」
「まあまあ。リルはいい子ね。あるもので我慢するなんて、しっかりした子だわ」
え?それ、おかしいでしょ?私のぬいぐるみなのに。一緒に来ている侍女たちも感心しているけど、人の物を奪おうとしてるんだよ?
「リルアイゼ様。こちらでよろしいですか?」
マリーは私の許可もなくベッドルームからぬいぐるみを持ってきてリルアイゼに渡している。
「マリー!勝手に何してるの?!」
私の言葉を無視し、リルアイゼに優しげな笑みを向けている。
「よかったわね、リル。マリーもご苦労様」
「ありがとう、マリー」
「さあ、お茶にしましょう。マリーもいらっしゃい」
「はい。大奥様」
用は済んだとばかりに騒々しい一団は私の部屋を去り、私はひとり部屋に残された。出ていく寸前、リルアイゼは誰にも見られないように勝ち誇ったような笑みを私に向けた。
そして、これ以降、リルアイゼは嫌がらせのように私の持ち物を当然のように奪っていくようになった。髪飾りなどの小物は当たり前のように、服、色違いの可愛い靴もサイズが同じだからと、「おねえさまよりも私の方が似合うわ。だから、貸して♪」と言って持っていくが返ってきたことはない。元々、デザインも色も何もかもリルアイゼが選んで作られた服や靴だから、リルアイゼに似合うのは当たり前だ。さすがに私の着る服が尽きたときには、お母様がリルアイゼの持つ服を私に与えた。元は私のなんだけどね。お母様いわく「気に入らないなんて我が儘ばかり言ってリルアイゼに押し付けるからこうなるのよ!」だそうだ。リルアイゼが小声で「ざまぁみろ」と囁いたのには誰も気づかなかった。
「・・えさま~?おねえさま?どこぉ?」
甘ったるい声が聞こえ、とたとたという軽い足音が部屋に近づいてくる。双子の妹リルアイゼだ。
「・・・・」
彼女が私を探すときはろくなことがない。私は自室の居間から隣のベッドルームへと踵を返した。
「シュシュ様。リルアイゼ様がお呼びですよ。お返事はどうされました?」
マリーの棘を含んだ呼び掛けを無視してベッドルームの扉を開こうとして・・・・。
バン!!!
マリーが鬼のような形相で私を睨みながら扉を叩いた。
「リルアイゼ様がお呼びですと申し上げました。聞こえませんでしたか?」
こいつ・・・・。そんなにリルアイゼがお気に入りなら私の侍女を辞めてリルアイゼのところにいけばいい。宰相の密偵なのは察しがついているが、この程度の奴を送り込むあたり、グランダ家が舐められているのか、この程度しかいないのか?お兄様あたりは密偵に気づいていそうだが、お父様たちはただの侍女だと思っていそうだ。どっちにしても5歳児にその対応はない。
「ハァ・・・・。だから、何?」
私は会いたくないのだ。
「まああああああ。淑女として、そのお返事はどうかと思います」
そんなやり取りをしている間に、ノックもなしに廊下へと続く扉が開いた。リルアイゼが部屋に乱入してきたのだ。
「やっぱりお部屋にいたのね、お姉様」
白いうさぎのぬいぐるみを片手に抱いて、満面の笑みで私を見た。後ろにはお母様とお祖母様を引き連れている。リルアイゼのこの行為を咎める者は誰もいない。
「リルアイゼ、ノックしてください」
「はう。ごめんなさい」
リルアイゼはうるうると泣きそうな顔を向けてきた。
「まあ。シュシュ!またそんな意地悪なことを言って!」
「いいの、お母様。リルがいけなかったのぉ」
ポロリと瑠璃の瞳から涙が零れ落ちた。なんともタイミングのいいことだ。
「リル。なんて優しい子なの」
お祖母様はリルアイゼを抱き締めた。私は毎回の茶番に辟易としながら黙ってそれを見つめるだけだ。こんな人達だから5歳児らしくない私の言動にも疑問を持たない。
「それで、どんなご用件でしょう?」
はっとリルアイゼはお祖母様の腕の中から顔をあげた。
「あのね!この子にお友達をあげたいの♪お姉様のところに茶色のうさぎちゃんがいるでしょう?この子、メルロって言うの。ステファンならメルロにピッタリでしょ♪」
「は?」
何を言ってるのか分からない。
「ステファンをメルロにちょうだい♪」
つまり、私の茶色のうさぎのぬいぐるみをあなたに差し出せってこと?
「嫌よ。お父様に新しいうさぎのぬいぐるみを買ってもらえばいいでしょう?」
「え?でもおうちにもうひとつあるのに買うなんてダメよ」
「まあまあ。リルはいい子ね。あるもので我慢するなんて、しっかりした子だわ」
え?それ、おかしいでしょ?私のぬいぐるみなのに。一緒に来ている侍女たちも感心しているけど、人の物を奪おうとしてるんだよ?
「リルアイゼ様。こちらでよろしいですか?」
マリーは私の許可もなくベッドルームからぬいぐるみを持ってきてリルアイゼに渡している。
「マリー!勝手に何してるの?!」
私の言葉を無視し、リルアイゼに優しげな笑みを向けている。
「よかったわね、リル。マリーもご苦労様」
「ありがとう、マリー」
「さあ、お茶にしましょう。マリーもいらっしゃい」
「はい。大奥様」
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そして、これ以降、リルアイゼは嫌がらせのように私の持ち物を当然のように奪っていくようになった。髪飾りなどの小物は当たり前のように、服、色違いの可愛い靴もサイズが同じだからと、「おねえさまよりも私の方が似合うわ。だから、貸して♪」と言って持っていくが返ってきたことはない。元々、デザインも色も何もかもリルアイゼが選んで作られた服や靴だから、リルアイゼに似合うのは当たり前だ。さすがに私の着る服が尽きたときには、お母様がリルアイゼの持つ服を私に与えた。元は私のなんだけどね。お母様いわく「気に入らないなんて我が儘ばかり言ってリルアイゼに押し付けるからこうなるのよ!」だそうだ。リルアイゼが小声で「ざまぁみろ」と囁いたのには誰も気づかなかった。
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