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13【慣れ】
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ルカーシュの献身的な介護のおかげで、シモンの怪我は大幅に早く治った。それはルカーシュとしても喜ばしかったのだが、別の問題が生じていた。
口づけをしてから七日目、シモンの態度が明らかに変わった。怪我を負ったはずなのに、シモンはへこたれることなく、ルカーシュに触れ続けた。
まずは肌に直接触れないように、後ろから抱きついてきた。ルカーシュが寝台の上で膝を抱えて座ると、その背後からシモンが腕を回してくる。
背中に硬い胸板、自分を囲む逞しい腕に、ルカーシュの心臓は激しく鼓動する。
「ルカーシュ様、やっぱり痩せすぎですね」
シモンが話すと耳元や首筋に息がかかる。内側からぞわっとして、下半身が反応してしまうのが恥ずかしい。
「これでも、食べるようになった」
緊張で声が上ずってしまう。
「そうなんですか? じゃあ、もっと散歩して筋肉をつけないと」
うなずくだけなのに「う、うん」とどもってしまう。ルカーシュは恥ずかしさに俯いた。毎朝、毎晩、抱きしめられているのに、まったく慣れない。
「ごめん、緊張して上手く話せない」
ルカーシュが俯いていると、「こういうのは慣れですよ」とシモンが囁いてくる。涙目になりながら、「本当に?」とたずねる。
――こんなにも手が震えているのに? シモンに抱きしめられて落ち着けた試しがない。
「ええ、いっぱいすれば、そのうち」
シモンの言葉は信用している。ただ、いっぱいとは、どれほどすればいいのだろう。ルカーシュはまた素朴な疑問に襲われて、そんな自分が嫌になった。
「さて、こちらもしましょうか」
身体を密着させながら、シモンはルカーシュの手袋を外した。ここのところ続けている試みの一つだ。
お互いの指先にちょこんと触れるものだ。はじめは針のような痛みが走るらしく、シモンの顔は歪み引きつっていた。回数を重ねるうちに痛みは和らいできたらしい。
指先の指紋を合わせるようにしてから、シモンは擦り付けてきた。口付けているように指先の角度を変えて、あらゆるところを擦ってくる。
ルカーシュの人差し指と中指の間に、シモンの人差し指が入り込んだ。今では全部の指を組めるようになった。
指を曲げて、ふたりで祈るように固く握った。
「ようやくここまで来ましたね」
「少しは慣れて、来たのだろうか?」
抱きしめられるよりかは気が楽だが、いやらしい手つきをされると、むず痒くなる。
「じゃあ、こっちはどうですか?」
シモンは横から顔を覗き込んできて、あからさまにルカーシュの唇を見つめてくる。
「今日もするのか?」
「朝からしたくてたまりませんでした」
シモンにはまだ慕っていると伝えていない。ただ、言葉は必要なかった。ふたりの間ではただならぬ雰囲気が流れて、たちまちそういう風に持ち込まれてしまう。
シモンの独りよがりではなく、ルカーシュも口づけをしたいと思っている。それこそ、朝起きて顔を合わせた瞬間から、唇を合わせたい。
だから、断る理由もなかった。
「私もしたい」
どちらともなく顔を近づけた。角度を変えて、何度も優しく重なる。舌先で上唇を舐められて、歯列までなぞられた。苦しくて口を開くと、その隙にシモンの分厚い舌はルカーシュの舌に絡んできた。
「んっ、ふっ」
身体も抵抗はしている。白く光ってはいるのに、小さく頼りない。
腿に擦り付けてくるシモンの硬い部分に気づくと、顔が熱くなってきた。堪らなくなって、自分から唇を離す。
シモンは自分の裂けた唇を舌で舐めた。その仕草に惚けて見ていると、「あんまり見ないでください」と叱られた。
さすがに見すぎた感がある。自分でも反省して「ごめんね」と謝った。
「いや、謝らないでください。単なる八つ当たりなんで」
シモンはルカーシュの肩口に顔を埋めて、項垂れているように見えた。
「どういうことだ?」
「必死に騎士道を頭の中で唱えて我慢してるのに、ルカーシュ様が簡単に煽ってくるので」
ルカーシュは意味がわかるまで首を傾げていたが、徐々に意味がわかってくると、全身に熱が駆け巡っていく。シモンは小さく笑った。
「さて、終わりにしましょうか」
シモンが身体を離して、寝台から降りようとしているのがわかった。背中の温もりが消えていく。寂しくて、もっとくっついていたいと思ってしまう。気持ちが溢れて仕方ない。
ルカーシュは耐えきれずに、シモンの腕を掴んだ。それどころか、自分の懐に入れて、力を込めた。
「私は――」
確かめるのが怖かった。ちゃんと言葉にしたい。シモンを慕っているのだと。好きな人を思い浮かべるとき、いつだってシモンの顔なのだと。それが恋愛だと教えてくれたのはシモンだ。
すべての感情を言葉に乗せる。
「私はシモンを――」
シモンも真剣な顔つきで、ルカーシュの言葉を待つ。
次の言葉を続ける前に、扉を叩く音に阻まれた。我に返ると、ルカーシュは硬い表情に取り繕って、応答した。
口づけをしてから七日目、シモンの態度が明らかに変わった。怪我を負ったはずなのに、シモンはへこたれることなく、ルカーシュに触れ続けた。
まずは肌に直接触れないように、後ろから抱きついてきた。ルカーシュが寝台の上で膝を抱えて座ると、その背後からシモンが腕を回してくる。
背中に硬い胸板、自分を囲む逞しい腕に、ルカーシュの心臓は激しく鼓動する。
「ルカーシュ様、やっぱり痩せすぎですね」
シモンが話すと耳元や首筋に息がかかる。内側からぞわっとして、下半身が反応してしまうのが恥ずかしい。
「これでも、食べるようになった」
緊張で声が上ずってしまう。
「そうなんですか? じゃあ、もっと散歩して筋肉をつけないと」
うなずくだけなのに「う、うん」とどもってしまう。ルカーシュは恥ずかしさに俯いた。毎朝、毎晩、抱きしめられているのに、まったく慣れない。
「ごめん、緊張して上手く話せない」
ルカーシュが俯いていると、「こういうのは慣れですよ」とシモンが囁いてくる。涙目になりながら、「本当に?」とたずねる。
――こんなにも手が震えているのに? シモンに抱きしめられて落ち着けた試しがない。
「ええ、いっぱいすれば、そのうち」
シモンの言葉は信用している。ただ、いっぱいとは、どれほどすればいいのだろう。ルカーシュはまた素朴な疑問に襲われて、そんな自分が嫌になった。
「さて、こちらもしましょうか」
身体を密着させながら、シモンはルカーシュの手袋を外した。ここのところ続けている試みの一つだ。
お互いの指先にちょこんと触れるものだ。はじめは針のような痛みが走るらしく、シモンの顔は歪み引きつっていた。回数を重ねるうちに痛みは和らいできたらしい。
指先の指紋を合わせるようにしてから、シモンは擦り付けてきた。口付けているように指先の角度を変えて、あらゆるところを擦ってくる。
ルカーシュの人差し指と中指の間に、シモンの人差し指が入り込んだ。今では全部の指を組めるようになった。
指を曲げて、ふたりで祈るように固く握った。
「ようやくここまで来ましたね」
「少しは慣れて、来たのだろうか?」
抱きしめられるよりかは気が楽だが、いやらしい手つきをされると、むず痒くなる。
「じゃあ、こっちはどうですか?」
シモンは横から顔を覗き込んできて、あからさまにルカーシュの唇を見つめてくる。
「今日もするのか?」
「朝からしたくてたまりませんでした」
シモンにはまだ慕っていると伝えていない。ただ、言葉は必要なかった。ふたりの間ではただならぬ雰囲気が流れて、たちまちそういう風に持ち込まれてしまう。
シモンの独りよがりではなく、ルカーシュも口づけをしたいと思っている。それこそ、朝起きて顔を合わせた瞬間から、唇を合わせたい。
だから、断る理由もなかった。
「私もしたい」
どちらともなく顔を近づけた。角度を変えて、何度も優しく重なる。舌先で上唇を舐められて、歯列までなぞられた。苦しくて口を開くと、その隙にシモンの分厚い舌はルカーシュの舌に絡んできた。
「んっ、ふっ」
身体も抵抗はしている。白く光ってはいるのに、小さく頼りない。
腿に擦り付けてくるシモンの硬い部分に気づくと、顔が熱くなってきた。堪らなくなって、自分から唇を離す。
シモンは自分の裂けた唇を舌で舐めた。その仕草に惚けて見ていると、「あんまり見ないでください」と叱られた。
さすがに見すぎた感がある。自分でも反省して「ごめんね」と謝った。
「いや、謝らないでください。単なる八つ当たりなんで」
シモンはルカーシュの肩口に顔を埋めて、項垂れているように見えた。
「どういうことだ?」
「必死に騎士道を頭の中で唱えて我慢してるのに、ルカーシュ様が簡単に煽ってくるので」
ルカーシュは意味がわかるまで首を傾げていたが、徐々に意味がわかってくると、全身に熱が駆け巡っていく。シモンは小さく笑った。
「さて、終わりにしましょうか」
シモンが身体を離して、寝台から降りようとしているのがわかった。背中の温もりが消えていく。寂しくて、もっとくっついていたいと思ってしまう。気持ちが溢れて仕方ない。
ルカーシュは耐えきれずに、シモンの腕を掴んだ。それどころか、自分の懐に入れて、力を込めた。
「私は――」
確かめるのが怖かった。ちゃんと言葉にしたい。シモンを慕っているのだと。好きな人を思い浮かべるとき、いつだってシモンの顔なのだと。それが恋愛だと教えてくれたのはシモンだ。
すべての感情を言葉に乗せる。
「私はシモンを――」
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