私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣

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帰宅

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翌日。
普段は使わないがタクシーを捕まえるのも電車で行くのも面倒だったので迎えを呼ぶ。
莉恵さんはその段階から驚いてたけどほんの数分で送迎車が到着した。
金髪黒眼の凛々しい執事が助手席から降りてきて後部座席のドアを開ける。
 
「お迎えに上がりました。大虎様」
 
「ありがとう。今日は彼女も一緒だから」
 
「かしこまりました。どうぞお乗り下さいませ」
 
そう言われ先に莉恵さんを乗せてから乗り込む。
俺と莉恵さんが座ったことを確認すると執事はドアを閉めてまた助手席へ乗った。
莉恵さんはキョロキョロと車の中を見回す。
その様子を少し面白く思いながら黙って見ていると執事が口を開いた。
 
「しばらくは帰られないとのことでしたがいかがされましたか?」
 
「ちょっと父さんと母さんに用事ができて。いつ帰ってくるか分かる?」
 
「残念ながらお二方とも本日はお帰りになられないとのことです」
 
「……そう。一応、連絡してもらっていい?いつでもいいから時間作れないかって」
 
「かしこまりました。お伝えさせていただきます」
 
「え、今じゃなくていいんだけど」
 
「いいえ。大虎様がお二方にお会いしたいと仰られたのは十三年ぶりでございますのですぐにお伝えする事項だと判断いたしました。差支えなければご用件を詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?」
 
「……家出て二人暮らししたいから許可だけくれって言っておいて」
 
「かしこまりました。交際相手の紹介と二人暮らしの許可ですね。お伝えいたします」
 
「待った!紹介する気はない!二人暮らしの許可だけくれればいいんだよ!あとは俺が勝手にやるから」
 
「それはなりません!大虎様はやっと患っていたご病気を完治された身!無理をしてはまたお身体を悪くするかもしれません!そんなことになってはこのセバスチャン、切腹で罪を償わせていただきます!」
 
「分かった!ちゃんとできないことは頼むからそういう脅し方の方が心臓に悪い!」
 
「も、も、申し訳ございません!!大虎様の心臓に負担をかけるなど言語道断!!このセバスチャン、切腹いたします!!」
 
「するなって言ってんの!!切腹云々はしなくていいから連絡するならとっととしてくれ!」
 
「はっ!かしこまりました」
 
そう言ってセバスチャンこと瀬羽清秀せばすみひでは電話をかけ始める。
瀬羽は今年で三十五歳になる俺の世話係という奴だ。
夢を追いかけるためとかで上京したが住むところがなく住み込みでバイトを探してたらここの使用人を募集していたので応募してみたら受かったらしい。
今はその夢よりも使用人の仕事に目覚め、執事長を目指して頑張ってるそうだ。
心底どうでもいい。
ふと莉恵さんを見るとすごく喋りたそうにしてた。
 
「……もう少し、我慢してね」
 
俺がそういうと莉恵さんはしょんぼりしてうなだれる。
すると瀬羽がいきなり大きな声を出した。
 
「大虎様!お二方とも本日早急にお帰りになるそうです!良かったですね!」
 
「……え?なんで?許可くれればいいって言ったじゃん」
 
「どうやらお二方とも大虎様の交際相手にお会いしたいらしく、仕事を放り出して来るそうですよ!ご夕食も豪華にしろとのことでした」
 
「はぁっ!?普通でいいから!」
 
「残念ながらすでに家の者共がご夕食の準備を始めておりますので無理ですね」
 
「……今、何時だと思ってるんだよ」
 
「只今の時刻は……十五時を二十秒ほど回りましたね」
 
「そんな時間から夕飯の準備してんの?」
 
「はい。豪華におもてなしせよとのことですので。大虎様のお部屋もいつも以上に丁寧に掃除させていただいております。間もなく到着しますので今しばらくお待ち下さい。洋菓子和菓子はもちろんお飲み物も何でも揃えさせていただきましたのでご希望の物を仰って下さいね。どうぞ、旦那様と奥様がお帰りになるまでお部屋でおくつろぎ下さい」
 
「……くつろげる気がしないんだけど」
 
「では、アロマをたきましょう。大虎様のお好きな香りはキンモクセイでしたね。すぐに準備させます」
 
「必要ないから。もうこれ以上余計なことしないで」
 
「かしこまりました」
 
小さくため息を吐くと莉恵さんが腕を引っ張ってくる。
その目は大丈夫?と聞いてる気がした。
口を開こうとしたら車が止まる。
瀬羽が降りてきて後部座席のドアを開けた。
 
「到着いたしました。足元にお気を付け下さいませ」
 
そう言われ莉恵さんより先に降りて手を差し出す。
莉恵さんは俺の手を取って車から降りると俺の家を見て驚いたような顔をした。
そして、俺を見ると口を開く。
 
「もう着いたから喋っても良いわよね!?ねぇ、もしかして……もしかしなくても結城くんの家ってお金持ちなの!?」
 
「……まぁ、世間一般的にはそう言われてもおかしくないかな」
 
「(莉恵さんの態度が変わったらどうしよう……)」
 
そう思いながら次の反応を待ち構えた。
すると、いきなり両頬を軽くパチンッと叩かれる。
 
「もう!結城くん!どうして教えてくれないの!?こんな立派な家ならこんなラフな格好じゃなくてもっとそれ相応の格好をしてきたのに!これからご両親にもお会いできるんでしょう!?私、こんな格好じゃ恥ずかしいじゃない!そもそも結城くんは自分のこと話さなさすぎなのよ!」
 
今までのどの反応とも違って困惑していると莉恵さんは続けた。
 
「結城くん、何で家がお金持ちって話してくれなかったの?それを私が知ったら態度が変わるとでも思った?私ってそんなに信用ない?」
 
「……ごめん。もし態度が変わったらって考えたら怖くてどうしても話せなかった」
 
「それってやっぱり私を信用してなかったってこと?」
 
「……そんなつもりはなかったけど結果的にはそういうことになると思う」
 
「ねぇ、結城くん。私はお金持ちの結城くんを好きになった訳じゃないの。結城くんだから好きになったのよ」
 
「……莉恵さん……!」
 
「でも、正直に言うわ。結城くんがお金持ちって知ってラッキーと思っている私もいるから、この話はおあいこにしましょう?」
 
そういう莉恵さんはなぜか頭を下げてごめんなさいと言う。
そんな莉恵さんに思わず笑ってしまった。
 
「……ははっ!本当、敵わないなぁ……普通、馬鹿正直にそんなこと言わないよ?」
 
「わ、分かっているわよ!でも、思っちゃったんだからしょうがないでしょ!」
 
「うん。そういうところ好き。それじゃあ、俺の部屋行こう?その服じゃ不満なら着替え用意する?用意させるけど」
 
「え?部屋に行くのは良いけれど……着替えは良いわよ。大変でしょう?」
 
「俺は大変じゃないよ。それじゃあ、瀬羽。俺の部屋に莉恵さんの着替えを何着か持って来て」
 
「はい。かしこまりました」
 
「えっ!?ちょっと結城くん!?」
 
「あ。それと、瀬羽。莉恵さんの名前は誰にも教えるなよ」
 
「大虎様、そう言われましてもこのセバスチャン、下のお名前しか存じ上げておりませんが」
 
「知ってる。だから、下の名前もだめ。もし、誰かに教えたらクビにするから」
 
「……それは非常に困りますね。かしこまりました。誰にも申し上げません」
 
「うん。それじゃあ、行こう。莉恵さん」
 
そう言って莉恵さんの手を引いて家のドアを開ける。
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