私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣

文字の大きさ
30 / 63

亀裂

しおりを挟む
ある日の仕事終わり。
私は葉月くんに声をかけられた。
 
「栗山さん!お疲れ様!ちょっと、お願いがあるんだけれど良いかな?」
 
「あぁ、葉月くん。お疲れ様。何かしら?私に出来ることなら別に良いわよ」
 
「良かった!今度の日曜日にちょっと買い物に付き合ってほしくて。良いかな?」
 
「買い物?別に良いけれど……私より別の人に頼んだ方が良いんじゃない?」
 
「そんなことないよ!栗山さんの意見が聞きたいんだ!それじゃあ、今度の日曜日、昼の三時に駅前で待ち合わせってことでよろしく!」
 
「え、えぇ。分かったわ」
 
そう約束をして葉月くんと別れる。
その直後、誰かに抱き付かれた。
犯人は分かっているけれど。
 
「何々~?莉恵ったら浮気~?」
 
「なっ!?失礼ね!浮気なんてしてないわ!」
 
「え~?だって、葉月とデートするんでしょ?」
 
「で、デート!?いつ!?誰が!?」
 
「だから~莉恵が葉月と今度の日曜日デートするんでしょ?」
 
「なんでそうなるの!?私は今度の日曜日、葉月くんの買い物に付き合うだけよ!」
 
「二人きりで?」
 
「え?」
 
「二人きりでしょ?」
 
「え?聖来も誘われたんじゃないの?」
 
「あたしは誘われてませ~ん!ついでに葉月が誘ってたのは莉恵だけで~す!」
 
「えぇっ!?ど、どうしよう!?」
 
「まぁ、葉月とデートしてくれば?年下彼氏くんより良いかもよ?最近、その年下彼氏くんとはデートすらしてないんでしょ?」
 
「だめよ!確かに最近、大虎くんとはデートしてないけれど……」
 
大虎くんは基本、休みの日はレポートをやっているため私からデートしようとはどうしても言えなかった。
 
「そもそも、一緒に暮らしてるからってそういうの怠る彼氏ってどうかと思うんだよね。あたし」
 
「も、もしかして、聖来……大虎くんのこと、嫌い?」
 
「見た目はかなりタイプ!葉月に負けず劣らずって感じ!第一印象もかなり好印象だったけど莉恵の話聞いてるとないなーって思うわ」
 
「そ、そうかしら?」
 
「いくら大学生だからってそんな毎日毎日レポートなんかある訳ないでしょ!絶対なんか裏があるって!」
 
「そ、そんなことはないと思うけれど……」
 
「莉恵は信用しすぎ!若いんだよ!?まだまだ色んな子と遊びたいでしょう!男って生き物は!」
 
「そ、そんなことない……」
 
「そんなことないなんてことはない!」
 
「せ、聖来ぁ!なんでそんな不安にさせるのよ!」
 
「あたし、莉恵には幸せになってほしいから。正直、莉恵には年下彼氏くんより葉月の方が合ってると思う」
 
「え?」
 
「とにかく!日曜日の件は年下彼氏くんには内緒にしなさいよ?」
 
そう言われ落ち込みながら帰る。
家に入るといつもはない靴がすでにあった。
 
「(いつも帰りが遅い大虎くんがもう帰ってきている!)」
 
そう思った私は急いでリビングのドアを開ける。
 
「あ、莉恵さん。お帰り、お疲れ様。今日は早く終わったから俺がご飯作ってみようと思って!お風呂は沸いてるから先に入ってもいいよ?」
 
「う、ううん!私、大虎くんと一緒が良いから」
 
「……え?」
 
「え?」
 
大虎くんは何故か顔を赤くしていた。
けれど、私の反応を見てひとつ咳払いをしてから口を開く。
 
「んん……えっと?莉恵さん?今、自分が何を言ったか分かってないね?」
 
「私は何か問題のあることでも言ったの?」
 
「そうだね。解釈の仕方を間違えたらとんでもないことを言ったけど自覚なしか……」
 
大虎くんにそう言われ自分が言った言葉を思い返してみたけれどやっぱり分からない。
私が首を傾げると大虎くんはやれやれという感じで説明してくれた。
 
「俺は今、お風呂は沸いてるから先に入ってもいいよ?って言ったよね?」
 
「えぇ。そうだったわね」
 
「それに対して莉恵さんは俺と一緒がいいって言った訳だけど」
 
その言葉を聞いて私は顔を真っ赤に染める。
そして、慌てて否定した。
 
「ち、違っ!一緒に入りたいって意味じゃなくて……っ!一緒にいたいってことでっ!」
 
「……莉恵さんの反応で分かってるけど。そうハッキリ否定されると複雑。俺、莉恵さんの彼氏だよ?別に一緒に入ってもいいと思うけどなー」
 
彼氏という単語を聞いて思わず疑問が浮かび上がってしまう。
 
「(聖来とあんな話をしていたせいかしら?
彼氏ならデートくらいしてくれても良いでしょう?
なのに、いつもレポートがあるからって構ってくれないくせにこういうときにばっかり……
彼氏らしいことしてから言ってよ)」
 
「………………………から………よ」
 
「え?莉恵さん?」
 
「……何よ!いつもいつも構ってくれないくせに!こういうときだけ彼氏って言葉使って!少しは彼氏らしいことしてよ!」
 
「ちょ、何でそんなに怒ってるの?」
 
「だって、いつもレポートがあるからってデートもしてくれないじゃない!私とレポートどっちが大事なの!?」
 
言ってから後悔した。
慌てて顔を上げると大虎くんは思った通り少し怒っている顔をしている。
 
「……それ、本気で聞いてる?」
 
すぐに謝ろうとしているのに謝罪の言葉が出てこない。
やっと出てきた言葉は謝罪ではなかった。
 
「あ、当たり前でしょ!?いくら大学生だからってそんなに毎日レポートが出る訳ないじゃない!本当は浮気しているんじゃないの!?」
 
「(違う!
違うの!
こんなことが言いたかった訳じゃないのに!
何で、私、こんなこと!)」
 
けれど、出てしまった言葉はもう取り消すことはできない。
しばらく沈黙が続く。
大虎くんの言葉を待っていると大虎くんは何も言わず私を無視して料理の続きを始めた。
その行動に驚きと戸惑いを隠せない。
 
「(どうして……?
どうしていつもみたいに否定してくれないの?
浮気なんかしている訳ないでしょって。
ねぇ、どうして……)」
 
「……っ!どうして何も言わないのよ!?浮気しているってこと!?」
 
私がそう怒鳴っても大虎くんは私を無視して料理を続ける。
大虎くんの背中は、さっきより少しだけ遠く感じた。
ぐちゃぐちゃした感情が渦巻いて動けずにいると大虎くんの携帯が鳴る。
大虎くんは液晶画面を見ると怪訝そうな顔をしつつも料理を続けながら電話に出た。
 
「……もしもし?」
 
その行動にショックを受ける。
 
「(なんで?
私のことは無視するのに何で電話には出るの?
大虎くんなんか……
大虎くんなんか……
もう知らない!!)」
 
「……大虎くんの馬鹿!もう知らないわ!」
 
そう大きな声で言い放ち私は家を飛び出した。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

危険な台風

詩織
恋愛
確かに台風が接近するとは聞いていた。 けど電車も止まり、停電までって、そこまでになるとは。 残業で、会社に居た私はここに居るしかなく...

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて  

設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。 ◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。   ご了承ください。 斉藤准一 税理士事務所勤務35才 斎藤紀子    娘 7才  毒妻:  斉藤淳子  専業主婦   33才 金遣いが荒い 高橋砂央里  会社員    27才    山本隆行  オートバックス社員 25才    西野秀行   薬剤師   22才  岡田とま子  主婦    54才   深田睦子  見合い相手  22才 ――――――――――――――――――――――― ❧イラストはAI生成画像自作 2025.3.3 再☑済み😇

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

嘘つき同士は真実の恋をする。

濘-NEI-
恋愛
都内郊外のリゾートホテルでソムリエとして働く瑞穂はワイン以上にゲームが大好き。 中でもオンラインゲーム〈グラズヘイム〉が大好きで、ロッソの名前でログインし、オフの時間と給料の全てを注ぎ込むほどのヘビーユーザー。 ある日ゲーム仲間とのオンライン飲み会で、親から結婚を急かされている話を愚痴ったところ、ギルマスのタラントの友人で、ゲームの中でもハイランカーのエルバに恋人役を頼めば良いと話が盛り上がり、話は急展開。 そしてエルバと直接会うことになった瑞穂だったが、エルバの意外な正体を知ることに⁉︎ Rシーンは※ ヒーロー視点は◇をつけてあります。 ★この作品はエブリスタさんでも公開しています

処理中です...