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第18話 これでヒーローの心は、ヒロインに向くんじゃないの?
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「今の話、聞いてましたよね?申し訳ありませんでした!」
セドリックは不機嫌な表情のまま「君やオルガ嬢が転生とやらをしていたなら、性格が変わったことも頷けるな」と言う。リーナは不機嫌な美丈夫ほど恐いものはないなと、ぼんやり考えながらセドリックを見つめていた。
彼はそんな彼女を見て、溜息をついた。そして先程までとは打って変わって優しい声で話しかけ、リーナの頬に手を当てて微笑む。
「君が手紙を渡したい相手は、昔の男か?その男と結婚するつもりだったと聞こえたぞ」
「前世でそう約束した男性がいました。サヨナラを言えなかったので、ずっと心残りでした。だから、手紙を託しました」
リーナの言葉を聞いたセドリックは、優しく彼女の腕を引くと、腕の中に閉じ込める。優しいその仕草にリーナは「怒ってないんですか?」と疑問を口にする。
「そう見えるのか?そう見えるなら、君に私という人間を教え込まないといけないな。私は存外、嫉妬深い男なのだとな」
セドリックはそう囁くと、すぐ側の白い肌に覆われた首筋に唇を寄せる。そして、胸元に咲かせたのと同じように赤く色づいた痕を残すと、満足したように微笑み、再びリーナを強く抱きしめた。
「君に何を願おうか?」
そう告げられたセリフにリーナは、反応できずにいる。そしてようやく彼女の頭に、先程の神とのやり取りの際のセドリックのセリフが浮かんでくる。
『では、私も共に祈ろう。その代わりこれが済んだら、私の願いは君に叶えてもらうぞ』
この時、神に邪魔されて拒否できなかったのを思い出したリーナは、どこまでも彼女の足を引っ張っていった神を恨めしく思った。
リーナは「ちょっとお待ち下さい」と言い、強引に腕の中から逃れると「私は同意しておりません」と抵抗する。しかしそんなリーナの反論もセドリックには、兔に祭文だった。
その時、扉の鍵がカチャッと開かれた音がした。セドリックの不意をつきリーナは条件反応のように駆け出すと、部屋を後にした。そして残されたセドリックからは、楽しげな声が漏れる。
「クックッ・・逃げられれば追いたくなるというものを・・やはり教え込む必要があるな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ようやく冬馬が戻り、本当のヒロインであるオルガが戻ってくれば、きっと上手くいくはずと、リーナは胸に淡い期待を抱いていた。しかしそんな彼女の想いとは裏腹に、ベタ恋の設定が崩壊し放題のリーナの学園生活はここからが本番だったのだ。
午後の授業を終え、帰る前にオルガの姿を確認しようと中庭を通りかかる。すると、そこには初めて見る生徒たちの塊があった。その中心にいるのは、正真正銘のオルガだった。
(ああ、オルガ!これよ!これっ!ベタ恋で何度も見たシーン!入れ替わってから、まだ数時間しか経ってないのにもう正統派ヒロインの座に返り咲くなんて流石だわ。纏う雰囲気がもう可憐だもの。彼のオルガとはおおちがっ・・・)
リーナの胸に数時間前まで目の前にいた異端のオルガの姿が浮かぶ。強がっていても思いの外、あのオルガの存在がリーナの心の内を占めていたことに気付く。その胸に去来するものは、喪失感だった。
リーナはオルガの姿を少しだけ見守ると、中庭を後にした。そして彼女の後ろ姿にオルガの視線が注がれる。その瞳には妬みの感情が滲み出ていた事に、その場の誰一人気付くものはいなかった。
セドリックは不機嫌な表情のまま「君やオルガ嬢が転生とやらをしていたなら、性格が変わったことも頷けるな」と言う。リーナは不機嫌な美丈夫ほど恐いものはないなと、ぼんやり考えながらセドリックを見つめていた。
彼はそんな彼女を見て、溜息をついた。そして先程までとは打って変わって優しい声で話しかけ、リーナの頬に手を当てて微笑む。
「君が手紙を渡したい相手は、昔の男か?その男と結婚するつもりだったと聞こえたぞ」
「前世でそう約束した男性がいました。サヨナラを言えなかったので、ずっと心残りでした。だから、手紙を託しました」
リーナの言葉を聞いたセドリックは、優しく彼女の腕を引くと、腕の中に閉じ込める。優しいその仕草にリーナは「怒ってないんですか?」と疑問を口にする。
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セドリックはそう囁くと、すぐ側の白い肌に覆われた首筋に唇を寄せる。そして、胸元に咲かせたのと同じように赤く色づいた痕を残すと、満足したように微笑み、再びリーナを強く抱きしめた。
「君に何を願おうか?」
そう告げられたセリフにリーナは、反応できずにいる。そしてようやく彼女の頭に、先程の神とのやり取りの際のセドリックのセリフが浮かんでくる。
『では、私も共に祈ろう。その代わりこれが済んだら、私の願いは君に叶えてもらうぞ』
この時、神に邪魔されて拒否できなかったのを思い出したリーナは、どこまでも彼女の足を引っ張っていった神を恨めしく思った。
リーナは「ちょっとお待ち下さい」と言い、強引に腕の中から逃れると「私は同意しておりません」と抵抗する。しかしそんなリーナの反論もセドリックには、兔に祭文だった。
その時、扉の鍵がカチャッと開かれた音がした。セドリックの不意をつきリーナは条件反応のように駆け出すと、部屋を後にした。そして残されたセドリックからは、楽しげな声が漏れる。
「クックッ・・逃げられれば追いたくなるというものを・・やはり教え込む必要があるな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ようやく冬馬が戻り、本当のヒロインであるオルガが戻ってくれば、きっと上手くいくはずと、リーナは胸に淡い期待を抱いていた。しかしそんな彼女の想いとは裏腹に、ベタ恋の設定が崩壊し放題のリーナの学園生活はここからが本番だったのだ。
午後の授業を終え、帰る前にオルガの姿を確認しようと中庭を通りかかる。すると、そこには初めて見る生徒たちの塊があった。その中心にいるのは、正真正銘のオルガだった。
(ああ、オルガ!これよ!これっ!ベタ恋で何度も見たシーン!入れ替わってから、まだ数時間しか経ってないのにもう正統派ヒロインの座に返り咲くなんて流石だわ。纏う雰囲気がもう可憐だもの。彼のオルガとはおおちがっ・・・)
リーナの胸に数時間前まで目の前にいた異端のオルガの姿が浮かぶ。強がっていても思いの外、あのオルガの存在がリーナの心の内を占めていたことに気付く。その胸に去来するものは、喪失感だった。
リーナはオルガの姿を少しだけ見守ると、中庭を後にした。そして彼女の後ろ姿にオルガの視線が注がれる。その瞳には妬みの感情が滲み出ていた事に、その場の誰一人気付くものはいなかった。
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