〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜

hanakuro

文字の大きさ
18 / 50

第18話 これでヒーローの心は、ヒロインに向くんじゃないの?

しおりを挟む
「今の話、聞いてましたよね?申し訳ありませんでした!」

セドリックは不機嫌な表情のまま「君やオルガ嬢が転生とやらをしていたなら、性格が変わったことも頷けるな」と言う。リーナは不機嫌な美丈夫ほど恐いものはないなと、ぼんやり考えながらセドリックを見つめていた。

彼はそんな彼女を見て、溜息をついた。そして先程までとは打って変わって優しい声で話しかけ、リーナの頬に手を当てて微笑む。

「君が手紙を渡したい相手は、昔の男か?その男と結婚するつもりだったと聞こえたぞ」

「前世でそう約束した男性がいました。サヨナラを言えなかったので、ずっと心残りでした。だから、手紙を託しました」

リーナの言葉を聞いたセドリックは、優しく彼女の腕を引くと、腕の中に閉じ込める。優しいその仕草にリーナは「怒ってないんですか?」と疑問を口にする。

「そう見えるのか?そう見えるなら、君に私という人間を教え込まないといけないな。私は存外、嫉妬深い男なのだとな」

セドリックはそう囁くと、すぐ側の白い肌に覆われた首筋に唇を寄せる。そして、胸元に咲かせたのと同じように赤く色づいた痕を残すと、満足したように微笑み、再びリーナを強く抱きしめた。

「君に何を願おうか?」

そう告げられたセリフにリーナは、反応できずにいる。そしてようやく彼女の頭に、先程の神とのやり取りの際のセドリックのセリフが浮かんでくる。

『では、私も共に祈ろう。その代わりこれが済んだら、私の願いは君に叶えてもらうぞ』

この時、神に邪魔されて拒否できなかったのを思い出したリーナは、どこまでも彼女の足を引っ張っていった神を恨めしく思った。

リーナは「ちょっとお待ち下さい」と言い、強引に腕の中から逃れると「私は同意しておりません」と抵抗する。しかしそんなリーナの反論もセドリックには、うさぎ祭文さいもんだった。

その時、扉の鍵がカチャッと開かれた音がした。セドリックの不意をつきリーナは条件反応のように駆け出すと、部屋を後にした。そして残されたセドリックからは、楽しげな声が漏れる。

「クックッ・・逃げられれば追いたくなるというものを・・やはり教え込む必要があるな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ようやく冬馬が戻り、本当のヒロインであるオルガが戻ってくれば、きっと上手くいくはずと、リーナは胸に淡い期待を抱いていた。しかしそんな彼女の想いとは裏腹に、ベタ恋の設定が崩壊し放題のリーナの学園生活はここからが本番だったのだ。

午後の授業を終え、帰る前にオルガの姿を確認しようと中庭を通りかかる。すると、そこには初めて見る生徒たちの塊があった。その中心にいるのは、正真正銘のオルガだった。

(ああ、オルガ!これよ!これっ!ベタ恋で何度も見たシーン!入れ替わってから、まだ数時間しか経ってないのにもう正統派ヒロインの座に返り咲くなんて流石だわ。まとう雰囲気がもう可憐だもの。彼のオルガとはおおちがっ・・・)

リーナの胸に数時間前まで目の前にいた異端のオルガの姿が浮かぶ。強がっていても思いの外、あのオルガの存在がリーナの心の内を占めていたことに気付く。その胸に去来きょらいするものは、喪失感だった。

リーナはオルガの姿を少しだけ見守ると、中庭を後にした。そして彼女の後ろ姿にオルガの視線が注がれる。その瞳には妬みの感情が滲み出ていた事に、その場の誰一人気付くものはいなかった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜

みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。 悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。 私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私はただのモブ。 この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。 ……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……? ※2025年5月に副題を追加しました。

悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?

無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。 「いいんですか?その態度」

【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。 同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。 さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、 婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった…… とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。 それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、 婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく…… ※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』 に出てくる主人公の友人の話です。 そちらを読んでいなくても問題ありません。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

処理中です...